ふたたび開発資金と「期待」を集める『Mighty No.9』

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1週間分のインディーニュースと最新のインディーゲームをお届けするのが週刊連載Indie of the Weekです。第38回目となる7月7日から7月13日の7月第2週は、稲船敬二氏が手がける新作アクション『Mighty No.9』がクラウドファンディングを再開したことで既存のサポーター以外からも注目を集めました。

『Mighty No.9』は元カプコンのクリエイター稲船敬二氏が2013年に発表した横スクロールアクションゲームです。ロボットたちによる暴走事件という背景、ステージの攻略順を自由に選択できるデザイン、敵を倒してその特殊能力を獲得するメカニックなど、稲船氏が手がけた『ロックマン』とよく似たコンセプトを持ちます。開発に参加する面々もほとんどがシリーズとなんらかの関わりをもつ人物たちで、タイトル名こそ違えど『ロックマン』の精神をそのまま受けついでいる作品といえるでしょう。

昨年9月、KickstarterおよびPayPalにてクラウドファンディングを実施した『Mighty No.9』は、初期目標額90万ドルを大幅に上回る384万5170ドルを獲得しました。PayPalによるユーザーからの支援金20万1409ドルを含めると、開発会社Comceptに集まった資金は404万6579ドルになります。約4億円です。

しかし稲舟氏の野望はとどまるところをしりません。ロサンゼルスで開催されたAnime Expo 2014にて、アニメシリーズの始動の予告とともに第2弾のクラウドファンディング開始を発表しました。初期の目標金額は20万ドル。達成した際に実装されるのは日本語および英語のフルボイス化です(言語ごとにそれぞれ10万ドルずつの計算)。

そもそも会話シーンなどそれほど多くはない『ロックマン』スタイルの作品にフルボイス化が必要なのか。そして4億円も集まったのに1年も経たない内に追加資金が必要になったのか。公式サイトやKickstarterのアップデートへは、2度目のクラウドファンディングへ走る必要性に関して意見が寄せられています。一方で稲舟氏はファンからクラウドファンディング再開を願う声があり、さらにパートナー企業から玩具化などのオファーが多方面から来たと説明しました。「ファンディングの再開を望む声、フランチャイズを更に大きく成長させたいパートナーの熱意。2つの理由から私は『Mighty No. 9』プロジェクトのファンディング再開を決心しました」。2度目のクラウドファンディングは開発資金の補充が目的ではなく、あくまでフランチャイズをさらに巨大化させるための追加資金であるとしています。

 

 

クラウドファンディングで大きく成功した作品がさらに資金を調達する。事情やスタイルは違えど、じつはほかの作品でもよくみられる光景です。スペースコンバットシミュレーション『Wing Commander』を生みだしたChris Roberts氏が手がける『Star Citizen』はその一つ。Kickstarterでクラウドファンディングを成功させたあとも公式サイトにPledge Storeを設け次々とストレッチゴールを設定しており、現時点で総額4000万ドル以上が集まっています。

『Double Fine Adventure』の名で約330万ドルを集めた『Broken Age』は、のちにプロジェクトが巨大化したものの、資金の見通しが怪しくなりました。Double Fineスタジオは2回目のクラウドファンディングという選択肢を選ばなかったものの、同作を2分割して前半部分を含むシーズンパスを今年リリースし、その売り上げを開発資金に当てています。

Double Fineの創設者Tim Schafer氏は、『Broken Age』を2分割すると発表をした今年2月にファンから資金運用について批判を強くあびました。多額の資金を提供してくれた熱狂的なコミュニティのメンバーたちが一転、自身へと罵声を浴びせたこの一件について、Schafer氏は海外メディアgameindustryでこのように説明しています。「パブリッシャーからお金を得たのなら、果たさなければならない契約が存在するし、訴えられる可能性もあるよね。今回の場合は支援者たちを丁重に扱うための"モラル契約"でしかないんだが、いくつかの点ではより強烈に感じるよ。もしビジネスの契約で抜け道を見つけたのなら、そこから抜けだすことができるし悪い気分じゃないだろう。だが今回の場合は、支援者たちが幸せであれば、われわれも成功なんだ。そして支援者たちが幸せでないのなら、成功ではない」。クラウドファンディングはただたんに開発資金を集めるためだめの手段ではありません。国内外の支援者や周囲のユーザーたちから期待をも集めるのです。期待がふくれあがりつづければ、"モラル契約"上での手痛い違約金を支払うハメになりかねません。

 


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古典シューターの崇拝者

 

タイトル名: 『In The Kingdom
ジャンル: FPS
開発: Magma Haus Industry
発売: 2014年6月(パイロット版)

 

『Duke Nukem Forever』から『Rise of the Triad』に『Shadow Warrior』と、古典シューター作品たちのリバイバルが近年進んでいます。一方『In The Kingdom』は、そんな過去のFPSタイトルのスタイルやビジュアルを一新せずそのままに受けついだ作品です。idの過去作品をプレイしてきたなら、一目見て『Doom』や『Quake』のようなデモニッシュな世界観を感じとれるでしょう。ゲーム自体は非常にシンプルなFPSで、ダークな異世界に集まる魑魅魍魎たちをひたすら撃ち倒していくだけ。同作はすでに今年6月から5ドルで販売されています。実際にプレイした上でオリジナル版の『Doom』や『Quake』よりも面白いかと問われれば、個人的には答えは「NO」です。ただし『In The Kingdom』は、古典FPSを崇拝する開発チームMagma Hausがいだく巨大コンセプトの「パイロット版」であると謳われています。もし醜悪に血を流す2Dドットの死体をふたたび見たいFPSユーザーがいるならば、彼らの語るプロジェクトを支援する気持ちで購入し、後悔してみるのも一興かもしれません。現在Steam Greenlightにも登録中です。

 


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ロシア産F2Pフライトコンバット

 

タイトル名: 『Black Bird Online
ジャンル: オンラインフライトコンバット
開発: Last Level LTD
発売: 欧州を中心にサービス中

 

今年前半リリースされた『Strike Vector』は、注目を集めつつもその高い難易度が原因か十分なプレイヤー数を確保できませんでした。しかし、この『Strike Vector』と同じくマルチプレイヤー主体の3Dフライトコンバットゲーム『Black Bird Online』がSteam Greenlightに参戦しています。ゲームエンジンにUnityを採用したFree-to-Playタイトルであり、ブラウザ上でプレイが可能です。すでに1年ほど前より公式サイトやFacebook上で公開されていますが、筆者の環境ではPCやブラウザを変えてもマッチスタート時に必ずフリーズが発生するため、まともにはプレイできていません。ロシアを中心に展開しているためか、国内からのプレイは今のところ難しいようです。精細ではないものの迫力あるエフェクトやクールな機体が飛び交う様子は、Steam Greenlightに登録されているタイトル群の中では目を引かれるものがあります。「カジュアルなプレイイング」がアピールされている点も注目です。筆者ふくめ『Strike Vector』の高機動に適応できなかったパイロット候補生たちも、「ああこれぐらいがちょうどいいんだよ」とぬるま湯につかりながら安心してフライトコンバットを楽しめるやもしれません。

 


今週のピックアップは『In The Kingdom』

 

『In The Kingdom』はわずか15分で終わるデモのような作品で、5ドルの価値があるかと聞かれてもおおむね返事はNOでしょう。開発者は「ここ数日はつらい日が続いた。『In The Kingdoms』のセールスが突然ゼロに落ちたんだ。同情はいらないさ、ただプレイヤーが欲しいだけなんだ」と嘆いており、実際に売り上げもかんばしくないようです。しかし学生が作ったブラウザゲームのようなチープさがある一方で、壁面に吊るされた死体やゲーム全体を包むダークゴア感がどうにも筆者の心をソワソワさせます。文字通り「パイロット版」どまりの同作ですが、エンディングもなかなか面白いものに仕上がっており、なにもすることがなくお金がありあまっているのならば手をのばしてみるのも乙かもしれません。

 

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