基本プレイ無料運営型ゲーム黄金時代に、「買い切りゲーム」はどんな“ならでは体験”を提供できるのか?『カリアのアトリエ』でガストが直面する課題と挑戦

『カリアのアトリエ』では、買い切りゲームならでは体験を模索しているという。本作のプロデューサーである細井順三氏と、ディレクターの福井大暉氏に話を訊いた。

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コーエーテクモゲームスのガストは、6月9日、『カリアのアトリエ』を発表した。対応プラットフォームはPlayStation 5/XBOX Series X|S/Nintendo Switch 2/PC(Steam)。発売時期は2027年初頭。

『カリアのアトリエ』は、「アトリエ」シリーズ新作だ。舞台となるのは『ユミアのアトリエ』の2年後の世界。主人公であるカリアは、記憶を失った冒険者だ。アラディス大陸は大地のマナが減少する「マナ枯れ」という問題に見舞われていた。そんな中カリアが、錬金術と出会うことで物語が大きく動いていく。

本作においては、買い切りゲームならでは体験を模索しているという。本作のプロデューサーである細井順三氏と、ディレクターの福井大暉氏に話を訊いた。

『アトリエ』新作の内容に焦点を当てたインタビューはこちらから読んでほしい。

話者紹介:

細井 順三(以下、細井)氏
『カリアのアトリエ』のプロデューサーを務める。『リディー&スールのアトリエ~不思議な絵画の錬金術士~』以降、前作『ユミアのアトリエ ~追憶の錬金術士と幻創の地~』含め、「アトリエ」シリーズのプロデューサーを担当。

福井 大暉(以下、福井)氏
『ライザのアトリエ3 ~終わりの錬金術士と秘密の鍵~』から、前作『ユミアのアトリエ』を含め、リードプランナーを担当。『カリアのアトリエ』では、ディレクターを務める。

――少し不思議な質問をさせてください。ガストは、他の作品をゲーム開発の参考にすることはありますか。

福井氏:
もちろん、他社の作品はかなり参考にしています。具体的には、『Valheim』や『サブノーティカ』のように、リソースを集めて管理してクラフトするようなゲームは特にいろいろと遊んで参考にしています。発売されたゲームはとりあえず一通り触ってみて、良い設計や参考にできる考え方がないかをチーム内で分析し、それを「アトリエ」らしい体験に落とし込めないかを常に考えています。

――今挙がったタイトルは、サバイバル的な要素も大きい作品です。クラフトなどのシステムを参考にする感じでしょうか。

福井氏:
『Valheim』や『サブノーティカ』は新たなバイオームに到達したときに、景色だけでなく採集物も増えたり、できることの幅が広がったりと遊びが拡張していきます。このあたりは『ユミア』では十分に表現できなかったので、『カリア』では新しい地方に入ったときに今までできなかったことができるようにしたく、こういったクラフト系のゲームが参考になると考えました。

細井氏:
私も『Valheim』は意識していましたが、最近は『Tides of Tomorrow』やカプコンさんのゲームが素晴らしいと思っています。『プラグマタ』をプレイして思ったのは、やはりカプコンさんはキャラクターの作り方がすごくうまくて。アプローチもストーリーも含めて、クリエイティビティが素晴らしいなと感じています。

――他社サービスや製品を参考にしつつ切磋琢磨するというのは、日本ではあまりそういうことを表立っては言わないようにするという空気がありますよね。こういうゲームの事例研究というのは、言わないだけで以前からもされていましたか。

細井氏:
私は海外のゲームが昔から好きでよく参考にしていました。近年の大型運営型ゲームでは、欧米のゲームデザインを取り入れつつ、キャラクター表現や運営面で独自の強みを打ち出している作品も多いと感じています。そうした事例から学べる部分は多いです。

我々の作品にも似ている部分があって、これまで以上にゲーム体験の価値やアイデアで勝負する必要があると考えています。日本のタイトルはもちろん、海外やインディータイトルもよく見て、それらを踏まえたうえでいかに自分達らしさを表現するかを大切にしています。ただ自分たちらしさだけしかないと、これから厳しくなっていくのではないかとも感じています。

『ライザ』では、同じ主人公で3作品を描くことでキャラクターの魅力を深く届けることができました。一方で、シリーズを重ねる中で、ゲーム体験として新しい驚きをどう提供していくかは重要な課題だと痛感しました。その際に、これまで以上に絵やルックに頼るのではなく、システムとしてのゲーム体験で勝負しないといけないと改めて感じました。

――『ライザ』3作品は基本的に広く受け入れられていますが、あれでも足りないところがあったと。

細井氏:
『ライザ』はキャラクターの魅力をきっかけに多くの方に届いた作品だったと思っています。そのうえで、今後はキャラクターの魅力に加えて、ゲーム体験そのものでもさらに評価していただけるブランドにしていきたいと考えています。

その経験を踏まえて『ユミア』では多くのチャレンジを行いましたが、ゲーム体験の積み上げ方については、もっと磨き込める余地があったと考えています。そうなると、キャラクターやビジュアルが魅力的なのは大前提で、いかに「ガスト作品はゲーム体験も素晴らしい」という評価をいただけるようなプロダクトやブランドにするか目指していかないと行けないと。ビジュアルの魅力はこれまで通り大切にしつつ、ゲーム体験そのものでも更に強みを出していく必要があると考えています。

――ビジュアルだけで勝てるゲームが作れない、と。それは市場感的な意味で、ですか?

細井氏:
そうですね。それに、『ライザ』のときは『原神』のような大型の運営型ゲームがここまでの影響を及ぼしていなかった。でも、今は大手の運営型タイトルでは、毎月毎月魅力的なキャラクターが出ていますよね。

毎月魅力的なキャラクターを出すサイクルができるから、ある程度のリスクを冒しても、ピーキーなキャラクター設計ができると思うんです。嗜好も昔ほど一極集中ではなく、人々の好みが多種多様であるように、キャラクターの属性も細分化されてきていますよね。

『ライザ』のときは、毎回主人公を変えているとキャラクターの認知コストが高くなるから、3部作続けて同じ主人公にしたという側面もありました。たとえば『ハリー・ポッター』は、7部作も作っていてあとに行くほど既知のキャラクターについては認知コストがかからないわけですよね。

そういうイメージで「同じキャラクターで3部作を作ろう」だったんですよ。ただ、その結果も良し悪しはあると思っています。また、近年の大型運営型ゲームは、ゲーム体験も素晴らしいですが、開発規模やマーケティング展開も非常に大きく、キャラクターを多くのユーザー様に届ける力も高いと感じています。今はそういう時代なので、魅力的なキャラクターを作ることは大前提です。その上で、我々はゲーム体験を昇華させないとならないと。同時に、本作のような買い切り型タイトルの場合、運営型スマホゲームでは再現が難しいゲーム体験を目指す必要があると思っています。

――買い切りコンソールだから得られるゲーム体験を作っていると。

細井氏:
コンシューマーの買い切り型タイトルを制作する際には、買い切り型だからこそ成立しやすい仕様や、体験の変化を意識する必要があると思っています。たとえば、運営タイトルでは、ゲーム内資産の取り扱いはコンソール以上に難しいですよね。一方で海外のゲームではよく見ますが、買い切りのコンソールゲームでは、物語の展開に合わせてプレイヤーの状況が大きく変化するような、ダイナミックな体験を設計しやすい面があります。我々としてもそういったダイナミックな体験変化というものにもチャレンジしていかないとならないと考えています。

――ルックで歴史を築いてきたアトリエが、ルックに甘えないようにゲームづくりをしているのは興味深いです。

細井氏:
ホントは……ルックにも甘えたいよね(笑)

福井氏:
甘えたいですけど(笑)

一同:
(笑)

細井氏:
もちろん、ビジュアルの魅力はこれからも大切にしていきたいです。ただ、それに加えて、ゲーム体験そのものでもしっかり評価していただける作品にしたいと考えています。

――いまのガストは、開発力は向上させつつ、ライバルを意識しながら、いかにならではの体験を届けるか模索していると。

細井氏:
そうですね、ただ我々が今やろうとしていることは、決して真新しいものではないです。

「アトリエ」シリーズも今までマルチエンディングを採用していたこともありました。『マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士~』がまさにそうです。これまで「アトリエ」シリーズを作ってきた開発者たちが連綿とチューンアップしてきた結果今の「アトリエ」があり、我々も我々でまた変革期に立っているのではないかと思います。ということは、我々もしっかりと「アトリエ」シリーズを時代に合わせてチューンしないと、シリーズの未来を作れないなと思っています。

マリーのアトリエ Remake ~ザールブルグの錬金術士~

――この考え方はチーム内でもう共有されていますか。

福井氏:
今はまだ上から下に向かって少しずつ下ろしていっている最中ですね。今作では開発体制も変わっていて、トップダウンというより、チームリーダーが責任を持って各パートの仕様設計や実装内容を詰める形になっています。私や細井の方からリーダーにアイデアを求めて、リーダーから「こうするのはどうか」という提案を上げてもらうかたちで進めるようにしています。

――開発体制の変化によって、どのような効果が見られていますか。

福井氏:
チーム自体が率先して能動的に動いてくれるようになりました。リーダーだけでなく所属メンバーもアイデアを出してくれるので、さまざまな意見の中から取捨選択できるようになり、本作のゲーム体験の向上にもつながっていると思います。

――大規模開発において、チームメンバーが自分のセクションに留まらず積極的に動くというのは一般的に難しいのでは。現場ではどのように取り組んでいますか?

福井氏:
今は開発の終盤で大変な時期ですが、メンバーそれぞれが前向きに仕事に取り組んでくれていて、「完成させるぞ」というポジティブな空気ができています。

やりたいことはどんどん言ってほしいと伝えていて、良い意見はもちろん採用しますし、難しそうな意見でもリーダー陣と相談してブラッシュアップして取り入れるなどしています。

その結果、自分の意見が通る実感が持てて、モチベーションにもつながっていると思います。

――大きく体制変更されたようですが、前作からの反省を活かした結果としての体制の変更という側面もありますか。

福井氏:
『ライザ』以前はもっと少人数の開発規模で作っていまして、各々が自分の担当部分以外もある程度把握しているというような状態で進めていました。しかし、開発規模が大きくなると、パートごとの分業が明確化し効率もそれだけ上がる反面、自分が携わっていないパートのことはよく知らないということになりがちです。

リーダーが集まる機会を設けることによって、たとえば戦闘を担当している人と食事を担当している人が情報を持ち寄って「食事でこういう仕様があるから、戦闘にこういう要素を入れよう」というような、分野を横断した仕様を考えやすくなっています。これによってゲーム体験にも幅を持たせられるようになっていると感じます。

――さきほど述べられていた「運営型ゲームはユーザーからキャラやゲーム内マネーなどの資産の扱いが難しい、売り切りゲームだからできるダイナミックな設計もある」というのはわかりますし面白いですね。ほかのアプローチはありますか。

細井氏:
たとえば、与えられた選択肢のどれを選ぶかによって物語が変わる、キャラクターが不可逆に変わるなど、ダイナミックに物語が移ろうことがRPGに求められていることだと考えています。『The Elder Scrolls V: Skyrim』や『バルダーズ・ゲート3』なども、物語がダイナミックに変遷し、プレイヤーごとで体験の内容や価値がまったく変わってくるじゃないですか。

我々も今後のガストのコンシューマーゲームではそのくらいダイナミックに変化が起こるものを目指さないといけないという意識になっています。

――なるほど。具体的に『カリアのアトリエ』においては、どのようなゲーム体験を盛り込んでいますか

細井氏:
たとえば……今まだ開発段階ですが、食事が外見や体型に影響する、という仕様を検討中です。自分が作ったものを食べることでステータスが変わるというのはよくありますが、見た目まで反映されるというのは新鮮さを感じていただけるかなと思っています。

また、前作ではハウジングのシステムが結構独立したものだったと思うのですが、今回は超巨大な敵と戦うときにもハウジングを使ったりします。そういった要素を取り入れることでバラエティに富んだゲーム体験をお届けできるんじゃないかなと思っています。

まだまだ言えないことも多いですが……今回はキャラクターエンドも用意していますし、ストーリーも若干分岐する部分があるので、このあたりは前作と異なる取り組みですね。

――最後に聞かせてください。今ガストはどのようなフェイズにいて、何に挑戦しているのでしょうか。

細井氏:
「アトリエ」シリーズを長く続けてきたなかで、今はひとつの転換期に来ていると感じています。この転換期において、新しい「アトリエ」の体験価値を模索していて、それが良い形で徐々に明確化してきたところかなと思います。それでもまだまだ足りないところや、悩んでいるところもあります。そこで本作の発表に合わせてガストブランドの新しいSNSアカウントを立ち上げました。ここでユーザーのみなさんとコミュニティを作り、さまざまな施策を企画していきたいです。その際には、ゲームの仕様についてもユーザーのみなさんにご意見を伺ったりしたいと考えています。

今回開発体制を変えてみて、物事を「自分ごと」にするというのは大事なことなのだと改めて感じました。リーダー陣に意見を出してもらう、判断してもらう、その場で対立意見同士をぶつけてどう思っているか尋ねるというのをその場でする。意見を持ち帰ってもらって、あとで「あの意見はないと思うんですよね」としてしまうと根っこが深くなるんですけど、その場で話し合うので風通しが良いんですよね。

プレイヤーのみなさんにも、ぜひコミュニティに参加いただき、発言いただくことで「アトリエ」に参加してもらえたら嬉しいなと考えています。

――意地悪な訊き方になりますが、コミュニティを開いて意見を聴取するというのは「聞いているフリのポーズ」ではなく?

細井氏:
めっちゃ聞きます!

ガストの文化は、ユーザーの皆さんからのご意見、ご感想にきちんと真摯に向き合っていくというところなんです。これは私が入社した際にも言われた事ですね。

――ユーザーの意見を特に重要視しているんですね。

細井氏:
『ユミア』を通じて、いろいろなユーザーさんのご意見を分析したところ、的確で素晴らしいと思ったんです。ご指摘に同意できるところも多くて。改めて、ガストのゲームは我々だけで作れるものではないなと思いました。賛同してくれる意見だけに耳を傾けてもダメだし、耳が痛いことも聞かないといけない。でも悪いところだけ聞いていてもいけない。良いところも悪いところも両方真摯に受け止めて開発に生かしていきたいと考えています。ぜひたくさんご意見をいただけたら嬉しいです。

――ありがとうございました。

カリアのアトリエ ~夜の王国と追憶の道標~』は、PlayStation 5/XBOX Series X|S/Nintendo Switch 2/PC(Steam)向けに2027年初頭発売予定だ。

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