ゲーム会社MUTANは5月22日、『グーニャモンスター』を発表した。『グーニャモンスター』は、人気イラストレーター寺田てら氏デザインのキャラクターで暴れまわるTPS要素を持った3vs1の非対称型パーティゲームだ。対応プラットフォームはPC(Steam)。さまざまな要素が盛り込まれた野心作であるが、MUTANはこの作品によって「100円メーカー」からの脱却を試みているという。MUTANと『グーニャモンスター』はどこを目指すのか。開発者に話を訊いた。


──自己紹介をお願いできますでしょうか。前作『グーニャファイター』での役割と、新作『グーニャモンスター』での役割を両方教えていただけますか?

渡邊氏:
株式会社MUTAN代表取締役の渡邊です。『グーニャファイター』でも『グーニャモンスター』でも基本的なスタンスは同じで、プロデューサー的な立ち位置で携わっています。


大澤氏:
大澤です。『グーニャファイター』および『グーニャモンスター』のプランナーとディレクションを担当しております。もともとはキャメロットでプランナーを15年程やっていました。有名なタイトルだと『マリオテニス』や、『マリオゴルフ』。ほかには『黄金の太陽』などに携わりました。その間のキャメロットのタイトルには、大体自分が関わっているかなと思います。

その後は、DeNAでスマホゲームに少し携わりました。その後渡邊さんの方から声をかけてもらったのと、コンシューマゲームをもう一度作りたいなという思いが重なって、MUTANでゲームを作ることになりました。いくつかの受託の開発に参加し、何かオリジナルタイトルをやってみようという流れのなかで、『グーニャファイター』の開発に携わったという流れになります。


── ありがとうございます。それでは改めて、MUTANさまの会社紹介をお願いします。

渡邊氏:
弊社MUTANは2007年に設立されました。経緯としては、僕がフリーランスだった時代の仲間5名で立ち上げました。そこからちょうど今年の1月で設立15年となりましたが、変わらずゲームの開発を続けています。

── 受託の実績を教えていただけますか。

渡邊氏:
最近の実績だと『ファイナルファンタジーXV』の、最後のダウンロードコンテンツになった「エピソードアーデン」があげられます。こちらの開発をまるっとやらせていただきました。あとは、『アトリエ』シリーズのメインモデルは5年ほど前から弊社の方でやらせていただいております。2年ほど前には、『ライザのアトリエ』の主人公ライザがとても好評をいただきました。直近の実績が少ないのですが、それはなぜかというと、とても大きな案件にかかわっていて、開発期間が長いんです。近い将来、我々が携わったゲームが発表されてくるんじゃないかなと思うので、期待していてください。

── 楽しみです。そうした数々の受託案件をこなされていた中で、自社パブリッシングを近年になって始められました。そのきっかけを教えていただけますか?

渡邊氏:
自社パブリッシングを始めたのは5年ぐらい前です。せっかくゲーム業界に入ってゲーム業界で仕事をする以上、多くのクリエイターは、自分たちでゲームを生み出し、そして売ることをイメージしていたと思います。僕自身もそうです。そこを少しでも実現していきたいな、という思いがあり、自社販売を始めました。あとは単純に、儲けたい。自社ゲームを売って成功すれば、めっちゃ儲かるんだという夢を抱いてパブリッシングの活動もしています。(笑)

── 今のところは儲けの手ごたえを感じていますか?

渡邊氏:
何と言ったらいいか、階段をのぼっている感じはありますが、まだ儲かってないです。ただ、このあとも話題に上がるであろう『グーニャファイター』のおかげで、MUTANを気にかけてくれる人の数は確実に増えたんじゃないかなと。

前作『グーニャファイター』


── AUTOMATONではMUTANさんに関して、100円セールの会社という形式で取り上げを何度もさせていただいてます(関連記事)。そうした影響か、『グーニャファイター』というと、安く買えるゲームというイメージが定着しています。一方で、最近では『グーニャファイター』はセールで100円で売られていません。方針を変えられたのでしょうか。

渡邊氏:
『グーニャファイター』は2019年に発売され、2020年ぐらいまでは100円セールをやっていました。キャラやルールの追加などの積極的なアップデートを並行して行うことでたくさんのユーザーさんに遊んでいただけたと思います。2020年の時点で、100円セールから抜け出して、このゲームを我々が設定した正しい価値で販売する、あるいは価値のあるタイトルだということを示していく方向に切り替えています。

100円セールをした理由としては、我々のような知名度の会社がPRを的確に打てずに、ゲームの発売を迎えてしまったからです。「もしかしたらバズるかもしれない」という希望的観測だけで発売日を迎えてしまったんです(笑)ただ、やっぱり何もしていなかったので、何も起きなかった(苦笑)でも、一生懸命作ったゲームがこのまま誰にも知られずに、ニンテンドーeショップの下の方にずっと沈んだままになるのはすごく残念だなと。そこを解決する方法を、突拍子もない方法でもいいから、何か考えて実行しようといったときに、当時海外で盛んだった格安セールを日本でもやってみた、というのが経緯になります。

── ありがとうございます。セールをしたことで得たものと、失ったもの・引きずっているものがあれば、教えてください。

渡邊氏:
はい、得たものは一番わかりやすく、18万本売れたことによる、18万人のユーザーさんとの出会いかなと思います。失ったもの・引きずっているものは、格安価格で売ってしまったところかなと思いますね。もともと何か積み重ねてきたものがあったわけではないですが、ブランド力の前借というか知名度の前借をしてしまったな、という感覚はあります。

──そうした経緯を経て、新作『グーニャモンスター』を発売されるわけですね。こちらの開発の経緯を教えていただけますと幸いです。

渡邊氏:
『グーニャファイター』を18万人の方に買っていただけた・プレイしていただけました。これをもっと広げたい、『グーニャファイター』でファンになって頂いた人たちを驚かせたい、というところから、このタイトルの開発が始まりました。

新作『グーニャモンスター』


──新作『グーニャモンスター』はどういうゲームになるんでしょうか?

大澤氏:
その辺りは私の方から説明させていただきます。『グーニャモンスター』は3vs1で遊ぶ、いわゆる非対称型のバトルゲームです。力を合わせて戦う3人のバスターと、強力なスキルで暴れまわる1体のモンスターに分かれて遊びます。

基本的なシステムはTPSの作法を採用していますが、エイムが苦手でもきちんと試合に参加できるよう、システム面でもいろいろな工夫をしています。さらに、前回のPR力不足を反省し、キャラクターデザインにもこだわりました。ポップでゆるくてちょっとダークな作風の寺田てらさんに、ちょっとゆるくて隙のある『グーニャ』の世界観を表現してもらっています。

── ありがとうございます。デモ版をプレイしていて、これはジャンルとしては何になるんだろうと思いました。公式では何と呼んでいますか?

大澤氏:
自分たちとしては、非対称型パーティゲームと呼んでいます。ジャンルでいうと、TPSや非対称型対戦ゲームが近いんですが、ルール的には既存の非対称型のゲームとはまた違う、取っつきやすいシステムにしています。


もともと非対称型のゲームにチャレンジしたいという思いはありまして。非対称型のゲームを作ろうという目標もあったんですが、自分が非対称型ゲームを遊んでいて、すごく強く思ったのが、「意外と協力しあってないな」という点です。逃げる方が一斉に逃げて、それぞれが個別に頑張ってる印象が強かったですね。自分としては協力しあうところに、非対称の面白さを活かせるんではないかと思っており、今作ができあがったというところです。

──非対称型対戦ゲームでは、ほかプレイヤーを支える役割は、うまい人が担う役回りという印象です。『グーニャモンスター』の場合は、協力はどのようなかたちになるのでしょうか。

大澤氏:
先ほども少し申し上げましたが、今回も、ゲームが苦手な人でも積極的に参加できるようにシステムを工夫しています。具体的な例を一つ挙げると、モンスターは強力なスキルでキルを取りやすく、バスターは蘇生しやすく、また死んだままでも役割を持てるように設計し、野良プレイでも自然と協力が生まれるように調整しました。

モンスターがキルを取りやすく調整しているので、協力しないとすぐに全滅してしまいます。そのかわり蘇生もしやすいので、バスターは仲良く協力しあうほど気持ちよく遊べます。

── ありがとうございます。今作は、イラストレーターの起用やキャラクターボイスに加えて、3Dモデリングにも力が入っていると感じています。MUTANさんの中でも、やはりお金がかかっているのでしょうか。

渡邊氏:
社内リソース・社内のコストでいっても『グーニャファイター』のときの三倍から五倍ぐらいはかけているはずです。外部のクリエイターさんたち、声優さん、イラストレーターさん。しっかり外部のプロフェッショナルの方に協力して作ってもらっていますし。

── どれくらいの売上を目標として作られていますか?

渡邊氏:
『グーニャファイター』の本数を越えられるよう、PR活動を頑張っています!

── 意欲的ですね。本作は、私が見たかぎりでは、運営型ゲーム的な側面をもっているように思われます。なぜ運営型ゲームにしようと思われたんでしょうか?

大澤氏:
実は本作は運営型ゲームとしては作ってはいないんです。『グーニャファイター』リリース当初は、継続的に遊んでくれているユーザーさんにとって、継続的に遊ぶモチベーションがレーティングという仕組みだけしかなかったんですね。それだけだとずっと遊び続けるには物足りないというか、遊びが少ないのかなと思いまして。次作る時はそこをなんとかしたいなという課題が自分の中にはあり、その施策の一つとして運営型要素を部分的に取り入れています。ただ、運営型のゲームそのものではないです。


── てっきり運営型でバトルパス形式のタイトルかと思っておりました。本体をしっかり買ってもらってから、買ってくれたユーザーを楽しませるための、アップデート計画が展開されると。

大澤氏:
そうですね。最近は買い切りだけれど、発売後しばらくのあいだはステージなどが追加されるゲームがあります。どちらかというと、そのイメージが近いです。ただ基本はゲーム本体の収益を柱として考えているんですけど、ずっと、アップデートを続けていくということになると、開発コストを支えるために追加DLCや消費アイテムのようなものの導入も検討はしていきたいと思っております。

渡邊氏:
僕からも少し補足させてください。今作では、今までのゲームプレイヤーのノウハウや、ユーザースキル・テクニックをリセットしようということを掲げています。いわゆるTPSの上手な人や、そういったプレイヤーに優位性があるゲーム“ではない形”にしたいなと思っています。誰でも触ったらすぐにゲームに参加できて楽しめるところを目指しています。

そうした設計なので、pay to winにはなりませんし、上級者が無双するということは起こりにくいです。例えば長く遊んでもらおうと思ったときに、パラメーターやレベルが上がるとか、課金をして圧倒的に強い武器を手に入れるとか、そういうところはマッチしないなと。どういう形で長く遊んでもらうべきか、熟考しました。

── 一方で、『グーニャモンスター』についてはシーズン展開も予定されているということですが、どのくらい続けたいですか?

大澤氏:
ひとまず今の段階では、発売後1年分の更新分までを検討しております。それ以降は、ユーザーさんの反応を見ながら考えていければと。

── 1年というとやや長期計画になりますが、もうすでに発売後のコンテンツ制作などは進んでいるのでしょうか?

大澤氏:
そうですね。最初からその方針で開発を進めていたので、かなり出来上がっています。段階的にオープンしていくかたちになります。


── ちなみに、このゲームを作るうえで、ベンチマークとして刺激を受けた・参考にしたタイトルはありますか?

大澤氏:
最近のタイトルでいうと、『Fall Guys』ですね。オンラインゲームなのに、プレイヤー同士があまりギスギスせずに、ワイワイとお祭り的に楽しんでいるのが、すごくいいなと個人的に思いまして。『Fall Guys』は、ゲームサイクルなども参考にさせていただいております。ガッツリ運営というかたちではないのに、常に何か新しいことがおこなわれているような雰囲気を出せていたり、いろんなコラボをしたり、というあのゆるさがとても良いなと思っていて。そのあたりは刺激を受けました。

もうひとつ影響を受けている作品としては、こちらはちょっと古い話になっちゃうんですが、NINTENDO 64の『大乱闘スマッシュブラザーズ』です。桜井(政博)さんは一度『格ゲー』という要素を分解してリセットして、また誰でも遊べるような対戦ゲームとして『スマブラ』を作ったんじゃないかな、というふうに自分は感じていて、自分もそういったゲームを作れるよう常に考えています。

『グーニャファイター』も、ゲームが上手い人でも下手な人でもフラットに遊べる、仮に優劣がついたとしてもなんか笑いあって許せる、というふうに作っていました。ゲーム作りしていると、負けると悔しすぎてもうやりたくなくなるゲームと、負けて悔しいけどもう一回遊びたくなるゲームがあると思っています。

負けたらもうやりたくないと思うようなゲームって、やっぱり対戦に占めるプレイヤースキルの比重が大きすぎて、負けたことに納得できない。たとえば、対戦アクションでずっと嵌められて、何もできずに終わってしまったら、理不尽感がすごくありますよね。もちろん自分のスキルが足りないというのもあるんですけど、自分が何も関与できずに終わったと感じてしまうと、もう遊べないと思うんです。そうならないようなゲームを作ろうと思っています。

── 新作『グーニャモンスター』には、いろんな要素があると思うのですが、ゲームの面白さの核はどこにありますか?

大澤氏:
このゲームの面白さの核は、仲間同士で協力し合って戦って遊ぶというところにあるかなと思ってます。特に、「こおりおに」のようなルールが一番面白いところかなと。『グーニャモンスター』のアイデアを考えていた時期に、友達の家族と遊ぶ機会があって、突然子供が「こおりおに」をやり始めたんですね。そこに親たちも混ざって遊んでたんですが、「鬼にタッチされたら凍らされる」「全員凍らされたら負け」「鬼以外は協力して凍らされた仲間を解凍しないとならない」という仕組みが面白くて、着想のひとつになっています。

みんなで遊ぶ機会とか場所とか、大人になると体力も限られてきます。『グーニャモンスター』が、そういった制限をなくして、ゲーム上で離れた友達とも遊べる場を作れたらいいなと思っています。


── ただ、マルチプレイゲームというと、たくさんのタイトルが発売・運営されています。本作ならではの要素を教えていただけますか?

大澤氏:
『グーニャファイター』ゆずりのハプニング性です。石につまずいてコケちゃうところなど、短い試合の中でたくさんハプニングが起きるところにこのゲームならではの面白さがあると思っています。時おり物理演算が悪さして、作り手も想定していないような挙動を見せることもあって、テストプレイするときもみんなでゲラゲラ笑いながらプレイしています。見ているだけで面白い、というのも遊んでくれた人の意見としていただいてますので、実況配信にも向いているかなと。観戦モードも実装しているので、そういった配信などもぜひみんなにしてもらえたら嬉しいなと思っています。

渡邊氏:
先ほど大澤さんからも出ていましたけど、『グーニャ』シリーズで僕がとてもいいなと思っているところとして、ワンゲーム中にハプニング・トラブルが起きる、しかもたくさん起きるというのがあるんです。仕組まれたハプニングではなくて、自然にゲームの中にハプニングが起きる要素が散りばめられていて。ユーザーさんもそのハプニングを笑いながら遊べるところは、『グーニャ』シリーズのすごくいいところだなと思っています。

── 現在対応プラットフォームはSteamのみが発表されていますが、Nintendo Switchなどを含めた他プラットフォーム展開は予定されていますか?

渡邊氏:
幅広い方に届けたいと思っておりますので、今後の発表をお待ちください。


── それでは、インタビューも締めに入らせていただきます。改めて新作への意気込みを、大澤さん、渡邊さんの両方からお願いいたします。

大澤氏:
『グーニャファイター』では、もともと想定していたよりも多いユーザーさんにプレイしてもらえて、そこはすごくよかったなと思っております。前作を遊んでくれたユーザーさんにも、今回初めて知ったユーザーさんにも今作の進化をぜひ体験していただければ嬉しいなと思っています。魅力的なキャラクターがいて、ポップで可愛くて、はちゃめちゃなTPSアクションに仕上がっているので、ぜひ仲のいい友達と一緒に遊んでいただけたらなと思います。あとは発売後も意外なコラボなど、いろいろな施策を考えていますので、そこら辺に関してもぜひ期待いただければなと。

渡邊氏:
僕はもうちょっとプロデュース的なお話を。現状ではAUTOMATONさんのご協力もあって、MUTANは100円のメーカーというイメージをもたれていると思います(笑)『グーニャモンスター』はそこからの脱却にはとてもいいタイトルだと思っています。というのも、知名度も実力もある優秀なクリエイターさんたちにたくさん協力してもらってますし、我々開発スタッフも20年選手でMUTANをずっと支えてきた人たちが、大事なセクションに参加して作品を作っています。

よって、安っぽさ・チープさみたいなところは、MUTANという名前以外、『グーニャ』というシリーズの名前以外には、一ミリもない状態で発売を迎えることができると思っています。積み上げてきた作品・作ってきた作品を上手くPRして、100円じゃないと売れないというのは、今回で脱却していきたいなと。そのためにも、ユーザーさんたちともしっかりとコミュニケーションを取りながら、一年間アップデートしていくことが決まっているので、よりよい形を作っていけたらいいなと思っています。

── ありがとうございます。期待しております。ち、ちなみに、100円セールは今のところやられる予定はありますか?

渡邊氏:
まったくないです。予定は……予定は、まったくないです。

大澤氏:
言い切ってくださいよ(笑)

渡邊氏:
ないです!

── (笑)本日はお時間いただきありがとうございました。



[インタビュー・編集] Ayuo Kawase
[文・編集] Hideaki Fujiwara