山野智三(ともぞう)が語る「eスポーツキャスター」という職業。自認“ポンコツ”でも8年続けられた、ちょっと不思議でだいぶ過酷な仕事

私が8年もキャスターを続けられているのは、eスポーツが持つ独自の文化に助けられたところが大きい。

はじめまして、eスポーツキャスターを生業としている、山野智三と申します。「ともぞう」の名前でも活動しております。

ご縁があり、AUTOMATONで記事を書かせていただくことになりました。今後とも、よろしくお願いします。

筆を執るにあたり、私のどの部分がAUTOMATON読者の皆さまにとって興味があるか?と考えたところ、やはりeスポーツキャスターという職業について興味をもつ方がいるのではないかと(いやそうじゃない、私の徳島県での幼少時代の話が聞きたい、ということであれば、編集部までご連絡をいただければと思う)。

ただ何から話せばeスポーツキャスターという仕事が伝わるのか。この点は手探りなところがあり、まずは、キャスターである私の1日のスケジュールをお伝えするところから始めてみたいと思う以下は私が『レインボーシックス シージ』(以下、R6S)の世界大会で、準決勝の前半2試合を担当した5月15日の日程だ。

19:00 起床
19:30 個人チャンネルでこれまでの試合を振り返り配信
21:30 食事・休憩
23:00 スタジオへ移動
0:00 スタジオ打合せ
0:45 実況スタート
6:30 実況終了
7:30 帰宅後、後半の2試合をチェック
11:00 お風呂・就寝

これは時差が存在する世界大会の一例であるため(今回は北米での開催)、特殊なケースではあるが、eスポーツの実況は野球やサッカーなどのトップスポーツと比べ、長時間担当することが多い。また、3マップを戦って、2マップを獲得した方が勝ちといった試合も多いため、終了時間が試合ごとに最大で1時間近く異なることもよくある。

客観的にみても「それなりに過酷だよな」と思う環境で、気がつけばeスポーツキャスターを約8年も続けさせてもらっている。ありがたいことだ。

なぜ、eスポーツキャスターになったのかというと、「子供の頃からの夢だった」というわけではない。当然ながら、私が子供の頃はeスポーツキャスターという職業は存在しなかった。キャスターになったのは、たまたま見かけた『R6S』公式キャスターの応募に特に何も考えずに応募したら、運良く合格したからという単純な話である。そこからは急転換。2018年8月にキャスターとしてデビューしたと思えば、翌年2月にはカナダのモントリオールにまで赴き、世界大会の会場で実況をさせてもらうという貴重な経験までさせてもらった。本当に、ありがたいことだ。

ただ、8年も続けているのでそれなりに自信をつけた部分はあるが、他のキャスターの方々と比べると、自分でもなぜ続けられているのだろうと不思議なことが多い。その理由は、おそらく皆さんが描く理想のキャスター像に対し、私があまりにかけ離れているからだ。

キャスターに求められる技術

野球やサッカーに代表されるようなトップスポーツには観戦文化があり、キャスターがいる。eスポーツもそうしたトップスポーツにならっているところが多くあり、日本では実況と解説というキャスターの役割分担が自然と確立されることとなった。そして、私は実況を担当している。

実況の役割は、試合で起きている事実を伝えることが中心となる。また、不明瞭な点を視聴者の代わりに解説担当に質問し、試合内容の理解度を上げる必要などもある。滑舌よく、分かりやすい言葉を選ぶ技術が求められる。ほかにも、タイトル毎に存在する固有名詞を正確に言えないといけない。例えば、『R6S』だと「エレクトロレンダリングクローク」というアビリティ名が存在するが、これを正確に実況に組み込む必要がある。当然、チーム名や選手名も間違えてはいけない。

ところが前述したように、私はキャスター経験があったわけではない。そのため、私のキャスターキャリアは皆さんがイメージするキャスター像とはかけ離れて酷いものだったと言わざるを得ない。

平気でキャラクターや選手の名前は間違う。解説の話を聞いておらず、会話が噛み合わない。挙句の果てには、支離滅裂な言葉を使い、結果それが「ともぞう語録」と名付けられ、ミーム化することになった。楽しんでもらえるならそれでいいのだが、テレビ局のアナウンサーを経験された方の実況などをみると、レベルの違いに愕然とすることがある。

持ち合わせていた能力といえば「体力」くらいだろうか。キャスターになった当初から長時間の配信が連日続いても、体調を崩さなかった。

どうだろうか?ここまで聞いて、皆さんは「なんて、ポンコツなキャスターなんだ……」と絶句したのではないでだろうか。私自身もそう思うし、もし仮に「後輩キャスターを育成してほしい」と言われても間違いなくお断りするだろう。私自身がキャスターとして発展途上であるのに、後輩を育てる余裕などない。むしろ、私の方が育てて欲しいくらいだ。

ただ、そんな私でも8年もキャスターを続けられている。なぜか?それはeスポーツが持つ独自の文化に助けられたところが大きいと考えている。

成長の余地が残されたeスポーツという特殊な場所

私としては、理由は2つあったのではないかと思っている。

1つ目は、eスポーツという分野が未成熟であり、運営・ファンが一体となり、手探りでコミュニティを作り上げていくという文化がタイトル毎に存在したという点だ。

『R6S』においても、競技シーンはスタートしたものの、毎年手探りな状況が続き、未来が明確にみえていたわけではないといえる。実際、年によって大会の仕組みが大きく変わったりもした。数年前までは日本国内チーム同士で争い、その勝者が世界大会に出場できる形式だったが、昨今はAPACと呼ばれるエリアに範囲が拡大され、韓国などのチームと対戦し、勝ち抜かないと世界大会にはいけない。また、8年を振り返ってみると、経営難などで多くのチームが『R6S』の競技シーンを去り、応援していたチームが突然消えるといったこともたびたびあった。

このような状況から運営は試行錯誤を続け、ベストな競技シーンの枠組み構築を目指す一方で、ファンはその都度、希望と失望を繰り返していた。そうやってコミュニティは時間と共に、少しずつ基盤が形成されていったといえる。このように、未成熟であることを前提とした文化があったため、私のようなキャスター未経験者も受け入れてくれる懐の深さがあったのだ。

その優しさに私は育ててもらったと思っている。そのため、私は『R6S』コミュニティを裏切ることはないし、最後まで自分ができることは続けたいと思っている。

2つ目は、eスポーツにおいては、キャスター技術よりもタイトルに対する熱量が重視される風潮があると考えている。どういうことかというと、eスポーツキャスターを現在こなしている方は、そのタイトルのコミュニティ出身の方が意外と多い。そのタイトルの元プロ選手の方もいれば、私と同じようにオーディションを通った方などが存在する。

では、そういった人たちに共通している点は何かというと、そのタイトルを好きであり、深く理解しているということである。ファンの方は、この点に非常に敏感である。

私は、既に存在していた『R6S』のファンに比較的すんなり受け入れられたと感じている。ただ、なぜそうなったのかは長い間、私自身も分かってはいなかった。しかし、あるタイミングで『R6S』のプロ選手にこう言われたことがある。「ともぞうさんは僕がキルを獲った時に大声で感動してくれる。選手としては、それが何よりも嬉しい」と。

愛がなければできない仕事

『R6S』に限らず、FPSタイトルの試合配信では1日に数試合の配信があるため、配信の中で、それこそ何百ものキルが起こる。そのため、観ている方も段々とキルシーンに慣れていってしまう。また、プロたちは技量が高すぎるがあまり、とても難しいキルを当たり前のように獲ってしまう場合もある。

しかし、プロたちはその1キルを獲るために、何千、何万もの時間を費やしている。実況がないと、画面からその点を理解することは難しい。そのため、キルが起こった際に、それがいかに凄いことかを伝える実況キャスターの役割は重要になってくる。

ところが、私はこの点を無意識にやっていた。その理由は私が単純に『R6S』プレイヤーであり、『R6S』競技シーンのファンだったからできたのではないかと思っている。私の『R6S』のプレイ時間は5000時間を超える。また、キャスターになる前から画面の前でプロのスーパープレイに声を上げていた。そういった素人丸出しの部分がキャスターになっても消えず、良い方向に表現として出たことで、プロの選手も、ファンも「ともぞうは本当に『R6S』が好きなんだな」と感じてくれたのだと思っている。この点があったからこそ、キャスターの技量が未熟だったとしても、コミュニティが私を見限らず、8年もキャスターをさせてくれたのだと思っている。

私の場合、好きが転じて運良くキャスターになったわけだが、その好きという部分が長く続ける上で最も大切だったのだと、キャリアを振り返ってみると思う。

では、『R6S』以外のタイトルをやらないのか?と聞かれれば、常々挑戦してみたいと思っている。実際、これまで何度かお声がけをいただいたが担当するにはいたらなかった。理由はいくつかあるが、一番はスケジュールの問題。eスポーツの試合はそのほとんどが土日に行われる。そのため、出演のほとんどが重なってしまうのである。ただ、決してR6S以外を担当しないというわけではないので、もし関係者の方がいれば、気軽に声をかけてほしい。

一方で、『R6S』と同じくらいの熱量で実況をするのであれば、並行して担当できるタイトルは、あと1つか、2つといったところではないかと思っている。なぜなら、そのタイトルのことを深く知らなければ、『R6S』と同程度の熱量を出すことはできないからだ。そのためには、自分自身がいちプレイヤーとしてしっかりそのタイトルと向き合わないといけない。そうでないと、私のようなタイプのキャスターは手を抜いているのではないかと、ファンの方に思われてしまう。前述したとおり、タイトル毎に熱心なファンが存在し、その方々はキャスターに同様の熱量を求める。私のようなキャスター能力が秀でていないタイプは、ファンの熱量に応えるためには、ファンがそのタイトルに費やした時間と同等の時間をかけなければ、受け入れてもらえないと思う。

ここまで話してきたが、これはあくまで私の経験を基にしたeスポーツキャスター業に対する解釈であり、他の方のスタイルを見ると千差万別である。そして、そこに正解はなく、上下もないと思っている。ただ、このキャスター業に対する考え方を共有することで、私という人物の一部を知ってもらえるのではないかと考え、まとめてみた。少しでも私についてご興味を持っていただけたのなら、幸いである。

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Tomozoh Yamano
Tomozoh Yamano

ゲーム好きが転じて、eスポーツキャスターやってます。FPSだけではなく、なんでもプレイします

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