あえて2DゲームをUnreal Engine 4で作る理由、ガルルソフトウェア研究所の富野裕樹氏が語る。GTMF 2017 Meet-Ups

ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF(Game Tools & Middleware Forum)」内で開催される「Meet-Ups」の登壇者にフォーカスを当てインタビューするこの企画。第六弾では、ガルルソフトウェア研究所の所長である富野裕樹氏にお話をうかがった。

ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF(Game Tools & Middleware Forum)」内で開催される「Meet-Ups」の登壇者にフォーカスを当てインタビューするこの企画。第六弾では、ガルルソフトウェア研究所の所長である富野裕樹氏にお話をうかがった。

ガルルソフトウェア研究所はUnreal Engine 4を基盤とし技術研究・ゲーム開発をおこなうスタジオだ。こうした説明をすると、3Dゲームを開発する会社であるように思えるが、同スタジオは2Dゲーム開発を得意とするという。なぜ2Dゲームの開発を得意とするスタジオがUnreal Engine 4でゲームを開発をしようと思ったのか、富野氏に語っていただいた。

――自己紹介をお願いします。

富野裕樹氏(以下、富野氏):
ガルルソフトウェア研究所の富野です。基本的にはUnreal Engine 4を専門に研究していまして、Unreal Engine 4を使ったコンテンツのサポートですとか、実際にゲーム開発をする時の作業など、Unreal Engineに関わるお仕事をさせていただいています。もともとはコンシューマーゲームをひたすら作っていました。いつか自分のソフトを出したいという気持ちもあってプログラマーとして渡り歩いていたんですが、昨今のゲーム業界のハイエンドについていくのは大変でした。3Dの技術だったりとか、サウンドひとつとってもリアルタイムに音を作り出したりとか、そういうところをひとつひとつ追いかけていくと奥が深すぎて、勉強することだらけなんです。今新しいものを作るなら新しいエンジンを習熟してゲームを作り慣れていこうと思い、ガルルソフトウェア研究所を立ち上げました。

――これまでは2Dゲームを中心に手がけてこられましたよね。3D表現に優れたUnreal Engine 4を専門にするというのは、大きな方向転換かなと。

富野氏:
僕はもともと2Dゲーム作りにこだわっていたわけではなくて、僕は2Dゲームが単純に好きだったんで、作り方をずっと勉強していました。2Dゲームなら手足のように動かせるという自負もあります。ハードウェアの進化にともなって、スプライトが100枚しか出せなかったものが1000枚になって、1万枚出せるようになりました。ハードウェアの進化にあわせて、すごいものを作ろうと思っていたんですが、ただ、表示できるものが多いだけじゃきれいにならないんですよね。昨今の弾幕シューティングなんか、弾増やすといる場所がなくなりますしね。

そう考えるとスプライトの枚数だけでリッチに何かを作るというのは、時代遅れだなと思いました。そんな時、どんなものがほしかったのかなと考えていました。たとえば、今風の表現をしようとした時に、3Dゲームエンジンで作る2D表現はものすごく優れているんです。たとえば法線マップでいうと、2Dは単なる絵なんですけど、3D表現をかけあわせるとそこに表面にデコボコの情報が生まれるんです。そうすると、そこにライティングを与えると、ただの2Dの絵に影がでるし、絵が移動すると影の位置も変わる。昔の作り方だと考えもしないすごい技術ですよね。3Dの表現だからできることが多くある。2Dでリアルに見せようと小手先でやっていたことより、3Dに任せてできる表現に、心打たれましたね。

――そのお話と関連して、Meet-Upsでは自身のキャリアについてお話されていましたよね。もう一度語っていただけますか。

富野氏:
はい。実は僕は大学生だった時に、メサイヤさんの作るロボットアクションゲームがとにかく好きだったんです。「これを作った人たちに会いたい」、「これをどうやって作ったんだろうか」、「いつかこんなゲームを作りたいな」と思っていました。もともとゲームセンターのゲームが好きで、MSXで遊びながら、ゲームセンターのゲームの再現を8bitのパソコンでいかに近付けるかといった遊びに情熱を燃やすしょうもないやつでした。(笑)

そういったアーケードゲームのエキス集めをやっていた時に、映像表現がすごいスーパーファミコンのゲームが現れて「こんなのをいつか作りたい」と想いを持って業界入りしました。業界入りしてからは2D表現であったり、当たり判定であったり、とにかくいろんな仕事をしながら2Dのゲーム作りを覚えていきました。そういったスーパーファミコンのハードウェアでのプログラムの技術を覚えるまでおよそ10年かかりました。10年もかかっているとスーパーファミコンのゲームを愛していた人が名作を出したいというところで、僕のやりたかったスーパーファミコンのゲームをリメイクする人が現れたんですよ。

先を越されてしまったんです。生きる目標といったら大げさですけど、死んでもやるぞと思っていたことを先にやられたことで心に風穴があいたような気持ちになりました。実はそのソフトをプレゼントしてくれたのが、当時の彼女である今の妻なんです。ワクワクして家帰ってプレイしてみたら青ざめたんですよ。でもプレゼントとしてもらったもんだから、よくないなんて言えない。きっと自分の感性が狂ってるんだと思って2ちゃんねるに行ってみたらやっぱりみんな落胆してる。だんだん許せない気持ちが湧き上がってくるんですが、かといってプレゼントの悪口も言えなくて板挾みです。だから、2ちゃんねるの人たちと存分に語りあえるように彼女からのプレゼントは、ただお使いに行ってもらっただけだったことにしてゲームを買い取った後、再び2ちゃんねるに向かいました。それで好き放題言いました。

その2ちゃんねるのスレッドでは、ユーザーが絵や音楽を作って「自分ならこうする」とすごい高品質の素材を作ってアップロードしていたものですから、僕はそういう素材をつなぎ合わせたプログラムを作って投下してみました。すると、落胆していたたくさんの人が注目してくれて。僕のプログラムを高く評価してくれる人もいました。僕の方もテンションが上がってしまって、マップエディタを付け加えたり、当たり判定をつけるツールをつけてみたり、そんなことをしているうちに、どんどんちゃんとしたゲームになってきたんです。「こっちのほうがいいじゃん」と言ってくれる人もでてきて、それが楽しくて。どこで怒られるかわからないまま、これまで学んだ技術を使って限界までやってみました。嬉しかったのはやはり評価ですね。自分の出したものを厳しい人たちが「ああじゃないこうじゃない」と言ってくれる。フィードバックを聞きながら取捨選択していくうちに、みんなが求めているものが見えてきたんです。

こうした評価や知識をゲーム作りに活かそうと思い、つとめていた会社をやめて自分で独立して「ドラキュー」という会社を作りました。そこでWindows向けの新作を出したんですが、これが全く売れなくて。Windowsで出したんですけど、コンシューマーゲームと違って、Windowsのパッケージタイトルには返品制度があるんですよ。出して卸した後も売れないと返金しないといけない。一時的なお金が入ってきても、返さないといけない。心配で寝るに寝れない状態が2年続きました。売れなくても高級車を買ってぶつけてなくしちゃったぐらいの気持ちでチャレンジしました。世の中にまったくない話でもないと思うのでまだ諦めがつきそうだったのです。

そんな状況でもユーザーさんからの評価はいただけるのでアップデートは続けていました。僕はラストは巨大戦艦を倒すことでエンディングへつなげていたんですが、ファンからは「巨大戦艦を倒して、そこからラスボス戦だろ!」という意見をもらって「ああ、そうか、みんなはそこを期待してたのか、気付かんかった!」と思い、既存のパーツを組み直してラスボスを追加しました。そういうことをやっているうちに、シナリオも気になりだして、面構成も変わってきて、登場人物も変わり、アップデートを重ねていくうちに、ようやく満足のいく違う製品になりました。次はどうしようかと考えていたところで、お世話になっていた会社が解散したこともあって、宙に浮いた仲間と合流して自分の技術などを社員に教えながら会社を大きくしていきました。その時にシューティングが得意なグレフさんという会社が声をかけてくださったことでPSPデビューさせてもらって、さらに次はどうしようかと思っているなかでEpic Games Japanさんと知り合いました。

――Epic Games Japanさんとはどういうきっかけで知り合われたんですか。

富野氏:
BitSummitで知り合いました。僕の作ったゲームは運良く海外に渡ることができたんですが、BitSummitの主催者の方がたまたま僕のつくったゲームのファンになってくださってたこともあってBitSummitに招待していただきました。そこでEpic Games Japanさんに会いました。僕はUnreal Engineにはもともと興味があって、最先端のゲームエンジンは自分のものとどれだけ違いがあるんだろうと思っていました。そこで話を聞かせてもらって、後で会社にデモを見せにきてくださったんです。実際に映像を見て、2Dゲームを3Dゲームエンジンで作ってみたいなと思いました。そのタイミングで2Dゲームを作りやすくするためのコンポーネント「Paper 2D」という機能がUnreal Engine 4に実装されたばかりだったこともあってEpic Games Japanさんと3Dを使った2Dゲームを作ってみたことが、具体的なきっかけですね。

実際にUnreal Engine 4を使ってみると、すごさや面白さが身にしみてわかりました。自分が時間をかけて勉強してできるものと、Unreal Engine 4を使ってできるもののクオリティの差が、歴然としてあるんです。だからこそUnreal Engine 4を使っていきたいと思い、その後のガルルソフトウェアの立ち上げにつながっています。

――歴史が濃いですね。

富野氏:
僕にはゲームしか見えてないんで。一生作り続けていきたいです。最新技術においていかれると、作れなくなるんで。

――富野さんのような2D畑の方が参加されると、Unreal Engineの新たな一面が見られそうですね。

富野氏:
2Dゲームを作るのには慣れています。でも2Dだけではできることの範囲が限られてしまう。アニメと同じで、たくさんの人がたくさんの絵をかけばすばらしい絵ができる。そして僕だけでできることも限られてしまいます。それでは10年後にもゲームを作っていられない。勉強することがとても多いですが、3Dゲームエンジンは、できることの範囲を広げて僕だけでできることを増やしてくれる、とても優れたツールです。

――今作られているのはどんなゲームですか。

富野氏:
3D表現を使った2Dゲームです。僕は2Dゲームのプログラムに特化していたこともあって、色んな要素を作るのに結構時間がかかっています。絵もシナリオも僕が作ったものを専門の人にブラッシュアップしてもらっていますが、やっぱり僕が作るとしょぼいんですよ。でも、誰でもそうなんですが、やってできないわけではないんです。しょぼいけど、一年もかけてじっくり書けばだんだん製品として売ってもいいギリギリのところまでは持ってこれるんですよね。本職の人がやると数週間で終わりそうなものですが(笑)

――開発されているタイトルは、おひとりで手がけられているんですか。

富野氏:
そうですね。ゲームの雛形ができて、面白さの種ができるところまではひとりでやります。前回もひとりだとは言ってますが、ある程度ところまで作ったら専門の部署にまかせてブラッシュアップしてもらいます。最初から作ってもらうと試行錯誤が多くなっちゃうんですよね。だから自分で試行錯誤して方向性を決めて専門の人にブラッシュアップしてもらって、その後また局所的に自分で修正するやり方をしています。

――受託開発もやられているんですよね。

富野氏:
そうですね。タイトルは言えませんが。

――やはり2Dゲームを中心に受託されているんですか。

富野氏:
そうです。そこが僕の武器であることには間違いないですね。コンシューマーゲームづくりのノウハウをスマホで実現するにはどうすればいいか、そういったことも一緒に作りながら研究・開発しています。

――勉強のために下請けすると。

富野氏:
それもあるんですけど、やはり今まで自分が培ってきたゲーム作りの面で役に立てることができて、それでご飯が食べられるのが一番嬉しいですね。

――富野さんのお話を聞いていると「好きこそものの上手なれ」という言葉を思い出します。

富野氏:
僕に限らずみなさん本当にそうだと思いますよ。好きな人が作るものは情熱が本当にすごいんです。好きでやっていることが伝わってくる。僕はそういった人に対抗心を燃やすというより、そういう人の作品を見て自分の情熱に火を入れ続けたいと思っています。

――Unreal Engine 4といえばやはり3Dゲームですよね。3Dゲームは作るのも遊ぶのも情報量が多く複雑で、難易度が高い。そんな中、2Dゲーム開発者もUnreal Engine 4を使われるようになると、さらに多様性が生まれますよね。

富野氏:
Unreal Engine 4製のゲームは、出てくるものすべてが目が奪われるようなものばかりで、技術の部分でリアルになるほかにも、新しい表現やインタラクションを形にできるツールですよね。思いついたことをC言語でやるのは比較的にコストが高くつくけれど、Unreal Engine 4でやれば容易で早い。プログラムだけをやっていた人にとっては、ちょっとまどろっこしいところもありますが、プログラム以外の分野をプログラマが容易に触れるし、プログラム分野をプログラマ以外の開発者が開発できちゃう分け隔てない開発環境がすごくいい。ただ高度な技術の習得にはどれも時間がかかります。そのUnrealEngine4の乗りこなし方を研究して共有するのがガルルソフトウェア研究所なんです。

――Meet-Upsで出会いたいのはどのような人でしょうか。

富野氏:
チームメンバーであったり、プロデューサーさんであったり、僕の研究や経験が役に立つならば、いろんな方と出会いたいですね。今まで作ってきた技術を活かしてチームに入ることもできます。今はネットワークに強い開発会社さんとチームを組んで2Dの大作コンシューマゲームの移植に取り組んでいます。Unreal Engine 4を通じてゲーム作りの役に立ちたいというのがすべてです。

――ありがとうございました。

[聞き手: Minoru Umise]

GTMF
GTMF(Game Tools & Middleware Forum)はアプリ・ゲーム開発・運営に関わるソリューションが一堂に会するイベント。2003年にスタートし、今年で15年目。大阪会場は2017年6月30日、東京会場(事前登録受付中)は7月14日に開催。

 

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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