『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』にて爆発推進で「宇宙」に行くプレイヤーに注目集まる。こだわりの実装が生んだ奇跡の光景

 
Image Credit:ThornyFox at Reddit

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』にて、“宇宙らしき場所”にたどり着いたプレイヤーがいるとして、注目を集めている。同作にて大気圏を突破し宇宙を見た例としては、弊誌でも以前紹介した国内プレイヤーのゆきのさんなどの前例がある(関連記事)。しかし、今回は別の手法である「約7万本の爆発矢」による宇宙到達だ。そして、美しい宇宙の背景には、本作の作り込みが生み出した偶然があった。

Image Credit:ThornyFox at Reddit


今回の宇宙到達の発端は、スピードランナーのLegendofLinkk氏による投稿だ。最近爆発にも凝っている同氏は1月22日、爆発を利用して宇宙に到達する動画を自身のTwitterアカウントに投稿している。後の2月6日には、この動画を参考とした同様の手法にて、海外やりこみプレイヤーのThornyFox氏が宇宙に到達。その様子がRedditに動画として投稿され、多数ユーザーの注目を浴びたのだ。

実際に動画を見てみると、爆発矢の衝撃によって「お手玉」のように翻弄されるリンクの姿が目に入る。今回用いられた手法は、この吹っ飛びの連続によって高度を稼いでいるわけだ。一旦爆発が落ち着いてカメラが周辺を見渡すと、眼下には見渡す限りの雲。そして、上を見れば宇宙を思わせる真っ黒な空間に、太陽がぽつりと輝いている。宇宙の黒と雲の白を分かつのは、地平線のように美しい丸みを帯びた青いグラデーションだ。この空間が宇宙かどうかは定かでないものの、「ハイラルは白かった」と思わず口にしてしまいそうな美しさである。

気になるのは、LegendofLinkk氏やThornyFox氏が具体的にいかにして宇宙に到達したのか、そして何故『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のなかに、宇宙とおぼしき世界構造が存在しているのかだ。まずは、爆発を用いた宇宙到達手法から説明したい。まず、宇宙到達の前例としては前述のゆきのさんによる「流鏑馬ホバー」を利用した手法があった(関連記事)。一方で、今回の手法は「大量の爆発矢を即時爆発させて反動でじわじわ飛ぶ」という仕組みになっている。

具体的には、まず推進剤となる爆発矢を大量に用意しなければならない。そのため、今回の宇宙行にはアイテムの所持上限を突破するInventory Corruptionと呼ばれるグリッチが利用されているようだ。ちなみに用いられた爆発矢の本数は、LegendofLinkk氏では5万本、ThornyFox氏に至っては7万本にのぼる。そして、矢をすぐさま爆発させるために、ジャイロを利用するカラクリにまつわるグリッチ「ジャイロバグ」を利用。同グリッチを重複させることで、爆発矢が即爆発してしまう溶岩地帯の地形情報を保存することで、“お手玉状態”を維持しているのだ。数万回自爆するために、入念な下準備をしていたのである。なお、一連のグリッチなどの情報については一部、ゆきのさんによる提供をいただいている。

Image Credit:ThornyFox at Reddit


そして次に、「なぜ宇宙があったのか?」との疑問だ。端的にいえば、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の宇宙は、偶然の産物だと考えられる。というのも、美しい宇宙の成り立ちは、本作における空の表現方法のこだわりに起因するようなのだ。

3Dゲームにおけるポピュラーな空の表現方法に「Skybox」と呼ばれる手法がある。この方法は、プレイヤーが存在するエリア全体を巨大な長方形ないしは円形などで覆ってしまい、雲や青空などのテクスチャを貼り付けて空に見せかけるテクニックだ。いわば、プレイヤーのたどり着けない背景を全天に表示しているのである。この手法は多くの3Dゲームに用いられており、通常のプレイでは意識することはない。一方で、場合によってはスカイボックスのテクスチャ解像度が荒く気になったり、改造やグリッチによって異常な位置にプレイヤーが到達すると、箱の継ぎ目/切れ目などが見えてしまう場合もある。

そして、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』については、どうやらこのSkyboxを利用していないようなのだ。筆者の観測範囲内では、開発者による空の描画プロセスに関する証言は見つけられなかった。しかし、ゆきのさんによる宇宙到達動画が、本作の空の描画へのこだわりを物語っている。同動画ではまず、もやを抜けたあとに青空もしくは海らしき平面が下方に遠ざかっていく。次に、上空にあった雲の層を突き抜け、やがて宇宙へと到達している。そう、地球と同じように、上空に雲の層があるのだ。


海外RedditユーザーのBrainChild氏も、本作の空の実装に言及している。同氏は、複数のNintendo Switch向けゲームについて技術的分析を投稿している人物だ。同氏によるReddit投稿によれば、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』における雲は動的に生成されており、しっかり太陽の光を受けて地面に影を落とすばかりか、風の影響まで受けているというのだ。

同スレッドでは、ほかにもリアルで美しい空を描画するための工夫が紹介されている。つまり、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』はオープンエアな開放感を演出するため、Skyboxを利用せずにリアルな大気をシミュレーションしていることが濃厚。そして、その実装が偶然にも、高高度に到達したプレイヤーたちに無限に広がるかのような美しい宇宙を見せていたと考えられる。まさに、開発者たちの空気感へのこだわりが生んだ奇跡の光景だ。

Image Credit:ThornyFox at Reddit


この「宇宙」を、開発者たちが意図してデザインしたかは定かではない。もしかすると、こだわり抜いた結果、本物の地球と宇宙のような構造になってしまった可能性もあるだろう。本来想定しない挙動によって奇跡の光景が発見されるのは、ゲームという娯楽の奥深さを感じさせる出来事だ。何よりも、今回の束の間の宇宙旅行が、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の作り込みと自由度に支えられていることに疑いがないだろう。




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