『Banished』 AOEでやりたかった“シムシティ”の先


2014年2月19日にリリースされた『Banished』。プラットフォームは Steam をはじめ、公式gog.comHumble Store。Steam 以外は DRM フリーです。言語は英語のみですが、プレイするにあたって障壁にはならないレベルの平易なものです。日本語情報もある程度存在します。

 


街をつくる

 

本作を乱暴な一言で片付けてしまえば、中世版シムシティといったところでしょう。プレイヤーは指導者となって、追放された人々をみちびき、あらたな 街をつくりあげていきます。人口を何名にする、街をどこそこまで拡張するといった明確なゴールは与えられておらず、際限なく街を管理し発展させていくこと ができます。人口が 0 になってもゲームオーバーにはならず、ただ時間だけが経過していきます。

最初に所有している資源はわずかしかありませんが、周囲には豊かな自然があります。開墾するため木を切り、石や鉄を集め、それらを活用して街を大き くしていきます。施設は畑である Crop Field や、牧場である Pasture からはじまり、道具をつくる Blacksmith、エールを醸造する Tavern と多彩です。街の情報を蓄積する Town Hall や教育をおこなう School House などもあります。畑と家しかない田舎をつくるのも、整備された都市をつくるのもプレイヤー次第です。

また、本作では森が重要な要素となっています。森を管理し、植林や伐採をおこなうことによって薪や建材にする木材を供給する Forester Lodgeをはじめ、高効率な採集施設 Gatherers Hut や、住民の健康のために欠かせない薬草をあつめる Herbalist。狩りで肉や毛皮をあつめるHunting Cabin も森で活動します。森を伐採して街にすることもできます。しかし、森は豊かな生活には欠かせないのです。

 


静かな熱中

 

だいたいあってる。
だいたいあってる。

 

筆者が本作のトレイラーを見て最初に連想したのが『Age of Empires II』 でした。RTS である『Age of Empires II』では、気合を入れて美しい街をつくることは「シムシティでやれ」と揶揄されていました。戦闘による勝利という明確な目標がある、RTS というフィールドでは当然のことです。しかし本作はちがいます。街をつくっていくこそが目的であり、目標なのです。

時代の進化やほかの国家・プレイヤーといった、なにかをせかしてくる要素はありません。外界とかかわる要素は Trading Post の交易と 、受け入れをもとめてTown Hall に移民が訪問してくる程度です。移民を受け入れると人口が大幅に増加しますが、疫病等のリスクもあります。反面、受け入れを断ってもリスクはありません。 外界と一切かかわらないプレイも可能です。

どのような街にするか、なにを重視するかはプレイヤーにゆだねられています。ゲーム開始時に広い平地がでるまで何度もやりなおして、京都のような碁 盤目状の都市をつくるのもよいでしょう。森を重視し、最低限の施設だけで暮らす森の民となってもよいですし、橋やトンネルを駆使して小さな平地をつないで いく小都市郡をつくってもよいのです。

 

 


中世という舞台、過酷な自然

 

開始2年目。 先を見越して学校と市場を早めに建て、農地と牧場を右手の平野にひろげ、北の森には各種森林施設を。
開始2年目。先を見越して学校と市場を早めに建て、農地と牧場を右手の平野にひろげ、北の森には各種森林施設を。

 

街づくりは楽しいことばかりではありません。最初に人々に襲いかかるのは飢えと寒さです。開始から数年間からはこれらからのがれることに注力するこ とになります。食料や薪が尽きてしまい、住民が餓死や凍死で減少し、生産力が落ちてさらに食料や薪が不足し……このスパイラルから脱するのは容易ではあり ません。安定して生活するためにはバランスのとれた人・資源・施設が必要となります。

残念ながら、どこかから食料を買ったり衣料を輸入したりすることはできません。交易をおこなう Trading Post も存在しますが、物々交換しかおこなえないため、利用するにはある程度価値のある品物をそろえる必要があります。商人が持ってくるアイテムもランダムで、 序盤ではなかなか利用しづらいのです。

また、本作には飢えや寒さのほかに、疫病や火災、竜巻といった自然の試練が待ちかまえています。病院や薬草で住民の健康を維持し、井戸を設置して火 災の被害をとどめることがもとめられます。竜巻は不運と思うしかありませんが、ある程度街が育っているのであれば乗り越えることは不可能ではありません。

住民はだいたい 80 歳で老衰によって死亡しますが、それ以外にも高いところから落ちた、毒のある植物を食べた、斧で切ってしまった、難産だったなど、バラエティあふれる死因 が待ちかまえています。家族の死による悲しみは墓場である Cemetery をつくることで緩和されますが、これを怠っていて住民が自殺してしまった、などという死亡事例もあります。

 


コンパクトかつ濃密なゲーム内容と開発体制

 

本作では時間の進行スピードを変更することが可能です。ポーズも可能で、最大 10 倍まで加速することができます。この機能のおかげで、快適にプレイすることができます。ポーズは交易時にじっくり考える時間をあたえてくれ、10 倍は待ち時間の短縮によりテンポのよいプレイが可能です。

1 倍でのプレイ感覚はかなりゆったりとしており、なにかの片手間にプレイすることが可能です。災害をオフにすれば、1 時間に一度面倒を見る程度のプレイも可能です。筆者は最初の 10 時間ぐらいは 10 倍速とポーズを活用してみっちりとプレイしていましたが、それ以降は 1 倍にして半分放置している状態です。

プレイに対する懐の深さと幅の広さ、操作感のよさはなかなかのものです。また、Core i3 2100、Radeon HD 5750 という一昔前の PC でも、『Diablo III』と同時起動することができるレベルの快適さに仕上がっています。本作のデベロッパー、Shining Rock Software は開発メンバーがしっかりそろっているデベロッパーではなく、Luke Hodorowicz 氏と弟 Joseph 氏の二人しかおりません。このような質の高いものが、個人レベルで制作されているのはすばらしいことです。本作、そして Shining Rock Software のさらなる発展を願ってやみません。