「CRI・ミドルウェアは、常に時代の変化にあわせて音声・映像の要望を取り入れていく」CRI・ミドルウェア櫻井敦史氏【GTMFミニインタビュー】

 

ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF(Game Tools & Middleware Forum)2018」
の展示者にお話を聞く本企画。第三弾は、CRI・ミドルウェア(シーアールアイ・ミドルウェア)研究開発本部 本部長の櫻井敦史氏。

CRI・ミドルウェアは、音声・映像ミドルウェア製品群「CRIWARE」を開発し、提供するミドルウェアの研究開発・販売企業だ。最近では高画質・高機能ムービーミドルウェア「CRI Sofdec2」の機能を拡張し、高いデータ圧縮性能を有するビデオコーデック「VP9」の搭載を発表するなど、長年音声や映像圧縮ソフトウェアを開発・リリースしてきた。あらためてその業務内容や、販売している製品の機能について語っていただく。

 

――まずは自己紹介をお願いいたします。

櫻井 敦史氏(以下、櫻井氏):
株式会社CRI・ミドルウェアの櫻井です。研究開発本部長としてゲーム向けのミドルウェア全般を見ています。弊社はかれこれセガサターンの時代から音声・映像のミドルウェアを展開してきました。世の中の流行りやデバイス・ゲームの進化、皆様のやりたいサウンド演出や動画の使い方を追いかけつつ、ゲーム業界を盛り上げるべく20年以上事業を続けています。

――ゲームを立ち上げたときに表示される御社の白と青のロゴは、ゲーマーにとってはもはやお馴染みのものとなっていますね。

櫻井氏:
あのロゴに統一されたのはPlayStation 2世代の途中だったと思います。もう長くなりますね。

――業界の流行りを追いかけると仰られましたが、時代の流れに合わせるという企業方針が根付いているのでしょうか。

櫻井氏:
ゲーム業界向けの音声・映像技術を提供していく中で、求められるツールというのは時の流れと共に変わってきました。例えばサウンドミドルウェアのCRI ADXであれば、一番初めにつくったときは、とにかく音声を小さく圧縮したいという要望に応えることが大事でした。

動画の場合も圧縮したいという要望は変わらないのですが、今よりもCPUのパワーが低かったので、どれだけ負荷をかけずに再生できるのか、CD-ROMやDVD-ROMからBGM、ボイス、ゲームデータなどを同時にどこまで読み込めるのか、といったことが求められていました。

最近ではゲームの複雑化に合わせて環境音、効果音、インタラクティブな音楽などがどんどん増えています。昔は音楽やボイスにフォーカスしたミドルウェアだったのですが、近年では効果音なりゲームのサウンド全般に対応する必要が出てきました。ツールや構成も、それに合わせて進化してきていますね。

少し前の話になりますが、例えば自前で持っている圧縮コーデックの中にHCA-MXというものがあります。HCA-MXは、沢山音を鳴らしたときに負荷が低くなるという、ゲーム開発を想定した機能として作られました。昔のゲームと比べると音の数が増えていることから、負荷を抑えたいというニーズが生まれたのです。ほかにもインタラクティブ・サウンドのように演出の作り方も変わってきていますね。圧縮だけでなく演出の作り方、データの管理まで範囲を広め、ツールとして進化しています。

 

――ではあらためて、御社の主力製品をお教えいただけますか。

櫻井氏:
ゲーム向けの製品は音声・映像・ファイル関連の三本立てとなっています。その中で主力となるのはサウンドミドルウェアのCRI ADX2です。動画ミドルウェアのCRI Sofdec2もありますが、動画は全てのゲームが使うわけではありません。音を使わないゲームはなかなか無いですが、動画を使わないゲームというのはあり得ます。そういった意味でも、主製品はサウンドミドルウェアになります。ただ、動画も一緒に使えるというのは念頭に置いて進化を続けています。

――だからこそ、CRI ADX2とCRI Sofdec2は片方を購入すると両方使えるようにしていると。

櫻井氏:
そうです、ただゲーム機では別々になりますね(笑)。サウンドミドルウェアだけでなく動画ミドルウェアも使う場合にはプラスで費用がかかるような料金体系になっています。スマートフォン向けのプランを出すときに、サウンドと動画用ミドルウェアを一括提供する料金体系を採用した背景には、もっと気軽に動画を使って欲しいという思いがありました。ゲームの中で1〜2シーンしか動画が無いとしても、そこでCRI Sofdec2を使うことで便利になるのであれば、是非とも使ってほしいという気持ちがあったのです。

――CRI Sofdec2に関しては、最近で言うと高圧縮コーデックVP9の導入があったかと思います。改めてCRI Sofdec2とVP9の強みをお教えいただけますでしょうか。

櫻井氏:
まずCRI Sofdec2自体の特徴は、ゲームのプログラムに組み込むことを前提としたライブラリとして作っていることです。CRI Sofdec2はただの圧縮ツールではありません。透明度を入れたムービーを演出として使えたり、複数のムービーを再生して管理できたり、ムービーをパーツに分けて組み替えることでいろんなバリエーションを再現したりと、ゲーム向けの機能が沢山入っています。その上で、皆様の、特にスマートフォン界隈からの要望として多いのが、データの圧縮です。

――スマートフォン向けだと、ストレージや通信量が問題になりますよね。

櫻井氏:
スマートフォンの空き容量で悩んでいるゲーム好きな方は多いと思うんですよ。だからこそ、ちょっとでもデータを圧縮したい。ただ、その一方で、演出を賑やかにするために動画を使いたいという声もあります。例えば日本で人気のあるキャラクター性の強いゲームだと、アニメキャラを動かすときにリアルタイムでやるのが必ずしも正解だとは限りません。ときには動画も使いたい。でも容量が圧迫される。そこをクリアしたくてVP9の導入を決めました。

――圧縮技術に関して業界のイニシアチブを取っていきたいと。

櫻井氏:
VP9はオープンソースなので、技術としては公開されています。ただ公開されている技術でも、CRI Sofdec2の使い勝手とセットにすることで、ツールとして使いやすくなっている部分は間違いなくあると思います。

――なるほど、開発者さんのフィードバックを頻繁に取り入れて改良しているのですね。

櫻井氏:
はい。フィードバックは沢山いただいています。新機能開発などやりたい事は多いのですが、現場は「このフィードバックにいち早く応えたい」という思いで突き進むケースが結構あります。VP9の話で言うと「もっと圧縮できませんか」というリクエストは以前から多く貰っていました。改善策の一つとしてVP9を考えた後も性能強化など、時間をかけて今回やっと出せたところです。

――スマートフォン市場では圧縮面での需要が高いのですね。ではコンソール市場ではどうでしょうか。サービス内容が違ってくるのでしょうか。

櫻井氏:
プラットフォームによって狙っているところは違います。コンソール機だと性能が安定していますし、3Dゲームが多いですよね。3Dの空間とマッチさせるため、動画演出による一枚絵ではなくリアルタイムで描いていく傾向が強いのかなと思っています。

かつてプラットフォームの世代交代を機に「全てリアルタイムで作ろう」という流れが訪れたときがあります。ですが、そこから更に作り込んで演出を凝り出すと、それらを全部リアルタイムでやるのはデータの読み込みなどの都合で厳しくなってきます。ではどうするかというと、実機エンジンで絵を作りキャプチャーして動画にする手法が取り入れられ始めます。そうすると絵の雰囲気を実機の映像のまま残せます。どれだけ激しいシーンであろうと、処理としては一本の動画を再生しているだけというわけです。ただ技術が更に進歩すると、もう一度「やっぱり全てリアルタイムで作ろう」という流れがやってきます。そうした波はあるのかなと思っています。

――昔からよくある「リアルタイム風のプリレンダリング」という分野で御社のミドルウェアが活躍していると。

櫻井氏:
はい、その流れは昔から続いています。ポイントとなるのは画質です。折角エンジンを使って絵を作っても、圧縮で劣化するとゲーム内で動画に切り替わった瞬間に分かってしまいます。なので、そこはこだわりたい部分ではあります。

――CRI Sofdec2の話で言うと、スマートフォン向けには全体的にカバー、コンソール機は部分的にカバーしているイメージでしょうか。

櫻井氏:
コンソールで演出用に使っていただくこともあるとは思いますが、やはりリアルタイムの演出を採用している開発者が多いという印象です。スマートフォンは端末によって性能の幅が広いので、ハイエンドな端末で動いても、少し古い端末だと厳しいというケースがあります。それならば動画で安定させようという考えがあるのではないでしょうか。

――その一方で、CRI ADX2の方はコンソールでも使われている印象です。

櫻井氏:
サウンドミドルウェアは、スマートフォンもコンソールも全般的に使ってもらっています。

――例えばデータ圧縮がそれほど必要のないコンソール向けのゲームでCRI ADX2を使うメリットはどういった点になるのでしょうか。

櫻井氏:
コンソール向けのゲームや、スマートフォン向けの凝ったゲームになってくると、圧縮云々よりは、どれだけいろんな演出を付けられるか、増えていくサウンドの素材数をどう管理するかといったことがポイントとなってきます。またサウンドの作り手であるサウンドディレクターやサウンドデザイナーさんが、プログラマーさんにお願いして素材を組み込んでもらって、それから仕上がりを確認するという工程では効率が悪くなります。作り手が自分の手元で、思い通りの演出を完成させた上でゲームに組み込めるというのが、サウンドミドルウェアを使うメリットです。

――圧縮ソフトというよりは、エンジニア向けのソフトというイメージでしょうか。

櫻井氏:
ゲームのサウンドに関しては、高圧縮・高音質・低負荷は前提の機能ですね。そこに加えて、サウンドの効果をどう付けていくかが大切になってきます。ゲームのサウンドというのは、音が変だったりノイズが入っていたりすると気になるのですが、音を丁寧につくりこんでいくと自然すぎて逆に気付いてもらえなくなります。ゲームを気持ちよく遊べることが大事で、そうした自然な、良い感じのサウンドを作り上げる上では、サウンドデザイナーさんが直接編集に入れるかどうかが重要になってくるのです。

――さまざまな観点で音作りのサポートをされているのですね。今年5月には株式会社ウェブテクノロジの完全子会社化が発表されました。そちらを踏まえ、CRI・ミドルウェアの今後の展望をお教えいただけますでしょうか。

櫻井氏:
ゲーム向けの技術提供という意味では、ゲームの作り手が目指しているところを手広くサポートしたいという思いがあります。例えば最近発表したブラウザゲーム向けのCRI ADX2も、ブラウザでゲームを作ってみたいという作り手が増えてきたことを受けて提供を決めました。スマートフォン向けのミドルウェア提供も、開発者がスマートフォン向けのゲームに興味を持ったからこそ始めたものです。ゲーム会社様をしっかりとフォローするためにも、そして他のプラットフォーム・開発環境に移ってもCRIのミドルウェアを使い続けられるという安心感を届けるためにも、手広くやっています。

ウェブテクノロジは、同じゲーム業界の企業でありながらCRIと重複しない技術を持っています。CRIは動画、ウェブテクノロジは静止画。互いに連携を取り、技術を組み合わせることで更に効率良く面白い展開ができるのかなと思っています。一緒に何かをやることが目的というよりは、お互いの技術でうまく相乗効果を出したいというのが狙いです。

――ありがとうございました。

 

[聞き手/写真:Minoru Umise]
[編集:Ryuki Ishii]

GTMF
GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で16年目。大阪会場は2018年6月27日に開催され、東京会場は7月13日に開催された。