『RimWorld』 SFドワーフ西部劇フォートレス


昨年11月にKickstarterですばらしいスタートをおさめたSFコロニーシム『RimWorld』は、本年6月に総計80万ドルもの資金をあつめました。『Star Citizen』をはじめとする大型プロジェクトの額とくらべれば目立たない数字ですが、注目をあびていることにはかわりありません。本作は現在Windows・Mac・Linuxでリリース予定となっています。

 

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発売日は未定ですが、公式サイトで予約(30ドル)するとアルファテストに参加できます。今回はご紹介するのはそのアルファ4(Ver0.4.466)について。

 

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本作のジャンルはリアルタイムの町建設シムです。『Sim City』シリーズや『Tropico』シリーズとくらべ、住民は少なくサバイバルの要素が大きいので、弊誌で以前紹介した『Banished』にちかいものとなっています。「村建設シム」と呼んだ方が、その建設規模を想像しやすいでしょう。その村建設シムのひとつ、フリーゲーム『Dwarf Fortress』のUIを大幅に改良し、独自の要素を盛り込みSF西部劇として味付けしたのが本作です。

 


適者生存の法則 – 環境を適応させて生存する町建設シム

 

ゲームは宇宙船の難破で辺境の惑星(Rim World)に不時着したところから始まります。プレイヤーは不時着した人々を最初の村人とし、彼らが荒野のど真ん中で生活できるように村をつくらせます。村人が1人もいなくなるとゲーム終了となるので、村人の生存戦略も同時に計画しなくてはなりません。

ゲームのコンセプトは、村建設シム『Dwarf Fortress』とタクティカルストラテジー『Jagged Alliance 2』の融合です。これは公式サイトでゲーム特徴として記載があります。つまり偶然や"パクリ"ではない意図的なもの・リスペクトしたものです。

さて、本作を既存のゲームジャンルで分類すると、次のようになります。

 

SF西部劇なので電気もある。 (拡大画像はこちら)
SF西部劇なので電気もある。

「町建設シム」

フィールドに建設計画をたてると村人が自分で考えて資材を運び、つくりはじめます(村人にそのつど直接指示を出すこともできます)。悩ましいのは、他の町建設シムとくらべて人手がまるでたりないこと。そのうえ資材の確保にも人手を必要とします。さらには設備や壁の補修、ポテトの栽培など、やることはいくらでもあります。人手の配分と効率よい村のデザインに頭を使うことになるでしょう。

 

 

様々な要因が村人の心をむしばむ「試される大地」。(拡大画像)
様々な要因が村人の心をむしばむ「試される大地」。(拡大画像)

 

「サバイバル」

得手・不得手と疲労度を考えて仕事を割り振る。命がけの勤務シフトを考える管理職。
得手・不得手と疲労度を考えて仕事を割り振る。命がけの勤務シフトを考える管理職。

村人は人間です。食事・睡眠・雨風をしのぐ屋根を必要とします。さらに、発展がすすむにつれ照明や住まいや調理した食べ物といった文明人らしい暮らし・孤独感・仕事の種類への好き嫌いなど、様々な不満をかかえはじめます。村への忠誠心がしきい値を下回り心の病をわずらってしまった場合、それらの対処も急務となります。この「環境という敵」に追い詰められる焦燥感が村人のサバイバル生活をうまく表現しているといえるでしょう。

 

カバー要素もある銃撃戦。 (拡大画像はこちら)
カバー要素もある銃撃戦。

(拡大画像はこちら)

「タクティカルストラテジー」

ときおり襲撃する"インディアン"や宇宙海賊から身を、そして村を守らなくてはいけません。村人を失う悲劇となるか、捕虜をえる機会となるか。息を飲む銃撃戦とリスク&リワードに興奮します。

 

 

人気作品の面白い要素をいいところどりし、有機的に組み合わせたのが本作の魅力です。

 


「脚本家」はAI

 

先にのべたゲームコンセプトは成功したように見うけられます。それにくわえ、本作独自の特徴的なシステムがゲーム体験を一層引きたてます。そのシステムの名は「AIストーリーテラー」。『Left 4 Dead』の「AIディレクター」と部分的に類似した仕組みです。ゲームプレイを1本の物語として考え、プレイヤーのゲーム進捗にあわせ様々なイベントを発生させ緊張の緩急をつくりつつ、段階的に難度をあげてくれるシステムです。

 

ゲーム開始直後、最初に作家をきめる。プレイヤーが「遊びたい」ストーリーを選べる親切設計。 難度調整する作家だけでなく、敵対勢力を出さない作家や、ランダムでイベントをつくる作家もいる。
ゲーム開始直後、最初に作家をきめる。プレイヤーが「遊びたい」ストーリーを選べる親切設計。

難度調整する作家だけでなく、敵対勢力を出さない作家や、ランダムでイベントをつくる作家もいる。

 

ランダムイベントでプレイヤーをふりまわしてくる彼らは、手応えのない易しさや処罰的な難しさにさらすのではなく、毎ゲーム「やりがいのある難易度」になるよう調整してくれます。村の効率が最適化された時点でゲームの"賞味期限切れ"をおこしがちな町建設シムにたいし、本作においてはプレイヤー側では効率化に限界があります。つまり、多様な環境が常時サバイバルの緊張を生みだしてくれるのです。こうした発想がより進歩すれば、町建設シムの「退屈な日常」がなくなるかもしれません。

なお、将来的には宇宙船をつくり惑星から脱出するゲームクリア要素が追加される予定。『Left 4 Dead』最終面のように、カタルシスあふれるクライマックスを演出してくれることでしょう。

 


SF西部劇『Dwarf Fortress』にとどまらない勢い

 

本作は他ジャンルの面白い要素を意欲的に取りいれることで、「退屈な日常」をできるだけ減らした町建設シムを目指しています。筆者は、このゲーム背景である「SF西部劇」がそれらゲーム要素に一貫性を与えるキーだと感じました。舞台は未来、荒野の惑星。SF西部劇は古典『太陽系無宿』、名作『サンティアゴ』、マンガ『トライガン』といった有名な作品がならぶエンターテイメントの王道です。難度調整システムを"AIストーリーテラー"と名乗らせたからには、それらに肩をならべるエンターテイメントになることを期待しても過剰ということはないでしょう。

さいわいなことに、本作の将来は明るそうです。

開発Ludeon Studiosは、Kickstarter終了後、1週間で出資者にアルファ1をリリースしました。それ以降も数か月ごとに新しいアルファバージョンをリリースしています。また、つねに開発内容を日報として公開し積極的な情報発信も続けています。その結果、オープンな開発姿勢に応えた投機者たちによりフォーラムが成熟し、開発者とともにゲーム開発する……いうなれば本来の目的通り・理想的なアーリーアクセス環境を実現されました。現在でもMODの公式採用や各要素の改善など、アーリーアクセス参画者から公式フォーラムをつうじて積極的にフィードバックをうけつけています。「メーカーだけではなくコミュニティ全体がLudeon Studiosとしてゲームを開発している」と表現しても過言ではないかもしれません。

町建設シムのファンだけでなく、SF西部劇ファンの期待もあつめ、資金だけでなく開発力まで得た『RimWorld』。これはSF西部劇調『Dwarf Fortress』にとどまることなく、さらなる高みにいたると期待できます。ありがちな賛辞ではありますが、じつに完成が楽しみなプロジェクトです。

 

アリだー!
アリだー!