とあるXユーザーが、新作ゲーム『A Highland Song』の感想を動画付きで投稿したところ開発者が反応。日本語対応が進み始めたようだ。そしてゲームの日本語対応を確定させるにはどのようなサポートがあればいいのか、実際に開発者に話を訊いた。
ある感想と映像がバズる
きっかけとなったのは、Xユーザー・ロッズ氏の12月6日の投稿だ。ロッズ氏は「うわうわうわこれはやばい!気持ち良すぎる!」として動画を投稿。同投稿は5000以上のリポストを獲得した。このゲームは、『A Highland Song』。スコットランド北部のハイランド地方を舞台に、少女のMoiraがおじのもとを尋ねる。そのおじのもとに向かう冒険が、山々を登る演出にあわせて描かれるわけだ。
同作はリズム要素もある横スクロールアクションゲームだ。険しい山を、ケルティック音楽のかわいらしいBGMと共に、軽妙に進んでいく。ロッズ氏の投稿の動画はそうした『A Highland Song』のアクションシーンを収めたものだ。山の上を疾走感をもって駈けていく、本作の魅力がぎゅっと詰まった映像だ。
ロッズ氏のこの映像を含めた感想投稿は、X上でバイラル化。いわゆるバズっているという状態になった。ロッズ氏はもともと、さまざまなジャンルのゲームの感想を、そのゲームの特徴を捉えキャッチーな言葉と共に巧みに言語化する特徴がある。また同氏はどこかの会社の一員として投稿しているわけではなく、YouTube活動などもしていない。自分の利益や誰かの宣伝のための感想ではなく、識者ゲーマーの純粋な意見だとして信頼されている側面がある。それゆえに発信の影響力が高まっており、『A Highland Song』への感想もそうした影響力をもって広まったのだろう。
売り上げにつながるバズり
そしてこの現象は、“ただバズっただけ”で終わらなかった。これによって同作の日本での売り上げが伸び始めたようだ。『A Highland Song』開発元のinkleが、ロッズ氏のポストにより売り上げが伸びていると報告。投稿の後、Steamの日本の売り上げランキングの38位にランクインしたという。“日本でバズっている”と興奮を見せた。ロッズ氏の前出ポストは、『A Highland Song』に関する投稿で全世界含めもっとも反響の多いものになったそうだ。
そして事態はさらに動く。inkleの共同設立者であるJoseph Humfrey氏が「『A Highland Song』が日本でバズってる。もしや我々はマーケット(日本市場)を見つけたのか!?」と投稿した。これを受けて日本語対応を望む声が同氏のもとに届き始めたのである。
inkleはイギリスの小規模スタジオで、世界一周アドベンチャーゲーム『80 Days』や古代語解読ゲーム『Heaven’s Vault』などを手がけてきた。同スタジオは文化にちなんだ重厚なゲームを出す一方で、「文字数が多い」「スタジオ規模が小さい」ということでローカライズには消極的。基本は英語のみ対応で、日本語含む他言語への対応には消極的。『A Highland Song』もまた例外ではなく、それなりに英語テキストが出てくるが日本語には非対応。それゆえに、日本市場に興味を示すHumfrey氏のもとに日本語対応を求める声が届いたわけだ。
日本語対応のために、我々は何ができるか
では実際に『A Highland Song』は日本語に対応する可能性はあるのか。Humfrey氏に話を訊いた。現在同スタジオは日本語ローカライズに向けて真剣に検討しているという。しかし分量が5万6000ワードと多く、テキストが自動生成で、テキストを組み合わせるギミックが英語とは異なる仕組みになると説明。コスト的に高くかつ複雑になりそうだが、多くのサポートを受けており、どうにかやり遂げたいと述べた。
この日本語化の取り組みを後押しするためには、日本のユーザーは何をすればいいのかとHumfrey氏に訊いた。するとHumfrey氏は、ゲームをすでに購入し気にいっているユーザーは、レビューにてポジティブレビューを残し、日本語対応を望む旨を書いてほしいとコメント。Steamレビューはゲームの生死を大きく分けるため、そうしたレビューにおける投稿はゲームの今後の投資における重要なサポートになるという。またウィッシュリストへの登録も励みになるとコメント。日本語対応をはたしセールした際には、ウィッシュリストを介して通知が届くだろうとした。
ウィッシュリストのユーザーの言語を見ることでローカライズを決めるというパターンはよく聞かれる。これは発売前のゲームや発売し成功を収めたゲームに採用される手法。一方で『A Highland Song』においては発売直後ということもあり、まず製品として成功を収めるためにゲームを買うなどしてSteamレビューを投稿することが最大のサポートになるようだ。
なお、日本からの売り上げがどの程度なのか訊いたところ、12月7日の売り上げは43%が日本からだったという。同日はアメリカが22%、イギリスが12%だったことから、12月7日の売り上げに関しては日本が存在感を見せたのは間違いないだろう。
なおHumfrey氏はスコットランド育ちだという。ゲームを通じて日本人がケルト音楽やケルト文化に興味をもってくれたことはとても嬉しいとコメント。Googleレンズを使ったテキスト読み取りと翻訳でゲームを遊んでいる日本人プレイヤーもいると聞いたとし、申し訳ないながらも、献身的な姿勢にとても感銘を受けたと述べた。
ひとりのXユーザーの投稿が売り上げを後押しし、日本語対応の検討まで進められている『A Highland Song』。実際に日本語対応するかどうかは、inkleの経済的な状況やゲームの売り上げ次第だろう。ただし、応援の声を送ったりゲームのレビューを投稿することは、少なくともスタジオの励みにはなりそうだ。AUTOMATONの母体となるアクティブゲーミングメディアはローカライズ事業を展開しており、筆者もそれとなくHumfrey氏に弊社のサービスをオススメしておいたので、いろいろとうまくいくことを願っている。
『A Highland Song』はPC(Steam)で発売中。海外向けにはNintendo Switch版も展開されているので、日本語対応とNintendo Switch国内版発売が果たされるとすれば、同作が気になっているゲーマーも嬉しいことだろう。