『THE FINALS』AIボイス採用の「収録が速い」との理由に現役声優が反論、議論に発展。人の表現力とAIの利便性のバランス

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ネクソン傘下のEmbark Studiosが手がけるチーム対戦FPS『THE FINALS』では、ゲーム内のボイスにAI技術を使用していることが公表されている。現在実施中のオープンベータテストを通じては、その声を実際に聴くことができるようになった。これを機に、本作でのAIボイス採用の背景に注目が集まり、現役声優も反応している。海外メディアPC Gamerが報じている。

『THE FINALS』は、基本プレイ無料で提供予定のチーム対戦FPSだ。プレイヤーは、バーチャル世界のアリーナで繰り広げられる戦闘ゲームショーの出場者となり、3人チームを組んでさまざまなゲームモードでの対戦を楽しめる。マップとなるアリーナには、実在のロケーションをモチーフにした環境も用意され、建物を丸ごと吹っ飛ばすなどできる本格的な環境破壊要素が特徴のひとつとなる。

ゲームモードには、4チームでコインを奪い合うコインダッシュや、金庫を見つけて特定の場所に入金するキャッシュアウトモード、および同モードを利用したトーナメントなどがある。プレイヤーは豊富に用意された武器やガジェット、アビリティを駆使して戦うこととなる。また、バトルパスを通じてや、所属リーグの昇級などによってゲーム内報酬を獲得可能だ。

本作はPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに開発されており、10月26日よりオープンベータテストが実施中。Steam版における同時接続プレイヤー数が、ピーク時に26万人を突破するなど大盛況となっている。そうしたなか、インディーゲームを中心に数多くの人気作品に参加している声優のGianni Matragrano氏が10月28日、本作のプレイ映像をSNSに投稿。そのゲーム内ボイスについて、AIが使用されているようだと指摘した。

本作のゲーム内ボイスにAI技術が使用されていることは事実であり、開発元Embark Studiosが今年7月に公開したポッドキャスト番組にて公にされていた。開発者インタビュー形式のその番組では、本作でオーディオデザイナーを務めるCarl Strandberg氏とAndreas Almström氏が出演。プレイヤーキャラクターやコメンテーターのボイスに、テキストから生成したAIの音声を使用していることを認めたうえで、その導入を決めた理由を説明している。

まずひとつには、AIによるテキスト読み上げ技術が大きく発達し、クオリティの面で十分なレベルになったためだとされた。そしてもうひとつの理由として、新たなアイデアを思いついた際にすぐに試すことができる点が挙げられた。このなかでは、「数か月ではなく、数時間でそのアイデアのボイスを用意できるようになった」ともコメント。おそらく、声優に依頼すると収録に数か月は要するという意味なのだろう。

こうした説明に対し、ゲーム作品などに携わる声優Zane Schacht氏は、「AIボイスを利用する人は、なぜ声優を雇うことを難解な儀式かのように扱うのだ」と苦言を呈した。「メールを1通くれれば、一緒に仕事をするよ」とのこと。また、あるゲーム作品ではすべての収録を2時間で終えたことがあるとも述べている。

前出のGianni Matragrano氏も、声優たちは1〜2日以内で収録する急ぎの依頼を常にこなしているとし、数か月かかることになるという開発者の説明に反論。数回の収録で必要な音声がすべて揃うだろうとし、追加の収録を依頼することも簡単であると強調している。

また同氏としては、本作の(オープンベータテスト版の)ボイスのクオリティにも不満のようで、声優に依頼すれば1000ドル(約15万円)以下で、文字どおりプロ品質のボイスを手に入れられるとコメント。さらに、生成AI技術において懸念されることもある、倫理面での指摘に晒されることもないとした。

Bungieにてシニアサウンドデザイナーを務め、声優としても活動するPax Helgesen氏も本件について言及。同氏は、開発における反復作業に際してテキスト読み上げ技術は役立つとし、開発者は取り入れることを検討すべきだとした。Bungieでも活用しているとのこと。ただし、それはあくまで仮のボイスであって、製品版には収録していないそうだ。

仮のボイスにとどめているのは、品質の問題があったため。ただ、生成AI技術の登場により“クオリティの面で十分なレベルになった”ことで、こうした技術に関する議論のポイントが変化したとHelgesen氏は述べる。結論からいうと、同氏としては人間が演じることには、まだ優位な部分があると考えているようだ。

ボイスを単なるアセットではなく、作品に芸術的なナラティブ体験をもたらすアートだと捉えた場合、人間性やリアルさの深みを声優は表現できるとHelgesen氏は指摘。直近の好例として、『Marvel’s Spider-Man 2』のNPCがみせる即興の会話を挙げている。また、業界としてそうした表現をさらに追求すべきだとし、AIに取って代わる可能性があるとされるコンセプトアートやVFXなどの分野にも同じことがいえるだろうとした。

『THE FINALS』でのAIボイス採用に触れ、前出の声優Zane Schacht氏らは、もしかするとAIに職を奪われる危機感を感じ、収録に時間がかかるという誤解を解こうと反論したのかもしれない。一方でBungieのPax Helgesen氏は開発者と声優両方の立場から、AIの利便性を認めながら、AIではまだ再現が難しい表現が人間には可能だという考えを示した格好だ。

AIボイスの品質に関しては、人によって見方はさまざまあるだろうが、少なくとも製品に採用できるレベルに達してきていることは事実だろう。本作のほかにも、たとえば『サイバーパンク2077』の拡張パック「仮初めの自由」では、ポーランド語版のある声優が亡くなったことから、遺族の同意のもと、AIによって再現されたボイスが収録され話題となった。

なお『THE FINALS』の開発元Embark Studiosによると、作中ではキャラクター同士の会話などには声優を起用しているとのこと。また、声優を一切使わずにゲームを制作することを最終的な目標としているわけではないとし、声優とAIボイスを組み合わせた新たな開発スタイルを模索していく考えを示している。

『THE FINALS』は、PC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに基本プレイ無料にて提供予定。配信時期は未定だ。また現在実施中のオープンベータテストは、各プラットフォームにて11月5日までおこなわれる。

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