『The Last of Us Part II』盲目のゲーマーがクリア報告。どんな人でも遊べる、アクセシビリティオプションの充実ぶり

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全盲のゲーマーとしてTwitchで活動しているSightless Kombat氏が、『The Last of Us Part II』をクリアしたと報告。同氏はこれまでにも無数のゲームをプレイしてきたが、他者からのアシストなしで、ひとつのゲームを完全にクリアできたのはこれが初めてだとコメント。開発元のNaughty Dogに感謝の意を伝えている。クリア時間は明かされていないが、ゲーム後半のボス戦時点で26時間が経過していたと別途報告しており、平均よりは時間がかかったものと考えられる。

豊富なアクセシビリティオプション

開発元のNaughty Dogはアクセシビリティに力を入れているスタジオとして知られている。同スタジオが2016年にリリースした『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』でもアクセシビリティの設定項目を用意。最新作『The Last of Us Part II』ではさらなる改善を図り、実に60以上ものアクセシビリティ項目が設けられた。聴覚や視覚、細かい運動に関するオプションを大きく拡張し、「それぞれに合った最善のゲーム体験」の実現が目指されている(国内PlayStation.Blog)。

項目としては、UIのサイズ変更、字幕、色覚オプションといった一般的なものから、タッチパッドを使って画面の特定部分にズームインする画面拡大機能。敵と背景のコントラストを上げるハイコントラスト表示、メニューや読み物アイテムのテキスト読み上げ機能。コントローラーのボタン割り当てや操作方法の変更、ゲーム難易度の細かな調整など多岐に渡る。どうしてもパズルを解けない場合には、謎解きのスキップオプションを活用可能。どんなプレイヤーでも遊べるよう考慮されている。トロフィーについても、難易度に制限されずに取得・コンプリートできるよう作られている。

Sightless Kombat氏の場合、ストーリー進行に関する方向にカメラを向けるナビゲーションアシスト、追加の聴覚情報によって移動・戦闘を補助する移動・戦闘音響キュー。そのほか照準アシスト、テキストの読み上げ機能などを活用しながらゲームを攻略。以下は同氏によるゲーム序盤のプレイ映像。豊富な聴覚情報をもとに状況を把握し、感染者を倒すことに成功している。

またテキストの読み上げ機能により、現在装備している武器の種類や残弾数、現在の体力などを確認できる点も注目に値する。本作では十字キーによって装備する武器・アイテムを切り替えるのだが、今自分が何を装備しているのか、視覚情報なしで把握し続けるのは困難だ。そうした意味でも、テキスト読み上げは快適なプレイ体験につながっていることだろう。

*別の動画では、同氏がもっとも苦戦した箇所としてゲーム後半のボス戦が挙げられている(YouTube動画リンク。ネタバレ注意)。ゲーム内およびオンライン上のアドバイスを参考にしても倒せず。難易度を下げてチャプターの最初からやり直しつつ、何度もゲームオーバーを繰り返したと伝えている。

アクセシビリティ・コンサルタントの存在

昨今では、多数のゲームにて何かしらのアクセシビリティオプションが用意されている。だがここまで力が入った作品は珍しい。開発の初期段階から各種機能の実装を計画し、アクセシビリティに関するコンサルティングを受け、プレイテストを重ねてきたからこそ、ここまで多くのオプションを入れることができた。IGNやRooster Teethなどで活動してきたAlanah Pearce氏は「Play, Watch, Listen」というPodcastを主催しており、そちらのエピソード18でジョエルを演じたTroy Baker氏を含めて『The Last of Us Part II』についてトークを展開。Podcastの後半では、同作のアクセシビリティオプションにも言及している。

作曲家として『風ノ旅ビト』『ABZU』『アサシン クリード シンジケート』『John Wick Hex』など多数の作品に関わってきたAustin Wintory氏は、盲目のゲーマーとしてアクセシビリティのコンサルティングをおこなっているBrandon Cole氏のエピソードを披露。とあるカンファレンスにて登壇した際、Cole氏は「体験したいゲームがあっても、多くの場合は奥さんに遊んでもらって、その様子を見守るしかありません。私にとって最大の夢は、みんなが絶賛している『The Last of Us』のようなゲームを自らの手でプレイして、奥さんに見せることです」と語ったという。そして現地でスピーチを聞いていたNaughty Dogのスタッフに話しかけられ、それを機にCole氏は、コンサルタントとして何度もNaughty Dogのスタジオを訪問するようになったとのこと。

余談ながらTroy Baker氏は、『The Last of Us Part II』の冒頭で登場する老犬は、1作目に登場したBuckleyではないかと指摘している。なおBuckleyという名前は、『The Last of Us』撮影直前に亡くなったBaker氏の犬が由来となっている

事実、Cole氏はアクセシビリティ・コンサルタントとして『The Last of Us Part II』の開発に関わっていた。Naughty Dogのリード・システムデザイナーであるMatthew Gallant氏は、アクセシビリティ機能の開発にあたり、Cole氏から大きく影響を受けたとツイートしている。また上述したPodcastに出演したTroy Baker氏は、「Blind Gamer」として活動するSteve Saylor氏もNaughty Dogにアドバイスを送っていたとコメント。このように、複数のゲーマーから助言をもらいながら開発を進めたことが、充実したアクセシビリティオプションにつながったのだろう。

*Saylor氏は『The Last of Us Part II』を、史上もっともアクセシブルなゲームだと評価。また聴覚アクセシビリティを必要とするCourtney Craven氏は、必要な音を聴き逃さないよう集中し続けるというストレスから解放された、初めてのゲームだと評している。字幕の横に、話者がどちらの方角にいるのかを示す矢印を表示できるというのも、Craven氏としては初めての体験だったという。

実装そのものよりも、解決策を見つけ出すことの方が難しい

また『Thomas Was Alone』『Volume』『John Wick Hex』などで知られるゲームディレクターのMike Bithell氏は、Podcast内で『The Last of Us Part II』のハイコントラストモードに言及。こちらは味方の色を青に、敵の色を赤にし、背景をグレースケール表示にすることで、低視力の場合でも状況を把握できるようにする機能だ。Bithell氏は、現代水準のゲームエンジンを使っていて、優れたアート・パイプラインおよびテクニカル・ディレクターを有するスタジオであれば、同モードを見て「1日もあれば実装できるぞ」と思うはずだと持論を述べた。

『The Last of Us Part II』には、テキスト読み上げといった実装に時間を要する機能もあるのだが、多くの場合、難しいのは実装そのものではなく、アイデアを思い付くことだと、Bithell氏は伝えている。誰かが解決策を見つけ、他者がそれに追従する。そうしてゲーム業界は前進していくのだと。なおプレイヤーからは簡単だと思われがちだが、実のところ実装が難しい機能の例としては、フォントサイズの変更オプションが挙げられている。厳密には、最初から実装するつもりで開発していれば問題ないのだが、「フォントが小さすぎる」といった指摘を受けて後から追加するのは難しいという。

記事冒頭で触れたSightless Kombat氏は、『The Last of Us Part II』のクリア報告にあわせて「ほかのデベロッパーやスタジオが同作を参考にし、アクセシビリティの改善、そしてどんな人でも楽しめるゲーム体験の構築に努めてくれることを期待しています」とコメント。同氏の次なる目標は、プラチナトロフィーの獲得だという。ただ、やはり視覚情報抜きではゲームの全体像を把握できないため、まずはオンライン上の情報や動画を確認してゲームの理解を深めていくとのことだ。

【UPDATE 2020/07/03 15:45】
Sightless Kombat氏は以下の動画で、戦闘中どのように状況を把握しているのか実例付きで解説している。

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