Steamで“AIによる生成画像を用いたゲーム”のリリースが認められなかったとの報告。AI訓練データの権利巡る懸念が原因か

 

ある開発者がReddit上で、“AIによる生成画像を用いたゲーム”がSteamにてリリースを拒否されたと報告した。海外マーケティング調査機関GameDiscoverCoの創設者Simon Carless氏がこのスレッドを「Steamでは密かにAIにより生成された素材を含むゲームの新規リリースが禁止されている」として引用し、注目を集めている。海外メディアGame Developerなどが報じている。

Carless氏が引用したのは、RedditのAIを用いたゲーム開発をトピックとするコミュニティ「r/aigamedev」にて6月7日に投稿されたスレッドだ。同スレッドではユーザーのbaobaozi89氏(ユーザーID:potterharry97)がSteamにてAIにより生成された画像を利用したゲームをリリースしようとした際に、Valveに拒否されたことを伝えている。


baobaozi89氏がSteamにてリリースしようとしたゲームは、AIによって生成されたアートワークが数多く含まれていたという。一方でそうした素材には大きく手を加えたそうで、Valveへの申請時にはAIが生成したことが明らかに分かるような素材が2~3種類だけ残っている状態だったそうだ。なおこれらは仮置きとしてゲームに含まれていたといい、リリース前にほかの素材と同じく手を加える予定だったとのこと。

そしてこのゲームはValveによりリリースを拒否されたという。baobaozi89氏は同社からの連絡と見られる文章を伝えている。これによると、同氏のゲームに含まれていたAIが生成した素材について、Valveは「第三者が有する著作権で保護されたコンテンツに依存して生成されたと見られる」との判断を下したという。ValveはSteamの開発者/販売者向けガイドラインにて「所有していない、または適切な権利を持っていないコンテンツ」を公開すべきでないと規定している。この規約に基づいてリリースが拒否されたのだろう。


またbaobaozi89氏が掲載する文章によると、Valveは同氏がAIによって生成したようなアセットの著作権は、誰に帰属するか法的に不明瞭であると言及。素材の生成時に用いられたAIの、すべての訓練データの権利を開発者が有していることを確認できない限り、AIが生成した素材を含むゲームをリリースできないと説明されている。

なおbaobaozi89氏に対して、Valveは“セカンドチャンス”も設けていたという。同氏が権利を有していないとValve側が判断したコンテンツを、すべて削除して再申請する機会が設けられていたそうだ。そこで同氏は問題になったと見られる画像に対し、AIにより生成されたことが明白でなくなるような調整を手作業でおこなったと述べている。しかしValve側は、その後の再申請も拒否したという。同氏が引用した文章によると、Valveは開発者がアセットに調整を入れたとしても、生成AIの訓練データ時点から十分な権利を開発者が有していないかぎり、そうしたアセットを含む作品はSteam上でリリースできないとの判断を下したようだ。

ちなみにbaobaozi89氏は過去にもSteamにて(AIによる生成画像が含まれると見られる)ゲームをリリースしているそうで、その際には1~2日間で申請が承認されたという。一方で、今回はValveから判断が下されるまで1週間以上かかっていたそうだ。同氏は判断に比較的長い期間を要した理由として、AIが生成したコンテンツを含むゲームについて、Valveではまだ基本となる判断基準が規定されていないためだろうと推察している。


なお一連の内容はすべてReddit上の匿名ユーザーbaobaozi89氏の投稿に基づいており、Valve側が公式に発表した情報ではない点には留意したい。Game DeveloperはValveに対し、AIにより生成されたコンテンツを利用したゲームを今後どのように扱うかについてより詳しい情報を問い合わせているそうだ。

このReddit投稿を引用したCarless氏のツイートに対しては、ユーザーからさまざまな反応が寄せられている。不特定の学習データを用いたAIにより生成されたコンテンツの著作権が、今後法的にどのように扱われるかは国内外で依然として不明な状態にある。そうしたコンテンツの取り扱いに慎重な(baobaozi89氏が伝えた内容における)Valveの方針を支持する声も多く見られる。

一方でbaobaozi89氏の伝えた内容が真実であるとして「すべてのAI訓練データの権利を開発者が有していることを確認できない限り、AIによって生成されたコンテンツが含まれる作品がSteamにてリリースできない」との基準そのものは現状ガイドラインなどで明記されていない。これは混乱を招く要因ともいえるだろう。昨今ではUnityやPhotoshopをはじめ、さまざまなツールでAIを利用した機能が試験運用されている。学習データをもとに、新しいオブジェクトを生成するような機能も実装されていっているわけだ。そうした機能を用いて制作されたコンテンツを利用したゲームがValveでどのように判断されるのかは、特に開発者にとって気になるところかもしれない。


AIにまつわる法整備や権利問題などは、各国で課題が浮き彫りになっている状況にある。米国では、訓練データ用画像の権利侵害の可能性を巡って、MidjouneyなどAIによる画像生成サービスの運営・開発元3社を相手取り、集団訴訟が提起されている(The Washington Post)。また日本でも、知的財産推進計画の一環として技術の発展と著作権保護の両面から議論・検討が進められている只中にある。今後AIはどのように発展し、各国で法的にどのような立ち位置になっていくのかも注目されるところだろう。

Valveは本稿執筆時点で、AIにより生成されたコンテンツを利用するゲームのリリースを認めるどうかについての判断基準を公表していない。これまでSteamではAIを利用したゲームもいくつかリリースされてきた。一方でAIにより生成されたコンテンツや、生成AIの訓練データの権利の帰属先についての法的な扱いが定まるまで、Valveが慎重な方針をとりはじめた可能性もありそうだ。