宇宙アクション『Star Control: Origins』著作権侵害を訴えられSteam/GOGから削除。オリジナル版作者と保有メーカーが訴え合う泥沼状態に


パブリッシャー・デベロッパーのStardock Entertainmentは2018年12月31日、同社が手がけ昨年9月から販売していた宇宙アクション・アドベンチャーゲーム『Star Control: Origins』について、SteamおよびGOGから取り下げられると発表した。その理由としては、アメリカのDMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づく著作権侵害の申し立てがValveとGOGに対しておこなわれたからだと説明しており、本稿執筆時点ですでに本作は両ストアから削除されている(DLCは除く)。

 

オリジナル版開発者による申し立て

『Star Control: Origins』は、1990年代にリリースされた『Star Control』シリーズの最新作であり、オリジナル3部作のパラレルワールドを舞台とするリブート作だ。当時はAccoladeが販売元を務め、特に評価の高い『Star Control II: The Ur-Quan Masters』を含む初期2作は、現在Activisionの傘下にあるToys for Bobが開発を担当。そのクリエイターとして知られるPaul Reiche 3世氏とFred Ford氏が、今回『Star Control: Origins』の販売差し止めを申し立てた。

『Galactic Civilizations』や『Sins of a Solar Empire』シリーズなどの販売元としても知られるStardockは、Accoladeの権利を保有していたAtariが破産しゲームのIPなどさまざまな資産が売り出された2013年に、「Star Control」の商標や関連アセットを購入した。ただし『Star Control I』および『Star Control II』については、Reiche・Ford両氏が著作権の保有を主張。つまり、登場する宇宙船や宇宙人などのアートワーク、ゲームの世界観の設定などの権利は、制作者である両氏に帰属するとしている。なお、『Star Control III』についてはToys for Bobは関わっていないため、Stardockが著作権を主張している。

こうした複雑な権利関係があるため、Stardockは紆余曲折の末『Star Control』シリーズの世界を多元宇宙と設定し、『Star Control: Origins』のために新たな世界観やキャラクター、ストーリーを制作してゲームをリリースしていた。それにも関わらず、本作にまったく関与していないReiche・Ford両氏から販売差し止めの申し立てがおこなわれたことで、Stardockの社長Brad Wardell氏はDMCAの濫用であると批判している。DMCAは権利として誰でも申請することができるが、自分に不都合なものを排除するためなどに濫用されることが問題視されることもある。申し立てを受けたValveやGOGは速やかに対応することが法的に求められており、基本的には申請内容が適切かどうかを事前に精査することはしないため、申請から数日で本作はストアから削除された。

『Star Control: Origins』に登場する宇宙人種族

Reiche・Ford両氏側としては、『Star Control I』と『Star Control II』、そして『Star Control III』に含まれる前2作のコンテンツの著作権を保有していることを前提に、これらのコンテンツの販売や再構成、またそのコンテンツを用いた派生作品の制作は著作権を侵害しているという理由で、今回の申し立てをおこなっている。

StardockのWardell氏は、ゲームのアイデアやコンセプト、メカニクスは著作権保護の対象にはならないとした上で、実際に『Star Control: Origins』に侵害行為があるならばゲームから削除する姿勢を示しているが、Reiche・Ford両氏からは具体的に本作のどの部分を著作権侵害と見ているのかは現在までに示されていない。この点がはっきりしない限りは、DMCAの濫用かどうかは断言できないだろう。一部のファンの間では、特定のキャラクターの見た目が似ていると指摘する声もあるが、Wardell氏は否定。そして、明確な理由がなくともDMCAの申し立てがおこなわれればストアからゲームが取り除かれるのは止めようがなく、どの開発者にとっても脅威であり狂気の沙汰だと述べている

https://twitter.com/draginol/status/1080467947636822016

 

以前からのしがらみもあり

『Star Control』シリーズをめぐっては、これ以前からStardockとReiche・Ford両氏の対立が続いている。Stardockは2017年に、『Star Control』シリーズ初期3部作のSteamやGOGでの再リリースを開始するが、これに対してもReiche・Ford両氏がDMCAの申し立てをおこなっていた。Stardock側は、Atariから買収した『Star Control』シリーズの資産の中には、1988年にAccoladeにライセンスされた販売権が含まれ依然有効だという立場だったが、Reiche・Ford両氏側は2001年にすでに期限切れになっていると主張。その根拠として、2011年にGOGにて3部作を販売したAtariが、両氏の指摘を受けて調査をし、販売権を持っていないことが確認されたと言及したことを挙げている。これを受けてStardockは、事実確認ができるまで3部作を自らストアから取り下げる決断をおこなう。

一方のReiche・Ford両氏は、新作『Ghosts of the Precursors』を現在開発しており、当初“『Star Control II』の直接の続編”であると宣伝していたことで、「Star Control」の商標権を持つStardockから商標権侵害を訴えられることに。これ以降、両氏は「Star Control」の名を使わず、同作の副題「The Ur-Quan Masters」の続編と呼称するとした。この間、両者はそれぞれの新作の成功のために和解を模索し、Stardock側から具体的な提案もおこなわれたが、両者の溝は深くReiche・Ford両氏が受け入れることはなかった。そして、解決の糸口が見えないまま今に至る。

実は今回の一件の直前、Stardockは両氏が『Star Control: Origins』に対してDMCAの申し立てをおこなう可能性に備え、裁判所に予備的差止命令を出すよう訴訟を起こすも退けられていた(CourtListener PDFファイル)。あくまで、差止命令を求めるにあたって必要な要件を満たしていなかったためであるが、著作権にまつわる懸念を認識していながら十分な対応を怠ったまま『Star Control: Origins』を発売したと認定され(Stardockは否定)、結果的に本作の販売停止を防ぐことができなかった。

前述のDMCAの予備的差止命令訴訟の訴状によると、StardockにとってSteamとGOGは販売チャネル全体の93パーセントを占めるという。『Star Control: Origins』の開発には、この5年間で10億円前後をつぎ込んでおり、このまま販売が再開されない状況が続けば社員をレイオフせざるを得ないとし、できる限りの対応をしたいと述べる。ただ販売再開にあたってはValveやGOGの判断にかかっており、Stardockはまず自社サイトでの直販を開始している。なお、SteamやGOGで購入済みのユーザーには影響はなく、引き続き本作をプレイ可能とのことである。