『スーパーマリオ64』RTAにて“「人力再現ほぼ不可能」を可能にするテク”が提案される。45秒以上のタイム短縮が現実的に

 
Image Credit: Krithalith on YouTube

スーパーマリオ64』のスピードランについて検証をおこなっているユーザーが9月17日、ある手法を記録した動画を投稿した。そのテクニックは『スーパーマリオ64』のスピードランにおいて大幅の更新を見込めるとされている。しかしそれは長らく「現実的でない」とされていたものでもあった。

Speedrun(スピードラン)とは、日本ではRTA(リアルタイムアタック)とも呼ばれる、ゲームクリアなどの目標を達成するまでの時間を競いあう競技だ。スピードランの対象となっているゲームやレギュレーション、世界記録ランキングなどはSpeedrun.comで確認することができる。今回短縮方法が提案されたのは「120 Star」と呼ばれる、『スーパーマリオ64』のゲーム内に登場するすべてのスターを集めたうえでゲームをクリアするレギュレーションだ。

タイム短縮の対象となったステージはゲーム終盤に行くことになる「レインボークルーズ」。そこでは「てんくうのおやしき」という、魔法のカーペットを乗り継いで、大きな屋敷の屋上までたどり着くことで獲得できるスターがある。ここで乗り継ぐ魔法のカーペットの移動速度は非常にゆっくりしたものであり、長い時間をカーペット上で過ごす必要がある。このカーペット地帯を飛ばすことで、タイムを短縮できる余地があるとされていた。

実際に、カーペット地帯をスキップする「カーペット無し走法/Carpetless」と呼ばれる進行自体は不可能ではなかった。たとえば、本作ではボムへいを投げ爆発する直前に掴み直すとマリオが後ろ向きに加速するバグがあり、それを利用してカーペット区間をスキップするという手法が存在した。このボムへいを利用したバグは非常に難しく、成功させるまでに試行錯誤が必要だ。

ほかにも、“Glitchy Wall Kick(GWK)”と呼ばれる、本来とは異なる方向に壁キックを出すテクニックを使ったスキップ手法も提案されていた。しかしこのテクニックを成功させるにも厳しい条件を満たし正確に技を決めなければならず、人間が操作して安定再現するのは現実的には不可能に近いとされていた。

120 Starは完走までに1時間30分以上を要し、ゲーム終盤でミスをしてしまえばその時間分の記録が水の泡となってしまう。「てんくうのおやしき」はゲームのクリアが近くなった終盤であり、リスク回避のためにも、「Carpetless」を採用する走者はいなかったと見られる。タイム短縮の手段はあるがスピードランに組み込むには難しいという状態が続いていたのだ。本稿執筆時点での世界記録でも「てんくうのおやしき」はカーペットを使うルートを採用している。ところが今回、「人間にも一定の再現が可能な操作」で「Carpetless」を実現可能な手法・手順(Setup)が提案されたのだ。

「Carpetless Setup」と題して新手法を提案したのは、Krithalith氏。同氏は『スーパーマリオ64』のスピードランについて検証をおこなうなどしている人物だ。同氏の投稿した動画によると、提案はGWKを利用した“現実的な”手法だとのことだ。

今回のカーペット地帯のスキップは、前述のGWKをおこない屋敷の屋根に乗ることで達成される。過去の手法ではこの屋根の上でマリオを一瞬だけ滑らせ、その後ジャンプをして斜めの屋根を登りきっていた。マリオが屋根で滑れるスペースを確保するため、GWKをしつつ高さも稼ぐ必要があり、結果として再現には“現実的でない”操作精度を要求されていた。

しかし今回の手法では、マリオがジャンプする位置を巧みに調整し、屋根を登る際にもジャンプとキックを組み合わせることによって、屋根で滑るスペースを確保しなくても登れるようになった。このことで、GWKについて2フレームほどの猶予を確保できるようになったという。すなわち、人力での再現がより現実的となったわけだ。

【UPDATE 2023/9/23 18:25】
フレーム数に関する記述を調整

そしてKrithalith氏によってはじめに投稿された手法も本人の手によって数度改良され、バリエーションが「Orthogonal Jones」「Mild Michael」と名前をつけられて投稿されている。当初に提案されたものよりも入力が簡素になっており、さらにスピードランにおける実現可能性があがっているようだ。

それでもなおシビアなテクニックであるようにも思えるが、この手法について、120 Star以外のレギュレーションで世界1位の記録を残しているSuigi氏が11回連続で成功させている動画をX(旧Twitter)上に投稿しており、現実的に採用可能なレベルまでに迫っていることがわかる。Suigi氏によると、成功したすべての試行で少なくとも45秒以上の短縮ができたという。

実際にこの手法が用いられてタイムが45秒以上も短縮されれば、2015年4月に世界記録が53秒更新されて以来の、同レギュレーションでの大幅記録更新となると思われる。本稿執筆時点の同レギュレーション世界記録は1時間37分35秒となっており、36分台に突入することも可能だろう。

2006年以来ずっと走られ続けてきた『スーパーマリオ64』の120 Starスピードランが、新たな境地に突入しようとしている。今後の記録がどこまで短縮されることになるか気になるところだ。