『アウター・ワールド』紹介。資本主義が染みわたる星系をゆく、堅実なRPG

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『アウター・ワールド(The Outer Worlds)』は、『Fallout: New Vegas』『Pillars of Eternity』の開発元として定評のあるObsidian Entertainmentが手がける新規IP作品だ。Take-TwoのパブリッシングレーベルPrivate Divisionより、日本語対応で10月25日発売。対応プラットフォームはPC(Epic Gamesストア)/PlayStation 4/Xbox One。将来的にはNintendo Switch向けのリリースも計画されている。本稿はPC版をプレイした上で執筆している。

『Fallout: New Vegas』の後継者として何かと比較される宿命にある同作は、そうした前評判を裏切らない安心かつ安定のクオリティを誇る、堅実な一人称視点RPGに仕上がっている。逆に言うと『アウター・ワールド』は全くもって革新的なゲームではない。「手堅い」という表現が実にしっくりくる。皮肉をまじえた高水準の原文テキスト、複数の分岐が存在するクエスト群、各種スキルや特性(Perk)にポイントを振り分ける成長システム、合格点のガンプレイ、明るいレトロフューチャー風のビジュアルとは裏腹に逼迫した世界情勢、資本主義を突き詰めたディストピア社会。目新しさこそないが、昔ながらの一人称視点RPGが好きな方には安心してオススメできる一品だ。AAA級大作のような広大なオープンワールドやボリューム、高品質の翻訳さえ望まなければ。

巨大宇宙船ホープ号内で70年間コールドスリープ状態にあった主人公は、指名手配中のフィニアス・ウェルズ博士の手により目を覚ます。そこは地球から遠く離れた、銀河の最果てにあるコロニー「ハルシオン」であった。同星系にある居住可能な惑星・衛星は巨大企業が牛耳っており、資本主義を極端に押し進めた未来社会が構築されている。だが企業にとっても住民にとっても、順風満帆にことが運んでいるわけではなく、コロニー全体が食糧難に悩まされている。ウェルズ博士の目的は、滅びゆくコロニーを救うため、ホープ号内でコールドスリープ中のエリート人材を蘇生すること。一足早く息を吹き返した主人公は、宇宙船アンリライアブルの新船長として、コロニーを救う、もしくは破滅へと追いやる冒険に旅立つ。

「最適解」が垣間見える、ポリティカルな物語

所属企業の宣伝文句を欠かさず述べる兵士

本作のマップはオープンワールドではなく、複数の天体および地域に分割されている。地球に似た惑星「テラ2」、野蛮な生物が闊歩する衛星「モナーク」、軌道ステーション「グラウンドブレーカー」など。そして主人公は、ウェルズ博士の頼み事を聞き入れるかたちで天体間を移動し、各地で起きている派閥(勢力)争いに巻き込まれていく。物語分岐は基本的に地域単位で閉じられており、地域ごとの分岐結果が、終盤からエンディングにかけて収束していく流れとなっている。なお各マップはコンパクトな作りとなっており、ふらふらと散策して思わぬ発見をする類のゲームではない。

争いの多くは、天体のエコノミーを牛耳る大企業と、資本主義の歯車から逃れようとするコミュニティ・人物間の対立であり、初見では白黒はっきりしない政治的駆け引きが続く。そして主人公がどの派閥に肩入れするのかによって、派閥間の関係性や、各居住区の未来が決まる。もちろん、そうした駆け引きの連鎖に悩まされるのが嫌であれば、何も考えずに動くものを片っ端から葬っていくことだって可能だ。どんな進め方であっても、メインクエストはしっかり進行する。ショー・マスト・ゴー・オン。

コンパニオンNPCが自身の見解を知らせてくれることも。主人公の言動によっては仲間を外れる

とくに序盤で訪れる惑星テラ2のエメラルド・ヴェール地区は、極度の資本主義に支配された薄暗い世界観や、派閥間の命運を握る重大な分岐といった本作の見どころを凝縮した、優れた導入パートとなっている。ゲーム全編を通じてどのようなゲーム体験が待っているのか、最初の数時間のうちに把握できる作りになっているのだ。逆に言うと、この導入部分が肌に合わなければ、最後までしっくりこないまま終わりを迎えるだろう。

ハルシオン星系内にある居住区の例にもれず、エメラルド・ヴェールもまた食料不足に悩まされている。エッジウォーターという町に住む人々は、スペーサーズチョイスという企業の缶詰工場で製造された得体のしれない食料を頼りに、なんとか生きながらえている。そして平穏な生活を維持するため、町の人々は缶詰製造を中心とした過酷な労働を強いられている。一方、そうした労働環境から逃れた脱走者グループは遠地にある植物実験場にて自活。長らく不可能とされていた作物の栽培を成功させ、独立した暮らしを送っていた。最序盤のメインクエストでは、町のはずれにある地熱発電所の送電先を、エッジウォーターの町と植物実験場のどちらに設定するかの選択を迫られる。どちらかが生き残り、どちらかが滅びる。主人公は両方の言い分や生き様を目の当たりにしながら、判断を下さねばならない。

このようにコロニー全体が深刻な資源不足に悩まされるなか、大企業の統制によりなんとか存続しているのが人類の現状である。そのような環境下で他の在り方・生き方を望むことについて、プレイヤーならびに主人公はどう捉えるのか。20~30時間のキャンペーンを通じて、さまざまな観点から繰り返し問われることになる。どの派閥にも自身を正当化する言い分があるのだが、より多くの派閥・住民に納得してもらえる「最適解」に近しい選択肢があるのも事実だ。

基本に忠実ながら、ほどよく足し算・引き算したRPG

ナラティブヘビーなRPGにとってテキストは命。その点『アウター・ワールド』には、風刺的な世界観を活かした、ときにシリアスで、ときにユーモラスな台詞が詰まっている。主人公の発言も選択肢が豊富で、会話系のスキルにポイントを振れば、序盤から終盤まで、暴力ではなく話術で難所を乗り越えていけるよう設計されている。少なくともノーマル/ハード難易度であれば、「結局は戦闘能力を伸ばさないと詰まるのではないか」といった心配はほぼ無用だ。どうしても困った場合は、宇宙船内の「職業能力再設定マシン」にてスキルと特性(Perk)ポイントをリセットして振りなおせる。

また本作の戦闘は、会話系のスキルに特化しても切り抜けられるよう工夫されている。近接武器や銃器の扱いに限らず、ほぼすべてのスキルが何かしらの方法で戦闘能力の強化につながるようになっているのだ。たとえば説得スキルにポイントを振れば、人間NPCを攻撃した際、一定確率で相手が萎縮状態になる。メディカルスキルにポイントを振れば、回復能力だけでなく敵に与えた効果の持続時間や対人間の与ダメージが上昇する。結果、戦闘で苦労する心配なく好みのロールプレイを楽しめる。それは同時に、戦闘の難易度が全体的に低めに抑えられていることも意味する。

同じ敵からダメージを受け続けたり、特定の行動を繰り返していると、「ラプティドン恐怖症」「プラズマ弱体」といった欠点(Flaws)効果が発生する。欠点を受け入れるかどうかはプレイヤーの選択にゆだねられており、受け入れるとマイナス効果が付くかわりに追加の特性ポイントを得られる。またObsidianが過去に手がけた『Fallout: New Vegas』とは異なり、ハッキングやロックピックのミニゲームは排除している。オーソドックスなRPGフォーマットを土台としながらも、従来のテンプレートをそのまま踏襲するのではなく、ほどよく足し算・引き算することで、よりRPGとしての面白さに集中できるよう工夫されていると感じた。

なお主人公は装備品やコンパニオンのボーナス効果によってスキルポイントを加算できるのだが、それらを活用することで比較的簡単に何でも屋になれてしまう。会話系のスキルを全部100にして、かつハッキングやロックピック、化学兵器の扱い、武器の改造改良も卒なくこなすといった具合だ。そもそもノーマル/ハード難易度であれば戦闘系のスキルにポイントを振らなくても、ほかのスキルで戦闘能力を補えるため、ますます万能プレイがしやすい。初回からいろんなプレイスタイルを試せるともとらえ得るし、リプレイ時の新鮮味を薄めているともとらえ得る。このあたりは個人の好みにより印象は変わるだろう。

時の流れを緩やかにする戦闘支援システム

Obsidianが過去に手がけた『Fallout: New Vegas』では、V.A.T.S.という戦闘支援システムにより時間の流れを止めて、攻撃する部位を指定して攻撃することが可能であった。『アウター・ワールド』では、時間の流れを完全に止めるのではなく、一時的にスローモーション化する「タクティカル・タイム・ディレーション(TTD)」が導入されている(長期間のコールドスリープにより生じた合併症という設定)。

FPSが苦手なプレイヤーにとっては、V.A.T.S.よりもTTDの方が扱いが難しそうに感じるかもしれない。だがTTDの消費メーターは攻撃・移動といったアクションを取らないかぎり非常にゆったりとした速度で減少していくため、じっくりと時間をかけて狙いを定めたり、次の行動を練ることができる。また銃器の扱いに関するスキルを強化すれば、TTD中の部位攻撃により特殊効果を発動できる。戦闘のフローを完全に止めるV.A.T.S.と比べて、FPS初心者からベテランまで、より幅広い層が活用して楽しいと感じ得るシステムではないだろうか。

戦闘の流れを止めないTTDシステムが導入された一方で、コンパニオンの戦闘スキル発動時にはプレイが中断され、スキル発動ムービーが強制的に流れる。この点に関しては、TTDと相反するシステムであるように感じた。コンパニオンに対する移動先や攻撃の指示がシームレスであるのに対し、戦闘スキルの発動時には毎回プレイする手を止めて演出を眺めることになる。このあたりはオプション項目などで演出のオン/オフ切替ができると、なお良いのではないかと筆者個人としては思った次第である。

本作では計6体のコンパニオンNPCと出会い、仲間にすることが可能。一度に最大2体まで主人公に同行させることができる。連れ立った2体のコンパニオンは道中で会話したり、主人公と他NPCとの会話に割り込んだり、自らの意見を述べたりと、戦闘支援以上の機能を果たしてくれる。コンパニオンにも独自のスキルツリーがあるほか、どの武器・防具を持たせるのか、戦闘中どのように振る舞うのか、プレイヤーが選択できる。

見逃しがちなコンパニオンNPCのサム

ストーリーを楽しみたい初心者から、サバイバル生活を送りたいハードコア層まで

リリース時点で選べる難易度は、ストーリー、ノーマル、ハード、スーパーノバの4種類。のんびりと物語を楽しみたい方向けには、敵の体力や攻撃力が低くなるストーリーモード。ハードコアなサバイバル生活を送りたい方向けには、過酷なスーパーノバが用意されている。スーパーノバは飲食や睡眠といったサバイバル要素を強調したモードであり、ファストトラベル機能を一部制限。コンパニオンは死ぬと蘇生しない場合があり、手動セーブは拠点となる宇宙船内でしか実行できないという、なかなか歯ごたえのある上級者向けの難易度だ。先述したような「何でも屋」になれてしまうヌルさのせいで物足りない方はこちらに挑戦してみよう。

ノーマル/ハード初周クリアまでの所要時間は20〜30時間。メインクエスト自体はRPGとしては短い部類に入る。だがストーリー分岐や難易度の選択などで、ある程度のリプレイ性は確保している。なおファストトラベル、屋内外移動、エリア間移動によりロード画面を挟む回数が多いが、PC版においてはSSD/HDD環境問わず短めのロード時間で済む。

翻訳はぎこちなさ残る

『Fallout: New Vegas』開発者が手掛ける一人称視点SF RPG。ここまでターゲットが明確であり、かつ安心してオススメできる作品も珍しい。『アウター・ワールド』は新しい境地に挑戦するゲームではないが、Obsidianらしさ溢れる手堅いRPGだ。つい「そうそう、こういうのでいいんだよ」と口ずさんでしまいそうになる。それでいて不具合報告が少ないという点も言及しておくべきだろう。筆者はゲーム後半、とある部屋に入るとアプリケーションが確定で強制終了する現象に遭遇してしまったが、全編を通して見るとバグは少なく、パフォーマンスも安定していた(プレイ環境:Intel Core i7-9700K、RAM16GB、RTX 2070 SUPER。グラフィック設定 最高)。

リリース時点での日本語翻訳に関しては、物語の理解自体には概ね支障はないとはいえ、高品質とは言えず、ときおり原文を察してあげる必要も生じた。わかりやすい例で言うと、「Let’s talk about this」を「この話をしましょう」とそのまま訳したことで違和感のある台詞になっているといった具合だ。おそらくは文脈が分からないまま訳さねばならなかった部分もあるのだろう。そのほか表記のブレ、翻訳の統一感不足(例:Handgunsは拳銃、LongGunsはロングガン)、誤字脱字が散見されるほか、使用しているフォントの関係上、日本語としては違和感のある統合漢字が使われている点が気になった。メニュー画面も、Cowerの訳が「カウアー」と「萎縮」、Terrifyの訳が「テリファイ」と「威嚇」で分かれていたり、AttributesとPerkを両方とも「特性」と訳していたりとややこしい。さらにPerk自体も「特性」「特殊技能」で訳が分かれているので、さらにややこしい。

お酒を飲んで酔っ払ったNPCの「この辺で止めないと、お前が少なくとも二重に見える」という台詞に対する「Only two? You got a ways to go」という返事を訳したもの。原文の通りにいくと「たった二重?まだまだ飲み足りないわね」というニュアンスになる。NPCにガンガン酒を飲ませようとしている文脈から考えると原文通りの訳が適しているとも思われるが、このあたりは意訳の範疇だろうか

こうした不自然さが気になる方であれば、最後まで気になってしまうだろう。ただ日本語にローカライズされたこと自体は嬉しいことであり、願わくばアップデートにより改善してほしいところ。またゲーム自体は先述したようにRPGとして硬派な出来栄えであることに変わりはない。こうしたシングルプレイ用の手堅い一人称視点RPGは、近年では稀有な存在だ。翻訳まわりの粗や、革新的な大作ではないことに理解を示せるのであれば、是非とも手にとってみてほしい一品である。

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