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スクウェア・エニックスは12月1日に『ロマンシング サガ -ミンストレルソング- リマスター』を発売した。対応プラットフォームはPS5/PS4/Nintendo Switch/Steam/iOS/Android。同作は、PS2で発売された『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-(以下、ミンサガ)』をリマスターした作品だ。


しかし単なるリマスターではなく、遊びやすさに関わるさまざまな改良が施されている。こうした改良点について、特に恩恵を受けているのはやりこみゲーマーだろう。ということで、やりこみの極地のひとつともいえるRTA(リアルタイムアタック)走者のやわらか氏を聞き手に迎え、リマスター版のディレクターである上野真史氏へのインタビューを実施した。やわらか氏がリマスター版にハマっている様子をまじえ、RTAに留まらず幅広いトピックにわたったインタビューをお届けする。

やわらか氏(以下、やわらか):
やわらかです。RTAまたはスピードラン(Speedrun)という早解きの競技などをしながら活動しています。長年『ミンサガ』を遊んでおり、過去にRTA in Japanへの出場経験があるということで、今回そのご縁で声をかけていただきました。よろしくお願いいたします!


上野 真史氏(以下、上野):
『ロマンシング サガ -ミンストレルソング- リマスター』ディレクターの上野です。よろしくお願いします。


変えなかったこと、変えたこと

やわらか:
まずリマスター版、素晴らしいです。「作っていただいてありがとうございます」と言わせてください。オリジナルのPS2『ミンサガ』から、どれくらい変わったんだろうというのが、我々のようにRTAをやっている側、兼普通に遊んでいた側として気になっていたところでした。

まず利便性の向上がすごく良くて。移動だったり戦闘だったり、主人公たちの状態だったり、すごく把握しやすい、やりやすい。RTA走者&通常プレイヤーとして、ゲームの進行度が「早い」「普通」「ゆっくり」が選べること(「早い」は1周クリア後に解禁)、逃げるのにLPリソースを使わない「煙玉」という方法が増えたこと、移動や戦闘、主人公たちの状況の把握しやすくなったことなど、オリジナルの感覚も残しつつ利便性が向上したと感じられました。それらをリマスター化にあたってどういう方向性で落とし込んだのかお聞かせください。

2022年11月11日生放送より


上野:
そもそもでいくと、オリジナル版をリスペクトして作ることが大前提でした。当時の遊びができなければ『サガ』じゃないという認識が、僕ら開発チームの中ではありました。

やわらか:
なるほど!

上野:
スクウェア・エニックスのタイトルは、リメイクやリマスターで大胆に変えちゃうタイトルとかもあるんですけど、『サガ』シリーズがそこをあんまりやらないのは、旧来のファンの皆さまへのサービスという意味もあって。

そういう意味では、進行速度オプションとして、海外版準拠の「ゆっくり」と日本版準拠の「普通」が存在するのも、サービスなんです。元々「ゆっくり」を追加したかったわけじゃなくて、海外版をオリジナルと思っているお客さんと、日本版をオリジナルと思っているお客さんと両方いらっしゃるので、その両方に応えたくて。

やわらか:
ファンサービスの気持ちがこもっているのは、ゲームを遊んでいても伝わります!

上野:
日本版ファンと海外版ファンの両方に丁寧にアプローチしようと思うと、「ゆっくり」と「普通」の両方を選べる選択式にするしかないかなというところだったんですよね。逆に、進行速度オプション「早い」は、河津さん(『サガ』シリーズ総合ディレクター・河津秋敏氏)が、「いきなりサルーインに挑める周回があってもいいんじゃないか?」みたいなことをおっしゃられたことがきっかけです。

それは『クロノ・トリガー』でいうところの「ラヴォスにいきなり行ける」みたいなやつで……。それを作ってしまうと、逆に、旧来のファンの方からすると「求めていたのと違うのが出てきたぞ」となるかもしれないなと思いました。なので、進行度を一気に進められるようにすることで、サルーインにすぐ挑める方法を作れないかなと模索し、結果としてできたのが進行速度オプション「早い」なんですよね。


やわらか:
目的にまっすぐ行けるようにしつつ、従来のゲームとのバランスに落とし込んだ版を「早い」で調整しているような感じでしょうか。

上野:
オリジナル版を信じて入れてみた、というのが正確かもしれません。オリジナル版では、進行度設定に対する各イベントの受け入れ時期が、意外とたっぷりめに取ってあったんですよ。なので、進行スピードを早くしてもゲームシステム側が受け入れられるだろうという想定で、単純に進行の早さだけ早くしているという感じなんですよね。厳密にバランスをとったというよりは、元々バランスがとれていると信じてやった、という感じですね。

やわらか:
なるほど!自分も、進行速度にあわせてプレイも変えています!たとえば「普通」だと従来みたいにあまり戦わないで、ある程度もう無理しないで行くかたちにして、「ゆっくり」だと、ちょいちょい余裕をもちつつある程度戦いたいというぐらいのバランスになっていて。進行速度によって遊び方そのものが変わること自体が楽しいです。

上野:
今回は「普通」を選べば、当時原作の日本版を遊んだ方々と同じ体験をしてもらえると思っています。「ゆっくり」と書いている北米版もまた、当時のスタッフが作っている早さなので、どちらもゲームとして完成されています。

先日の生放送でも小泉さん(『ミンサガ』バトルデザイナー・小泉今日治氏)が話していましたが、普通のRPGの体験だったらAの街、Bの街、Cの街へ行って、その頃には大体このレベルになっていてこの装備をしていて、みたいなのが見える。

ただ、『サガ』がそもそもそういう作り方ではありません。プレイヤーがウエストエンド周りの問題を解決していたら、騎士団領が崩壊していた…と思ったら「いや違う、誰かが勝手に解決してるぞ」みたいなことが普通に起こり得る。時間の経過と共に、自分の及ばないところで何かが動いているという、時間経過を感じさせることの方が、このシリーズとしては大事だと思っています。だから「ゆっくり」が、イベントすべてをうまく回すために入っている機能かというと、そういうわけではないんですよね。

僕の『サガ』ファンとしてのルーツは、『ミンサガ』というよりは『ロマンシング サ・ガ』(以下、ロマサガ1)から始まっていて、こういう現象は『ロマサガ1』の時の方がもっと劇的でしたよね(笑)気づいたらどこかの国が滅んでいるみたいなのとか。僕はその、知らぬ間にどこかで何かが起きている体験が素敵だと思って、『サガ』系のプロジェクトをやっているので、そこはあんまり手を加えるべきではないと思っていますね。

やわらか:
そこも好きな部分です!冒険を進めて戦っていく中で、実はほかの地方も少しずつ裏では話が進んでいる、という。その流れがオリジナルのSFCの『ロマサガ1』から始まっていて、『ミンサガ』などを経て変わっていく中で、『ミンサガ』リマスターでは、進行度の調整を崩さないように丁寧にうまく戦いつつ、ある程度話も進めていくみたいなことが実現できるようになっていて、とても楽しんでいます。

普通のオープンワールドだったら、単に自分がやったところだけ終わってほかは何も変わっていないことが多いので、『ミンサガ』は特に独特ですよね。だから本当にやらなかったら、ローザリアだけの話しかしないでクリアしちゃうとかもある。だから、自分はこのキャラクターだけで進めましたという自分だけの物語が作れて、そこは本当にすごいなと。

上野:
ありがとうございます。まさにその体験を、いろんな人にもしてもらいたいです……!

議論をした上で追加した新規仲間と新規クラス

やわらか:
仲間、クラスが増えたことについても聞かせてください。仲間やクラスが増えたことで、同じ場所へ行くにあたっても術の組み方とかもいろいろ変えられて楽しいです。ただ、いろいろバランス調整が大変だったのではないかなと思いますが……(笑)


それにあわせて、快適さについても向上されているのが嬉しいです。たとえば戦闘中にボタンひとつ押せば、キャラについてるバフやデバフが表示されたりとか、術一覧や装備一覧の中で使用可能なものがちゃんと見られるようになっていたりとか。こうした点は、ごく丁寧に細かく調整されているなと。

上野:
キャラ追加も快適さの向上も、周回プレイ前提だったところが大きいです。僕は直近では『サガフロ』のリマスターに携わったんですが、『サガ フロンティア』(以下、サガフロ)の方は、やろうと思えば14周(主人公7人+ヒューズ編7ルート)楽しめる作りなんですよ。その時に、たとえば「妖魔縛り」パーティーや「メカ縛り」パーティーもできるなと思って。そして、誰が主人公のときは誰を仲間にしようといった“パーティー考え遊び“について話している人たちがいっぱいいることも認識しました。『サガフロ』でそうした遊び方があるなら、『ミンサガ』でも同じように遊んでもらえますよね。


なので、少しでも多く選択肢を増やしたい気持ちがあり、提案の段階ではキャラをもっと増やしたいという話をしていたんです。ただストーリー的な設定や、キャラクターのモーションの使える素材など、多角的に探っているうちに収まったのが、今回の5人でした。

やわらか:
いろいろ考えられた上でのあの5人だったんですね……!

上野:
とにかく編成の幅を広げてほしかった。周回をする時のパーティーに誰を連れていこうかと考えるとワクワクする気持ちを高めたかった、というのがテーマでした。だからクラスに関しても、かなり多くの提案をしました。小泉さんに相談する中で、制御の難しさなどの助言をもらった結果、最終的には5つで落ち着きました。

開発の議論としては、「商品としての売りを作らないといけない」「原作どおりに出したい」の対立がありました。原作どおりというのは大前提ですが、原作をやり尽くした人からすると、選択肢の幅が広がらないと面白くない。ファンの方でも「絵がきれいになっただけでは買わないよ」という人は当然いますよね。だからこそキャラやクラスは増やす方向で進めました。そして、増やすためにはどうバランスをとるかという議論を重ねました。

やわらか:
オリジナル版とはまた別の体験が生まれているのが嬉しいです。たとえばラファエルが見習い騎士になっていて、ダウドがごろつきで。「お前ごろつきなのか、でも合ってるな。で、シティシーフとはどう違うのか」と思っていました(笑)ラファエルが追々後半のシナリオで何度か出てきた時に改めて仲間にしたら、まだ見習い騎士のままで「お前騎士にしてもらうんじゃないのかよ」とツッコミしたり。そうした部分も楽しいんです。

上野:
(笑)その辺のちょっとかっちりとしていないところも含めて、『サガ』の良さかなと個人的には思っています。


やわらか:
ラファエルをあえて城塞騎士だとかにしないで見習い騎士のままで、しかもクラスも1のままにしている辺りに、ユーモラスなこだわりを感じました(笑)

上野:
小泉さんと相談していた時に、全員ロザ重(クラス:ローザリア重装兵)にしてガチガチに固めてサルーイン倒すなんて攻略法は、もうみんなやってるんじゃないか?という話になりました。ごろつきに関しては、逆に何のクラス的な恩恵がなかったので、お金のボーナスという特性を入れています。でも、お金なんて「NEW GAME+」していれば余るんですよ。だから実際ごろつきのクラスはあまり強くない……(笑)というか、逆にごろつきは微妙にパラメーターが下がるんですよ。だから縛りプレイとして、全員ごろつきで真サルーインに挑む、みたいな遊びをしてもらいたいと思うところもあります。

やわらか:
あー、なるほど。確かにRTAだったら基本的にロザ術で魔法ぶっ放し、となりますね。

上野:
RTAみたいに、タイムだけを競っていく遊びだと、だんだんそうなっていきますよね。そういう遊び方も嬉しいんですが、厳しい条件の中でいかに早くクリアするかとか、そういうのがちょっと増えるといいなと思い、いろいろなアプローチをしています。

やわらか:
そう言われれば、選択肢を増やしているんだなという意図は感じます!そういえば僕も変な遊び方を人に勧めました。ジャミルとダウドとファラは本来一緒にならないですが、たまたまジャミルをウハンジのイベントの後にほったらかしたらそのままファラの家にいるままで、3人一緒に仲間になれました。で、ほかの『ミンサガ』をやっている人にこっそり、「この3人一緒に仲間にできたんだけど、こういう遊び方どう?」と勧めたりしました!

上野:
そうか、それできたのか……(笑)あんまり考えてなかったですけど、そういう抜け道が見つかるのも面白いですね。

やわらか:
引き継ぎについても、ちゃんといろいろ考えて調整されてますよね。ほかの配信者の方で、大切に貯めていた恐竜の卵が、周回で引き継げないことが判明して叫んでいるのを見て笑いました。貴重品含めて、引き継ぎアイテムについてはしっかり管理されている印象です。どういう意図だったのでしょうか。

上野:
引き継ぎは、イベント系は排除させてもらいました。意図としては、もちろんゲームバランスもありますが、一番の理由としては、僕は『サガ』にシナリオを求めているタイプなので、「神から賜りしものは引き継げない」がテーマなんですよね。

やわらか:
あー、なるほど!!

上野:
神からもらうものを、2個以上は持っちゃだめだろうというのが根本にあって。そもそも、最終試練で手に入るような武器は、伝説クラスも含めて基本的にお助け要素なんですよね。作り手側からすると、攻略に詰まっている人に対して、わかりやすく強そうなものを用意することによって「それを使ったらいいですよ」という誘導をしている感じです。でも、やり込んでいる人たちからすると、最終的には改造など、人の手で作り上げた物の方が強くなるんですよ。このあたりが、間接的に、「NEW GAME+」で引き継げるか、引き継げないかという仕様に関わっています。

やわらか:
そういえば今日ゲームを遊んでいる時に武神の鎧を拾って、久しぶりだなと思って防御を見た瞬間に少しがっかりしたりして(笑)ちょっとフィールドアーマーと比較してしまったのですが……。なので、まさしく上野さんのお話にピンときました(笑)

上野:
あ、武神の鎧は引き継げるんですよ。

やわらか:
そうだったんですか!!

上野:
はい。武神の鎧は、ミルザが人間の時に装備していたはずなので、あれは人の手で作られた物なんです。というように、性能がどうというよりは、僕が結構そのあたりの物語性を重視して意見させてもらっています。

自分自身がファンだからこそこだわった仕様

やわらか:
快適さ向上でいうと、ミニマップで奥の方まで見えるようになり、それがすごく助かっています。前までだったらわざわざポーズを押していましたが、これだとゲーム自体の流れが切れてしまって。今回はミニマップが実装されたことで、画面の片隅でリアルタイムで敵の動きなどが反映されていて、それでサクサク進めました。ダンジョンを進めている途中で進行度が変わっているのを見ることができたりもしますし、そうした点はどういう経緯で盛り込まれることになったのでしょうか。


上野:
ミニマップに関しては、今どきのゲームならあってほしいよね、という思いもあり実装しました。本当は『サガフロ』リマスターの時もミニマップをやろうとしていたんですけど、いろいろ事情があり叶わなかったので、「今度こそ」という気持ちが僕の中であって。最初からこれは入れることを決めていた感じですね。

あと気を遣った点としては、オリジナルではポーズすると音楽も止まるんですよね。だからマップを開く時なども、ゲームの世界が完全に止まったような感じがしていたんです。マップを開くという、たったそれだけの動作なんだけど、でも結構マップを見なきゃいけない瞬間はあるし。ただ、ポーズによって音楽が途切れてしまう。

小さなマイナーチェンジではありますが、リマスター版ではポーズしている時に音楽を止めないようにしました。ポーズしても音楽が流れ続けているんです。オリジナルのファンの人から怒られるかなと覚悟していたのですが、好意的に受け止めてもらってほっとしています。

やわらか:
言われてみれば確かに!割と自然に調整されていた!

上野:
あと進行度を見えるようにしたのは、みなさんどうせギユウ軍で確認するでしょと思っていたので……(笑)だったら、リアルタイムに見えていた方が手間がかからない、くらいの考えですね。

やわらか:
進行度が見えるようになったのは、かなりありがたいです!確かにギユウ軍に行って、話を聞いたらアドバイスの中身で進行度はだいたいわかります。でも、逆にそうしなかったら今どのくらいのペースで物語が進んでいるかが感じ取れないので不安でした。今は、大体時計の針を見て「あっ、今なんだかんだで物語中盤まで来たのかな。折り返しはじめたのかな」といった感じ取りができるので大きいです。

上野:
『ミンサガ』は、基本的にその時間の流れがわかってこそのゲームかなと。そもそも、いまさらなんですが、進行度という言葉を生放送とかでも普通に使っていますけど、今回、初めて『ミンサガ』に触れる方にとっては、たぶん意味がわからないと思うんですよ。

※一般のRPGとは違い『ミンサガ』では、戦闘やイベントをこなした数によって、ゲームの物語が進行していく。今どのくらい物語が進んでいるかを、便宜上、進行度と呼んでいる。

やわらか:
たしかに!(笑)そうですよね。『ポケモン』でいう種族値とか厳選とか言い始めているような(笑)


上野:
そうなんです。そんなレベルの話をしていて(笑)なので、リマスター版では見える化をしています。初見の方は「なんか原作をプレイした人たちは便利って言ってるよね、でも、何かよくわからないね」でいいと思っていて。1周したら、どのタイミングでボスに行けるようになるかが初めて判明しますよね。それを繰り返していくうちに、何となく時間が進むことによる切迫感を感じていただけるかな、と思っていまして。そういう体験を織り込んで、周回プレイ向け仕様をいろいろと入れているんです。

やわらか:
見える化、なるほど。それも先程話されていた「最近のゲームだから」というところですよね。今回のリマスターでオートランを付けていたりとか、移動を速くしたりというのも、ゲームベースは崩さないけどプレイしやすくしているだけだから、付けていいという判断だったんですね。ここまで快適さにこだわった理由はなんでしょうか。

上野:
ファンである自分がディレクターとして立たせてもらっているからかもしれません。原作を作った会社の人間がディレクターとして立つことは、一般的なリマスター作品ではそんなに多くはないと思うのですが、『サガ』シリーズでは、それをさせてもらっているので、いろいろとこだわることができるのかなと。

やわらか:
ビジネスだけでなく、パッションもあると。

上野:
そうですね。追加要素がないと売れないだろうというところもありますが!ビジネスとパッションのバランス調整は難しいですね。

やわらか:
PS2のオリジナル版になかったミニマップ実装するとか、大変だったと思います。派手さのないシステム改善はパッションがないと難しそうです!

上野:
良くも悪くも『サガ』シリーズは、固定ファンの方々が多いんですよね。フリーシナリオなどシステム面の相性がありますし。『FF』とか『ドラクエ』とかだと、もっと広い層に届けないといけないので、話題になりやすいようなセンセーショナルな何かを足していったりすると思うんです。でも『サガ』はまず旧来のファンの人に確実に届けたいというのがあるので、「こいつらわかってねえな」と思われる作品にしてしまうのが怖くて。そんな作品にすると、今後の『サガ』シリーズを遊んでもらえなくなってしまう。だから丁寧にやるようにしているのかもしれないですね。

やわらか:
一般的にリマスターというのは、ハードに合わせて移植する印象が強いんですが、『サガフロ』『ミンサガ』だとハードに合わせて移植しましたというよりも、その良さをちゃんと今の形にするために、移植ではなくて丁寧にリビルドされてると感じます。

上野:
僕があくまで(オリジナルに関わっていない)外の人間だというのが大きいと思います。自分でそのIPを作った人が、ご自身でリメイクをすると、ここは違ったな…というところを簡単に変える判断ができると思うんですよ。でも僕の場合は、まず自分が『サガ』ファンなので、ここを変えたら原作の魅力を損なわないか、河津さんや小泉さんたちが当時はどうしたかったんだろうか、というのがまず一番気になるんですよね。

やわらか:
熱烈ファンですね!

上野:
はい(笑)その上で当時やりたかったことと、改善したいことを天秤にかける。発売から20年近く経っているので、お客さんがどこに不満があるかという点も情報としては揃っています。なので、やりたかったことと改善したいことのバランスを見て決められるのが大きいかもしれないですね。

やわらか:
究極のファンだからこそ、汲み取れた部分とか捨てた部分はあると。

上野:
そうです。だから、普通の人だったらしないかなという大胆な判断も結構しているかもしれないですね(笑)

やわらか:
『サガフロ』リマスターのスクラップのバグが残っていたのも良かったです!ああいった点から「わかってるな、この人」というのが伝わってきました。

上野:
そこはノーコメントにさせていただきます(笑)

RTAについて

AUTOMATON編集部:
ちなみに、RTAについてはどうお考えでしょうか。答えづらい質問かもしれませんが……!

上野:
これは難しい質問ですね……。あくまで個人的な回答とします。そういう楽しみ方をしてくれている人がいることは知っていて、作品の大きなファンでいてくれるのが、まずありがたいです。ただ人によって意見は違うと思います。たとえばタイムアタックで早解きをするのは、本来の遊び方とはちょっと違うという点で、歯がゆさを感じる人もいるかもしれません。

ただ、そうしたプレイヤーに向けて配慮している部分もあります。具体的には、「NEW GAME+」でチュートリアルフラグを引き継ぐか選べるんですよね。RTA走者によっては、閃き縛り連携縛りをした方が、チュートリアルが表示されない分、プレイが早くなることがあったりするので。


やわらか:
そこは実際RTAでも連携の解禁をできるだけ遅くしています!あれが割り込んでくるとそこからさらに支援とかで時間がかかってしまう場面が出てくるので、時間がかかる要素を出さないために最初の連携が起点となっているから、あれさえ止めておけば残りも出ないというノリで完全にバッチリ止めているという。

上野:
そうなんですよ。それを2周目以降、「本当にNEW GAMEからじゃないとその遊びができないのか!」という人向けに入れている機能なので。それで盛り上がってくれていると嬉しいです。一方で、オリジナルのスタッフやファンの方々で、複雑に思う人がいるならば、僕としてもリマスター版『ミンサガ』を預かる身としてバランスをとらないといけないところで……やっぱりRTAの是非についてはコメントは難しいですね(笑)原則的には、実況や動画配信は、公開しているポリシーの範囲でやっていただく分には問題ない、というのがスクウェア・エニックスの方針ではあります。

「ミンサガリマスター」動画・画像投稿/生配信ガイドライン
https://sqex.to/MINSAGARGUIDELINE


やわらか:
なるほど。そこの距離感は難しいですよね。ちなみに自分はRTAをしていますが、『ミンサガ』においては視聴者からRTAを始めたいと相談されることもあり、その場合は、まずしっかりやり込んでほしいとは言っています。ちゃんとゲームを開発者の意図した方向で楽しんでもらって、その上で新たな遊び方をしたい人はすればいいと思っています!

RTAはゲームの要素を極限まで削ぎ落とした遊びなので、削ぎ落とす前にまずしっかり旨味を味わってほしいなと。『アンリミテッド:サガ』のように、普通に遊んでいたら難しいしよくわからないけれど、贅肉を削ぎ落とした結果ものすごくのめりこめるようなゲームもありますが……(笑)僕はRTAについては、たとえば「30時間のゲームの面白さを1時間に凝縮してみればどうなるか」というようなイメージの遊びだと思っています。

上野:
RTAされる方は、下手したら僕らより仕様に詳しいことはままあります。それだけやり込んでもらえるのは、単純にありがたいという気持ちもありますね。

やわらか:
『ミンサガ』は特にプレイしてこそ面白いゲームだと思います。なので、まずどのルートでもいいのでクリアしてほしいです!RTAを見て楽しむだけなのはもったいない。

上野:
『ミンサガ』は難しいので、RTAで勉強した知識も含め、いろんな方法で遊んでいただくのがいいと思います。そのために、ゲーム内にいろんなお助け手段も揃っていますし。「オーヴァドライブ」とかも考えようによっては公式チートですよね。RTAのテクニックを含めて色々と楽しんでいただき、もっと『ミンサガ』を好きになってください!

AUTOMATON編集部:
(笑)おふたかたともに丁寧な回答ありがとうございます。あくまで遊び方のひとつなので、べったりしあわなくても否定しあわず、適度な距離感を保つことが大事そうですね。

気持ちよく遊んでほしいから

やわらか:
もっといろいろ聞かせてください!薬草と鉱石と財宝発掘、そしてランダム宝箱まわりで、従来よりもいいアイテムを入手できやすいなと感じています。調整されているんでしょうか。

上野:
基本的に北米版準拠にしているので、鉱石とかに関しては、北米版でほとんど調整されていて、それと同じではあります。パーセンテージに関しては基本的に何も変えていません。ただ、先日の生放送でも小泉さんが言っていましたが、疑似乱数だったものを本物の乱数に変えた部分もあるので、体感の確率は変わっているとは思います。

やわらか:
運がいい人は、宝の地図レベル3から財宝発掘して、ヴォーパルアクスとか青の剣取って大喜びしている人がいますね(笑)

上野:
そうなんです。当時、擬似乱数が原因の「音ゲー」と言われていた苦行もなくなって。純粋な財宝探しの楽しみを味わっていただけるかなと。

やわらか:
純粋な財宝探しができるようになったのは、すごく嬉しいんですよね!当時だと地図の中からレベルの高いものを探し出した上に、特定の地方でさらに特定の小節の音符らへんを決めて謎の掘り起こしをしなければいけなくて。Excelの表みたいな感じで書き起こしてあったのを見ながらしていました。あ、そうか。日本語版だと仕様で取れないアイテムがあり、それを避けるために導入した可能性もあるのか。

上野:
そうですね。なので、調整を入れましたかという問いに対しては、原作とは違うという意味で、調整は入っているという回答になるかもしれません。

やわらか:
用意されているアイテムをきちんと取れるようにしたと。

上野:
元々このバランスで手に入れてほしかったはずのバランスになっています。

やわらか:
それはもう財宝発掘ではおいしい思いをさせてもらいました。ありがとうございます。

上野:
青の剣をパーティー全員分用意できる、程度にはなっているので。

やわらか:
(笑)ちなみに調整については、味方の技・魔法とか、敵の技や能力など性能部分は調整されているんでしょうか。


上野:
技性能は変わってはいないんですけど、日本版・北米版混合にしている、が正解ですね。両方の「強い」方を採用しています。たとえば、北米版で弱体化されたものは日本版を採用して、北米版で強化されたものは北米版を採用している。基本的に、オリジナル版を体験した人に「弱体化されちゃったな」と思われないようにしています。

やわらか:
ゲーマーは弱体化に敏感ですよね(笑)

上野:
だから北米版では、サイコブラストはコストが1個上がっているんですが、リマスター版では、日本版の原作と同じコストになっているんですよ。あと敵の能力に関しては、バランス調整ではないんですけど、オリジナル版ではいくつかの敵に“どうしても使ってこない技”があったんですよね。

やわらか:
ああ……四天王のあれとかですね。

上野:
有名かもしれないですね。

やわらか:
2ターン目に吹き飛ばされましたね。

上野:
あのあたりも含めて、きちんと出るようにプログラムを修正したりはしています。

やわらか:
ではジュエルビーストも……(笑)

上野:
ジュエルビーストに関しては、ちょっとややこしいんですけど、北米版ではジュエルブラスターの使用頻度が上がったんですが、行動回数が減ったことによって結果的に弱体化していたんですよね。なので、日米混合にしています。強力な技の使用頻度を増やしたうえで行動回数も原作の日本版と同じにしているので、ダブルで強くなっていますね。ジュエルビーストは実質強化になっている。そういうパターンもあります。


やわらか:
なるほどなぁ!基本的にバランスは、日本版と北米版の中からいい方を選んでいるのであって、独自に調整しているわけではないんですね。

上野:
新たな数値を入れたわけではないです。2つを比較して優れている、ユーザーさんがより楽しいかなと思う方を選択しているって感じですね。

やわらか:
遊んでいて楽しい理由がわかりました!今後「この仕様は日本版と北米版どっちが採用されたんだろうか」と考えながら遊ぶのが楽しみです。

AUTOMATON編集部:
ちなみに、オリジナルスタッフから「楽にしすぎ」といった意見がきたりもしたんでしょうか。

上野:
結構止められた提案もあります(笑)もうちょっとやろうとしたことはありはしました。

AUTOMATON編集部:
肌感としては、要求の何%くらい通った感じですか?

上野:
パーセンテージにすると、70%はOKいただいたんじゃないですかね。

AUTOMATON編集部:
いちゲーマーとして上野さんあるいはチームが戦った結果、70%まで通せたと。

上野:
そうかもしれません。結構粘り腰で変えた部分もありました。実際のところ、僕はファン代表の気持ちで、ファンが遊びたい『ミンサガ』にできたみたいな感覚なので。

やわらか:
(笑)

AUTOMATON編集部:
それではやわらかさん、締めとして『ミンサガ』リマスターへの想いをお願いします。

やわらか:
よくぞここのクオリティまで、バランスとりながら上げてくれたなという、感謝の気持ちしかないです。最初からいきなりRTAするか迷ったんですが、そこはまずやりこみにしました。で、やりこんでよかった。本当にひとつひとつ丁寧にリマスターされていて、土台はしっかりしているけど細部が遊びやすい。とても繊細なバランスなのでいじりづらいゲームだと思いますが、よく現代に蘇らせてくれたなと。

今だったら詰まってもSNSでいろんな人に聞きながらできるので、そういう風にしてみんなで相談しながらやってほしいゲームですね。改めて、作っていただいて本当にありがとうございました。

上野:
ありがとうございます。今言っていただいたことを聞くと、開発を始めて全貌が見えてきた頃に、『サガ』総合プロデューサーの市川さん(市川雅統氏)と話していた内容を思い出しました。時代が『ミンサガ』に追いついてきたな、と。

たとえば『ミンサガ』は、当時その頭身の低さを受け付けない方もいましたが、今ではスマホのゲームでも同じ頭身の3Dモデルがよく使われたりして、当時より違和感なく見られたり。あるいは、難しめのゲームのバランスも、ソウル系や高難易度ゲームが流行ってきたお陰で、「全滅」に対する嫌な気持ちも昔より緩和されているんじゃないか、とか。時代が1周して『ミンサガ』に追いついてきたんじゃないかという話はしていて(笑)


SNSのつながりも相性良いですよね。僕はリマスター前の『ミンサガ』を実況されてる方々の動画は一通り見ているつもりなんですが、普段は初見プレイでアドバイス不要という実況者でも、『ミンサガ』の場合はアドバイスウェルカムな人もいて、これが面白いなと。

やわらか:
『ミンサガ』は、みんなでワイワイ相談しながらクリアしていくのも、楽しいゲームだと思うんですよ!

上野:
そうなんですよ。『サガ』シリーズがそもそも、それぞれのプレイヤーがそれぞれの物語を作っていくみたいなところがテーマにある。今時代が追いついて、リアルタイムに経験者のコメントを見ながら、つまり他人の物語を見ながら、自分の物語を楽しめる時代になっていて、すごくマッチしているなと。その辺がうまく多くの人に伝わればいいなと思っています。

やわらか:
配信や実況との相性もとてもいいです!

上野:
そうですよね。だからそういった層の人に遊んでもらいつつ、やりこみの人にはこんなすごいプレイできたぞ、っていう動画も上げてもらって、どんな遊び方をしてもSNS映えするゲームだと思いますので、みなさんに自分だけの遊び方で楽しんでいただければ何よりです!

やわらか:
素敵なゲームをありがとうございます!

AUTOMATON編集部:
ありがとうございました。

ロマンシング サガ -ミンストレルソング- リマスター』は、PS5/PS4/Nintendo Switch/Steam/iOS/Android向けに発売中だ。

[聞き手: やわらか]
[執筆: Koutaro Sato]
[聞き手・編集: Ayuo Kawase]

© 1992, 2005, 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
ILLUSTRATION: TOMOMI KOBAYASHI

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