Civilizationのススメ

 

発売してしばらくたったゲームで、改めて「このタイトルは面白い!」とふれて回る必要のないタイトルは確かに存在します。多くのプレイヤーと長い歴 史に裏付けられた名作。そう、『Sid Meier’s Civilization』シリーズもその一つです。ちなみに、本稿は最新拡張パック『Brave New World』を前提としています。

 


筆者が初めて「シヴィライゼーション」の単語に出会ったのは中学生の頃でした。ゲーム雑誌の記事でちらっと見かけて、タイトル名だけが強烈に頭に染み付いたのを記憶しております。まさかあの出会いが、10年殺しどころか20年殺しになるとは、夢にも思っていませんでした。

そして2013年の今、筆者と友人数名は、Steamのセールにホイホイ釣られて「購入」ボタンを押し、噂に違わぬ時間泥棒ぶりを身をもって味わっています。

さて、ではこの『Sid Meier’s Civilization Ⅴ』のどこにそんな魔力があるのでしょう。気になるけど検索しても情報が多すぎて二の足を踏んでしまう……そんな方の物欲発散の後押しとなれば幸いです。

 


待て……あと1ターンだけ……

 

本作のもっとも恐ろしいポイントです。たとえ夜中の1時だろうと、「この研究が終わったら寝よう」「この研究が終わったから世界遺産を」と、容赦な く時間を奪っていきます。古代から未来まで、数千年という長い歴史の流れを体験することとなるため、1ターンの持つゲーム内での重みは比較的軽いものとな ります。戦時でなければ1ターンにかかる時間は1~2分ですが、どれだけ早く勝負がついても300ターンはかかるでしょう。

画面の左上だけ切り取ってもこの情報量
画面の左上だけ切り取ってもこの情報量

 

また、ゲームの持つデータ量が非常に多く、プレイしていても次から次へと「こんなことがあったのか!」と新しいことが飛び出てきます。ゲーム上で重 要なファクターである外交やユニット維持費用は、ゲーム内で数値の表示が行われていません。人口やゴールドの収支など、指標の提示は豊富なため、行動の方 向性を決めることはそこまで難しくありません。とはいえ、「親しみを感じている」と表示されているのに、何かの拍子に宣戦を布告される……といった目を疑 うような事態も発生します。

ゲームを購入する際に、慣れるまでは何らかの手引きがあったほうがスムーズでしょう。すべて独力でやろうとすると、wikiやいろいろなところを見 て回っても「なんじゃこりゃ?」となってしまいます。友人を誘ってああだこうだ、とやるのも楽しみかたのひとつです。腰を据えてじっくりとやりましょう。 下記は個人戦を主眼としていますが、チーム戦もまた楽しいです。そうそううまくはいきません。

 


戦争は政治の手段である

 

本作はストラテジーゲームです。勝利条件は戦闘による制圧勝利のみではありません。ほいほいと戦争しまくると、科学や経済が立ち遅れてしまうことに なります。ここが非常に面白いところで、筆者含め友人数名とプレイを始めましたが、最初はみんな揃って「制圧勝利を目指そう」と躍起になっていました。し かし、制圧勝利ばかりを狙っていると、すぐに飽きが来てしまいます。戦争といっても、戦闘でできることは、ただユニットをぶつけるのみ(遠距離攻撃もあり ますが)です。生産力や立地といった、直接戦闘以外の要素で勝敗は決まります。そう、プレイヤーは「指揮官」ではなく「指導者」なのです。

そして外交や制圧以外の勝利を考え始めると、プレイ時間の伸びとともに非常に楽しいプレイとなります。筆者はプレイする際にボイスチャットを利 用していますが、会話の裏にあるものを読んで、相手の画面に表示されることとされないことを考えて行動します。舌の枚数は2枚ないし3枚用意しておくとス ムーズでしょう。1枚だとかなり苦労します。ポイントとしては、後で喧嘩しない程度にとどめておくことでしょうか。これはシミュレーションゲームです。友情破壊ゲームではありません。

もちろん、過酷なシド星で生き残るために、攻め落とされない程度の軍事力は必要です。基本的に防衛側が有利ですが、自国領土に敵が侵入すると、侵入 された領土での経済活動が行えなくなります。また略奪行為を行うこともできるため、深く敵を引き入れて撃滅したはいいものの、経済力の低下と略奪によっ て、攻撃側の意図が達成できてしまうこともあります。

しかし、軍事力に優れた者が最後まで立っているとは限らないのです。戦争を行うということは、生産力やユニット維持費を支払い軍備を整え、いざ開戦 となれば支払ったものを相手にぶつけて消耗・消滅させてしまう、ということです。そこで一番得をするのは非当事者、その分の余力を他のことに振り分けられ る第三国となります。

 

貴公は「やりすぎた」のだよ……
貴公は「やりすぎた」のだよ……

 

本作はゲームシステム上、軍事的手段で急激に拡張した大国の維持が困難なものとなっています。開拓者を使って都市を作成する場合と違い、征服したり 都市取引をした場合は、「幸福度」が悪化しやすくなります。幸福度の悪化は生産力の低下を招き、下がり過ぎると反乱と称した蛮族ユニットの出現も起こりま す。ちなみに上記は、いろいろな補正がかかっている高難易度コンピューターには当てはまりません。

つまり、国土や国力を拡張し、戦闘によって他国家に対抗するためには、ある程度国力に余裕があることが必要となります。よって、無軌道に征服を繰り 返す軍事国家の場合、国土が伸びに伸びたところで多方面から強烈な攻撃が行われた場合、あっという間に対処できなくなってしまいます。第二次世界大戦のド イツ敗北のような流れです。二国間の関係だけでなく、多国間の関係に気を配ることでより状況をコントロールできるでしょう。

 


恐怖と希望

 

画面に表示される情報は、ある程度限られたものとなります。どこかの国家が他国と開戦した場合、開戦したことしか知ることができません。取引があっ たのか、それとも二国間関係の悪化からなのかは、付随する情報を読み解く必要があります。提示された情報をもとに、相手の考えを予想し、さらに裏をかくた めに行動する……国家に真の友人はいないのです。

 

どう思うって……そりゃあ……ねぇ……それでいいのかい……?
どう思うって……そりゃあ……ねぇ……それでいいのかい……?

 

しかし、殺伐としたことだけが待ち構えているわけではありません。たとえば相手国との交易を行う場合、相互に利益が得られます。戦争になれば交易は 打ち切られるため、交易が盛んな国家同士が戦争を行うことは、リスクが比較的大きいといえるでしょう。利害が一致している国家同士で防衛協定や研究協定を 締結することは、開戦のリスクを減らすことになります。ひるがえって、文化や科学で勝利を収めようとしている国家の野望をくじくために開戦するという選択 肢を取ることもできます。勝利するのは常に一人ですが、そこに至るまでの経過もより楽しんでいくことができます。

このような、軍事的な強制力(ハードパワーと呼ばれます)と経済的・文化的な力(ソフトパワーと 呼ばれます)のバランスを取り、自国に都合よくふるまう必要があります。戦闘を好む指導者を選んで邪魔な相手に布告してもらい、その隙に目的を達成しま す。都市を他国付近に建設し、別の他国に売りつけて領土を接近させ、二国間関係の悪化を狙い、自分は嫌われないように振舞います。巧妙に世界の敵へと仕立 てあげ、しかし裏では資金や資源の援助を行い……そう、全ては自国の生存・繁栄、ひいては勝利のためなのです。

残念ながら、このゲームは勝利が確定する段階まで行ってしまった場合、覆すことがかなり困難です。そうなる前に、相手が何を狙っているかを見込んで 行動する必要があります。先に行っているプレイヤーを追い落とすために、プレイヤー同士で協力し、コンピューターを焚きつけて布告させ、長所を潰して追い 込んでいくのです。

また、もう一つ残念な部分として「人間同士が戦争になるとターン送りがひとりずつ順番になる」ことが挙げられます。通常であれば、全員が「人間の ターン」として同時に操作できますが、戦争になった瞬間に自分の番が回ってくるのを待つことになり、ひどく冗長になってしまいます。公平な戦闘を行う上で は仕方ないのですが、厳しいところです。この仕様があるため、筆者はプレイヤー間の戦争を避けるようにしています。

最後に、これはどうしようもない仕様というか、「そういうゲームなのだから」の部分ではありますが、エリザベスがイスラム教を創始したりロシアに大 将軍の諸葛亮が産まれることがあります。爽やかに笑いましょう。シミュレーションゲームではありますが、シミュレーターではないのです。

上記のような仕様や、もう少し何とかならないのかと細かいところで思うことはあります。しかし、それを補って余りある楽しさがこのゲームにはあります。Skype等で集まって、ビールでも飲みながらわいわいやるには最適な一作です。