『マーベル ミッドナイト・サンズ』開発者インタビュー。ヒーロー×シミュレーションを成立させるための工夫や制作意図を聞いた

 

マーベル・ユニバースを原作に据えたシミュレーションRPG『マーベル ミッドナイト・サンズ』が12月2日に発売予定だ。対応プラットフォームはPS5/Xbox Series X|S/PC(Steam、Epic Gamesストア)となっている(PS4/Xbox One/Nintendo Switch版は後日発売)。本作は『シドマイヤーズ シヴィライゼーション』シリーズや『XCOM』シリーズで知られるFiraxis Gamesが開発を担当。カードゲームと戦略的シミュレーションRPG、そしてダイナミックなヒーローたちの活躍ミックスした、オリジナリティ溢れる作風を特徴としている。今回はその発売を記念して、本作の開発チームに対し、メール形式のインタビューを行った。なぜこの企画が実現したのか。どうしてこのゲームシステムになったのか。Firaxis Games・クリエイティブディレクターのJake Solomon氏に制作意図を聞いた。


──マーベルから「ゲームを作ってください」というオファーが来たときどんな気持ちでしたか?

Jake Solomon(以下、Solomon)氏:

マーベル・ユニバースのゲームを作ることに興味はないか?とマーベル自身から打診があったことは、正直いまでも信じられません。ライセンスゲームの制作は今までやったことはなかったのですが、私含め、チームのメンバーの多くがマーベルの大ファンで、何十年もコミックを読み続けていたので、愛の力で良いものができる自信はありました。

マーベルと電話で話したとき、彼らが『XCOM』への愛を語ってくれたこと、彼らのチームメンバー全員の名前をつけた部隊を持っていたこと、最終ミッションについて具体的なフィードバックをもらったことなどから、彼らが我々の作るゲームについて深く理解してくれていると実感しました。お互いにそれぞれの作品を理解し、愛しているということは本当に重要な要素だと思います。そしてもちろん、マーベルの世界で新しいものを作るというのは夢にまで見た機会でしたのでこのオファーに飛びつきました。

──1990年代のコミックスが好きだからこそ、本作はミッドナイト・サンズをテーマにしていると伺っていますが、敵味方どちらとも、登場メンバーのラインナップは何を意識した選出でしょうか。

Solomon氏:
マーベルファンに、もし好きなキャラクターを選べるとしたら、どんなヒーローたちの参戦が理想かを聞いてみると、一人一人リストが違うでしょう。誰もが納得するリストを作るのは難しく、なぜあのヒーローが選ばれなかったのか?という思いも完全に理解できます。

私たちは、いくつかの要素を念頭に置いて参戦リストを作成しました。一つはシンプルに知名度、『マーベル ミッドナイト・サンズ』にはみんなが大好きでプレイしたいと思うようなヒーローがいるようにしたかったのです。第二にヒーロー達の能力です。つまり、ゲームとしてプレイしたときの感覚が十分に異なるようにするため、たとえば剣を使うヒーローが多すぎるような事態は避けたかったのです。そして、魔術サイドのキャラクターを多く採用するということ。「Rise of the Midnight Sons」が物語のベースになっていますので、ドクター・ストレンジやブレイドのような超常的能力を扱うヒーローを参戦させました。また、ニコ・ミノルや私のお気に入りのマジックのような比較的新しい作品の魔術系ヒーローも取り入れ皆さんに新たなヒーローの魅力に触れてもらう機会も設けました。


──本作では「ハンター」というオリジナルヒーローがプレイヤーの分身として登場しますが、なぜ実装したのでしょう。既存のヒーローたちだけでも物語は作れそうだと思ったので、お聞きしたいです。

Solomon氏:
ハンターは、プロジェクト開始当初からプレイヤーが自分の姿になりきってゲームのストーリーを体験できるようなオリジナルの新キャラクターが必要だという考えから生み出されました。

アイアンマンやスパイダーマン、キャプテン・アメリカを操作キャラにするとそのヒーローのゲームになってしまうので、プレイヤー自身がヒーローとして物語を体験するためのキャラが必要だったのです。『マーベル ミッドナイト・サンズ』は、マーベル・ユニバースの隅々からヒーローが集結するクロスオーバー作品として、コミックにインスパイアされたイベントのようなものにしたかったのです。

なぜハンターがリリスの子供なのかというと、これはコミックの「Rise of the Midnight Sons」に登場するオリジナルのリリスの物語にさかのぼります。そこでは、リリスにはリリンと呼ばれる、不気味なキャラクターの子供たちがたくさんいました。しかし、彼女は母親として本当に彼らのことを愛していました。それが記憶に強く残っていて、『マーベル ミッドナイト・サンズ』では母親の愛というテーマを軸にしたいと考えたのです。

──ハンターの背景設定が出来上がるまでのプロセスを開示できる範囲で教えてください。

Solomon氏:
上記内容と被る部分がありますが、『マーベル ミッドナイト・サンズ』では、アイアンマンやキャプテン・アメリカのような伝説のヒーローたちを率いるスーパーヒーローになりたいというファンタジーを実現することがゲームの柱の一つになっているので、プレイヤーが自身を体現できるようなオリジナルキャラクターを作りたいと早い段階から考えていました。マーベルは本当に協力的でしたが、オリジナルヒーローを作るのは極めて大変なことで、バックストーリーから彼らのセリフ、デザイン面まで、すべてを正しく理解しなければうまくいかないということも正しく指摘してくれました。

また、この物語ではリリスはあなたの母親であり、世界を終わらせるという彼女の目標はあなたが敵か味方かわからないヒーロー仲間たちとの間に緊張感をもたらし、そこからどのように絆を築くかということも制作の軸でした。ハンターの正体を知り、プレイヤーが選んだ道に導いてくれるのが待ち遠しいです。


──どうしてカードゲームを中心にした戦闘システムをデザインしたのでしょうか。

Solomon氏:
『マーベル ミッドナイト・サンズ』は、「Marvel XCOM」のようなものを作ろうと思ってスタートしましたが、死に物狂いでエイリアンの侵略から生き残ることと、スーパーヒーローとして戦場を圧倒するというのは、方向性としてはほぼ真逆でした。そのため、『マーベル ミッドナイト・サンズ』では戦闘におけるいくつかのシステムを削除しました。カバーなし、確率による命中判定なし、パーマデスなしなど。ただ、『XCOM』のシステムからそれらを削除しただけではプレイしていて楽しいとは思えず、まったく別のゲームプレイデザインが必要になりました。

タクティクスゲームは本質的にはパズルのようなもので、パズルは何度遊んでも面白い複雑さを持ち合わせている必要があり、そうでなければ戦闘はいつも同じ展開になってしまい退屈です。『XCOM』には命中率が設定されていましたが、『マーベル ミッドナイト・サンズ』には別のメカニズムが必要でした。そこでプレイヤーにアビリティをランダムに与えることを考えついたのですが、そこにカードゲームという要素がぴったりとハマったのです。カードゲームがどのような物かは誰もがすでにある程度理解しているのも利点でした。重要なのはカードを引き、ランダムで手に入れ、それをプレイするという点です。

また、『Slay the Spire』や『Hearthstone』のように、カードを使って驚くほど面白いプレイができることを証明しているゲームの存在の後押しがあったというのは確かにあります。

──各ヒーロー間のシナジーはどのような意図でデザインされていますか?たとえば、原作で仲が良いヒーローは一緒に使うと強くなるなどを意識してデザインしていますか?

Solomon氏:
ヒーローの戦闘デザインにはいくつかの要素があり、物語的にマッチするヒーローが戦場でもマッチするようにという要素はあまり考慮しませんでした。

その代わりに、私たちはいくつかの異なる角度から検討しました。キャプテン・マーベルのようなキャラクターをどのように我々の戦闘システムに組み込むか、あるいはキャプテン・アメリカやウルヴァリンのような同じ近接戦闘が得意なキャラクターをどのように差別化するか?キャプテン・マーベルはスロースターターですが、3つのアビリティをプレイし、バイナリーモードに入ることで、ゲーム内でもっとも高いダメージを与えることができるキャラクターの1人になります。キャプテン・アメリカは究極のチームプレイヤーで、仲間のヒーローにブロックを付与して敵を翻弄することができ、ウルヴァリンはバーサーカー的な戦い方に自己回復能力を組み合わせることでバランスをとっています。

そして、それぞれのキャラクターが得意とする、あるいは苦手とする戦闘スタイルも決めました。あるヒーローは効果範囲の広いダメージを与えるのが得意で、あるヒーローは単体ダメージが得意です。ニコ・ミノルのようなヒーローは大量のヒロイズムを生み出せまし、ゴーストライダーは大量のヒロイズムを消費します。

あるヒーローは特定の方向に育成しなければならない、という作りにはしたくなかったので、複数のスタイルを選択できるような作りにもしました。あるいは一人のヒーローが強力すぎてそれに依存してしまうことがないようにバランスもとりました。皆さんが思うままに育成し、それがチームとして活躍できるようにしたかったのです。


──シミュレーションゲームは複雑で、ゲーム初心者お断りのイメージがあります。遊びやすくするために、どのような工夫をしましたか?

Solomon氏:
戦略ゲームをデザインする場合、どうしても複雑なところから始めなければなりません。先ほども述べた通り、タクティクスゲームはパズルであり、そのパズルは複雑さとランダム化などの工夫によって遊び続けても面白いものでなければなりません。最初からすべてをシンプルにしてしまうと、プレイヤーに面白い判断を与えることができないゲームになってしまうかもしれません。初心者の方でも簡単に遊べるというのは、戦闘システムを作る上でもっとも難しいことのひとつだと思います。ですので、もし遊びやすいと感じていただけたなら、バランスをとった結果としてそうなった、というのが適切かもしれません。

──なぜヒーローとの交流をゲームに取り入れたのでしょう。そして、ヒーローとの交流で好感度が下がる選択肢を設けたのはなぜでしょう。

Solomon氏:
スーパーヒーローのゲームを考えるとき、ファンタジーには2つの要素があります。ひとつは戦闘に関するもので、「スーパーパワーを持ち、ヴィランと戦うのはどんな感じなのか?」という点です。多くのゲームではこの部分で成功しており、私たちのゲームでもスーパーヒーローの部隊を操作し、カードベースの戦術的な戦闘を体験できます。同じくらい重要なもう一つの要素は「スーパーヒーローとして生きるとはどういうことなのか?」という点です。大人気のヒーローたちを考えてみると、彼らを人間らしくし、親しみやすくするのは戦場から離れた瞬間なのです。X-MENはミュータントの力を使って戦います。しかし、その後エグゼビアの学校に帰ってきて、勉強し、成長しようとする彼らの生活を見ることができるのです。

そのため、「ハンター」というオリジナルの新キャラクターを作り、プレイヤーがこのキャラクターを通してマーベルの世界に直接足を踏み入れることができるようにすると同時に、仲間のヒーローと会話し、友情を育み、絆を深め、もし仲間のヒーローの気持ちを理解できなかったら傷つくということが重要なポイントになりました。ヒーローとの友好度を減らせるようにしたのは対話の選択肢を面白くするためであり、プレイヤーが相手の気持ちを理解しようと作品世界に感情移入してもらうためであり、また相手の気持ちを理解できたプレイヤーに報いるためでもあります。

──今後DLCにて追加されるヒーローについて、可能な範囲で教えてください。

Solomon氏:
各DLCヒーローにはそれぞれミッションが用意されており、ゲーム本編にシームレスに組み込まれています。ほかのヒーローと同様に、友情を育んだり、能力をカスタマイズしたりすることができます。

──ありがとうございました。

『マーベル ミッドナイト・サンズ』PS5/Xbox Series X|S/PC(Steam/Epic Gamesストア)版は12月2日に発売予定だ。