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人を選ぶゲームデザインがなされた作品の評価が見直されている昨今。『ファイアーエムブレム』シリーズもまた、かつては「手ごわいシミュレーション」という旗を掲げ、万人受けしない作風を売りにしていた。だがそれも昔の話。『ファイアーエムブレム エンゲージ』は万人受けしないSRPG(シミュレーションRPG)というジャンルを万人受けさせるという、かつてとは真逆の使命を帯びて生まれた作品である。達成率については残念ながら50%に落ち着いてしまったが、彼の姿勢には長期間にわたるシリーズ継続について、考えさせられるものがある。




シミュレーションRPGのとっつきにくさ

シミュレーションRPGを多くの人に届けるというミッションを達成する上で最大の障壁となるのは、シミュレーションRPGという形式を採用していることそれ自体である。SRPG、ひいてはシミュレーションの要素を組み込んでいるゲームは得てして、遊びのルールや構造を把握し、プレイヤーの理想を画面上に出力するまで多くの時間がかかるものだ。失敗を繰り返しながら、地道に試行錯誤を繰り返していく。それでいて、「失敗」と「正解」が結びつきづらいのも特徴である。たとえば直感的な操作を可能にしている3Dアクションゲームであるならば、内容にもよるものの、ゲーム上の課題に対する正解のプロセスが明確に存在し、失敗もまたすぐに分かる作品が多い。そのため、失敗したときに「失敗したのだ」とプレイヤーが認識することができ、遠慮なく新たなアプローチを試すことが可能になる。同時に、失敗を潰したことで、正解に近づいている実感も湧きやすい。

一方、シミュレーションは「失敗」も「正解」も曖昧な現実の戯画化であるがゆえに、課題に対する適したアプローチが無数に存在する傾向にある。「適した」というのがミソであり、言い換えれば、攻略のプロセスにおいて明確な「失敗」も「正解」も存在しないのがシミュレーション要素を採用しているゲームの特徴になっている。クリアできればなんでも良いのだ。これは裏を返すと、ゲームオーバーの度に自分が上手く行っているのか分かりづらい。上達の心地よさを感じ取ることが難しいジャンルと言える。ゆえにシミュレーションは人を選ぶのだ。「手ごわいシミュレーション」ならなおさらである。

またシミュレーションRPGという形式は、現代におけるゲームデザインのトレンドから大きく離れているということも付け加えておきたい。タイムパフォーマンスという言葉が流行する昨今、面白くなるまでにプレイ時間のかかる作品は、いつでも手軽にプレイ時間を稼げるスマートフォンが採用プラットフォームとして適している。機材を起動して、プログラムを立ち上げて、オープニングが始まってまだ面白くないのでは遅すぎる。だからこそ、すぐに面白くなるアクションを採用した大型作品が多いのだ。


伝統と革新の両立


そんな逆境のもとで、『ファイアーエムブレム エンゲージ』が行った施策とは、「手軽さ」と「手ごわいシミュレーション」の両立だ。SRPGとしてのアプローチの幅広さ、試行錯誤の面白さを担保しながら、特に本作からSRPGというジャンルに触れるプレイヤーに向けて、ゲームが面白くなるまでの距離を可能な限り詰めている。SRPGを現代に適合させるべく、伝統と革新の両立、その限界に挑んでいる。

本作では30人以上のユニットが登場し、すべてのユニットが、専用クラスを除くほぼすべてのクラスになることができる。『ファイアーエムブレム 覚醒』のシステムである、ステータスを維持したレベルリセットも実装されている。ジャンルに慣れているプレイヤーからすれば、非常に心躍る仕様である。とは言うものの、初心者からすれば、誰をどう育てれば強いのか、誰をどのクラスにすれば良いのかパッと見で分からない。そもそもこのゲームにおける強さの基準も分からない。ただ分かりやすくしてしまうと、試行錯誤の面白さが伝わらない。


この認識を解決するのが、強力な装備である新要素「紋章士」の存在である。紋章士によって得られるパワーアップ内容は簡単に言うと、「ルールの踏み倒し」である。移動能力の拡張や、装備するだけで回復能力が得られるもの、特定の状況において攻撃がほぼ当たらなくなるなど、装備するだけで「視覚的に分かりやすく」強力なものが揃っている。目に見えて強くなるユニットの存在は、「好きなユニットに好きな紋章士を装備して育てれば良い」という取っ掛かりを提示し、「たくさん移動できるやつが強い」「攻撃に当たらないやつが強い」とゲームにおける強さの基準も示してくれる。ジャンルにつきものである「正解の分かりづらさ」を緩和してくれるだけでなく、装備するだけで強くなるため、直感的に面白い要素としても機能する。

中級者以上のプレイヤー向けの要素としても、「紋章士」の存在は興味深い。ゲームを高難易度に設定した場合に、攻略の鍵となることはもちろん、スキル継承の要素によって、旧来のクラスの価値観に囚われない強力なユニットを作り上げることができる。本作では長期間「紋章士」や指輪を装備することで、スキルポイントを獲得。これを消費することにより装備中の紋章士の能力を一部引き継ぐことができる。たとえば、味方の再行動を可能にする「ダンサー」のクラスは欠点として、移動能力に乏しく「再行動」以外の役割が持てない点が挙げられる。だが「行動後に再移動」できるシグルドのスキルを継承しながら「装備するだけで杖が使える」ミカヤの指輪を装備すれば、2回行動するユニットの速度に追いつく移動能力を持った、回復役兼バッファーというユニットに仕上がる。

なお、すべてのユニットに対して無制限のレベリングを行うことは難しい。レベリング用のステージは倒せば倒すほどに敵のレベルが上昇していく都合上、ゲームの進行度に対してステータスが追いつかないユニットが必ず登場してしまうことになる。これを手厳しいと認識するか、長期的な育成計画を通じた戦略性が存在する、と認識するかは意見が分かれるところだが、筆者は後者である。


さらに「紋章士」の要素は武器にも反映される。本作では資材を消費して武器を強化することができるが、それ以外の強化方法として、獲得している紋章士につき1本の武器のステータスを大幅に変動させることができる。変動内容は付与する紋章によって異なる。例を挙げると、カムイの紋章はクリティカルダメージが発生する確率を大幅に向上させる。もとよりクリティカルのステータスが高いユニットと組み合わせれば、凄まじい攻撃能力を発揮してくれることだろう。「紋章士」のシステムは、初心者にとっては「育成の取っ掛かり、手軽な攻略手段」として、中級者以上にとっては「今までにない育成要素の拡充」として機能していることが分かる。「紋章士」は歴代キーキャラクターの形をとりながら、初心者から上級者まで、さまざまなプレイヤーの歩みを影から支えてくれる。


ここまで目を通した読者の中には、「紋章士を通じて簡単に強いユニットが作れるなら、ステージの攻略内容が味気ないものになってしまうのではないか」という問いをもった方もいるだろう。この疑問には本作の秀逸なゲームデザインが回答を用意してくれている。単騎でステージを破壊できないよう、丈夫な枷が用意されている。最初に触れたいのは、敵ユニットの遠慮のない火力と復活した3すくみの存在である。この組み合わせによって、どこまで強力なキャラクターを育て上げたとしても明確な弱点が発生し、先手の有利を打ち込まれないよう、位置関係の重要性が非常に高くなっている。どこまでいっても連携プレイで敵を倒していくようデザインされている。

入り組んだ地形と頻繁な増援、ステージギミックの組み合わせもいい味を出している。本作のステージは中盤以降、行軍に際し、回り道や分岐点、パーティーの分割を用意している内容が多い。相性有利を活かした連携プレイで敵を倒していくよう戦闘がデザインされているにも関わらず、さまざまな手段で戦力の分断を強制してくるステージが山盛りである。ここで日頃の育成が効いてくる。複数人の連携プレイで叩けばいいと油断しているプレイヤーに対して、「ちゃんとシステムを理解して強いユニットを作れたか?」と個の能力を問うてくる。好きなキャラクターを活かす育成の楽しみを確保しつつ、戦況を読んで駒を動かす面白さを見事両立している。初心者向けのフォローとしては、難易度設定のほか、巻き戻し機能の続投、直感的なユニット移動、ステージ攻略中のセーブ実装に留まっている。これらはすべて「使わなくてもいい機能」であることがミソである。

つまり、育成にしろ戦闘にしろ、初心者向けにゲームデザインを一本化することなく、初心者向けの方向性と、中級者以降の方向性を1つのゲームの中に同居させている。「紋章士で好きなユニットを育成してね。でも全員の育成は厳しいよ」という育成要素と「詰まったら救済策を使ってね。難易度を上げたり、救済策を使わなければ歯ごたえある戦闘が楽しめるよ」という戦闘の組み合わせになっているのだ。通信プレイを活かしたエンドコンテンツも実装されており、ゲームボリュームについても十分である。


総じて、『ファイアーエムブレム エンゲージ』のゲームデザインはSRPGという万人受けしないジャンルを万人に売り出すべく、初心者向けの施策とコアユーザー向けの施策を1つの作品の中に同居させることによって、「手ごわいシミュレーション」という古くからの伝統と、現代らしいゲームデザインの両立が達成されている。同時にこの形は「複雑なもの、難しいものを簡単でシンプルな形に変換してしまえば、本質から遠ざかってしまう」という事実、そして「マス」と「ニッチ」の両立の難しさを改めて筆者に認識させてくれた。全体の外観としては、少々強引な突貫工事にも思えるが、相反する要素の両立にはこれが現状の最適解なのだろうとも思う。技術の革新やゲームというメディアの周知を通じて、さまざまな境遇にある人がゲームを遊ぶことが増えた現在。当然「買ったゲームがクリアできない」という人もまた増える。その現実と表現者としての拘りにどう向き合っていくのか。シリーズが今後どのような遊びを構築していくのか楽しみである。


SRPGの限界に直面しているナラティブの表現


SRPGというジャンルを万人に受け入れてもらうべく限界に挑んだゲームデザインの一方で、ナラティブの要素の大部分は試みに対しうまくいっていない。いつも通りの「支援会話」こそ豊かな内容になっているものの、メインストーリーを中心としたナラティブや、歴代シリーズキャラクターを紹介する要素に関しては不十分であり、失敗していると言わざるを得ない。この原因としては本作品がSRPGであるという部分が大きい。また、表現意図に合致するシステムを用意できていないというのもある。

シリーズにおけるひとつの分岐点となった『ファイアーエムブレム 覚醒』以降、同シリーズは傾向として、「キャラゲー」化を推し進めているのだと、筆者は考えている。とっつきにくいSRPGシリーズとしてではなく、IPとしての活用を目指しているのだと推測する。ここで言う「キャラゲー」とは、本編の外に出しても魅力を維持できる、ファンが本編の外の物語を自発的に描くような、キャラクターを中心としたナラティブの設計がなされたゲームである。

「結婚」という、戦争とは切り離されたキャラクターの掘り下げの形を提示したことを皮切りに、『幻影異聞録♯FE』という外部コラボ作品や、歴代キャラが一同に介する『ファイアーエムブレム ヒーローズ』『ファイアーエムブレム無双』「TCGファイアーエムブレム0(サイファ)」が登場。そしてコーエーテクモゲームスが中心となって生まれた前作『ファイアーエムブレム 風花雪月』によって、この試みは完全に達成された。恋愛シミュレーションライクなシステムと、倉花千夏氏によるキャラクターデザイン、平時と極限状態の転換を通じて描かれる複雑怪奇な群像劇や、戦争という背景を活かしたユニットの配置による戦闘中の演出が一つとなって、少なくともキャラゲーとしては魅力的な内容に仕上がっていた。


『ファイアーエムブレム エンゲージ』もまた、この「キャラゲー」路線を引き継ぐものである。V Tuberのキャラクターデザインで著名なMika Pikazo氏をキャラクターデザイナーとして採用したことや、ひとりひとりにただゲームの表面をなぞるだけでは分からない、数多くのチャームポイントが設定として盛り込まれていることからもそれは分かる。本作では人によって物語理解の障壁となる政治劇を完全に排除。シリーズらしい剣と魔法と竜の世界観を維持しながら、旅してパーティーを集めてラスボスを打倒する、JRPGのストーリーフォーマットを採用している。戦場を巡って仲間を集めるのは従来のシリーズでは当たり前ではあるものの、ステージ選択に際し、フィールド上の自キャラを直接移動させるオプションがデフォルトであったり、戦いのあとに戦場で採取の時間があったりと旅を意識させる演出がプレイ中の随所に挟まっている。一見、JRPGのストーリーフォーマットの採用は、親しみやすいという点で万人受けしやすく、パーティーメンバーひとりひとりを掘り下げる展開を生むことができるゆえに「キャラゲー」を表現する上で適しているように思えるが、残念ながら本作がSRPGであること自体がそれを邪魔してしまっている。


JRPG形式の王道ヒロイックファンタジーにおいて重要なのは「旅」の表現である。旅の特徴とは、出会い、別れ、食事、就寝、買い物、戦闘、恋愛など1つ1つ中身がバラバラのイベントが、旅というくくりを設けることによって、あたかも一貫性のある出来事に感じられる点にある。だが本作はゲームデザイン上、出陣と拠点での休憩という2種類のプレイしか表現ができない。さらに戦闘と休憩の間に連続性の付与や、中身がバラバラのイベントを数多く挿入することができていないため、旅情感が発生することもない。

また、SRPGであることはメインストーリーそのものにも影を落とす。旅をしていると感じられない中で、戦場ならまだしもカットシーン中に訪れる新たなキャラクターたちとの出会いは突拍子のないものに感じられてしまうし、旅を通じた物事の積み重ねがない中で行われる山場の演出は薄っぺらい。背景は戦場のマップをそのまま使っているため、JRPGに付きものであるフィールドの賑わいなどを表現できておらず、結果、コミカルなキャラクターたちの言動が空っぽの空間で浮いているように感じられる。やりたい表現にたいして演出が圧倒的に足りていない。シリーズ特有の支援会話がキャラクターの掘り下げを全面的に担当しているため、メインストーリーをなぞるだけではJRPG風な物語として内容の厚みが足りていないことも指摘しておきたい。

要するに、本作はSRPGのまま、JRPGの物語演出をそのまま採用しているため、ゲームとストーリーとの齟齬が発生してしまっているのだ。JRPGのストーリーフォーマットを採用すること自体は、シリーズにおける挑戦として、ウォーゲームにとらわれない新たなSRPGの物語表現として歓迎したい。だが残念ながら実現には至っていない。これを実現させるにはゲームデザインのベースをさらに崩す必要があり、根本的な部分での改修が必要だと思われる。

また、本作はキャラゲーとしても難がある。キャラゲーとして魅力的だった前作は群像劇を採用していたことに合わせ、すべての仲間キャラクターに対し興味を持てるようゲームデザインが組まれていたが、本作はビジュアル以外の面において、キャラクターを掘り下げる動機を呼び起こす要素が少ない。長いことユニットを活用し、レベルアップに伴う攻撃モーションの変化を観察したり、支援会話を発生させることができれば魅力的な側面が出てくるのだが、それをプレイヤーに誘発させる導線に乏しい。メインの王子、王女以外のユニットにも、ストーリー上にきちんとした見せ場を用意してほしかった。参戦している歴代キーキャラクターたちの扱いに関しても同様である。筆者としてはパーソナリティの掘り下げがほぼない彼らに対して懐かしい以上の感情を覚えることはなかった。この内容では本作からの参入者が過去の大型タイトルやスマートフォンゲームなどに興味を持ってくれるか疑問である。


万人受けを意識した作品作りを行うことは決して悪いことではない。シリーズを長く継続していく上で、年齢層の厚い1つ強固なファンベースを築くことはビジネスとしても、制作陣のモチベーションを保つ上でも非常に重要なことだ。そして今回上手くいったのは半々という結果になったが、流動的な世相を捉えることで、新機軸を生み出すきっかけにもなり得る。

 “人を選ぶゲームデザイン”を施した作品の評価が見直されている昨今。本作をプレイした人の中には、変に奇をてらわず、昔のままで良いのではと思う方もいるだろう。だが少なくとも過去、万人受けを意識した変化がなければ、いまこうして『ファイアーエムブレム エンゲージ』が発売されていないのは確かだ。どこまで維持して、どこまで変わるのか。今後も諦めずこの姿勢を継続して、SRPGというニッチなジャンルを表舞台で輝かせてほしい限りである。

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