「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド・コンサート 2026」感想。『ペルソナ5』の「日常と非日常のサイクル」の表現を“音”で表現、現実と戦うための反逆の意志を呼び覚ます

「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド・コンサート 2026」リポート。今回は6月30日に実施された初日公演の様子についてお届けする。

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『ペルソナ5』の楽曲をニューヨーク仕込みのビッグバンド・サウンドで届ける「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド・コンサート 2026」が、6月30日・7月1日にパシフィコ横浜国立大ホール、7月3日に広島・ふくやま芸術文化ホールにて開催された。

本イベントは2025年12月の新宿公演でチケットが即完売した公演の再演版で、アジアツアーの一環として規模を拡大し、新アレンジを加えた内容だ。音楽監督をグラミー賞受賞者のチャーリー・ローゼン氏が担当し、ボーカルにLyn(稲泉りん)氏を迎え、日米のミュージシャン約30名によって演奏された。今回は6月30日に実施された初日公演の様子について、レポートをお届けしたい。なお本稿には『ペルソナ5 ザ・ロイヤル(以下、P5R)』のネタバレが含まれるため、未プレイの方は注意してほしい。

ステージに立体化したピカレスクロマン

開演後、ステージへ現れたミュージシャンたちは仮面を身に着けていた。1曲目の「Wake Up, Get Up, Get Out There」のイントロと同時に彼らが仮面を外していく演出は、ファンならば思わず頬が緩むものだろう。『ペルソナ5』において“仮面を剥がす”行為は、自らの内に秘めた“反逆の意志”を解き放ち、ペルソナ能力に覚醒する象徴的なシーンだからだ。この幕開けはこれから始まるのが単なるコンサートではなく、本作の世界観ひいては「心の怪盗団」の歩みを追体験する舞台だと宣言していた。

ボーカリストLyn氏が「ヨコハマー!」と叫ぶと、ビッグバンド特有の分厚いブラスがホールいっぱいに鳴り響く。『ペルソナ5』の音楽はアシッドジャズを中心にロックやファンクなど多様なジャンルを取り込みながら、退廃的で艶のある空気をまとっており、ビッグバンドとの相性は良い。派手なのに上品で力強いのに色気があり、まさに怪盗が夜を駆け抜けるような「ピカレスクロマン」の世界観が、ステージ上で立体化されていた。

熱気をさらに押し上げたのが、「Life Will Change」だ。スクリーンにはパレスへ侵入する映像が映され、まだ2曲目にもかかわらず客席の半数以上が立ち上がって赤いペンライトを振り回し、まるで予告状を送り付けた「決行日」のような高揚感が会場を包み込んでいた。プレイヤーにとって、ボーカル付きの本曲はオタカラを盗みに行く決行日だけに流れる特別な一曲。警報の鳴り響くパレスを進む「人生を変えよう」という期待と、「後戻りできない」という緊張感が同居した瞬間の記憶を呼び覚ます。

3曲目の「Phantom」はタイトル画面で流れる楽曲で、ゲームにおいて「ここから始まる」という静かな高揚を担う存在だ。コンサートという『ペルソナ5』の記憶を辿る旅路へ、これから足を踏み入れる観客の気持ちを整え、現実からゲームの世界観へと誘う導入として機能していた。ここで指揮・編曲・音楽ディレクターをつとめるチャーリー・ローゼン氏が、流暢な日本語で「私もペルソナ5の大ファン」と話し、アジアツアーの締めくくりとして日本に来られた喜びを語ると会場は大盛り上がりとなった。

非日常の戦いと日常のサイクルを追体験

続く「Butterfly Kiss」「Tokyo Daylight」「Beneath the Mask」は、本公演を象徴するパートだった。武見内科医院でアイテムを補充し、渋谷を歩いてアルバイトへ向かい、ルブランで仲間たちと時間を過ごす。『ペルソナ5』を語るうえで欠かせないのは、こうした日常を彩る楽曲だろう。プレイヤーごとに一日の過ごし方は違っても、東京の街を歩きながら耳にしたBGMは、多くのプレイヤーに共通する記憶として刻まれているはずだ。

そして穏やかな空気を切り裂くように「Will Power」が鳴り響く。パーティーメンバーたちがペルソナに覚醒する場面が次々と映し出されると、「『ペルソナ5』を序盤から遊び直している」という感覚を覚えた。筆者が思うに今回のセットリストは、『ペルソナ』における非日常の戦いと学生生活が交互に訪れるゲームサイクルをコンサートで再現する試みであり、怪盗としての興奮と同時に東京で過ごした何気ない日々を思い出した。

ここでチャーリー氏は、「『ペルソナ5: The Phantom X(以下、P5X)』から2曲を演奏します」と紹介し、オープニング曲「Ambitions and Visions」と「Rivers In the Desert(from P5X)」を披露した。スクリーンには新たな主人公・ワンダーたちの物語やバトルシーンが映し出され、原作楽曲と地続きで演奏されることで、「『P5X』も世界観の延長線上にある作品なのだ」と言葉以上に音楽で印象付けており、『ペルソナ5』というブランドが現在進行形で広がり続けていることを示唆していた。

約1時間を駆け抜け、休憩に入ったが場内アナウンス担当を喜多川祐介役・杉田智和氏が担当していた。ファンには嬉しいサプライズだが、内容も遊び心に富んでおり横浜開催だからこその小ネタとして、ワンダーと『P5X』に登場するソイが、新横浜ラーメン博物館を訪れたとのこと。『ペルソナ5』は現実の街を舞台としているからこそ、実在の土地との距離感も近く、「もしかしたら本当に『心の怪盗団』が存在しているかもしれない」といった錯覚を覚えた。このようにほんの数分の休憩アナウンスにも、世界観を壊さず拡張するような工夫が詰め込まれていた。

反逆の意志を胸に現実へと帰る観客たち

休憩を終えるとコンサートは、『P5R』の物語へと足を踏み入れ、「Colors Flying High」が演奏された。ビルをバットで砕き、鮮やかな宝石の色彩が飛び散る映像と呼応するように、ステージのライトがめまぐるしく表情を変えていく。客席のペンライトもカラフルに染まり、まるで会場全体がオープニングムービーの一部になったようだった。

後半は心の怪盗団の歩みを振り返る走馬灯のような構成で、仲間との日常をアルバム風に振り返る「Break it Down」、銃のポインターをイメージした赤い光線が走り、劇中でお世話になったミリタリーショップのUIを彷彿とさせる光がステージを包み込んだ「Layer Cake」 。明智吾郎との出会いから対立までを色あせたモノクロフィルム調で魅せた「No More What Ifs」に、ラストダンジョン「マルキパレス」の優しさと不穏さを孕んだ「Gentle Madman」と、プレイヤーがゲーム内で積み重ねてきた体験を呼び覚ましていく。

「あと2曲」というアナウンスから始まった「The Whims of Fate」では、ニイジマパレスのカジノをイメージしたサイコロやトランプのライト演出が華やかに彩り、Lyn氏の再登場とともに会場は一気にクライマックスへ向かう。そして「Take Over」のイントロが流れると客席の熱量は臨界点を超え、パーティーメンバーの総攻撃のカットイン映像が次々と映し出されるたび歓声が上がり、演奏を終えた瞬間には拍手と歓声がいつまでも鳴り止まなかった。

チャーリー氏とLyn氏はステージを後にしたが、オーケストラ陣の呼びかけと熱狂を受け、すぐさま客席からアンコールを呼びかける手拍子が響く。戻ってきたチャーリー氏は、客席へ向かって笑いながら「One more song?」と問いかけ、観客もレスポンスするが、“1曲だけでいいの?”と言いたげな表情。そして「……Two more songs!」と言い放たれた瞬間、ホール中から悲鳴にも似た歓声が上がった。

アンコール1曲目の「I believe」は、マルキパレス決行日に流れる楽曲で、同じく決行日の代名詞「Life Will Change」のアレンジ曲だ。スクリーンにはこれまで歩んできたパレス攻略と、丸喜拓人と対峙した軌跡が一本の線としてつながっていく。また「One day we may just Be able to touch down on a star」とサビが歌い上げられると、歌詞と呼応するように星状のライトがホールの頭上に現れ、コンサートならではの空間演出に思わず胸が踊った。

今回の最後を飾ったのは、予想していた観客も多いだろうが、直訳で“最後の驚き”を表す「Last Surprise」だ。Lyn氏は「明日仕事の人もいると思うけど、体力を残さないで!」と煽り、言葉どおり客席は総立ちで演奏者も観客も最後の一音まで力を出し切る熱量のぶつけ合いとなった。また本曲を聴く多くの観客が抱いたであろう「このまま終わらないでほしい」という名残惜しさは、単なるイベントの終わりを惜しむセンチメンタリズムではなく、言わば『P5R』が突き詰めたテーマの疑似体験ではないか。

大好きな『ペルソナ5』の世界にずっと浸っていたいと願った理想郷は、作中で丸喜が人々のために用意した「痛みのない世界」に近いが、否応なく終演は訪れ私たちも会場に留まり続けることはできない。夢のようなイベントと決別してホールをあとにし、明日からの仕事や学校などそれぞれの過酷な日常へと戻った私たちの選択は、優しい救済を拒絶し地獄のような現実に戻ることを選んだ心の怪盗団の決断と重なり合っていた。

つまり我々はコンサートの終幕をもって、彼らの選んだ痛みを伴う「反逆の意志」を、自らの人生において追体験していたと気づいた。楽しく幻想的とも言えるコンサートは終わったが、コントローラーを握って過ごした青春の日々や、「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド・コンサート 2026」の記憶は、現実を戦い抜くための「星」として、私たちの胸の奥で静かに力強く輝き続けるだろう。


ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド・コンサート2026 セットリスト

  1. Overture
  2. Wake Up, Get Up, Get Out There
  3. Life Will Change
  4. Phantom
  5. Butterfly Kiss
  6. Tokyo Daylight
  7. 全ての人の魂の詩(Aria of the Soul)
  8. Beneath the Mask
  9. Will Power
  10. Ambitions and Visions(from P5X)
  11. Rivers In the Desert
  12. Colors Flying High
  13. Tokyo Emergency
  14. Break it Down
  15. Layer Cake
  16. No More What Ifs
  17. Gentle Madman
  18. The Whims of Fate
  19. Take Over

アンコール

  1. I believe
  2. Last Surprise

photo by SHUN ITABA

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Yuuki Inoue
Yuuki Inoue

RPGとADVが好きなフリーのゲームライター。同人ノベルゲームは昔から追っているのでそこそこ詳しい。面白ければジャンル問わずなんでもプレイするのが信条。

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