「ガチャガチャ」および「ガチャポン」を語源とする「ガチャ」と呼ばれるアイテム課金形態が日本には存在する。モバイルゲームを中心に、さまざまなプラットフォームで採用されているモデルだ。こうした文化ともいえる課金形態は、国内で広く知られていたが、現在海外でも同様の手法が大型タイトルに導入されつつある。
躍進を続ける課金箱
海外ではこうした課金形態は「Loot Box」および「Loot Crate」と呼ばれている。厳密にはガチャとは異なる定義を持つが、実態はかなり近い。現実の貨幣やそれに準ずる通貨で「箱」を手に入れ、それを開ける。箱からドロップされるものはランダムで、レアリティなどが設定されており、入手しやすい/しにくいアイテムが同様に存在するわけだ。
たとえば、『Star Wars バトルフロント II』にはLoot Crateが存在しており、ゲーム内マネー及びリアルマネーによって購入できる。Crateからはカードやエモーション、ポーズなどが手に入る。カードについては、キャラクターの性能をアップさせるというゲームプレイに直結する点が批判の対象となっていた。『Middle-earth:Shadow of War』では仲間の「オーク」を入手するためにルートボックスを開封する必要がある。このボックスにはステータスの高い限定のオークが用意されていることから批判を受けた(日本版はこうした課金要素は実装されていない)。『Forza Motorsport 7』にもプライズパックと呼ばれる同様のシステムが導入されており、従来のシリーズほど思いどおりに車を購入することはできないとの声もある(なおこれらのほぼすべての車種、ゲーム内マネーでも購入可)。
また『Call of Duty : WWII』にも、『Call of Duty Advanced Warfare』から実装され、おなじみとなっている「サプライドロップ」と呼ばれるルートボックスが用意されている(今作においてはボックスから出るアイテムによる性能差はないとの噂もある)。さらに『アサシンクリード オリジンズ』でもこうしたルートボックスが実装されることが発表されている。ほとんどのタイトルのルートボックスは、ゲーム内マネーで購入する形式を採用しているが、ゲーム内マネーを現実のお金を支払いで増やすことができるので、実質的な課金形態は変わらない。ホリデーシーズンの目玉となるタイトルにこうした「ガチャ」に近いシステムが採用しているということは、ひとつのトレンドになりつつあるということだ。
こうした手法は、海外で突然出てきたわけではない。Valveは2010年からFree-to-Play化した『Team Fortress 2』で物資箱およびその鍵を使ったルートボックスを導入し、『Counter-Strike: Global Offensive』でも2013年から同様に箱と鍵を使ったビジネスを展開、成功を収めている。ただし、こうしたルートボックスの導入による失敗例も数知れず。『Pay Day 2』はゲーム内でドロップする「金庫」を課金アイテムである「ドリル」で開封するといった要素を導入し、コミュニティから大きな反発にあった。また一方で『Overwatch』のようにトレジャーボックスを導入しながらもユーザーに受け入れられているタイトルも多くある。どちらかといえば、前述した今年のホリデーに発売された大型タイトルは『Star Wars バトルフロント II』を中心に手厳しい批判を受けている。同じ「ガチャ形式」のルートボックスでありながら、何が違うのだろうか。
ゲーム性に影響を及ぼすか否か
結論からいうと、ルートボックスが導入されており、受け入れられているタイトルのほとんどが「スキンタイプ」を採用している。ガチャ形式で箱からランダムにアイテムを入手するが、入手するアイテムはどれも装飾アイテム。外観を変えるコスチュームであれば、ゲーム性は大きく変化することはない。ユーザーは自分だけのスキンを他人に見せることができ、ゲーム体験は損なわれずにお金が回るシステムだ。
問題なのは、ゲーム性に関わるルートボックスだ。通常のプレイで手に入るアイテムと性能差を持つアイテムがルートボックス限定で排出されるというケース。たとえば『Pay Day 2』の金庫から出たアイテムは武器を強化するという要素を持っていた。『Star Wars バトルフロント II』のスターカードもステータスに性能差をもたらす。こうした経緯があるからこそ、前述のタイトルは「Pay to Win」になりつつあるとEurogamerなどに批判されているわけだ。特に対戦タイトルにおいてこうした性能差が存在してしまうことは、プレイヤーのテクニック以外の要素が原因になるという点で、プレイ体験を大きく損なわせかねない。
もちろん、フルプライスゲームを購入し、さらにルートボックスを買わされるという仕組み自体に怒りを見せるユーザーも少なくない。スキンも性能差アイテムも等しく嫌悪し、課金形態の名称である「マイクロトランザクション」に拒否感を示すユーザーは一定数いるだろう。ルートボックスの定義は広く、さまざまな形態が存在しており、これという原因をひとつ決めることは不可能だ。ただ、この問題の根本には課金そのものというより、課金によりプレイヤー間のゲームプレイに差が生まれてしまうという課題があることに疑いはない。だからこそ衣装スキンが手に入る『Overwatch』のトレジャーボックスが受け入れられているわけだ。
ユーザーたちの抵抗は熾烈に
こうした事態を受け、海外ではコミュニティ・メディアがすでに反旗を翻し、ルートボックスへの反対運動を起こしている。その流れのなかで、ルートボックスは賭博のひとつであるという主張にも焦点が集まり議論されている。アメリカのレーティング機関ESRBはこうしたルートボックスは賭博に当たらないとKotakuに対しコメント。ヨーロッパのレーティング機関PEGIも、ゲームの要素を賭博であるか否かを定義する立場にはないとコメントしている。一方で、レビュー集積型サイトであるOpen Criticは、こうした課金要素をレビューの項目として設けることを検討しているという立場を表明している。
We're going to take a stand against loot boxes. We're looking into ways to add business model information to OpenCritic.
— OpenCritic (@Open_Critic) October 9, 2017
また嘆願サイトPetitionにはギャンブルの定義にビデオゲームを含めるように求める署名が1万3000件以上集まったことを受け、イギリスの労働党議員であるDaniel Zeichner氏は、政府に「実質的なゲーム内賭博であるルートボックスをどのように位置付けるのか」という質問を投げかけた。政府は問題を認めながらも調査中であるという旨の回答を下している。EurogamerやPCGamer、Polygonといった大手メディアもルートボックスへは反対の姿勢を見せており、大荒れ模様を見せている。
これほど反発されながらも、なぜ海外パブリッシャーはルートボックスを導入するのだろうか。それは莫大な利益をもたらすことにほかならない。たとえば、こうしたルートボックスの導入に熱心なアクティビジョン・ブリザードは、2016年Q4にはゲーム内コンテンツだけで36億ドル(約4000億円)の利益を計上したことを報告しており(リンク先はPDF)、同課金要素が組み込まれている『Call of Duty: Black Ops 3』ではゲーム内クレジットCall of Duty Pointsの利益が、DLCおよびシーズンパスの利益を上回ったことを報告している。こうしたクレジットの主な用途はもちろん、ルートボックスだ。時間をかけて作られたDLCよりもルートボックスが利益をもたらしているという結果は、多くの大作タイトルがルートボックスを導入している背景を的確に説明していると言わざるをえない。
開発費が肥大化するなかで、こうしたルートボックスはある種の福音ともいえるものなのかもしれない。ユーザーの反発は強いものの、コストがかからず莫大な利益を見込むことができる。厳密に言えば状況は異なるものの、国内でガチャが一大文化を築いたシーンと被って見えてしまう人も少なくないだろう。すべてのユーザーがルートボックスを毛嫌いしているわけではない。一部のユーザーから抵抗はあるものの、スキンベースのルートボックスにはこれほど大きな批判は生まれていない。ただスキンベースの形態は健全であるが、性能差アイテムほど射幸心を煽れないというデメリットも存在している。大企業が率先して展開している以上、ルートボックスが実装される流れは止められないだろう。海外のゲーム業界もまたこのまま「ガチャ」の波に飲まれるのだろうか。
【UPDATE 2017/10/19 21:00】
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