VR洗礼。本物の牧師が、VR教会内でピンク髪に丸メガネのアニメ風アバターに洗礼を施す

ネット上の仮想現実の世界で、珍しい出来事が起きている。キリスト教の儀式である洗礼が、仮想現実内で運営されている教会において『VRChat』を通して行われているというのだ。このVR教会におけるVR洗礼について、VRでの出来事を取り上げているYouTuberのSyrmor氏がインタビューを行っている。以下はその動画だ。(動画の前半は洗礼前のインタビューの様子。VR洗礼は7:08から)

洗礼とはキリスト教で執り行われている通過儀礼的な儀式の一つである。宗派によっていくつか違いがあるものの、全身を水に浸す、または頭に水を注ぐ、あるいは濡れた手で頭を押さえるなどして、水によって自らの罪を洗い清めるその象徴とする儀式だ。通常は教会において神父や牧師の手によって行われる厳かな儀式のようだが、投稿された動画を見てみると、VR洗礼は現実のそれと比べかなり雰囲気を異にしているようだ。VR洗礼の舞台として使用されるのは荘厳な教会の内部ではなくなぜか日本の温泉宿の露天風呂。時に桜の花びらが舞い落ちる風情溢れる場景の中、お湯の溜まった浴槽を洗礼用の水槽であるバプテストリーの代わりとして使用するようだ。湯船の縁で洗礼を見守る参列者達も様々だ。クマのプーさん、同作品のティガー、スポンジ・ボブ、といったポップな見た目のキャラクターアバター達が洗礼の様子を、固唾を呑んで見守っている。そして、リアリスティックな男性アバターから説明を受け、これから洗礼を受けようとしているのはピンク髪に丸メガネ、アニメ風の顔立ちをした女性アバターだ。(『おねがい☆ティーチャー』の「風見みずほ」にやや近い)

一件不条理とも言えるこの光景は、けしてふざけて洗礼のごっこ遊びをしているわけではない。現実でも実際に牧師として活動するDJ Soto氏が運営するVR教会にて行われるVR洗礼儀式なのだ。洗礼を希望しVR教会を訪れたDrumsy氏に対し、今まさに洗礼の儀式が執り行われようとしているところである。リアルな男性アバターのSoto牧師が洗礼方法をDrumsy氏に説明している。ちなみにピンク髪に丸メガネの女性教師のようなアバターであるDrumsy氏は、声の感じからするとどうやら中身は男性のようだ。Drumsy氏が水中に身を沈めると、儀式の言葉が唱えられる。「父と子と精霊の御名において……」長い長い祈りの言葉が終わると、Drumsy氏が水中から顔を出す。「すごい!」「よくやった!」口々に祝福の言葉をかけながら参列者達がDrumsy氏に駆け寄る。こういったVR洗礼の儀式は既に一年ほど行われているそうだ。

このVR洗礼について、キリスト教圏の国の中で賛否両論が巻き起こっているという。 こんなものは本当の洗礼の代わりとはならない。とする意見から、祝福されるべきであるという意見もあるそうだ(MoguraVR)。 確かにこのVR洗礼の映像を見てしまうと、古き伝統のある宗教儀式として素直には受け入れ難い気持ちになってしまうのも無理なからぬことのように感じられる。

しかし、一見奇異に見えるVR洗礼だが、これを行っているSoto牧師はいたって真面目だ。動画前半のインタビューにおいてVR洗礼の意義について強く語っている。初めてこのVR洗礼を始めたとき、その頃に訪れた洗礼希望者に体に障害のある車椅子に乗った少女がいたそうだ。彼女は障害のため家から出ることが困難であり、また現実の教会に洗礼式を受けたい希望を伝えたが、車椅子の方が浸礼(全身を水に浸す洗礼方式)を行うのは困難だとして断られてしまった。彼女は自身の障害によって信仰の道が妨げられたことに深く傷ついたという。また別の洗礼希望者では、ヘロイン中毒で社会復帰施設を出たばかりの男性がおり、近所の教会で洗礼式を希望したが追い出されてしまった人もいたと、Soto牧師は語る。

教会とは神のように、すべての人に寛容で受け入れるような場所でなければいけない。教会とは癒しや希望の場所であり、人々が望むなら魂の病院となるような場所である。と。そう考えるSoto牧師にとって、信仰の心を持ちながらもさまざまな理由で現実の教会を利用できない人達に、教会に通い洗礼を受ける機会を与えるこのVR教会を運営することは、大変意義深いこととなっているようだ。このような話を聞くと、こういった現象を単に流行に乗った奇異な振る舞いと見るのも間違いではないかと思えてくる。

伝統的な宗教儀式と新しいテクノロジー。その関係は非常に難しい。この二つが調和の取れた状態になるには長い時間を必要とするのかもしれない。翻って日本について考えてみると、葬式の祭壇を照らす明かりは、昔はろうそくが多かったものだが、火災の危険性や扱いの不便さから電飾が利用されることが増えてきている。洋の東西を問わず、冠婚葬祭の様子は時代と共に移ろい行くものなのかもしれない。

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