『アンチャーテッド』シリーズを手がけたAmy Hennig氏が、映画製作会社でスタジオ新設へ。クラウドゲーミング時代に向けた物語主導のゲームづくりへ

Image Credit: Skydance Media

映画製作会社Skydance Media(以下、Skydance)が、新たなゲームスタジオの設立にあたり、Amy Hennig氏と、Electronic Arts(以下、EA)の元エグゼクティブ・プロデューサー/シニア・プロデューサーJulian Beak氏を雇用したことを発表した。今後はSkydanceが拠点を置くカリフォルニア州サンタモニカと、新スタジオが設けられるサンフランシスコにてスタッフを雇い、物語主導のゲーム開発に向けて動き出す。

Amy Hennig氏は、Naughty Dogにて『アンチャーテッド』シリーズのクリエイティブ・ディレクターを歴任したのち、Electronic Arts(以下、EA)にて2014~2017年まで「スター・ウォーズ」プロジェクト(Visceral Gamesがかつて開発していたアクションADV。キャンセル済み)を率いてきた人物。EA退社後には独立し、小規模スタジオの新設に向けて準備を進めていると発信していた。それから月日が流れ、EA時代に仕事を共にしたBeak氏と一緒に、Skydanceにて新たな一歩を踏み出すこととなった。

『アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団』

Skydanceは、Paramount Picturesとの共同製作により2010年代以降の「ミッション・インポッシブル」シリーズや「ターミネーター:ニュー・フェイト」「ジェミニマン」といった大作の製作に関わっており、2016年にはゲームデベロッパーThe Workshop Entertainmentを買収。Skydance Interactiveという社内スタジオを設立し、2017年にVRタイトル『Archangel: Hellfire』をリリースした。現在はVR向けに『The Walking Dead: Saints and Sinners』を開発中。高予算の映像作品だけでなく、ゲーム事業にも進出しつつある。

そんなSkydanceにてHennig氏は、ゲーマー/非ゲーマー両方をターゲットに、新しい物語主導のインタラクティブ体験を届けるべく始動。映画やテレビ作品に引けを取らない最先端のグラフィックとともに、従来的なプラットフォームだけでなく、台頭しつつあるクラウドゲームサービスも視野に入れた「インタラクティブ・シリーズ」として開発される。

Hennig氏はEA退社後、Beak氏と共にしばらく提携先を探していた。そして最終的に「気の合う相手が見つかった」としてSkydance入りを決めた。Skydanceの若きCEOであるDavid Ellison氏は(83年生まれ)はゲーマーでもあり、ゲーム事業にも通じている。そんなEllsion氏についてHennig氏は、「リニアとインタラクティブ。その両方のビジョンがあり、複数の業界を渡り歩ける人物と共に働けるということで、アットホームな気分になれました」と語っている。

またSkydanceは先述したようなアクション大作を手がけることが多く、その点にも心地よさを感じたと述べている。確かに『アンチャーテッド』シリーズや、キャンセルされた「スター・ウォーズ」プロジェクト(コードネーム:Ragtag)など、アクションアドベンチャー大作づくりで知られるHennig氏と相性が良さそうだ。Hennig氏が追求しているのは、AAA級大作並みのクオリティ。ただビジョンを共有できるだけでなく、ビジョンを実現するためのリソースを備えているSkydanceおよびEllison氏は理想的なパートナーだったのだ。まだ正式なゲームタイトルは決まっていないが、Hennig氏がゲームディレクターもしくはクリエイティブ・ディレクターとして指揮を執り、Beak氏がエグゼクティブ・プロデューサーの役割を担うだろうと発表されている。

2016年に公開された、EAのプロジェクト「Ragtag」コンセプトアート

なおHennig氏は、近年の大作で増えつつあるライブサービス型のゲームについても言及。ライブサービスという終わりのないゲームで、終わりがなくてはならない「物語」を描くことは難しいとしている。だがゲームのストリーミングプレイやサブスクリプションサービスの浸透により、そうした終わりのないゲームを作る必要性はなくなり、複数のチャプターに小分けして消費してもらう、あるいはまとめて一気に体験できるような物語が作りやすくなると語っている。先述した「インタラクティブ・シリーズ」は、そうした消費スタイルを想定した作品を意味するのだろう。

また非ゲーマーの中には、潜在的にインタラクティブな体験を求めている層が確かに存在すると、過去の経験から感じているとのことで、ストリーミングプレイがメインストリームになったときに顕在化するであろう、潜在的ユーザーを想定したコンテンツづくりを進めると語っている。ゲーマー/非ゲーマー問わず楽しめる、ほどよい長さの、ストーリー重視のインタラクティブ体験。ストリーミングプレイが浸透すれば、そうしたゲームが再流行するだろうとHennig氏は予想している(もちろん次世代コンソール機を除外しているわけではなく、PlayStation 5や次世代Xboxを楽しみにしているとも補足している)。

ただHennig氏は、SkydanceでNaughty DogやRockstar Gamesのような大規模なスタジオを新設するつもりはなく、コアチームが集う小規模スタジオを設けつつ、分散開発を取り入れ、各専門分野におけるパートナーと密に連携を取りながら開発を進める方針とのこと。業界の持続可能性を考えると、1つのスタジオ内で何百人ものスタッフを抱えるような開発体制ではなく、クリエイティブ面での裁量を持つ小規模なコアチームを中心に、それぞれの専門分野におけるパートナーたちとの信頼関係を築き、開発を分散化しながら進めていく方が好ましいというのがHennig氏の見解。ワークライフ・バランスや誠実さ、協力体制を大切にする場づくり。かねてからゲーム業界が抱える長時間労働、「クランチ」文化を懸念し続けてきたHennig氏のひとつの答えが、Skydanceにて実を結ぶことになるのかもしれない。