IWCI直前、LJL解説者Revolインタビュー LoL日本王者FMは世界でどこまで戦えるか

 

DetonatioN FocusMe」の優勝で幕を閉じたLJLシーズン1。ここでの優勝はそのまま4月21日から4月25日までトルコ・イスタンブールで行われる「IWCI(International Wild Card Invitational)」への参加権となり、さらにIWCIでの優勝チームはワイルドカード枠として、5月に開催される「2015 Mid-Season Invitational」へのチケットをもぎ取ることができる。

世界規模でプロプレイヤー同士の戦いが繰り広げられている「League of Legends」だが、日本ではまだ正式サービスのスタート前であり、まだまだ発展途上の後進国と言わざるを得ないのが現状だ。それでも「世界へ」を合言葉として、国内のプレイヤー、スタッフ、サポーターがひたむきにレベルアップを目指すなか、今回のIWCIにおける「DetonatioN FocusMe」の世界挑戦は、日本のLoLシーン、ひいては日本のeSPORTSシーンの現時点での世界での力量を測るまたとない試金石となる。

東西文化の結節点、トルコで日本代表の「DetonatioN FocusMe」は世界のライバルたちとどこまで戦えるのか? そして優勝の可能性はどの程度存在するのか? IWCIの行く末を最も正確に予想できるであろう人物、LJL解説者のRevol氏に聞くIWCI直前インタビュー。

 


LJL解説者のRevol氏。今回のIWCIも実況eyes氏とのコンビで全試合中継を行うとのこと
LJL解説者のRevol氏。今回のIWCIも実況eyes氏とのコンビで全試合中継を行うとのこと

――目前に迫ったIWCIについてお聞きしますが、大会の前週なのにブラジル代表が決まっていなくてですね……。

(※今回のインタビューは4月17日に行い、後日Revol氏に加筆をいただきました)

今週末決まります。「INTZ e-Sports」か「Keyd Stars」のどちらかですが、いずれにしてもブラジルは強豪ですね。今回のIWCI自体がブラジル代表をどこが倒すか、という構図になると思います。とくに予選での軸はそこになりますね。

――IWCIの試合形式はまずBO1(1本先取)で7チームが総当りのリーグ戦を行い、そこでの上位4チームが準決勝に進む形になっています。

7チームは中途半端な数なので、どういう形式になるかと思いましたが、世界大会の形式としてはまず妥当かと思います。最大8試合あるので、その試合中継を解説する身としてはなかなか大変ですが(笑)。

――日本時間では深夜帯の配信になりますし、選手以外に伝える側も見る側もタフな大会になりますね。

そうですね。連日23時スタートですが、夜更かしできる方はぜひ見ていただければと思います。

――では日本代表のFMが戦う6チーム、ブラジル、東南アジア、ラテンアメリカ、オセアニア、CIS(独立国家共同体)の各代表についてお聞きします。まず先ほど優勝候補に挙げたブラジルは?

ブラジルはeSPORTSシーンとしてもかなり大きいですし、常にオフライン形式(会場に選手を集め、観客もいる場で行う試合形式)で大会ができていて、今シーズンの開幕戦も東京ドームほどもある巨大な会場で開催していました。また上位すべてのチームがゲーミングハウスを持っています。韓国など強豪国の選手も外国人枠の補強選手としてブラジルのチームに参加していて、決勝まで勝ち上がってきた「Keyd Stars」にも韓国人選手が2人います。ですから試合でのプレイングだけでなく、プロシーン自体の規模が世界上位に食い込める力を備えていると言えるでしょうね。

「INTZ e-Sports」は今シーズンのブラジルシーンをリードしてきたチームです。リーグ戦でもPlayoffでも無敗です。チームのスタイルとしては中盤以降の集団戦を構成の軸に据えつつも隙あらば序盤から積極的にリードを広げていきます。そして手に入れたリードをどんどん広げていくゲーム理解度の高さも持ち合わせています。

――続いてオセアニア代表はオーストラリアの「The Chiefs eSports Club」です。

オセアニアはサーバー開設からまだ2年目ぐらいで、eSPORTSの成長度で言うと、日本とあまり変わらない。ゲーミングハウスを持ったチームもなくて、今回の「The Chiefs eSports Club」もメンバー自体は前身の「Team Immunity」からプロとして3年ぐらい活動しているんですが、ゲーミングハウスはありません。配信自体も2015年からしっかりしてきた形です。なので地域としては発展途上ですが、2013年のWCG(2013 World Cyber Games)など、すでに世界大会への挑戦は果たしていますし、日本より世界での経験値は上と言えるでしょう。「The Chiefs eSports Club」はオセアニアではここまで20戦19勝1敗という抜きん出た成績で勝ち上がってきたのでもちろん強いわけですが、同時にライバルとあまり競り合ってないのは弱点となるかもしれません。

――続いてロシアのチームが「Hard Random」。

おもにロシアですが地域としてはCIS(独立国家共同体)なので、ウクライナの選手も所属しています。この地域の特徴はかなり向こう見ずにガンガン仕掛けていく。決勝戦のプレイオフの動画を見たんですが、意味もなく戦う局面も多くて、先の展開を見据えて戦うよりも目の前に敵がいれば倒す、みたいな傾向があるのかなと。

――とりあえず当たってから考える(笑)。

そんな感じです。そのなかで「Hard Random」はレーンをスワップ(入れ替え)してダメージ源となるADCを育てる戦略を持ち合わせていましたし、CIS代表として勝ち抜いたのは妥当と言えそうです。相手地域のなかでは比較的弱い部類に入るとは思うんですが、この地域の問題は情報が本当に少なくてですね……。スケジュールもすごくアバウトで、たぶん機材やスタッフが足らないからなんでしょうけど、大会運営や配信からしてフリーダムな感じでした(笑)。プロシーンとしても戦術面でもまだまだ荒削りかなと思います。

 

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――ラテンアメリカ代表はチリの「Kaos Latin Gamers」ですが、ブラジルとは別枠ですね。

ラテンアメリカはちょっと地域分けが特殊で、まずブラジルとは別にラテンアメリカノース(中米)とラテンアメリカサウス(南米)でそれぞれサーバーがあって、中米1位と南米1位がLatin America Cupとして戦って代表を決めました。この地域ではメキシコの「Lyon Gaming」が常にリードを取っていてチリの「Kaos Latin Gamers」はなかなか勝てなかったんですが、今回ついに下克上で勝ち上がってきました。IWCI出場チームの大方は各地域の本命が勝ち上がってきているんですが「Kaos Latin Gamers」には逆転の勢いがあるので、そこは警戒すべきですね。ラテンアメリカも情報は少ないんですが、アサシンを使った試合運びよりも、集団戦重視のピック(使用キャラ選択)傾向があって、集団戦での強みが「Kaos Latin Gamers」が勝ち上がってきた理由かなという気がします。

――東南アジア代表は当初はベトナムの「Saigon Fantastic Five」でしたが、ビザの問題で2位のタイの「Bangkok Titans」が繰り上がり出場になりました。

東南アジアは強豪の香港と台湾以外、ベトナム、タイ、フィリピン、シンガポール、マレーシア、インドネシアで構成されている地域ですね。2014年のシーズン4までは台湾と同じ地域だったので、台湾や香港のチームと似た傾向はあると思いますし、強豪との試合経験が豊富なのはアドバンテージと言えると思います。傾向としてそれほど変わった点はないんですが、こちらも中盤の集団戦に重きを置いているかなという印象です。

「Bangkok Titans」はSeason2から活動しているチームで東南アジアを代表するチームのうちの1つと言えると思います。2014年に開かれたタイの国内大会全てで優勝しています。GPLの決勝戦ではSF5に0-3で負けてしまいましたが、準決勝までは予選を含めて圧倒的な強さを誇っていたようです。全ての試合を観れたわけではありませんがTop LanerのWarL0cK選手とADCのLloyd選手が特に優れたプレイヤーだと感じました。決勝戦の1戦目は非常に競っていたにも関わらず2戦目と3戦目は大差になってしまったことから精神面の弱さが伺えました。大会ではその精神面をコントロールできるかが彼らの成功のカギになりそうです。

――最後が開催国となるトルコの「Besiktas e-Sports Club」ですが、ベシクタシュと言えば、トルコのサッカーチームとしても有名ですね。

ベシクタシュ自体がサッカーだけではなくて、総合プロスポーツクラブで、そのなかのeSPORTS部門として作られた新しいチームですね。海外でLoLがスポーツとして認識されているひとつのいい例だと思います。なので「Besiktas e-Sports Club」は親組織がしっかりしていますし、2015年はトルコでほぼ無敗で勝ち上がってきていて、人気もかなりあります。彼ら以前にトルコを牽引してきた「Dark Passage」が代表決勝戦の相手だったんですが、試合前の勝敗予想でも「Besiktas e-Sports Club」が6割方の応援票を取っていたのには驚きました。そういった地元での人気がホームでの後押しとして、大きくアドバンテージを得られるんではないかと思います。トルコでのオフライン大会も2階席まである大きな会場で開かれていますし、トルコではLoL文化が根付いていて、実力もあることを感じさせました。

 

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――対する日本代表の「DetonatioN FocusMe」(以下FM)ですが、他地域と比べてどう分析しますか?

まず戦略面は他の地域と比較しても十分に戦える部分です。実際の操作についてはping(通信速度)の関係があって、サーバーのある地域と比べるのは難しいですね。サーバーがある国だとpingが1桁、2桁なんですが、日本はサーバーがないので現状pingが3桁、120(ミリ秒)以上という環境です。

――LJLの参加チームには練習用にライアットゲームズから韓国サーバーのアカウントが支給されていると聞いていますが。

されてはいます。ただそれでも50~70pingなんですよね。その地域にサーバーがある場合だいたい20ping前後ですし、プロ同士の戦いで40ping差があるとまず勝てないと言われています。IWCIは現地の会場に設置したトーナメントサーバーなので、おそらくひと桁pingでしょう。FMもアメリカ遠征のブートキャンプ(強豪チームとの強化合宿)で低pingに対応してきていると思いますが、低pingの世界大会でどう操作技量を発揮できるかは未知数です。ただ今回ブートキャンプを行ったのはおそらく日本だけなので、そこはかなり強みになるでしょうね。

――ずばり順位予想は?

1位はブラジルが有力だと思います。2位、3位、4位、予選を突破する4チームに日本はなんとか食い込めるかなと。ですから競り合う相手を挙げるとすればトルコ、オセアニア、東南アジア、このあたりになります。CISとラテンアメリカはまだかなり荒削りなので、ほかと比べると戦いやすい印象ですね。

――IWCIでFMが優勝できる可能性はありますか?

わりとあると思います。悲観するほどでもないですし、期待は持っていい。確率で言うと2割、3割ぐらいはあると思っていますね。予選突破の4チームに残れる可能性は高いです。まずは初戦を勝てるかどうか、そして優勝候補のブラジルと戦って結果を出せるかが鍵になりますね。

――仮にFMがIWCIで善戦できたとして、この上のグレードはまだ分厚い壁ですか。

分厚い壁になりますね。とくに5月のMSIに出てくるチームは強豪地域のトップなので、本当に強い。いま北米やヨーロッパの下部リーグで戦っているチームに、ようやくIWCIの上位陣が並べるのかなという印象ですね。

――北米、ヨーロッパ、さらにその先に韓国と中国がいるわけですね。IWCIの優勝チームの上におおよそどのぐらいのチームが存在すると考えていますか?

韓国、中国、北米、ヨーロッパの上位チーム数を考えると、IWCIで優勝したとしても……世界的なランキングとしては、だいたい40位前後だと思います。韓国や中国の層が厚いんですよね。仮にIWCI優勝チームが韓国リーグの「LCK」に参戦したらぶっちぎりで最下位になると思いますし、中国の「LPL」でもそれは同様でしょう。北米やヨーロッパでは多少詰めが甘いチームもありますから、そういったところとはまだ戦えると思うんですが、それでも世界の壁は分厚いですね。

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――eyesさんへのインタビューでも、LJLの現状をJリーグの黎明期に例えましたが、LoLについては世界規模のスポーツであるサッカーに例えるのが一番わかりやすそうですね。

日本サッカーの歴史になぞらえて、IWCIがドーハの悲劇になるのか、ジョホールバルの歓喜になるのかは、本当にFM次第という感じはありますね。IWCIでFMが素晴らしい成績を残せた場合は、LJLのチームにとっても打倒FMが確固とした目標になるでしょうし。

――FMといい勝負ができれば、世界でもいい勝負ができるはずだと。

そういうことです。FMがひとつ結果を出せたら、国内のLoLプレイヤーの熱もさらに上がるでしょうし、逆に海外から日本のLoLシーンへの注目度も大きくなると思います。

――シーズン1の決勝戦を見たライアットゲームズの関係者に感想を聞く機会があったんですが、日本のプレイスタイルは守備的でCS(資金と経験値の元となるミニオンのキル数)重視との印象を受けたそうです。これについては?

なるほど。確かにLJLの上位プレイヤーに話を聞くと「レーンでの戦いに自信はないけど、集団戦は自信がある」というプレイヤーが結構多いんですね。その逆はあまり聞かないので、序盤は慎重にレーンでお金と経験値を溜めて、有利を作ってから集団戦で爆発させよう、という傾向は全体的にあるのかもしれません。いずれにしても今回のIWCIで各地域の特色やお国柄は出るでしょうから、そこも注目したいところですね。

――今回のIWCIで日本は世界への扉を叩くことになるわけですが、今後さらに何が必要になるでしょうか?

世界で戦う上だと、個人のプレイヤーがどうこうより、やはりチーム単位、シーン単位での強さですよね。切磋琢磨してこそ強くなるわけなので、FM以外にいろんな強さが複数あるべきなのかなと思います。そのためには継続性のあるチームが、最低でも4つ、できればそれ以上生まれてきて、運営面やサポーターの数でもしっかりした規模になってくると、本格的に日本が世界と戦う準備ができてくる。その点では現状では組織としてはFMがひとつ抜けていますよね。単に強いプレイヤーがゲーミングハウスに集まっているだけではなくて、LGraNさんというしっかりしたマネージャーがいて、積極的に組織から選手に圧力をかけていますよね。「結果を出さなければ変える」というプレッシャーがありますから、選手にとっては厳しいですが、選手はプレイに集中して、チームのための決断は組織が下すというのはプロスポーツの世界では当たり前のことですし、実際にLoLでも海外の強豪チームはそういった体制を整えている。そうした組織面でも強いチームが国内に出揃ってくると、LJLがさらに上のステージに上がれるのかなという気がしますね。

――なるほど。「世界ではまだまだ」という話の直後ですが、それでもIWCIの出場チームを見渡すと、日本はサーバーがない地域のわりにはちゃんとしてますね。

ちゃんとしてます(笑)。大きな会場で観客を入れるオフライン大会が開催できている地域がブラジル、トルコ、ロシア。たぶんオセアニアとラテンアメリカはまだできていないので、そういった面から考えると自国にサーバーがないにもかかわらず、オフライン大会が開けて、配信や公式サイトでの情報提供もできている日本は、かなり積極的にがんばっていると言えると思います。

――FMがブートキャンプを行えたのも関係者の努力あってのことですからね。そのブートキャンプについて感じたのが、eSPORTS先進国のアメリカで本場のプロシーンやトッププレイヤーに接しているFMメンバーの姿は、単なる強化合宿ではなくて、まるで明治維新の頃に西欧諸国で学んだ使節団みたいだなと。

そう言われると確かにそんな感じですよね(笑)。明治維新とJリーグの黎明期が合体しているような。それで言えば今回のIWCIなんてまさにワールドカップの地域予選みたいなものですからね。まずは世界で1勝、次に本戦への出場、という日本のサッカーが歩んできたような世界への挑戦は、国内のLoLファンを楽しませてくれるでしょうね。FMのYutapon選手が韓国でMaster Tierまで上がったという話も聞きますし、FMは日本代表として世界でも十分に勝負できると思います。いずれにしてもいい勝負をしてくれるだろうという確信はしています。

 


4月21日から4月25日までトルコ・イスタンブールで行われるIWCIの模様は、ニコニコ生放送のほか、TwitchAfreecaTVAzubuにてで配信予定。開始予定時刻は全日23時(日本時間)からとなっている。Revol氏への後編のインタビューでは、LJLのシーズン1を振り返っての感想や、シーズン2への展望、LoL解説者として過ごす日々などについて聞いていく。

 

 

[取材・構成 野口 智弘]

 

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野口智弘(のぐち・ともひろ) 1978年生、三重県出身。ADを経た後、ライターとしてアニメやゲーム関連の媒体を中心に執筆。北欧や中東など海外のオタク事情についても取材を重ねる。