ある実写恋愛ゲームがSteamでやたらと人気。中国語ユーザーの“好み・恋愛事情”などが人気に反映か、弊社中国出身スタッフに分析を訊いた

 

デベロッパーのintinyは10月18日、『完蛋!我被美女包围了!(Love Is All Around)』を配信開始した。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)。Steamでは連日ピーク時4万人~6万人の同時接続プレイヤー数を記録する人気を博している。


やたらと人気を博す実写恋愛ゲーム

『完蛋!我被美女包围了!』は恋愛アドベンチャーゲームだ。借金返済に追われる主人公のGu Yiの前に登場するのは雰囲気の異なる6人の美女。プレイヤーは6人全員からモテモテとなったGuとしてさまざまな決断を下し、分岐するストーリーを辿っていくことになる。本作の特徴はインタラクティブビデオとして展開される点だ。映像はすべて実写であり、プレイヤーはポイント&クリック方式で気になるポイントを選んだり、会話選択肢を決めたりしながら物語を進めていく。

本作は10月18日に発売され、Steamでは人気が急激に上昇。同時接続プレイヤー数は最大で約6万5000人を突破しており、以降も連日ピーク時数万人を記録するなど大きな人気を博している(SteamDB)。Steamユーザーレビューでは本稿執筆時点で約1万7000件中95%が好評とする「圧倒的に好評」ステータスを獲得している。実写映像の一人称視点にて、モテモテの主人公としてハーレム状態の物語を辿る点が評価を受けているようだ。


なお本作を手がけるのは中国に拠点を置くintiny。本作は同デベロッパーにとって初の作品だという。そしてSteamユーザーレビューの大半は簡体字ユーザーから寄せられたものであり、主に中国を中心として、中国語圏のユーザーから支持されている様子。デベロッパーにとっての初作品ながら大きな人気を博している理由は、中国における「実写映像のADVゲーム」の根強い人気も関係しているようである。


Steam中国ユーザーからの実写ADV人気

まずSteamにおいては本作以前から、中国のデベロッパー制作の実写映像のADVゲームが一定の人気を見せてきた。まず2019年1月リリースの、中国共産党のスパイが主人公のADV『隐形守护者 The Invisible Guardian』は、本稿執筆時点でユーザーレビュー約4万3000件中86%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得。また同時接続プレイヤー数は最大で約8万2000人を記録していた(SteamDB)。同作は中国・台湾向けにしか発売されていないため、対象地域のユーザーから大きな人気を博しているといえる。

また2022年4月リリースの時代劇ドラマADV『神都不良探 Underdog Detective』、今年1月リリースのネット依存症治療所からの脱出ADV『飞越13号房(Breakout 13)』なども一定の人気を博すタイトル。いずれも実写映像にて、ポイント&クリックや選択肢形式で物語は展開されていく。それぞれ数千件のSteamユーザーレビューを集めており、繁体字ユーザーからのレビューが大半となっている。

『飞越13号房』


なぜ『完蛋!我被美女包围了!』は人気なのか

ではなぜ中国では実写映像のADVゲームがさまざまに展開されるほどの人気を誇っているのか。また、『完蛋!我被美女包围了!』が高い人気を博しているのか。弊社アクティブゲーミングメディア社員の中国出身スタッフに聞いたところ、さまざまな理由が互いに影響しあっているのではないかとの見解を得られた。まず理由の一つとして考えられるのが「网络剧(网剧)」の流行だという。网络剧とはインターネット向けに配信されているWebドラマのこと。Webドラマとして多種多様なシリーズが展開されており、インターネット上でドラマを見る文化が浸透しているようである(百度百科)。

そして“Webドラマ好き”の多さは、実写映像のADVゲームの人気にも繋がっている可能性はある。またSteamで展開されている中国のデベロッパーによる実写映像のADVゲームは、基本的にはポイント&クリック方式のシンプルな操作で遊べる。普段ゲームをしない層にも狙いを定めているのかもしれない。

こうした背景もあり、『完蛋!我被美女包围了!』もまた中国語圏のユーザーに幅広く親しまれているかたちだろう。なお本作のプレイ動画は動画共有サービスbilibiliで大きな人気を博している。人気配信者たちによる実況動画も複数投稿され、数多くの再生回数を記録。動画での人気も、発売後に急速に同時接続プレイヤー数を伸ばした要因の一つといえそうだ。


そのほか『完蛋!我被美女包围了!』の公式ゲーム説明では、本作の内容が「モテモテ男のハーレム物語」となった経緯も語られている。当初本作では、開発者らの恋愛経験から「後悔に満ちながらも心に残るようなラブストーリー」を描こうとしていたという。しかし“不幸な恋愛は現実で間に合っている”といった考えから、プレイヤーの癒しになるような甘い幻想を描く物語に方針転換され今の形になったようだ。

なお中国では「若者の恋愛・結婚離れ」や、それに伴う少子化が社会問題になっているという(読売テレビニュース)。Steamユーザーレビューを見ると、「現実の恋はキツいので、このゲームで慰めを得ている」といったコメントも散見される。本作には現実ではできないような恋愛の幻想に浸れる点からの評価も寄せられている様子。開発者の狙い通りともいえるだろう。

ちなみに先述の『飞越13号房』も社会問題がテーマ。公式ゲーム説明によると同作の舞台となるネット依存症治療所の責任者は、実在の精神科医“Yang博士”がモデルだとされている。これはネット依存症患者への電気けいれん療法提唱・実施していたとされる楊永信氏を指すと見られる。そうした時事問題をテーマとして扱う点も、中国発の実写ADVゲームが中国語圏のユーザーから注目を集めている要因といえそうだ。 Steamでは、人気作のユーザーレビューの割合が特定言語に偏っている作品が時おり見られる(関連記事)。そうした作品の人気の背景には日本では馴染みの薄い文化が関係している場合も考えられ、興味深い。ちなみに本稿で紹介した作品のうち『完蛋!我被美女包围了!』および『飞越13号房』は英語表示に対応している。さらに『神都不良探』は、日本語表示にも対応している。実際に遊んでその魅力を紐解いてみるのもいいだろう。





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なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。