シティコネクション社長吉川氏インタビュー。なぜ「まこ8」は消えるのか、『黄金の絆』復活の可能性、そしてオリジナル新作について訊ねた

シティコネクションの社長・吉川延宏氏にインタビュー。シティコネクションといえば過去の人気作の移植に熱心だったが、現在さらに展開の幅を広げようとしている。仕掛けなどについて話を伺った。

シティコネクションは、国内のゲーム開発・販売会社である。主にレトロゲームの移植を手がけており、最近では『暴れん坊天狗』や『デススマイルズ』などの移植版も発売。9月12日には、新たな移植作として、『ワイズマンズワールド リトライ』も発表されている。一部で話題となった作品が、HDリマスターされて再び発売されるわけだ。

一方同社は、東京ゲームショウ2022にあわせてオリジナルタイトル『Planet Ü』も発表している。移植を主に手がけてきたシティコネクションとしては、気になる動きだ。今回東京ゲームショウ2022の会場で、シティコネクションの社長・吉川延宏氏に『ワイズマンズワールド リトライ』『Planet Ü』について伺ってきたので、その内容をお届けしよう。


――自己紹介をお願いします。

吉川延宏氏(以下、吉川氏):
株式会社シティコネクション代表の吉川延宏です。シティコネクションは、私がカルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYAの運営会社)に在籍しながら起業し、2005年に設立した会社になります。創業当時のシティコネクションは、TSUTAYAの下請け業務がメインで、後に私がTSUTAYAでサウンドバイヤーだったので、音楽CDをきっかけにゲームサウンドレーベル「クラリスディスク」を立ち上げるなど、主に音楽関係を扱っていました。

その後、社名が偶然シティコネクション(※1)だったことでジャレコさんと知り合い、ジャレコさんからゲームIPを託された形になります。ゲームIPを持ってるのにゲームを作れない会社なんてダメだろうと考え、ゲーム開発会社の吸収や開発者の新規雇用を進めるなど、模索しているうちにゲームパブリッシャーとして活動するようになりました。ゼロディブの子会社化も大きな出来事でしたね。現状だと社員数は50名程度で、拠点は3か所あります。

※1:
『シティコネクション』。ジャレコは、1985年に同名のアクションゲーム『シティコネクション』をアーケード向けにリリースしている。

ゲームだけで勝負したい

――シティコネクションさんは、ジャレコさんの復刻タイトルを多数リリースされてきました。今回の『ワイズマンズワールド リトライ』は、復刻タイトルの中では比較的新しく、いわくつきの作品でもあります。どういったところから、『ワイズマンズワールド』(※2)のHDリマスターが決まったのでしょうか。

※2:
『ワイズマンズワールド』。ジャレコから2010年に発売されたニンテンドーDS向けRPG。ゲーム内には、ユーザー投稿企画の敵モンスター募集を経て、5ちゃんねる(当時の2ちゃんねる)ユーザー「まこ8」氏が登場するなど、話題となった。

吉川氏:
実は、ジャレコのIPを引き継いだ際から、復刻自体はやろうと思えばできる状態ではありました。『ワイズマンズワールド』のソースコードは一式揃っていましたし、ジャレコ側のプロデューサーやディレクター、開発を手がけたランカースさんとも繋がりがあったからです。ただし、資金面やそもそもリリースして良いのかなど、悩んでいる部分がありました。実は4~5年前、ランカースさんに現行機向け移植の見積もりを相談したことがありました。ですが、その時は両社ともにタイミングが合わず、一度断念していました。

今回復刻となったのは、タイミングの面が大きいです。シティコネクションでは、これまでにジャレコのIPを多数復刻してきてましたが、今期から来期にかけて純粋な移植タイトル自体は少なくする方針になっています。今年ぐらいが移植の集大成で、今後は移植についてはウェイトを下げ、リメイクや新作のリリースにシフトしていこうとしています。その中で『ワイズマンズワールド』は移植としての集大成というか、昔からぜひやりたいと思っていたので、このタイミングだと思ったのです。

また社内に開発陣が増えたことや、『ワイズマンズワールド』の移植ができるかもしれないと考えていた時に、ゼロディブがジョインしたこともありますね。そういった理由から開発が始まったので、開発はシティコネクションとゼロディブのスタッフで進めています。外部の会社さんも関わっており、外注で新しく背景を書いてもらいつつ、移植は中で進めたりなどといった形です。

――『ワイズマンズワールド』のソースコードは、きれいに残っていたんですね。

吉川氏:
残っていましたね。当時のメインプログラマーだったランカースの星野社長ともいろいろと話し、細かい部分も教えてもらっています。全体のリソースを100とした場合、社内にあったのは90か80ぐらいだったのですが、無理を言ってランカースさんに探してもらうなど、限りなく100に近づけいきました。今回は開発としてはランカースさんは参加していないのですが、復刻するにあたって協力してもらいました。

――本作は『ワイズマンズワールド』HDリマスターとしては変更箇所が多く、リメイクと呼称してもおかしくないと思います。なぜ、あえてHDリマスターと呼んでいるのでしょうか。

吉川氏:
まず変更箇所としては、グラフィックを一新しています。加えて、原作でいろいろと指摘のあったまこ8や、アイテムのドロップ率、戦闘のテンポ、ゲームの難易度などに手を入れています。また入れる入れないは別として、最近では経験値がたくさん稼げる場所や、アイテムドロップが2倍/3倍になるDLCなどについても検討中です。結構変えている部分はあるのですが、まだ開発途中ですし、これからブラッシュアップをかけていく段階なので、あまり大げさに謳うのはどうかと思い、今回はHDリマスターと呼んでいます。

『ワイズマンズワールド リトライ』


――まこ8は当時ちょっとした話題になりましたが、どういった経緯から変更になったのでしょう。

吉川氏:
開発陣の共通認識として、「まこ8はないよね」と考えていたからですね。会議とかもまったくなく、変更が決まりました。ゲームは出来上がるまでに、開発以外に販売側の考えが入ってくることがあります。『ワイズマンズワールド』では、ランカースさん側の開発メンバーと、ジャレコ側でプロモーションがおこなわれていましたが、当時全体が一致団結してやっていたわけではなかったと思っています。ランカースの星野社長と話した時に、まこ8を入れることはジャレコ側で決定されたと伺いました。

今回『ワイズマンズワールド』シティコネクションが復活させるにあたって、ランカースさんの作ろうとしたものを復活させることが目的となっています。シティコネクションはジャレコではないので、ジャレコさんのプロモーションを一度切り離そうと考えて、まこ8は変更となりました。同じ考えで、キャラクターデザインや楽曲も変更しています。まこ8が良いか悪いかではなくて、コンセプトから考えた結果なわけです。なので、今回の『ワイズマンズワールド』はシティコネクション風のアレンジとも言えますね。ただまこ8がいなくなるとゲームが進まなくなってしまうので、まこ8の代わりとなるイベントも用意しています。こちらはまた後日の発表をお待ちいただければと。


――『ワイズマンズワールド リトライ』では、画面構成が2画面から1画面になり、UIやビジュアルもかなり大幅に変えられている印象です。変更にあたって、かなり苦労されたのではないでしょうか。

吉川氏:
基本は開発メンバーに任せているのですが、最初に1画面でやってみたいと画面が出てきたときに結構感動して、彼らのセンスを感じました。2画面を1画面にするという部分は、かなりしっくりきましたね。元々RPGで、タッチに非対応だったので、やりやすかった部分があるのかなと思います。アクションゲームなどではまた別の問題が出てくるのですが、RPGなので比較的変更がやりやすかったのではないでしょうか。

――今後の移植タイトルについて伺わせてください。『黄金の絆』(※3)については、検討されたことはあるのでしょうか。

※3
『黄金の絆』。ジャレコから2009年に発売されたWii用ソフト。開発はタウンファクトリー。開発費に対して売上は乏しく、ジャレコの社長であった加藤貴康社長自身がクソゲーと称するなど、当時話題となった。


吉川氏:
『黄金の絆』については可能性は一切ないです(笑)自分はジャレコマニアではないので、『黄金の絆』の移植を考えたことはありません。ただし、『ワイズマンズワールド』を移植しようと思ったきっかけは、『黄金の絆』とちょっと関係しています。ジャレコは、ニンテンドーDS向けにゲームを出していなかった時期がありました。かつて『ワイズマンズワールド』の一つ前に発売されたタイトルが、あの『黄金の絆』でした。

当時ジャレコはそれまでしばらくゲームを発売していなかったことと前作が『黄金の絆』だったことで、流通さんの印象が芳しくなく、売上が振るわなかった一因になったと思っています。1本のゲームとして評価してもらえなかった要因に、ジャレコの前作『黄金の絆』があったと思うのです。そういった外部要因をなくした形で、ゲームだけで勝負したい気持ちがあったんです。

――移植については、『全国デコトラ祭り』はいかがでしょうか。

吉川氏:
デコトラは売れていたので、デコトラをやろうという声は結構ありますね。『黄金の絆』の100倍ぐらい移植の可能性はあるんじゃないかなと思います(笑)

シティコネクションはオリジナルタイトルに取り組む

――シティコネクションの海外法人「City Connection Turbo」から、オリジナルの新作が発表されました。『Planet Ü』について伺わせてください。

『Planet Ü』


吉川氏:
シティコネクションには、IPを元にしたタイトルをリリースする会社というイメージがあると思います。変えたとしてもUIの変更や便利機能の追加などが多くを占めます。どちらかというと『星をみるひと』や『暴れん坊天狗』、『ギミック』など移植タイトルの選定で興味をもってもらってきました。今後も、ニッチな市場の開拓自体はやめないのですが、前述したようにちょっとウェイトを下げて、その分オリジナルタイトルを出していこうと思っていまして、それが今回発表した『Planet Ü』などになるわけです。今回はTGSのインディーコーナーにプレイアブル出展しています。元々、ギリギリまで出展予定はなかったのですが、開発チームの方から間に合うかもと聞き、急遽出展となった形です。

開発は、シティコネクション内のメンバーが担当していて、完全内製のゲームになってます。『忍者じゃじゃ丸コレクション』『星をみるひと』『暴れん坊天狗』『ギミック』などの移植を担当してきた、「Hello Quest」というチームです。『ギミック』の移植と並行して『Planet Ü』の開発を進めてきました。彼らには『ギミック』の発売スケジュールを守ればあとは何をしてもいいと伝えてあったので、実は私はあまり関与しておらず、昨日の夜に初めて『Planet Ü』を遊びました。自社のゲームなのであまり持ち上げるのもアレですが、1本のインディーゲームとしてよくできていると思っています。

『Planet Ü』


――シティコネクションさんは、会社として攻めた立ち回りをしている印象を受けます。資金的に余裕があったりするのでしょうか。

吉川氏:
シティコネクションには外部資本は一切入ってないんです。なおかつ、社長でオーナーである私個人が入れているお金も資本金以外は1円もありません。売上と銀行からの借り入れだけで回しています。たとえばSteamでは20タイトルほど展開しているなど、現在各プラットフォームでワールドワイドに結構な数をリリースしていています。タイトル数が揃っているので、セールをやるだけでも毎月結構な売り上げが入るようになってきまして、今年になって会社自体がようやく回るようになってきました。チャレンジできている要因は、現金を会社に残さないことですね。残っている現金にはすべて予算がついていて、先の投資にロックされている分だけになっています。利益は出さないです。上場できませんね(笑)

とにかく自分が心がけていることは、ゲーム業界が30年40年と続いてきた中で、潰れていったデベロッパーさんやパブリッシャーさんと同じことをやると高確率で自分たちも亡くなるということです。先の5年から10年を見て、仮にとても辛い選択肢だったとしても、これを選ぶと潰れるだろうな、やっていけなくなるだろうなと感じることはやらないようにしています。

――ありがとうございました。

シティコネクションより、『ワイズマンワールド リトライ』は2023年に発売予定。オリジナルタイトル『Planet Ü』については公式サイトが公開中となっている。

[執筆] Keiichi Yokoyama
[聞き手・編集・撮影] Ayuo Kawase

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