イカサマ麻雀ゲームの魅力

ゲームで『ジャンル: 麻雀』。実際に牌を握って闘牌し、テレビを点ければエンタメ~テレやモンドTV で麻雀番組を漁り、あげく「自動卓はダメだ手積みでないと」などと真顔で語る極右派にとっては侮蔑の対象の1つでしょう。

昨今では PC 『天鳳』はじめ、アーケードでは『MJ』シリーズや『麻雀格闘倶楽部』など、いわば「リアル系」の麻雀ゲームが多くリリースされ、賑わっています。それらが指向するのは原則として現実の麻雀です。他家の表情や息遣いはわかりませんが、それゆえに余分な情報が削ぎ落とされた純粋さを醸し出しています。もはやネット経由の対戦麻雀が”実物”に劣っているとするのは後進的思考と断じてしまってよいかもしれません。

しかし「ゲームで麻雀」の歴史を少しでも振り返れば、現状がどうであれ本格的に打っている層から外道扱いを受けるのは致し方ない側面があります。それは、イカサマ麻雀ゲームの存在です。

実際の牌を使ったテクニックと比べてみれば、古典麻雀ゲームのイカサマはある種原始的ですらありました。相手の牌が透けて見える・確実にリーチ後一発ツモする・配牌を交換できる等など、いかにもゲーム的な裏芸といえるでしょう。

 


脱衣麻雀も、あれはあれで良いものだった

 

麻雀ゲームのイカサマを語る上では外せないのがニチブツこと日本物産です。「脱衣麻雀」の概念は、2人打ちという特殊性や(現実と比較すれば)あきらかに異常なゲーム性とともに広く長く受け入れられることになりました。アーケードゲーマーならばレトロな風貌の筐体で蠢くニチブツ製の何かを必ず見たことがあるはずです。

 

燦然と輝くニチブツロゴ。 公式サイトは存命。
燦然と輝くニチブツロゴ。

公式サイトは存命。

 

その後、有名所ではセタ『スーパーリアル麻雀』シリーズや彩京『ホットギミック』シリーズなど、数々の脱衣系ゲームが輩出されました。性描写に厳しいコンシューマ機向けにもいくつかイカサマ麻雀ゲームのDNAを継承する作品が生まれた点も見逃せません。なお、とくに家庭用向けの一部作品ではリアル系を模索したタイトルも複数ありましたが、昨今のネット麻雀のような、いわば”シミュレーター”級の内容のものはおそらくほぼ実現しなかったものと思われます(対人戦と対AI戦での作りの違いもあるでしょう)。

イカサマ(脱衣)麻雀ゲームは独特の面白さがありました。2人打ちならではのシンプルな河、突っ込みどころ満載の配牌、乱れ飛ぶ役満、コインいっこいれて即天和で絶叫etc。本物の麻雀とはまるで異なる、ただ13+1枚の牌を使う絵合わせでしかありませんでしたが、それゆえの奥深さや駆け引きがありました。たとえば、大きく削るのではなく一発でハコにできるラインまで細かく刻むといったテクニックはこうした「特殊ルール」でしか発生しえません。べつに H ボタンを連打しなくてもそれなりに面白かったのです。

 


リアルとアンリアルのはざま

 

一方でリアル志向麻雀ゲームとしては、ネット対戦タイトル『東風荘』が90年代末ごろから嵐を呼び起こしていました。無料でピュアな麻雀ができる革命的かつ革新的タイトルでした。多くの中高生~[上限なし]のハートをも鷲掴みにして以降、麻雀ゲームにはよりいっそう冷静な眼差しが向けられることになります。つまり、「イカサマ有りかそうでないか」という区別です。

イカサマ麻雀ゲームは麻雀にあらず。そうした向きも当然ではあります。事実、本物の麻雀が内包する奥深さとは無縁です。「とりあえずアイテムを使って脱がせばOK」な作品が主にアーケードで席巻するなか(『ホットギミック』の対戦のようなものもありましたが)、ある傑物が登場します。それがAC『兎-野性の闘牌-』(以下『兎』)です。近代麻雀に連載されている同名漫画のゲーム版になります。

 

『兎』の一幕。公式サイトは消滅。 (引用元: Youtube)
『兎』の一幕。公式サイトは消滅。

(引用元: Youtube)

 

『兎』は原作の登場キャラクターたちが持つ特殊能力を再現した、完全なイカサマ路線のタイトルです。しかし、「能力があること」をあらかじめ宣言することで逆に”イカサマ感”を薄れさせるという逆転の発想・アーケードでは絶無状態だった4人打ち麻雀を実現したこと・既存のイカサマ麻雀ゲームにありがちだった”作業感”を薄れさせ多少なりとも現実の麻雀にありうる思考を使わせたことなど、じつに斬新な内容だったのです。今では絶滅危惧種ですが、シリーズは重ねられておりオンライン対戦を実装したバージョンもリリースされました。

『兎』は「イカサマの有無」という明確な境界線の狭間にポジションをとったのです。リアルでありながらアンリアル。イカサマをしながらも公平。それこそが「イカサマ」麻雀「ゲーム」の面白みにほかなりません。もちろん、『兎』以前にもキャラクターに「傾向」を持たせたタイトルは複数ありました。というより、むしろ大多数がそうだったでしょう。しかし、演出面からこうもあからさまに、格好良く、清々しく、そしてゲームらしく仕上げてきたのは筆者の知る限りおそらく『兎』が初です。

 


ゲームに求められる「嘘」

 

ゲーム開発と環境が進化し136枚の麻雀牌の在り処をはっきりと明示できる昨今において、麻雀ゲームの存在意義は先述のとおり「対面での対戦ではない」ことにより麻雀世界外のノイズを除去できるという側面が第一。そのニが、「麻雀のようで麻雀ではないなにか」を楽しむことにあります。

ゲームはゲームです。必ずしも現実を模倣する必要はありません。”本物”の麻雀をやりたければ雀荘に行くもよし、雀卓を買って知人を呼ぶもよし、ゲーセンに行くもよし、『天鳳』の ID を作るもよし。ただ、ゲーマーとして「麻雀を題材にしたゲーム」をプレイしたいと思うようになるのはまったく不自然ではないでしょう。『マリオテニス』はテニスではありませんが、とてもテニスらしく、そして心地良いデコレーションでプレイヤーを楽しませてくれます。麻雀にも同じような快楽を期待するのは道理です。

リアル路線の麻雀ゲームは次々にリニューアルされてゆきアーケードシーンで不動の地位を築くにいたり、他方イカサマ路線は影が薄くなりつつあります。『兎』も続編が出ていません(そもそも原作が音信不通気味なのですが)。「本物の麻雀がゲームで楽しめるならそれでいいじゃないか」、なるほどその通り。しかし私はアンリアル麻雀もやりたいのです。

しかし出るときは出るものです。悶々とするのも通り過ぎイカサマ麻雀ゲームの妙味も忘れかけたころ、2010年突如現れたのがPSP『咲-Saki- Portable』。アニメ版『咲』をベースにした作品でPSP、キャラゲー……。不穏なオーラを感じ取ることもあるケースですが、こちらは根本部分は麻雀です。テキストアドベンチャーゲームではありません。

 

まさかの「本格”嘘”」路線、『咲』。 BEST版も発売中。
まさかの「本格”嘘”」路線、『咲』。

BEST版も発売中。

 

『咲』は『兎』に勝るとも劣らない原作愛とイカサマ麻雀ゲーム愛に満ちあふれています。”能力”制を採用しているのは『兎』と同じ。そして、「ギリギリ破綻する」レベルのイカサマスキルが各主要キャラクターに仕込まれています。破綻 vs 破綻の真っ向勝負。『兎』を思い出す熱い殴り合いです。

「原作を忠実に再現した」と評してもよいであろうキャラ達の嘘麻雀っぷりも見事ですが、なにより素晴らしいのは”無能力者”の存在。「イカサマの有無の境界線」をあきらかにするのみならず、「イカサマできない」いわばヒラ打ち能力まで用意しているのです。たしかに原作ではどう解釈しても空気なキャラクターがいくらか登場していました。それを「こいつは無能力だから」と非採用にするのではなく、”無能力”ときっちり肩書きに出す。このスタンスは、原作のディープなファンのみならずアンリアル麻雀ファンをもうならせるものです。

 

もはや神々しさすら感じる「能力」の文字。 無能もいます。
もはや神々しさすら感じる「能力」の文字。

無能もいます。

 

さらに、対人戦にはアドホック通信での4人対戦も用意。麻雀ファンのなかでもいささかニッチすぎる層を4人も同時に集めることができるかという問題はさておき、「非現実的な麻雀もこうすると面白いんだよ」という熱いメッセージを受け取った気分です。

なお、続編にあたる『咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A Portable』も本年度にリリース済み。開発は前作と同じくアルケミスト。原作では登場人物の怪物化が進んでいますが、ゲームでならばその描写の対応は比較的なんとかなりそうです。

 


気持よく騙されたい

 

麻雀を打っていると、ごくまれに奇跡的なシチュエーションに出くわします。脱衣麻雀もかくやというような配牌、手なりで打ったら流し満貫、槍槓で逆転。いろいろあります。そうしたレアな体験を忘れ去ることは不可能で、ときとしてその呪縛に囚われてしまうこともあります。

イカサマ麻雀ゲームは貴重な状況を気軽に追体験できるという、いうなれば「可能性の世界」なのです。本物の麻雀とは別物です。槓しても普通は有効牌を自摸ったりはしません。しかし、「それができる」カタルシスは本来であればゲームにこそ求められるべきです。”シミュレーター”系タイトルが台頭する今だからこそ、ゲームでイカサマ麻雀をやる意義があります。どんなジャンルにでもいえることですが、ゲームでなければできないことをやってこそのゲームなのですから。

 

天鳳にだって脱衣待ったなしの配牌が訪れることがある。 打ち手は筆者の妻。
天鳳にだって脱衣待ったなしの配牌が訪れることがある。

打ち手は筆者の妻。

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