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ゲーム開発者間で「ゲームデザインは書類でガチガチに固める必要あるか」巡って議論沸騰。ヒット作の“800ページ超えデザインドキュメント”、真似るべきか否か
『Mina the Hollower』の800ページにも及ぶデザインドキュメントを巡り、ゲーム開発におけるデザインドキュメントの運用方針について議論が交わされている。

ゲーム開発において、ゲームデザインの方向性をまとめた文書は「ゲームデザインドキュメント(GDD)」や「デザインドキュメント」などと呼ばれることがある。先月発売された高評価インディーゲーム『Mina the Hollower』の開発では、800ページにもおよぶデザインドキュメントが用いられたことが明らかとなり、ゲーム開発におけるデザインドキュメントの運用方針について議論が交わされている。
『Mina the Hollower』はネズミのミナを主人公とするアクションアドベンチャーゲームだ。人気作『ショベルナイト』の開発元であるYacht Club Gamesが手がけた新作として5月29日にリリースされた。Steamのユーザーレビューでは、これまでに約5200件のレビューを集め、うち88%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得。レビュー集積サイトMetacriticでは発売直後に、2026年の最高得点である92点を叩き出すなど高く評価されている。売上は6月9日時点で、50万本にのぼるという。

ゲーム開発を支えるデザインドキュメント
ゲームデザイナーのDan Felder氏は6月15日、Redditの「r/gamedesign」コミュニティにそんな『Mina the Hollower』に関する投稿をおこなった。Felder氏はRiot GamesやBlizzard、Electronic Artsなど名だたるゲーム会社で勤務した経歴をもつベテランだ。同氏は先日、何人かの同僚も交えて、Yacht Club GamesのゲームデザイナーであるAlec Faulkner氏と通話していたという。そこで誰かが『Mina the Hollower』のデザインドキュメントはどんなものかと尋ねると、Faulkner氏は800ページ以上にも及ぶ資料を見せてくれたそうだ。

Felder氏はそのうち2枚のスクリーンショットを共有している。1枚目には概要が書かれており、ゲームの基本的な仕様が事細かに記載されているようだ。たとえば、「攻撃は“ハート半分”などではなく、“7ダメージ”を与える」や「現行のインディー作品群によくあるローリング回避&高速剣戟を超えるものに」といった、作品の方向性をざっくりと定めたページになっている模様。そして2枚目では、「Buckler Driver」なるサイドアームの細かな仕様についてまとめられている。空中を平行に移動したり、進路上の敵にノックバックを与えたりといった挙動から考えると、これは製品版では「Drill Driver」として実装されたサイドアームだろう。

これを見たFelder氏とほかの開発者は驚いたという。『Mina the Hollower』のようなアクションゲームで、開発初期のドキュメントを作る以外では、ゲームデザイナーにビルドをプレイしてもらって議論したほうが、膨大なドキュメントを更新し続けたり読み返したりするよりも効率がよいと考えていたからだそうだ。Yacht Club Gamesでは、アイデアを詰め込んで試行錯誤しながら面白さを探るのではなく、紙とホワイトボードを用いて最初から徹底的に練り上げ、しっかり自信のあるものだけを実装していくというプロセスを踏んでいるとのこと。
Felder氏もドキュメントを作ることには慣れているとした上で、AAAでの制作などを含め、瞬間瞬間のゲームプレイに重点を置くデザイナーたちが「しばらくするとゲーム自体がドキュメントになっていく」と考える現象にもよく遭遇するという。実際にプレイして確かめたほうが早いとされるケースも多いようで、同氏はRedditのゲーム開発者らに向けて、デザインドキュメントをどのように作っているかを質問した。
“明文化”が適したプロジェクトとは
この投稿に対してはゲーム開発者からも含め、複数の回答が寄せられた。たとえばカードゲーム制作者のProxyDamage氏はデザインドキュメントの目的について、ゲーム開発におけるレシピにたとえて持論を展開している。自分用の卵を数個焼くように、もしゲームを一人で制作しているのであれば、そのゲームについてのデザインすべてを自分で理解しているため、800ページものドキュメントを作る必要はなく、パッチノートや初期のデザインのメモのようなもの以外は不要だろうと説明。一方で、フルコースの料理を調理するキッチン全体を指揮するように、数十人、数百人規模のチームで『ウィッチャー4』や『グランド・セフト・オートVI』といった大型タイトルを作るようなケースでは、もちろん必要となるだろうと述べている。
ほかにもスレッド内には、Yacht Club Gamesのやり方は、後になって何かを作り直すコストが高い作品だからこそうまく機能しているという推察もみられる。またこの投稿では、紙の上でプレイテストをおこなうのに長けたデザイナーがいる場合にのみ上手くいくだろうとの見解が示されている。つまり、デザインドキュメントに書かれたことを見て、実際に実装した際に何が起こるのかを予測できる人材が必要であるという考えのようだ。さらにこうした作業については、類似例となる作品があるかないかによっても難易度が左右されるという意見も寄せられている。

このほかスレッド内では、『The Falconeer』の開発者であるmuppetpuppetことTomas Sala氏も返信。同氏はゲームの種類によって必要なドキュメントも決まるとしつつ、特に構造的に複雑なゲームであればその構造をどこかで文書化する必要性があると述べている。一方で同氏は、作品の成功にそうしたやり方を必要としない場合も多いとも説明。同氏自身もこの10年間ゲームデザインについてまったく紙に書き出しておらず、イテレーション(反復)重視の開発手法でうまくいっているという。そのためYacht Club Gamesのデザインドキュメントはやや珍しい例だとしつつも、ゲームデザインの多様性を示す事例だという考えを述べている。
一長一短、ベテラン間でも意見はさまざま
綿密に練られたデザインドキュメントが必要かどうかを巡っては、過去にもさまざまな開発者が意見を述べている。たとえば、元Insomniac GamesのゲームデザイナーLiz England氏が2014年に提唱した「ドア問題(The Door Problem)」は有名だ。ドア一つをとってみても、誰がそのドアを開けられるのか、プレイヤーが開けたドアはロックされるのか、開けられるけど入れないドアは存在するのか、といった膨大な検討要素が存在。そしてそれらを各役職の開発者たちに伝えるため、デザイナーの役割の一つとしてドキュメントの作成が挙げられている(関連記事)。
また上述したRedditでも論じられていたように特に大規模開発においては、デザインドキュメントを適切に管理することも重要となるようだ。CD Projekt RedのリードテクニカルライターJarosław RucińskiおよびシニアテクニカルライターのAdrian Fulneczek氏は、初代『ウィッチャー』のリメイク版の開発を始めた際に、当時のドキュメントが残っていなかったことを説明。また『サイバーパンク2077』の開発中に、同作のドキュメントが8000ページにもおよび保守が後回しになり、DLC「仮初めの自由」のファイルを分けて管理したことでさらなる混乱に陥ったという。現在開発中の『ウィッチャー4』や「Cyberpunk 2」では、そうした反省も活かしてドキュメント管理を進めることが語られていた(GamesRadar+)。

一方、デザインドキュメントの必要性に疑問を投げかける開発者も存在する。『Europa Universalis 5』で開発リードを務めたJohan Anderssonは過去にインタビューにて、デザインドキュメントは創造性の阻害や、主体性の低下といった悪影響をもたらすものであるとの持論を述べていた。Andersson氏は、開発メンバーにはあくまで大まかな概要やサンプルを提示した上で、詳細な決定は各々のメンバーに任せるべきであるとの意見を示している。統一されたルールに従うのではなく、全員がゲームに対して主体性や責任感をもつことの重要性が語られた(PC Gamer)。
デザインドキュメントを整備することにはメリットもデメリットも存在するとみられ、開発者の間でも意見が分かれているようだ。作品のジャンルや開発規模、組織の構造などによっても相応しい方策は異なるとみられ、“デザインドキュメントをどのように作るか、または作らないか”を考えることもまたゲームデザイナーの役割の一つなのかもしれない。
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