とあるゲーム開発者がTwitterで投げかけた「実績システム」への見解が波紋を呼んでいる。プラットフォーム側が提供する実績システムは、ゲームに悪影響をもたらしているというものだ。これに対し、「実績は必要だ」と考えるユーザーを中心に多くの反論が寄せられた。その結果、多くのユーザーを巻き込み「ゲームに実績は必要か、不要か」の議論が勃発したようだ。海外ゲームメディアVG247などが報じている。
きっかけとなったのは、『Mirror’s Edge(ミラーズエッジ)』 や『Battlefield』シリーズの開発に関わった経験を持つFredrik Thylander氏のツイート。現在はゲームスタジオUbisoft Massiveにおいて、リードゲームプレイデザイナーを務める人物だ。同氏は1月7日、自身のTwitterアカウントにて、ゲーム実績に関する自身の見解を投稿した。ツイートでThylander氏は「少数派の意見」と前置きした上で、「実績やトロフィーは、ゲームにとって良くないものだ」と指摘。「(実績は)ゲームの幅を狭め、プレイヤーを混乱させて注意をそらし、開発者からゲームをより良くするためのリソースを奪う」と述べた。
開発者から見た「実績のあり方」
氏が言うところの「実績やトロフィー(achievements/trophies)」とは、特に「各種プラットフォームが提供する実績システム」を指しているものと思われる。具体的にはXboxやSteamにおける「実績」、あるいはPlayStationの「トロフィー」のような、ゲーム内で達成可能な項目のことだ。Thylander氏はツイートで、こうしたプラットフォーム側が提供する実績システムが、間接的にゲームのクオリティや体験の足を引っ張っていると指摘。「ゲームの報酬体系はゲーム内にあるべきであり、実績システムはプラットフォーム側を利するために義務付けられていると考える」とも述べた。
実績システムへの苦言とも取れるThylander氏のツイートに対しては、同じ立場であるゲーム開発者からも反応が寄せられた。3Dアーティスト兼個人開発者John Draisey氏は、「個人レベルの開発においては特に言うとおりだ」と述べている。ゲーム開発スタジオfacepunchでアートコーディネーターを務めるThomas Butters氏は、ゲームによっては実績が無意味であるとしつつ、「特にアドベンチャーゲームのような、探索要素の多い作品においては実績が役に立つこともある」と述べた。Butters氏は(トロフィーが探索の動機付けとなった)『The Last of Us Part II』を引き合いに、実績がプレイヤーを誘導するケースについて触れている。開発側の立場であっても、実績システムに関する見解はさまざまのようだ。
実績に対して否定的な意見を出したThylander氏は、キャリアとしてはベテランの域。すでにゲーム開発において一定の影響力のあるポストに就いている。そうした立場を踏まえて、ほかのTwitterユーザーからの「開発者の立場なら、自分が作るゲームに実績を設けないという判断が下せるだろう」という指摘も寄せられた。そうしたツッコミに対しては「まあ、実装するしかないんだけどね」と回答。回答には泣き笑いの絵文字も添えられている。Thylander氏のツイートは、実績に対して思うところがありつつも、チームや会社としては実績は実装せざるをえないという側面もあるのだろう。
Thylander氏の提言は、開発者の視点から、プラットフォームが提供する実績システムの存在に疑問を呈するものである。一方で氏の発言には、「実績は必要だ」とするプレイヤーから多くの反論が寄せられた。さらに氏の発言がXbox実績情報サイトTrue Achievementsに取り上げられたことで、議論はさらに加熱。開発者の提言から、プレイヤー目線の「実績は必要/不要」という視点に話題は切り替わったものの、実績の是非をめぐるさまざまな意見が交わされた。
実績は「あると嬉しい」なのか、「なくてもいい」のか
議論の内容を見る限り、「実績は必要だ」とするユーザーの多くが、実績を達成することで得られる喜びや達成感に言及している。中には熱心にトロフィー収集に取り組む「Trophy Hunter」と呼ばれるプレイヤーも存在する次第だ。彼らはゲームの遊び方のひとつとして、実績システムを存分に楽しんでいる層だと言えるだろう。
熱心な実績コレクターでなくとも、実績によって「より長くゲームを遊び続けられる」「遊び方が広がる」とするユーザーもいる。Thylander氏が開発に関わったXbox360版『Mirror’s Edge』の実績を例に紹介しよう。同作の実績には、ストーリーの進行度で解除されるオーソドックスなもののほか、「特定のパルクールを連続で決める」「チャプターを一定時間内にクリアする」といった実績が存在する。これらの要素はストーリーをクリアする上で必須ではないが、同作が提供する「都市をパルクールで駆け抜ける爽快感・スピード感」と密接に関わる部分だ。これらの実績は、未達成のプレイヤーにプレイスキルの上達を促すとともに、達成したプレイヤーに上達を実感させるものでもある。なお、実績に苦言を呈したThylander氏は本作の実績設定にも共同で関わっていたとのこと。Thylander氏の意見とは裏腹に、『Mirror’s Edge』のは実績ゲームプレイの幅を拡張する実績の例と言えるだろう。
また、「実績は不要」とするプレイヤーからもさまざまな意見が寄せられた。「実績リストがなくとも十分にゲームを楽しめる」というプレイヤーから、中には「ゲームに集中するために、実績のポップアップ通知をオフにしている」というプレイヤーも存在する。「実績は不要」とするプレイヤーの多くが、実績解除はゲームの一部ではないと捉えている印象だ。
とはいえ、すべてのゲーム実績を「必要/不要」のどちらかに断ずることは難しい。「適切に設定されていれば」「簡単すぎる実績でなければ」といった条件のもと、実績は「あったほうがいいことも、ないほうがいいこともある」とするユーザーも多数見受けられた。Twitterのnon one cなるユーザーの場合、実績の是非については「場合による」としつつ、「素晴らしいと感じたゲームはプラチナトロフィー(ゲーム内トロフィー全取得)までプレイする」というこだわりを持っているという。自分なりにほどよく実績を楽しむプレイスタイルをもっている人が多いだろう。
「実績システムを搭載しない」判断
なお記事執筆時点では、主要コンソール機の中でもNintendo Switchはいわゆる実績システムをユーザー向けに提供していない。ゲームごとの総プレイ時間の表示や、サービスを利用することでアイコン用のパーツが得られる「ミッション&ギフト」のほか、ゲームによっては実績相当のやりこみ者向けリワードは存在。だが、他プラットフォームのような項目ごとの実績システムとは大きく異なるものだ。そうした背景から、「なぜSwitchには実績システムがないのか?」という話題は、SNSやコミュニティで時折見られる。そのため今回の議論では、それぞれの立場から「Switchにも実績システムが欲しい」「Switchには実績システムがないから好き」といった発言も散見された。実績システムは一部のユーザーにとって、時にプラットフォームへの印象を左右するほどに重要な関心事でもあるのだ。
なお、宮本茂氏は『Wii Sports Resort』のスタンプシステムについて触れた際に、「僕はどちらかというとご褒美をあげることで、やる人のやる気を出させるというのは好きではないんですね。本来は遊ぶ人が自主的にもっと遊び込みたいと思うのが理想だと思っています」と語っていた(ファミ通.com)。前述したように任天堂のゲームによっては実績に相当するシステムが搭載されているゲームもあり一枚岩ではないと思われるが、宮本茂氏の思想が本体レベルで実績システムを搭載しないという判断に絡んでいる可能性はありそうだ。
Thylander氏の見解をきっかけにした一連の反応からは、実績がゲームの購入やプレイのやる気に影響するプレイヤーが一定数存在することがうかがえる。あるプレイヤーは実績を「努力の証」と受け止り、またあるプレイヤーは「ゲームの外にあるもの」と考えていたりと、意見が分かれるところだ。とはいえ、実績はあくまでも実績であり、義務ではない。ゲームをどこまで遊びつくすか、遊び方はそれぞれプレイヤー自身が選択していくことだろう。