『仁王2』プロデューサー兼ディレクター 安田文彦氏インタビュー。 今一度問う「仁王らしさ」と進化の方向性【TGS2019】

『仁王2』プロデューサー兼ディレクター安田文彦氏インタビュー。TGS2019にて安田氏に、『仁王2』が目指す方向性や「2人の秀吉」を巡る物語、前作との違いなどをうかがった。

東京ゲームショウ2019にて、2020年初頭の発売が発表された『仁王2』。前回弊誌にて公開した試遊レポートでは、『仁王2』というタイトルが着実に前へ前へと歩みを続けているという事実を、読者のみなさまへ報告することができた。では一体、『仁王』というタイトルは何処へ辿り着こうとしているのか。『仁王2』プロデューサー兼ディレクターを務める安田文彦氏にインタビューを敢行した。

───前作は構想から12年の積み重ねの末に世に送り出され、国内外で高評価を得ました。続編に対するファンの期待は高いと思われます。前作で築いた土台をもとに、続編ではどのようなことを目指しているのでしょうか。

『仁王』で良かった点を残しつつ、『2』の新しい良さを魅せることです。「変化」はダメだし、「劣化」は論外ですよね。「進化したな」と言っていただけるものを作りたいと考えています。

───前作は序盤までボスの難易度がやや高く、クリアできないプレイヤーは少なからずいたと思います。難易度の調整に関して、前作からの反響を受けてどう本作に落とし込んでいるのかお聞きしたいです。

そうですね、前作はどうしてもとっつきにくかった部分というのはあったと思います。なので、チュートリアルを充実させるということは勿論ですし、あとは今回「妖怪」をキーワードにしているのですが、侍の堅実なアクションに加えて、新たに追加された妖怪らしいアクションをうまく織り交ぜて戦っていただければクリアできる難易度にしていきたいです。

また、前作と比較してさまざまな要素が追加されているので、それらを試行錯誤していただくことで困難を乗り越え、達成感を感じてもらうというのが狙いとしてあります。前作より単純に簡単にするつもりはありません。

『仁王2』プロデューサー兼ディレクター 安田文彦氏

───前作はステージ制であり、九州から東海、DLCでは東北まで日本中を巡る流れとなっていましたが、本作のゲーム進行はどのような内容になっているのでしょうか。

前作はウィリアムというキャラクターがいて、彼が辿った史実に沿う形で、イギリスから九州に漂着して、そこから関ヶ原の戦いに向かっていくという展開でした。本作は主人公と藤吉郎、「実は秀吉が二人いた」という形で物語を描くことを考えています。前作のようにいろんなステージが用意されていますが、地方を移動するのではなく、時代を越えていくようなイメージですね。

───藤吉郎編、羽柴秀吉編、豊臣秀吉編、のようなイメージでしょうか。

まさにそのようなイメージですね。前作の主人公はウィリアム・アダムスという実在の人物を元に制作されたキャラクターでした。ウィリアムには、「なぜ海外の人間が関ケ原の戦いにいたのか」という、凄くロマンのある謎があるんですね。今作も同様に、「侍ですらない秀吉がどうして成り上がれたのか」というロマンのある謎を、仁王らしい解釈を通じて提示できればいいなと考えています。

───前作では敵ドロップの武具のほうがステータスが高く、フィールド探索は木霊など収集要素メイン(ハックアンドスラッシュというゲームの主題とは別々の要素)という印象でした。フィールドデザインに関して、前作から変更された、もしくは引き続き変わらないという点はありますか?

ハクスラ要素はそのまま残しておりまして、今作では「魂代」という、妖怪を倒すと入手できるアイテムを追加しています。魂代には、「妖怪技」を使えるようになるだけでなく、能力値を上昇させる効果も備わっています。そうしたやりこみや厳選といったハクスラ要素はしっかり残しつつ、装備品を強化する上ではフィールド探索が重要になるようにデザインをしています。

───体験版では新しい武器種として、手斧が追加されていました。武器種を更に追加する予定だとステージ上で仰っていましたが、何故追加された武器が手斧なのか、また今後追加される武器に関してはどのようなアクションが見られるのかお聞かせ下さい。たとえば、飛んだり跳ねたりするような武器種が追加される可能性はあるのでしょうか。

前作は7種類武器があって、そこで刀や槍などオーソドックスなものは一通りやった感じがあったんです。なので今作は新しいアクションができる武器として手斧を追加しました。手斧って投げられるんですよ。飛び道具はすでに弓などがあるのですが、今回は中距離で立ち回りが変わるようなアクションがやりたかったということもあって手斧を取り入れました。

今後追加される新しい武器に関しては、侍らしいアクションを維持できるような武器にはしたいなと思っています。飛んだり跳ねたりという分野に関しては「妖怪」の能力の方でやりたいと考えています。侍らしく、かつ仁王らしい、独自性の高い武器を作っているので、近々また発表したいですね。

───陰陽術や忍術にも新しいモーションを伴うスキルは追加されますか?

はい。新しい術の追加はもちろんのこと、既存の術に関しても、強すぎるもしくは弱すぎるという意見があったので、『仁王2』の術として調整を進めている最中です

───本作は主人公が半妖という事で妖怪の力を使えますが、妖怪の力を使い過ぎると後々デメリットがある、ということはありますか?

妖怪の力を使い続けることで、何か特定の要素が使用できなくなるという完全なデメリットはありません。強いて言うなら、ビルドを組み上げる際に妖怪の力を強化する方向に振りすぎると、他に振り分けるポイントが間に合わなくなる程度でしょう。

今回はプレイヤーに与えられた各要素をとにかく積極的に使ってほしいと考えています。組み合わせるのか、特化するのか、いろんなやり方を見つけてクリアしていただきたいというのが『仁王』シリーズ全体のコンセプトでもあります。

───試遊版では中ボスクラスの敵を倒すと魂代を入手することが出来ましたが、これは装備品と同じく、ひとつひとつ性能が異なるというものでしょうか。

そうですね。同じ種類の魂代でもひとつひとつオプション(特殊効果)が違うので、そこを厳選していただければなと。あとは魂代毎にコストがあるので、組み合わせを試行錯誤してほしいです。またボスクラスだけではなく、ザコクラスの妖怪も魂代を落とすので、その点も組み合わせに関して考慮してほしいですね。

───前作の武技や術に関して「使った時にリターンが多くなるものが少ない」ように感じられました。本作は武技や術の調整に関して、変わった点はありますか。

メリットが有りすぎるものと逆にメリットがなさすぎるものと両極なバランスになってしまっていたという認識があります。その点に関しては既存のものも新規のものも合わせて内容を検討し、改善しようと調整中です。ユーザーの皆さんの意見はしっかり届いているのでご安心ください。

───道中で遭遇するザコ敵から中ボスクラスのバリエーションについてですが、製品版で追加される敵は何種類ほどいますか?

前作では、そういった敵の種類が少ないという意見が確かにありました。それを踏まえて本作はかなりの種類を追加する予定ですし、前作に登場した妖怪たちも引き続き出てきます。

───前作はクリア後のやり込み要素が充実していました。本作のエンドコンテンツについて現時点で話せることはありますでしょうか。

前作の時にはアップデートやDLCを重ねる度にエンドコンテンツを追加していきましたが、今作も先程述べた通り、「武器や魂代を厳選する」という楽しみはもちろんありますし、それ以外にも拡充していきたいなと考えています。

藤吉郎を演じる竹中直人氏

───前作はウィリアム・アダムスが関が原に備える徳川家康に接触するという史実をベースに展開するオリジナルストーリーであり、本作は戦国時代の秀吉の成り上がりがベースとなっていますが、史実の出来事は頻繁に作中に発生しますか?

前作は関ケ原の戦い直前ということで、戦国時代で言うところの末期を舞台にした内容でした。戦国時代で一番人気な部分というのは、やはり織田信長と秀吉が活躍する時代、織豊時代と呼ばれる時期なんですね。そこを踏まえて、桶狭間の戦いや本能寺の変など著名な出来事を、『仁王』ならではの解釈を混じえながら出していきたいですね。

───秀吉本人が関わっていなくても、実はもうひとりの秀吉=主人公が関わっていたという形で発生するのでしょうか。

そうですね。まさにそういったものを沢山用意しています。

───世界観構築に関して、前作ではさまざまな有名武将を筆頭とするキャラクター達が登場しましたが、僅かなテキストでしか語られませんでした。本作では人物や世界描写に関して、どこまで力を入れていますか。

前作は基本ウィリアムの視点であり、さまざまな武将と出会って、少し話をするくらいで終わっていたのですが、本作は秀吉とコンビを組むということで、ある程度行動を共にする武将が出てきます。長期的にみて、彼らと主人公たちの関係がどのような内容となっていくのかというのは見どころですね。

本作はあくまでアクションがメインのゲームなので、長々とした物語メインの映像描写があるというわけではありませんが、戦国ファンの方や武将ファンの方がニヤリとできるようなネタは沢山仕込んでいます。たとえば、秀吉の歴史の中でさまざまな解釈ができる部分だとか。それをどのように描いているかという点も含めて楽しんでいただきたいですね。

───お歯黒が例に上がっていましたが、キャラメイク形式に変わったことで、物語や装備デザインへのアプローチの仕方も変わりましたでしょうか。

同じ装備でも男女で見た目が違うということもありますし、ナラティブな部分も性別によって異なる部分が出てきたりします。それによってプレイヤーの皆さんが作ったキャラクターに対し、より感情移入ができたり、没入感が味わえるのかなと思っています。

───装備に関して、男性専用、女性専用、みたいなものはありますか?

特にないですね。たとえば巫女装束など、一つの装備で男女それぞれ専用の姿になるものはあります。女性であれば可愛らしい巫女の姿になり、男性であればカッコいい神主のような姿になったり。

───女性で男性用の姿の装備を着る、またはその逆も可能ですか?

それは現時点で用意する予定はないですね。ただ、女性で男性らしい鎧が着たいというニーズはあると思うので、そうしたデザインの装備はあります。

───前作は武井咲さんや市村正親さんの起用など、豪華キャスティングも話題となりました。本作も俳優起用の路線は変わりませんか。

本作では藤吉郎を竹中直人さんに、オリジナルキャラクター「無明」を波瑠さんに演じていただきます。お二方どちらも物語のキーパーソンということで登場シーンは多いですね。実際の役者さんによるお芝居に対してゲームとしての映像を合わせるのは大変でした。

───安田さんは2017年のCEDECにて、『仁王』の体験版を出したことに対し、プレイヤーとのコミュニケーションという手応えと、開発側の負担増という問題点を同時に感じ、正解かどうかは分からないと語ってらっしゃいました。前回の『仁王2』クローズド・アルファ版や、今回の試遊については、どのような狙いがありますか。

2年も3年もゲームを作っていると、わからなくなってきてしまうことってあるんですよ。「この要素は(ゲームとして)正しいのか」という点もそうですし、プレイヤーのみなさんがどういった部分で満足できなかったのか、どうすれば満足していただけるのかといったことを考えるのは、開発チームの中でも当然取り組んでいます。そのうえで、『仁王』の時に体験版を出したことが非常に刺激になったという経験があったので、『仁王2』でもまずアルファ体験版を出すことにしました。

その後、挙がった意見というのは「『仁王』としての良さが引き続きあって良い、その上で新しい体験をしたい」というものだったんです。それにお応えする形で、今回のTGS版には特技や妖怪技といったアルファ体験版にはなかった要素を入れてみました。ストーリーの部分に関しては安易に変更するということはできませんが、ゲームプレイの部分に関しては、ユーザーの皆さんとコミュニケ―ションを取りながら、どんどん磨いていけたら幸いです。

───今後新しい体験版を出す予定はありますか?

11月1日から10日まで、誰でも遊ぶことのできるオープンβ体験版を全世界同時配信します。また、クローズドの時と同様にアンケートも募集するので、ぜひいろんな人にプレイしていただき、ご意見をいただければと思っています。

───最後に、本作を期待している読者の皆様にメッセージをお願いします。

前作の発売から3年が経って、『仁王2』の発売時期が今回決まりました。『仁王』を楽しんで頂いた方には引き続き楽しんでいただけるように、『仁王2』から入られる方には、しっかり最後まで遊んでいただけるように。新しさと、シリーズが持っている良さの両方を感じられるものを作っていきますので、是非2020年の初頭を楽しみに待っていてください。

───ありがとうございました。

 

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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