ゲーム会社ごとに「完全リモートワークを続けるかどうか」の差が拡大。『ラチェット&クランク』開発元は両立目指し、『アサシン クリード』開発元は“一転”して取りやめ

 

『ラチェット&クランク』シリーズの開発元として知られるInsomniac Gamesでは現在でも、特定の条件のもと完全なリモートワークが認められているという。一方『アサシン クリード』シリーズなどを手がけるUbisoft Montréalでは先日、リモートワーク体制が終了したことが報じられたばかり。「リモートワーク体制を続けるかどうか」を巡っては、各社の方針の違いが見られる。


Insomniac Gamesは米国カリフォルニア州に拠点を置くスタジオだ。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)とのパートナーシップのもと、『ラチェット&クランク』シリーズや『RESISTANCE』シリーズ、『Marvel’s Spider-Man』などを開発。2019年にSIEに買収され、PlayStation Studiosの一員となった。スタジオ最新作としては、『Marvel’s Spider-Man 2』の発売が来月10月20日に控えている。

同作にてシニア・クリエイティブディレクターを務めるBryan Intihar氏に対し、海外メディアGamesIndustry.bizがインタビューを実施。『Marvel’s Spider-Man 2』におけるアピールポイントが明かされるなかで、Insomniac Games内でのリモートワーク体制についても紹介されている。

Intihar氏によれば、新型コロナウイルスの蔓延に際して、同スタジオはリモートワーク体制に移行。同氏は当時、またオフィス勤務が可能になり次第戻りたいと考えていたそうだ。一方同氏は私生活を充実させられる時間が増えるといったリモートワークのメリットを確認し、(オフィス勤務も可能になった)今でも完全なリモートワークをしているという。同誌によると、同スタジオでは一定の条件のもと、特定の州のスタッフには現在でもリモートワークが認められているそうだ。またPlayStation Studiosによるサポートもあるそうで、非常に生産的なリモートワークが可能になっているとのこと。

Intihar氏はリモートワークへの移行で、スタッフそれぞれが自分にとって「正しい(right)」と思える働き方ができるようになったと説明。同氏は、15年以上スタジオに在籍し続けている理由は開発されるゲームのラインナップだけでなく、そうした“柔軟性”にもあるとスタジオの姿勢を称賛している。


最近では、大手ゲーム会社がリモートワーク体制をやめてオフィス勤務体制に戻す事例も見られる。たとえばActivision Blizzardでは、今年の2月に従業員に向けてリモートワーク体制を終了する方針が伝えられたという(Bloomberg)。Activision Publishingでは4月、Blizzard Entertainmentでは7月よりオフィス勤務が再開されたとのこと。いずれにおいても週3日間のオフィス勤務が定められたそうだ。

ほか、IGNによると、先日にはUbisoft Montréalにてリモートワーク体制が終了。現地時間9月11日以降、全従業員は原則週に3日間のオフィス勤務が必要になったという。オフィス出勤は、明確な必要性がある従業員が、ほかのすべての解決策が検討されたうえでのみ免除されるとのこと。同誌が確認したというこれを発表する社内連絡投稿は、大半が否定的なコメントで埋まっていたそうだ。

Ubisoftでは2021年に、多くの社員がオフィス勤務とリモートワークの両立が可能になるとアピールされていた。またその後も社内広報で、長期的に完全なリモートワークが継続されるといった点は強調されていたという。この方針を受けて同スタジオに加入したという従業員や、リモートワーク前提の立地で自宅を購入したという従業員もいた様子。またリモートワーク体制に移行する以前のオフィス環境の悪さを指摘し、不満を述べるコメントも見られたそうだ。約束を反故にするかたちの方針発表に、社員たちから批判が寄せられているのだろう。


そうした向きもある中、Insomniac Gamesでは引き続き従業員がリモートワークを選べる方針のようだ。ちなみに、2022年に同じくPlayStation Studios傘下のスタジオとなったBungieもリモートワークを推し進めるスタジオのひとつで、“digital-first”を掲げている。スタジオ内のほぼすべての役割を完全にリモートワーク化していく方針があるといい、特定ポストでのリモートワークが認められる州も順次増加していることが伝えられている。

新型コロナウイルスの蔓延から3年以上が経過し、当時リモートワークに移行した開発元の方針にも変化が見られる。オフィス勤務を重視するか、リモートワークを推し進めるか、あるいは両立させてスタッフそれぞれに合致した働き方を認めるか。大手ゲーム会社でもそれぞれ方針に違いが見られる点は興味深い。賃金やゲームの作風だけでなく、働き方の方針も、ゲーム開発者が職探しの際に考慮する条件として引き続き重要となっていくだろう。