とある人気ゲーム開発者が「批判は歓迎だけど、“こうすべきだった”というのはやめて」とお願い。“良いアイデア”でも実装できるかは別

 

昨今ではSNSやフォーラム上でユーザーからのフィードバックを募るゲームも多く、さまざまな意見が投じられ、開発に活かされている。一方でゲームが抱える課題の原因特定や、特定の要素に向けた“より良いアイデア”については、開発者としての経験がないと検討が難しいようだ。『Starfield』の開発者や国内のゲーム開発者らが「開発過程や内情を知らないユーザーからのアイデア提案や批判」についての問題を指摘し、注目を集めている。


『Starfield』は、『The Elder Scrolls』シリーズや『Fallout』シリーズの開発で知られるBethesda Game Studiosが手がけるRPGだ。本作の舞台は人類が太陽系外に進出した2330年の世界。プレイヤーは希少なアーティファクトを求める宇宙探検家集団コンステレーションの一員として、広大な宇宙の星々を冒険することになる。本作には100以上の星系に1000以上の星が存在し、プレイヤーはほぼすべての星について探索可能となっている。


「開発にはいろんな事情がある」

本作でリードデザイナー兼ライターを務めたEmil Pagliarulo氏の投稿が注目を集めている。同氏は業界歴25年、Bethesda Game Studiosに19年間在籍するベテラン開発者だ。同氏は「自身満々で開発について言及してくるプレイヤー」の存在を指摘。つまり作品への批判などを投じる際に、開発についても口出しするユーザーがいるわけだろう。同氏は持論として、購入したゲームに文句を言うのはユーザーがもつ権利だと述べたうえで「開発過程をすべて知っているとは思いこまないでほしい」と伝えている。


なおEmil氏いわく、同氏自身にもかつて存在したゲーム情報サイトAdrenaline Vaultにレビューを投じていた過去があったそうで、当時は好き勝手な意見を書き込んでいたという。。また今でも時々SNSでゲームへの愚痴を書き込みたくなることはあるそうだ。

しかしEmil氏は、実際にゲーム開発に携わって、ゲームへの愚痴を投じることをきっぱりやめているという。理由のひとつは、プロとしてゲーム開発をおこなっていることもあり(同業他社を批判するのは)格好悪いからだそうだ。そしてもうひとつの理由は、ゲーム開発の困難さを身をもって知っているからだという。

Emil氏は業界に身を置くなかで、デザイナー、プログラマー、アーティスト、プロデューサーなどすべての開発者がそれぞれ懸命に働く様子を見てきたし、同胞たちを尊敬していると説明。それぞれの担当者は、リソースが不安定でストレスもかかるなか、譲歩や厳しい選択を迫られ続けているという。そのため才能ある開発者たちが手がけていても、リリース時にゲームが求められた水準に達することができない場合はあるそうだ。

さらにEmil氏は、開発がチームでおこなわれている点を強調。特に同氏が携わってきたような大規模なゲーム開発ではシナリオ、レベルデザイン、キャラクターモデルの作成、ゲームシステムのコーディングといったさまざまな仕事を、多くのスタッフがこなしている。彼らがハードワークによる燃え尽き症候群にならないようにしつつ、すべてを考慮したスケジュール管理も必要になるそうだ。


「開発過程は、ユーザーにはわからない」


そして複雑なプロセスを経ることもあり、自分でゲームを作ったことがない限りは、開発されたゲームを遊んでも詳しい開発過程まで分からない可能性はあるという。人的リソースや時間の制約など、遊ぶだけでは分からない開発事情は数多くあるようだ。またEmil氏によれば開発過程で直面した克服すべき技術的な問題の数は特に重要だといい、これも作品の完成形に大きな影響を及ぼすのだろう。

そうした背景もあり、ゲームの一部分あるいはすべてに不満があるとしても、その原因まで把握していると思いこまないでほしいそうだ。何らかの形で開発事情が文書化あるいは検証されていない限りは、ユーザー側から開発元の内情を知ることは困難なようである。たとえばユーザー側が思いつく改善案などは、すでに開発チームでリソース・時間的制約・技術的制約などさまざまな側面から検討されて採用されなかった可能性があるわけだろう。


なおEmil氏は同、プレイヤーにはゲームを買ってプレイして心ゆくまで文句を言ってほしいとも伝えている。開発したゲームに感想が寄せられるという構図は、開発者とプレイヤーの関係の本質であると考えているそうだ。ただし、ゲームはひとつの目標に向かって開発者たちが何年も取り組んできた結晶であることも思い出してほしいとして、投稿を締めくくっている。

ビジュアル面やシステム面、音楽や物語などさまざまな要素が組み合わさって結実するゲーム開発。ユーザー側からは想像もつかない開発過程を経ている可能性もあり、開発側の内情を知らなければ的確な批判や提案をおこなうことが難しい側面もあるようだ。


そのアイデアはすでに検討されている可能性がある


類似のトピックとして、たとえばかつてゲーム会社でプロデューサーを担当していた下田紀之氏は、ゲームの評価で「僕が考えた○○」の方が良いと聞かされるのに困惑するとの見解を述べている。ただし同氏は、各ユーザーが自分のアイデアを述べること自体を批判しているわけではないという。ゲーム開発の経験がないユーザーが「自分が思いついた要素の方が良い」として、そのアイデアを作品の評価に結びつけることを問題視しているようだ。そうしたユーザーのアイデアは実情に即して実装が検討されたわけでもなく、完成したゲームとの良し悪しをそもそも“同じ土俵”では比較できないといった考えだろう。


またゲームブック風RPG『いのちのつかいかた』の開発者だらねこ氏も下田氏の意見を支持。評価者が考えたアイデアにおいては、開発におけるデメリットが考慮されていないなど想定の甘い意見もあり、そうした意見は開発者から見て説得力をもたないとしている。

他方、だらねこ氏はゲームの評価にアイデアを持ち出す場合においては「開発者が検討済みかどうか」ではなく、検討自体の質も重要だと伝えている。開発者も完璧ではなく、コンセプトは良いものの(実装にあたって)試した方法が悪かったといったケースも考えられるという。結果として“より良いアイデア”が実装されていない点を評価するためには、開発者側しか知りえない情報も必要となるため、ユーザーという立場では妥当性のある意見を出すことは難しいと見られる。


どのようにフィードバックを送ればよいか

なお下田氏とだらねこ氏は、理想とするアイデアを提案するようなユーザーに対して、ゲーム開発を試してみることの重要性を示している。自分の理想を実現する方法となるほか、開発者目線でアイデアを検討するきっかけにもなるようだ。また下田氏は弊誌に対し、開発者時代の経験として、プレイヤーからは改善アイデアよりも「何に困っているのか」を伝えてもらえた方が改善に取り組みやすいと伝えている。解決方法はゲームの中身を理解している開発者にしか考えられない一方で、どこで困っているのかはプレイヤーでなければ分からないからだという。

そのほかだらねこ氏は開発者に向けては、ユーザーの感想との向き合い方について同氏の見解を伝えるnote記事を紹介。記事においてはユーザーからのフィードバックにすべて応えようとすることが、かえって作品を「殺してしまう」可能性などが説明されている。


ゲーム開発においては、ユーザーからのさまざまなフィードバックが開発に活かされることもある。一方で感想や不満を超えた、アイデアの提案については開発者側にとって有用な意見にならない場合もある様子だ。ゲーム開発は複雑な工程を経るだけにユーザー側から想像しづらい部分もあり、良かれと思っておこなった提案が開発者を悩ませるケースも生じるのだろう。