ゲームデバッグ業界最大手ポールトゥウィン、「ゲームデバッグだけじゃない」を宣言しTGS大規模参戦。なぜそんな宣言をしたのか?話を訊いた
ポールトゥウィン株式会社は、1994年に誕生した企業だ。設立当初はゲームデバッグを専業におこなっていた同社は、規模を拡大し、現在はポールトゥウィンホールディングス株式会社の傘下として、さまざまなサービスを提供中だ。
そんなポールトゥウィンが、「ゲームデバックだけじゃない」というコンセプトを掲げて「東京ゲームショウ2024」(以下、TGS2024)に出展した。ゲームデバッグを軸にして成長してきたポールトゥウィン、並びにポールトゥウィンホールディングスがどこを目指しているのか、このたび、弊誌ではTGS2024の会場にて、ポールトゥウィン株式会社の小宮鉄平氏に話を伺った。
「ゲームデバッグだけじゃない」
――自己紹介をお願いします。
小宮鉄平(以下、小宮)氏:
ポールトゥウィン株式会社のコーポレート戦略本部に所属している小宮と申します。よろしくお願いします。
――今回、「TGS2024」へはポールトゥウィン(以下、PTW)としてではなく、ポールトゥウィンホールディングスグループ(以下、PHDグループ)として出展されております。グループ化しているわけですが、どういう違いがあり、なぜこうしたのでしょうか。
小宮氏:
昨年はPTWとPTW Japanという、グループの2社で合同出展しておりましたが、今年に関してはどういったかたちで出展するのか、すべて私に任されておりました。PHDグループには、PTWのゲームデバッグだけではなく、ゲームを制作していたり、アニメを作ったりしているHIKEという会社や、最近パブリッシングを始めたADOORという会社があります。
ただ、グループ全体でゲームエンターテイメント業界に対して、どこまでのことをやっているのかというところが、まだまだ認知されていないな、と思うところがありました。なので、我々が一体どんなことをやっているのかをちゃんと伝えるために、PHDグループ全社で出展するということになりました。
――「ゲームデバッグだけじゃない」という一見挑戦的なコンセプトを打ち出して出展されております。業界大手なのもあり「ゲームデバッグのイメージがある」というのは、良いイメージなのでは?いったいなぜこのコンセプトが生まれたのでしょうか。
小宮氏:
おかげさまでPTWは30周年を迎えました。デバッグに関して言えば、PTWの名前は皆さんに知られている……、というのは言い過ぎかもしれませんが(笑)
―自分もそのイメージです。
小宮氏:
ありがたいですね。ということは、やはりPTWと言えばデバッグというイメージが強いのかなと思います。ただ、2022年にPTWに転機が訪れまして、それまでPTW、ピットクルー株式会社、株式会社クアーズというそれぞれグループの中にあった3社が合併して、名前としてPTWだけが残りました。統合した後は新生PTWというかたちで、ピットクルーやクアーズのサービスもおこなっています。
ただ、PTWの名前だけが残ってしまった影響で、ゲームデバッグ以外のサービスが目立たなくなってしまいまして……。そこでPTWは、ゲームデバッグ以外にもこういうこともやっているんだよ、というところを見せたいなという気持ちがあって、「ゲームデバッグだけじゃない」というコンセプトを打ち出しております。
――とはいえ、ゲームデバッグで収益を上げているなら、そのイメージがつくのは仕方ないのでは?
小宮氏:
実は、全体で見るとゲームデバッグってそこまで大きくないんです。
――え!?そうなんですか?
小宮氏:
ゲーム分野だけで言うと、グループとしては、デバッグ以外に開発やパブリッシングをおこなっています。ほかにもゲームに使用される音声の収録やサウンドの制作、あとはグラフィックの制作も手がけているなど、結構いろいろなものを提供しています。国内ソリューションや海外ソリューション、あとはHIKEとしてメディアコンテンツといった事業もちゃんと売上をとれているんです。さらに、日本語版から海外版、あるいはその逆のローカライズとかもしていますしね。
――意外でした。
小宮氏:
決算資料を見ていただけるとわかりますよ。ただ、やっぱりPTWという名前を聞いたときにゲームデバッグというイメージが強いので、そのイメージは残しつつ、デバッグ以外のサービスもお届けできるということをお伝えしていきたいと思います。
――なるほど。ということは自分みたいな人も多く、他社の方とお話しされるときも、「PTWはデバッグメインですよね」みたいなことは言われるのでしょうか。
小宮氏:
直接言われたことはありませんが、ただやっぱりそういう見られ方はありますね。「そういうこともやっているんですね。意外です」とか「知らなかったです」と言われることはまだまだ多いのかなと思っています。
――ゲームデバッグだけと見られることを打破したいということですね。
小宮氏:
そうですね。もちろんずっとゲームデバッグというサービスを提供し続けてきているので、それをないがしろにするということではありません。そこはもっと突き詰めていきたい部分です。
ただ、ゲームは世の中に数あるいろいろなコンテンツ、デジタルソリューションの中の一部だと思うんです。そこで我々としては、サービスを提供する範囲をもっともっと広げていって、ゲーム以外のあらゆるソフトウェアにも提供していきたいという想いを強くもっています。そのためには、ゲーム以外のさまざまなソフトウェアにも、デバッグだけではなくQAなど、さまざまなサービスを提供しているというところを打ち出していきたいと思っています。
――たしかに、まずは言わないと伝わりませんからね。
小宮氏:
そうなんですよね。公式サイトを作り変えたりしていろいろやっているんですが、やっぱりまだまだだなという風に思っています。
あとは、ゲーム以外の領域でのサービスというのがどんどん増えています。PTWの例で言うと、カスタマーサポートやネットサポートですね。ECサイトなどを我々が有人監視でチェックして、何か間違った情報が出ていないかとか、お客さんが見たときに不自然な点がないかとか、そういった部分を確認するというサービスも提供しています。ほかに挙げるとしたら、サーバーインフラにアラートが出ていないか24時間監視するとか、ゲーム以外の多くのソフトウェアのQAとか、実は幅広くやっています。
――本当の意味でもう「ゲームデバッグだけじゃない」んですね。
小宮氏:
本当にもうそんなことはないんですよ。ただ、やっぱりPTWという名前を聞いたときにゲームデバッグというイメージが強いので、そのイメージは残しつつ、デバッグ以外のサービスもお届けできるということをお伝えしていきたいと思います。
――最近立ち上げられたサービスを教えてください。
小宮氏:
皆さんに利用いただいている路線検索といった交通検索アプリの検証ですね。そういったアプリの検証もずっと請け負っていますし、大手ECサイトの監視も実は我々がずっと続けております。
――PHDグループですが、今後どういった方向を目指しているのでしょうか。
小宮氏:
社長の橘(PTW代表取締役CEO橘鉄平氏)とも、当然そういった話はしておりますが、ゲームデバッグだけじゃないというところにつながっていく部分でもあるんですが、我々は若干アナログなイメージで見られている部分があるのかなと……。
――人海戦術的であったり、物量で解決するであったり、そういうイメージはありますね。
小宮氏:
そうですね。労働集約型と言うんでしょうか。でも、そういうわけでもないんです。たとえば、我々は最先端な技術であるAIを使った業務もおこなっています。当然、人がやるということをないがしろにするわけではないんですが、人の手だけでは届けられなかったようなサービスであったりったり、我々の品質だったりといったものを届けていきたいなと。
そのためにも、グループとして最先端のところに向かっていくべきだと考えています。AIもそうですし、VRやXR、最近だとブロックチェーンなど、いろいろなところに幅を広げていけるような技術をもった会社。そういった見られ方をするためにもっともっと切磋琢磨し、我々の意識を変えていかなければいけないと感じています。
PTWだけでは対応し切れない新しい技術にまで対応するADOOR
――これまでお聞きしたとおり、PHDグループ自体はかなり大きく、いろいろな名前を挙げていただきましたが、各社についてお聞かせいただけますでしょうか。
小宮氏:
現在、PHDグループの直下に、PTW、PTW International、HIKE、そして最近新しくできたADOORという4つの会社があります。PTWが国内企業を対象としたゲームデバッグやソフトウェア開発事業をおこなっているのに対して、PTW Internationalはおもに海外の企業を対象としています。そして、HIKEはメディアコンテンツを中心に展開しています。
――HIKEは前身であるCREST時代にアクアプラスを子会社化したので、知っているユーザーも多いかと思います。ADOORについてはいかがでしょうか。
小宮氏:
おかげさまでPTWは多くのゲーム会社さんとお付き合いさせていただいております。だからこそ、あいにくバッティングしてしまうということもあって、PTWとしてはすぐに動けない、ということもあります。
そこで、ADOORはPTWの別部隊的な位置に立ってもらっています。そして、新しいメタバースやブロックチェーンといった新しい技術に対しても、スピード感をもって動いていこうと。そういった意味をもって生まれたのがADOORなんですね。
――現在ADOORは、どういったフェーズにある状態でしょうか。
小宮氏:
まだまだこれからだと思っていますので、今はいろいろなところでいろいろな方にお話をして種をまいているような状況かなと思っています。実績としては先日リリースされた『Project: JUDGE VISIONS』というバンダイナムコスタジオが開発したVRゲームを、ご縁があってパブリッシングいたしました。そういったPTWではお断りしなければいけなかったようなことに関しても、ADOORが動くことによってパブリッシングだけではなく、いろいろな相談を受けることができるようになってきているんですね。
ほかにもイベントとか、そういったPTWがこれまで対象としてきた領域から外れるような相談も、より懐を深くして、グループとしてお客さんの聞ける声の種類を増やすことができているんじゃないかなと。こういった流れをどんどんかたちにしていくことで、PHDグループとして、「こういうことはPTWさん」っていう相談をしていただけるような枠になっていくんじゃないかなと思います。
――とはいえ、PHDグループは大きく、いろいろな会社があって足並みを揃えるのが難しそうに感じますが、グループ全体を見てどうなんでしょうか。
小宮氏:
難しいんですけど、必ずしも足並みを揃えなければダメということではないのかなと思ってはいます。ただ、これまでなら直接一緒に何かをするというのがちょっと考えられなかった部分があるのですが、ADOORや新しいソリューションが生まれたことによって、新しくできることが増えましたね。たとえばある相談に対してPTWとアクアプラスでこういった提案ができるんじゃないかとか、PTWとHIKEでこういったことが話せるんじゃないかとか、これまで以上に提案できることの幅が広がったなと感じています。
――会社同士が協力することでの相乗効果ということですね。
小宮氏:
そうですね。もちろん、今までずっと一緒に仕事をしてきたわけではなく、アクアプラスも縁があって同じグループ内に存在するというところなので、それぞれの会社の考え方というものがあると思います。そういった中でいかに一緒にできることを模索していくということが、今の我々の課題です。でも、逆に相乗効果で思いもよらないようなこともできるのかなという期待感のようなものもありますね。
BtoCにも向けたアピールで新たなチャレンジへ
――これまでのPHDグループはBtoBのフィールドが得意なイメージでしたが、今回のTGS2024の出展はかなり力を入れられていらっしゃるように感じます。これからはBtoCにも力を入れていこうとお考えなのでしょうか。
小宮氏:
今回の出展だけの話で言うと、BtoBもやっているし、BtoCもやっていると両方にアピールしています。これまではそれこそBtoB向けの出展しかなくて、4日間のうち、土日には一般のお客さんに喜んでもらえるようなコンテンツというものはなかなか用意ができない状況でした。ただ、今年は「そんなことないよ」という出展をしています。それがPHDグループでの展示につながっています。
それでBtoBからBtoCに興味をもってもらったり、反対にBtoCで興味をもってもらったお客さんからBtoBのご相談をもらえたりしたらな、と。ノベルティのうちわも作っていまして、表がBtoB向けのPHDグループ、裏がBtoC向けのADOORの『Project: JUDGE VISIONS』柄になっています。一般の方には「このゲームで遊んでください」、業界の方には「ゲームデバッグもできますよ」といううちわというわけですね。
――本日はTGS2024の2日目ですが、「ゲームデバッグだけじゃない」というコンセプトに手応えは感じていらっしゃいますか。
小宮氏:
ブースの場所が良いというのもありますが、非常に反応が良くて、アニメだったりゲームだったり、いろいろなところからこのブースに入ってきていただいて、そこから「こういうこともやっているんですね」という言葉もいただくので、割と反応が良いのかなと、何となくの手応えはあります。
あと、PTWなのに派手で、しかもアニメ「この世界は不完全すぎる」とタイアップもしていて目立つ感じで、「あれ?PTWさん結構いろいろやっているんですね」とか「コンテンツ寄りなんですね」っていうような、良い驚きは与えることができたんじゃないかなと思っています。
――今後PHDグループはどういった方向を目指しているのでしょうか。
小宮氏:
TGS2024のブースを見ていただいてわかるとおり、昨年から一気に内容や見せ方を変えていますが、今後まったく同じことをするというわけではなく、どんどんとチャレンジしていきたいなと思っています。そして、皆さんに「面白いな」と期待感を与えるような取り組みを今後も続けていきますので、一般の方もご注目ください。
――ありがとうございました。
「ゲームデバッグだけじゃない」という挑戦的なコンセプトを掲げてTGS2024に出展したPHDグループは現在、たしかにゲームデバッグ以外のサービスにも挑戦している企業のようだ。BtoBだけではなくBtoCへも踏み出しているPHDグループが、この先どんな成長を続けていくのか、今後も注目していきたい。
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ポールトゥウィン株式会社について https://www.ptw.inc/
ポールトゥウィン株式会社は、「“新しい”をともにつくりだす」をミッションに掲げ、「サービス・ライフサイクルの課題を解決」といったタグラインのもと、アウトソーシング事業者として様々なサービスを提供しております。テクノロジーを適用した効率化を図ると同時に、創業当初から評価をいただいている「人にしかできない技術」を融合し、お客さまにとっての最適解を導き出すことを大切に考え活動しております。具体的には、ソフトウェア・アプリ・システム・ゲームなどの開発/IT分野での環境構築などの幅広い領域で、「企画」「開発」「リリース」「運用」「改善」のサービス・ライフサイクルを一貫してのサポートや、お客さまのニーズに合わせて組み合わせた様々なサービスを提供しており、お客さまの成功とその先にあるエンドユーザーにとっての利便性と信頼性の向上を追求してまいります。
株式会社HIKEについて https://hike.inc/
株式会社HIKE は、IPプロデュース / ゲームパブリッシング /マーチャンダイジングなどのBtoCビジネスと、グラフィック制作 / コンテンツマーケティング、プロモーション / ゲーム開発サポート/ グローバルHRなどのBtoBビジネスを行うエンターテインメントカンパニー。開発・パブリッシング両面でゲーム事業を展開するとともに、ゲーム関連企業に対して年間3,000件以上の開発補助とプロモーション案件の受託を行っています。
株式会社ADOORについて https://adoor.inc/
株式会社ADOORは、「デジタルの力で、新たな価値を創造し、Ideal(理想)とReality(現実)の境界線をなくす」、「常に最新技術を取り入れながら"世界を面白くするもの“を追求します」をミッション・ビジョンとして掲げ、PHDグループが提供する国内・海外ソリューション、およびメディア・コンテンツ業務をグループ事業横断する会社として、様々な課題解決に貢献いたします。
PTW International Holdings Limited について https://www.ptw.com/
PTWインターナショナルは、大手デベロッパーやスタジオに、技術的かつクリエイティブなサービスを提供しているグローバルゲームサービス企業です。1994年に日本で設立されたPTWは、世界16ヶ国に40以上のスタジオを持ち、北米、ヨーロッパ、南米、アジアにオフィスを構えるゲーム業界のグローバル企業へと成長を遂げています。業界をリードする当社のサービスには、アートプロダクション、ゲーム開発、QA、プレイヤーサポート、コミュニティ運営、ローカライズ、LQA、音声制作、データ収集などがあります。PTWインターナショナルのブランドファミリーには、SIDE、1518 Studios、Ghostpunch Gamesがあります。