『フォートナイト』効果でEpic Gamesの企業評価額が2012年比約10倍の8800億円に急上昇。過密市場の中、一過性のヒットで終わらせない運営力

 

『フォートナイト』の成功を受け、Epic Gamesの企業評価額が50億~80億ドル(約5540億円~約8870億円)にまで押し上げられたとBloombergが伝えている。中国テンセントがEpic Gamesの株式40%を購入した2012年時点での時価総額は、8億2500万ドル(約910億円)であった。なお『フォートナイト』効果による急激な成長により、同社の社長Tim Sweeney氏は総資産額10億ドル以上の“ビリオネア”に仲間入りしている

Jefferies Financial GroupのアナリストTimothy O’Shea氏はBloombergに対し、Electronic ArtsやActivision Blizzardの企業価値と比較すれば、Epic Gamesに140億ドル以上の価値があるとも考えられると答えている。またWedbush SecuritiesのアナリストMichael Pachter氏は、主な収益源である『フォートナイト』の人気が続かなければ評価は落ちるだろうが、仮に同作の年間売上が現在推定されている20億ドルの半分にまで下がったとしても、Epic Gamesの企業評価額は75億ドルになるとコメントしている。

調査会社SuperDataの調査レポートによると、『フォートナイト』の推定総売上は2017年9月~2018年5月の期間で12億ドル(約1330億円)に及ぶという(gameindustry.biz)。年内には総額20億ドルを超えるペースだ。1日の推定平均売上は、iOS版だけでもシーズン4時点で120万ドル(約1億3300万円)シーズン5は200万ドル(約2億2200万円)といまだ伸び続けている(SensorTower)。基本プレイ無料かつ複数プラットフォーム展開によりPC/PlayStation 4/Xbox One/Nintendo Switch/iOSで遊べる手に取りやすさは他の競合タイトルを寄せ付けず、累計プレイヤー数は6月時点で1億2500万人を突破している(公式サイト)。

本作のバトルロイヤルモードでは、基本プレイ無料タイトルで多く見られるガチャやルートボックスによるアイテムのランダム提供を排除し、デイリーで品ぞろえが変わるコスメティックアイテムの直販売と、3か月おきに刷新されるバトルパス(ゲームをプレイすることでスキンアイテムをアンロックする権利)により、いくら払えば何が手に入るのか明確なマネタイズモデルを構築。現時点ではルートボックスに比べてゲーム業界内外からの批判が少ない、健全な収益化手段として受け入れられている。なお本作のPvEコンテンツ「世界を救え」ではルートボックス制が採用されているが、Tim Sweeney氏は弊誌インタビューにてこれは過ちであったと認めている。

 

すでにある話題性をさらに膨らませるマーケティング手法

ルートボックスを用いず収益化に成功している背景には、惜しみなく追加されていくバリエーション豊富なコスメティックアイテムや、コスメティックアイテムというカテゴリで商品化できる素材自体の多様化(エモート、グライダー、バックブリング、スプレー、スキンカスタマイズ、オモチャ)など、商品ラインナップ自体が魅力的であり、その魅力的なアイテムを他プレイヤーに披露できる場がしっかりと確保されているという点が、まず前提としてある。

顧客の増加という点では、本作は子供から大人、ミュージシャンからスポーツ選手まで幅広い層に遊ばれている。今年のFIFAワールドカップでもゴールを決めた選手たちのセレブレーションとして本作のダンスエモートが披露されたり、ドイツ代表選手が合宿地で『フォートナイト』に熱中しすぎてネット切断措置を受けたとの報道があったり(関連記事)。シーズン5開幕前にはARG(代替現実ゲーム)が世界規模で展開されたりと、Epic Games主体のプロモーションだけでなく、ファンによる自発的な布教・宣伝活動のおかげもあり、配信開始から1年近くが経過した今でもメディア・コミュニティ内で話題が絶えることがなく、怒涛の勢いで成長を続けている。

さらに言うと、ネットミームとなった「Fork Knife」を実際にゲーム内のお店の名前として採用したり、有名動画配信者がゲーム中に崖の下に落ちたプレイヤーを救おうとして失敗したロケーションに墓碑を建てたり(Kotaku)、公式ダンスコンテストに応募されネット上で瞬く間に拡散されていった通称「Orange Shirt Kid」のダンスがシーズン4のバトルパス報酬として採用されたりと(GameRant)、ライブサービス型のゲームという強みを生かして、コミュニティ内で注目されている話題をリアルタイムで拾い、話題性をさらに膨らませるような取り組みが多く見られる。

 

お金の使い道すらポジティブな話題に

またEpic Gamesはお金の使い道すら話題性のあるポジティブなニュースとして各メディアに取り上げられている。今年6月には、本作の競技シーン向けに2018~2019年シーズンだけで賞金総額1億ドル(約110億円)を出資すると発表。7月には、同社がUnreal Engineマーケットプレイスのレベニューシェア(収益分配)の変更を発表し、クリエイターの取り分を70%から88%に引き上げた。しかも過去の取引にまで遡って利益を還元するという異例の対応であった(関連記事)。これは『フォートナイト』の成功があったからこそ踏み切れた変更である。ゲーム開発者はもちろんのこと、お金を出したプレイヤーにとっても、ゲーム業界にとってプラスとなるようなお金の使い道がされているというのは心地よい知らせではないだろうか。

ポジティブな話題が多く、しかもネガティブな話題を極力生み出さないようにしているというのも重要なポイントである。競合タイトルである『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』(以下、PUBG)に関しては、旭日旗柄のスキンや731部隊の名前を採用したことで開発元PUBG Corp.が拠点を置く韓国や中国で謝罪に追い込まれたり(関連記事)、Epic Gamesの『フォートナイト』やNetEaseの『荒野行動』を著作権侵害で訴えたり(関連記事)、『フォートナイト』のバトルパス風の「イベントパスを実装するも仕様・価格設定などに懸念が寄せられたり(関連記事)、ストアアセットの寄せ集めとの批判に対しクリエイティブ・ディレクターのBrendan Greene氏が「我々をアセットフリップと呼ぶようなコメントを見かけると、そいつを殺してやりたくなりますね(I see these comments and I’m like, I want to kill you)」と発言したりと(関連記事)、ネガティブな話題が報じられることが多く、『フォートナイト』と並べると対照的である。

ゲームとしての魅力を高めていくことはもちろんのこと、つかんだヒットを一過性のもので終わらせないため、Epic Gamesは惜しみない努力を続けている。ネガティブな話題が生まれないよう注意し、コミュニティに対してはこまめな情報開示を継続する。とくに大規模な障害発生時には経過報告を忘れない(プレイグラウンドモード障害の事後分析)。Tim Sweeney氏は弊誌インタビューにて、『フォートナイト』のようなライブサービスこそ、「ゲーマーと開発者の両方にとって最適な運営モデル」であると答えてい。そこには、正しい運営を行った場合という条件が付くはずだ。そしてEpic Gamesは、自らが「最適な運営モデル」の見本となるよう、顧客とのコミュニケーションを大切にし、“ワクワク”を届け続けているいまではゲーム業界にとって金銭的な企業評価額だけでは測れない価値のある注目企業になったと言えるだろう。