会社の中心で「これからはSteamの時代だ」と叫んだ盛P ― MAGES.盛政樹プロデューサーインタビュー

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日本は家庭用ゲーム機の文化が強かったせいか、「パソコンでゲームをする」ことがあまり定着してこなかった。1980年代はゲーム = ファミコンかパソコン、という時代もあったのだが、Windows 95がリリースされるとすっかりパソコン=ビジネス向けとなり、ゲームと言えば家庭用ゲーム機のことを差すようになった。

ところがここ数年、さまざまな状況の変化により、ゲーム=家庭用ゲームという図式ではなくなってきている。それはご存じのとおりスマートフォンの存在も大きいが、その隣ではSteamも国内で存在感を見せてきた。Youtuberなどゲーム実況でSteamのゲームが取り扱われることが多いこともあるだろう。国内メーカーが次々とSteamに参入し、いまは「PS4/Xbox One/Steam」なんていう表記がデフォルトになりつつある。

今回インタビューしたMAGES.も昨年からSteamへ本格参入したメーカーのひとつだ。その経緯や今後の予定を、Steam参入の中心人物である盛政樹プロデューサーに話を聞いた。

MAGES. ゲーム事業部 第2制作セクション プロデューサー 盛政樹氏

最初に盛氏のゲーム業界経歴を確認しておこう。盛氏の業界デビューはデータイーストで、このときはアーケードゲームを開発。次に勤めたトンキンハウスではアドベンチャーゲームを手がけ、MAGES.の前身となる5pb.立ち上げの際に合流することになる。

会社設立当初はゲーム部門に盛氏しかおらず、トンキンハウスからの流れもあってアドベンチャーゲームを作っていた。だが、本来作りたいゲームはアーケードゲームライクなタイトルだったため、KIDから開発メンバーが移籍してきた段階で彼らにアドベンチャーゲームを任せ、盛氏自身は自分が得意なジャンルでゲーム開発を進めることにした。

「データイースト時代は開発するチャンスがなかったシューティングゲームを作ることにしたんです。でもいきなり5pb.がシューティングを作ったところで見向きもしてくれないと思ったので、まずはケイブのシューティングを移植させていただき、そのうえでオリジナルを作るといいんじゃないか、と」

Xbox 360でケイブシューティング移植を2作経て、いよいよオリジナルシューティングの『バレットソウル -弾魂-』(Xbox 360)を2011年4月にリリースした。以降、対戦格闘ゲーム『ファントムブレイカー』(Xbox 360)、『ファントムブレイカー エクストラ』(PS3/Xbox 360)など手がけ、アドベンチャーゲームの5pb.というイメージとは別に、もうひとつ新たなブランドイメージを確立していく。

『バレットソウル -弾魂-』はシューティング初心者が気軽に楽しめる難易度

そんな中、盛氏は2011年あたりからダウンロード販売やSteamに関して、積極的な姿勢を社内で見せ始める。その販売方法に大きな可能性を感じていたからだ。 

「パッケージ販売だと、十分な数を用意できなくてお客さんに届けることができないことがあるんです。近所で売ってなかった、売り切れていた、っていう。発売してすぐ売り切れても、じゃあ増産するかというとなかなかハードルが高いですし」

増産したとしても、それをショップが仕入れてくれるとは限らない。増産したぶんを納品するころは、別の新作ゲームで盛り上がってしまい、ショップもユーザーも興味が薄れていることもある。

そういう意味では、ダウンロード販売はメーカーにとってもユーザーにとってもメリットしかないと言っていいだろう。ユーザーはほしいゲームがほしいときに手に入るし、メーカーは在庫切れの心配をする必要がなく、いつでもユーザーに届けることができる。

盛氏はこれを積極的に推し進めたいと思っていたのだが、会社の理解を得るまで少し時間がかかった。パッケージゲームと違い、ダウンロードは発売すれば即売上につながるわけではないからだ。パッケージゲームは製品をショップなどに卸した段階で売上がほぼ決まる。極端な話、受注段階である程度数字は見えてくる。ダウンロードゲームは発売日を迎えてもそこからどれくらい売れるかまったくわからず、売上見込みが難しい。

手始めに対戦格闘ゲーム『ファントムブレイカー』のスピンアウト作品となるアクションゲーム『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』をダウンロード専用でXbox 360、PS Vitaで配信を始めるも、すぐ結果が出るわけではなかった。

「長い目で見て最終的に利益が出たね、儲かったね、となればいいなと思っていたのですが、このゲームは一体いつになったら利益になるんだ?と会社からは突っつかれ続けました」
 
そうした中、時代は少しずつ動いていく。いつしか各ゲームプラットフォームはパッケージ販売と同時にダウンロード版も配信するようになり、家庭用ゲームにおいてダウンロード販売も当たり前のように行れる流れになった。ここで盛氏はSteamへの参入をあらためて提案し、実施していくことになる。

「ゲームはもはや日本の市場だけでなく、海外市場にも目を向けなければなりません。そう考えたとき、Steamには絶対に参入しておくべきなんです」

Steamは、2003年にサービス開始となったPC向けダウンロード配信プラットフォームなのはご存じのとおり。Steam利用ユーザー(アカウント)は年々増えていき、2010年に3000万、2014年に1億、2016年には1億5000万アカウントといつのまにか日本の人口を突破し、いまや世界最大級のゲームプラットフォームのひとつと言っていい。0.1パーセントのSteamユーザーが買ってくれたとしても10万本なのだから、やはりその市場は大きい。日本ではPCでゲームをする文化が浸透していなかったこともあるが、ここ数年でだいぶユーザーが増えてきている印象だ。

盛氏は、まず最初に『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』をSteamに移植し、発売元はSteamの配信を何作も手がけているデジカ社にお願いした。ここで十分な手応えがあったので、いよいよMAGES.自身がパブリッシャーとなってSteamに参入することになる。

『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』は2Dドットキャラによるベルトスクロールアクションだ

第一弾はMAGES.の代表作とも言えるアドベンチャーゲーム『STEINS;GATE』で、これが2016年9月に配信された。MAGES.は、現在もブランド名として継続している5pb.の時代からアドベンチャーゲームのイメージを特色としているので、まずはこのイメージをしっかり世界にも伝えていくことになった。

『STEINS;GATE』のテキストは日本語と英語がある。音声は日本語のままだ

そのうえで、盛氏がMAGES.で手がけてきたアーケードゲームテイストのアクションゲームやシューティングゲームもSteamでリリースしていく。盛氏のプロデュースタイトル『バレットソウル -弾魂-』を早速Steamへ移植、2017年4月にリリースした。

Steamにおいてとくに大事だと思われるのがサポートだ。Steamクライアントから直接メーカーに要望を伝えることができるコミュニティハブがゲームごとに用意されており、ここの運用がとでも重要だと盛氏は語る。

「売ったらそれっきりではなく、可能な限り要望に応えてアップデートしていきたいと思っています。『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』は売上が好調だったので、アップデートでオンラインプレイに対応させることができました」

『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』は当初、オンラインには対応していなかったのだが、想定以上のダウンロード数という実績もあってオンラインプレイを実装することができた。ユーザーの要望に応える形で、できることできそうなこと、できないことをフォーラムを通じてしっかり伝えていくことで、ユーザーとメーカーの信頼関係を築いていきたいという。末永く売っていくことを視野に入れているダウンロードタイトルは、こうしたサポートがとくに重要だと感じている。

『バレットソウル -弾魂-』への意見を見ると、「高解像度グラフィックにしてほしい」「高難易度のモードをつけてほしい」というものが多い。

「オリジナルのXbox 360版では、テクスチャーデータがあまりゼイタクな使い方をしてないので、高解像度用データを新たに作らなければならないんです。その費用を考えると現時点ではちょっと難しいかもしれません。もっと売れるようであればアップデートという形でユーザーに還元したいと思っています。あと高難易度についてですが、このゲームはそもそも初級~中級者向けにバランスをとったゲームなので、そこもゲームの思想としてどうしたものかと……」

いまのところ、このふたつに関しては実現するか・させるかは未定だが、どうなるにせよキチンとユーザーに説明しながら進めたいそうだ。

「こうした要望に対しては、ひとつひとつ、できるできないも含めて応えていきたいと思っています。実現できないならそれがどういう理由でできないのかも説明したいところですね」

『バレットソウル -弾魂-』のコミュニティハブにある総合掲示板。バグ報告などをユーザーが書き込む場所となっている

MAGES.のSteamタイトルに関して今後の予定としては、海外先行で配信されている『PSYCHO-PASSサイコパス選択なき幸福』の日本版を近日中に、『バレットソウル -弾魂-』のバージョンアップ版的な位置付けの『バレットソウル -インフィニットバースト-』もこの夏、そう遠くないタイミングでリリースしたいとのこと。

その他、基本的にはMAGES.の看板ジャンルであるアドベンチャーゲームは積極的にSteamへ移植され、盛氏自身が手がけてきたタイトルも可能な限り移植を目指している。

「年内には、アドベンチャーゲームを3~4本はリリースしたいと思っています。言語は日本語と英語を入れていますが、今後は中国語もフォローしたいですね。『STEINS;GATE』はアップデートで中国語に対応する予定です」

MAGES.が多く手がけるノベルタイプのアドベンチャーゲームは、日本独自のゲームスタイルだ。膨大なテキスト量ゆえ、ローカライズされて世界で発売されるケースは少ない。遊びたくても遊べないゲームファンが世界中にいただろうし、MAGES.がSteamへ参入したことで日本産のアドベンチャーゲームファンがさらに増えてくれるならば、こんなに嬉しいことはない。

盛氏自身のオリジナルゲームだが、来年にはお目見えしそうだとのこと。「もちろんダウンロード専用ゲームです。もうパッケージタイトルは作りません。ジャンルは……シューティングゲームではありません」とのことだが、じゃあアクションなのか!? まずは家庭用ゲーム機で配信となりそうだが、いずれSteamでも配信されるだろう。どんなゲームなのか非常に楽しみだ。

最後に、盛氏から読者に伝えたいことがあるという。
 
「SteamのゲームやMAGES.のゲームが大好きで、英語が堪能な人を募集しています。コミュニティマネージャー的な役割が欲しいので、ご興味がある方はご連絡ください。国籍問わず、男女問わず募集してます! また、僕と一緒に海外メーカーと商談できるような、ライツビジネスに詳しい人材も来てくれると嬉しいですね」

世界中のゲームファンから届く意見を日本語に翻訳し、開発側の意見を英語にして世界のゲームファンに伝える、という大事な仕事だ。そのぶんやり甲斐はあるだろう。我こそは!という人は、まずはコチラへ連絡を!

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