基本プレイ無料放置スマホゲーム『ローグウィズデッド』は、なぜ“小規模開発”“広告なしスタート”にもかかわらずビジネス面で成功を収めたのか。鍵は「創造性とお金のバランス」

 

日本で人気を集めた Google Play のコンテンツを紹介する Google Play ベスト オブ 2023 の受賞作品が11月30日、発表された。

Google Play ベスト オブ 2023では、さまざまな部門に分けて表彰がおこなわれる。『崩壊:スターレイル』や『Pokémon Sleep』など錚々たる面子が並ぶなか、個人や小規模開発者のゲーム作品から候補作が選ばれるインディー部門で大賞に輝いたのが『Rogue with the Dead(ローグウィズデッド)』だ。同作はiOS/Android向けに展開中。


『ローグウィズデッド』は兵士たちを強くして旅をする、ループ無限進行型の戦略放置RPG。2022年10月にリリースされ、現在までに120万ダウンロード以上を記録するヒット作となっている。


一方で国内の小規模開発モバイルゲームがヒットタイトル入りすることは珍しい。ゲームのクオリティの秘訣だけでなく、ビジネス面での工夫も気になるところ。そこで今回は株式会社room6代表取締役である木村 征史氏、『ローグウィズデッド』ディレクターのkohei氏の両名にインタビューをおこない、『ローグウィズデッド』がいかにして生まれたのか、そしてどのようにして成功させたのか、話を訊いた。

──自己紹介をお願いいたします。

木村 征史(以下、木村)氏:
株式会社room6代表の木村です。room6は10年ほど前にモバイルゲーム開発からスタートした会社です。現在はPC、コンソール向けのインディーゲームのパブリッシングや開発もおこなっています。


kohei氏:
同じく株式会社room6のkoheiと申します。room6に入ったのは大体6年前ぐらいで、それ以前は個人でゲームを開発していました。room6では 『ローグウィズデッド』に携わっています。room6では『ローグウィズデッド』に携わりつつ、個人の活動では『ことだま日記』といったゲームの開発にも携わっていました。メインの職種としてはプログラマーですが、個人で開発していたころの経験を生かして、ゲーム全体のディレクションもおこなっています。


──今回Google Play ベスト オブ 2023のインディー部門で大賞を受賞された『ローグウィズデッド』について、どのようなゲームなのかご紹介をお願いします。

kohei氏:
『ローグウィズデッド』は、AndroidiOSで公開しているスマートフォン向けの戦略放置RPGです。2022年の9月頃にリリースしまして、現在では全世界で120万回以上ダウンロードされています。

『ローグウィズデッド』は「無限に遊べる」をテーマにしながら作ったゲームです。ユーザーさんにも、本当に長く楽しんでもらえるゲームになっているんじゃないかなと思っています。

──改めて大賞受賞おめでとうございます。受賞を知られたときはどのようなお気持ちでしたか?

kohei氏:
本当にびっくりしました。受賞のときもお話しましたが、このゲームを作り始めた時は、こういう賞を獲れるゲームだとはまったく思っていませんでした。

最初からあったゲーム性への手応えと、ビジネス面での不安

──そもそも『ローグウィズデッド』の開発はどのようにしてスタートしたのでしょうか。

kohei氏:
元々このゲームは僕が個人で開発したゲームがプロトタイプになっています。僕自身がすごくスマートフォンゲームが好きで、なかでも無限にやりこめるようなゲームが好きなのですが、いつかそういったゲームを開発したいと、前々から考えていました。そこでゴールデンウィークのまとまった休みを使って、個人で開発を始めました。

1週間ぐらいでまあまあ遊べるプロトタイプが完成したので、それを社長の所に持っていって、「こういうの作ったんですけど、room6で出しませんか」と。それでOKをもらったところから本格的な開発がスタートしました。つまりスマホでぼちぼち、無限にダラダラ遊べるゲームを作りたいなという僕の堕落した考えが、このゲームを開発するきっかけです(笑)


──プロトタイプとはいえ1週間で完成させたというのもすごいですね。room6として開発しリリースするという流れとなったということは、木村さんとしてもヒットしそうな手ごたえを感じられたということでしょうか。

木村氏:
テストプレイしていて、朝まで夜通しプレイしちゃうゲームはこの『ローグウィズデッド』が初めてだったので、個人的に手応えはすごくありました。

kohei氏:
プロトタイプでは60km地点までしかステージを作っていなかったのですが、木村さんは60kmを越えてもずっと遊んでいました。背景すらない真っ暗な、敵だけ出てくるステージを進み続けていて(笑)それを見て僕としても手ごたえを感じた部分はあります。

プレイしていない方には伝わりづらい点ですが、このゲームは放置ゲームと言いつつ、朝まで遊び続けられるようなゲーム性なんです。木村さん以外にも、ゲーム開発仲間の何人かに本作をテストしてもらったのですが「ハマりすぎて自分の開発が進まない」といった声をいただくことが結構ありました。それも含めて、売れるゲームかはわからないけど、ハマれるゲームではあると最初から思っていました。

木村氏:
確かに売れるかどうかの不安はありました。ただ、スマホゲームなので、後からジワジワとアップデートを重ねて、マネタイズなどがうまくいくようになってから、広告出稿などで集客をすればいい、という算段はありました。とりあえずリリースしてみようと。

それでいざリリースしてみたら、初月から予想の10倍以上ダウンロードしていただいて、売り上げも良くて。ちょうどその時僕もkohei君も東京ゲームショウに参加するために東京に出張していたので、宿泊先の温泉でこの先どうするか、温泉につかりながら裸の会議をしたのを覚えています(笑)

 

継続率の高さが呼び込んであろうヒット

──好調なスタートを切った『ローグウィズデッド』ですが、本作がヒットした要因はなんだとお考えでしょうか。

木村氏:
継続率の高さがひとつの要因かなと考えています。まさに自分がそうだったのですが、このゲームには、ついやり続けちゃうプリミティブな魅力があるんです。それがあってか、2日目も遊び続けてくれるユーザーさんが多くて、リリース当初は75%くらいのユーザーさんが継続してプレイしてくれていました。1週間後でも40%以上のユーザーさんが遊んでくれていて、特にリリース直後の継続率が異様に良かったです。

僕らの仮説では、継続率など数値がよかったことが、ストアのアルゴリズムにも良いように作用したのではと考えています。リリース時は一部メディアさんで取り上げていただいた以外は、特にプロモーションをしていないのに、自然とユーザーさんが入ってきてくれていたので、ゲームの“スコア”のようなものが良かったことで、ストア上でリコメンドがよく出るといった、良いサイクルに入れたのではないか、と思っています。


──特に広告などを出さずともスタートダッシュに成功できたと。

kohei氏:
そうですね。ただこういった形は再現性というか、戦略としては曖昧なので、僕としてはこのゲームは最初から広告出稿する前提で作ってはいました。スマホゲームを大きく売り出すための方法としては、広告出稿が一番強いと思っていたので。広告出稿は早くやろう、ということは、東京ゲームショウ出張中に木村さんと会議しました。

木村氏:
確かあのときはほかにも、イベントを作ろうよっていう話をしたよね。あの頃はデザイナーの数も少なくて、リソースが限られているから、ストーリーを奥へ奥へと作り進めていくのは難しい。だから先にエンドコンテンツを作ろうって。

kohei氏:
一番心配だったのは、一瞬でクリアされちゃって飽きられちゃうことでした。無限にやり込めるゲームにしたかったので、クリアしてやることがないと言われるのが嫌だったんです。焦って、早く先を作りたかったのですが、リソースの問題があるので、ひとまずエンドコンテンツを作って、そちらを長く遊んでもらっている間に続きを作る計画でした。

ほかにも海外展開を早くやろうという話はしました。元々グローバル展開はしたいなと考えていたので、英語版、韓国語版などをやろうって話になったりしました。リリース直後は一番忙しくて一番楽しい時期だったかもしれないですね。好評いただいたことで、やれることが一気に広がった時期でした。

木村氏:
リリースから1ヶ月半ぐらい経ってから実際に広告出稿を開始したのですが、そのあたりから売上的にも安定感がでてきました。

──これまで広告をかなりの数出されていますが、やはり効果は大きいですか。

木村氏:
経営者目線でいうと、売上に安定感が出るのが一番大きいと感じています。ストアのリコメンドなどの不安定要素に左右されづらくなる。ばらつきが抑えられるという感じです。

kohei氏:
僕もそういうイメージはあります。ストア側に「このゲームは露出させない」と決められちゃうと、インストール数ががくっと下がって、売上も下がったりします。かなり不安定というか、完全にストア依存になってしまうところを、広告を出すことで下支えできているのは、経営的にはかなり安定してるのかなと思います。

木村氏:
僕の精神衛生的にも非常に良い効果がありました(笑)

10年続くゲームにするために。マネタイズと向き合うことで生み出された“安定感”

──なるほど(笑)広告出稿によって安定的な収益が見込めるようになり、長期的な運営ができるようになったとのことですが、それによってroom6さんのほかの開発にも良い影響が出たのではないでしょうか。

木村氏:
やはり安定した収益がもたらされたのは大きなことです。コンソールやPC向けのインディーゲーム開発/パブリッシングは、経営目線で見れば不安定さを含みます。リリースまではずっと投資で、お金が出ていく一方ですから。ローンチ時に大きく売上が増えますし、定期的にセールをおこなうことで売上に一定の安定感は出せますが、それにしても限度はあるので、どうしても収益は乱高下してしまう。

そもそもゲームが予定通り出ること自体が少ないし、どれくらい売れるかも予測しづらい。そういう意味では『ローグウィズデッド』によってある程度キャッシュフローの安定化ができたことで、開発時期にとらわれずに、イベントの出展とか諸々の施策を安定的にできるようになったかなというのはあります。

kohei氏:
じつは『ローグウィズデッド』を開発するにあたって、強く意識したのがマネタイズ面でした。以前『ことだま日記』というスマホゲームを、Ske6(すけろく)という僕含め3人のチームで作ったのですが、こちらは100万近くのダウンロードを頂いたものの、セールス的にはめちゃくちゃ成功したわけではありませんでした。


──それはなぜでしょう。

木村氏:
スマホゲームの主たる収益源として、課金アイテムと動画リワードの2種類のマネタイズがあげられるのですが、『ことだま日記』ではそれらの入れどころが少なかったというのがあります。課金をしてでも欲しいアイテムや、動画を見てでも欲しいリワードをユーザーさんに提示できていなかった、そのためダウンロードいただいた数の割には収益を上げられなかったのだと思います。

kohei氏:
『ことだま日記』はランニングコストに対してギリギリ収益をあげられているぐらいの状態で長く運営していたので、やりたいことはもっといっぱいあるのに、コスト的に実現できないケースが多く、非常に苦しい思いをしました。

『ローグウィズデッド』は5年10年と長く遊べる、運営できるゲームにしたかったので、初めからゲームの設計面も、ビジネス面も、サステナブルなつくりを意識していました。

──たしかに運営型ゲームの開発を続けていくためには一定の収益が必要だとは思いますが、一方で課金誘導が露骨すぎたり、広告が頻繁に入るようなゲームはユーザーの反感も買いやすいと思います。このあたりのクリエイティブとビジネスのバランスをとるのは、非常に難しかったのではないでしょうか。

kohei氏:
難しいですね。僕自身は結構スマホゲームに対して課金する人間なので、課金要素を必要以上に忌避するような感覚はなかったのですが、当然ユーザーさんによってはそこを嫌がられることもあるとは理解しています。ですので、マネタイズはしっかりとやりつつ、ほかのストレスを緩和できるようなポイント入れることでバランスを取ろうとしています。

重要なのは、ユーザーさんにたくさん遊んでもらえるゲームにすることではないか、と思います。僕自身がそうなのですが、たくさん遊ぶゲームの方が課金したくなります。それは「たくさん遊んだから少しくらい課金してもいいだろう」という心理であったり、「今後も長くこのゲームを遊ぶだろうから早めに投資しておこう」という心理だったりするのですが、これからもまだまだ遊びたいという気持ちから課金することって結構あると思います。そう思ってもらえるためにも、まだまだこのゲーム未来があるんだぞ、どんどん新しいアップデートをするし、どんどん新規コンテンツを作るんだという姿勢を見せることは、しっかりと意識しています。

木村氏:
おおまかな売上の比率で言えば、課金と広告が7:3くらいなのですが、課金アイテムの中でも広告削除パックがダントツの人気で、次いでゲーム高速化パックが人気です。

──なるほど。つまりカジュアルなユーザーのゲーム内広告視聴が主収益ではなく、このゲームを気に入って、長く遊ぶために課金する熱心なユーザーが、このゲームの収益を支えているわけですね。

木村氏:
おそらくそうだと思います。『ローグウィズデッド』は公式Discordサーバーも運用しているのですが、そちらも7000人近く参加してくれています。僕らが想像した以上に熱心なユーザーさんがついてくれているので、今のところは全体的に良いバランスでできているのかなと感じています。

Googleから認められたゲーム『ローグウィズデッド』の次の目的地

──『ローグウィズデッド』といえば“広告でよく見るゲーム”と呼ばれることもあるそうですね。先ほども早くから広告出稿をされていたとお話しいただきましたが、今も広告には力を入れてらっしゃるのでしょうか。

木村氏:
たしかに広告で見たことあるとはよく言われます。大手さんと比べたら全然出稿額は低いと思いますが、ずっと安定して出稿を続けているので、それで認知度が高いのかもしれません。

秋葉原ラジオ会館の電光掲示板でも広告掲示中(room6による資料提供)


kohei氏:
イベントなどで、『ローグウィズデッド』はどこで知ったか聞くと、ストアのリコメンドで出てきたか、広告で見たと言われることがほとんどです。やっぱり自分の作ったゲームを認識してもらえているのは嬉しいですね。もちろん広告がどのくらい表示されたかなどは、ダッシュボードなどで数値的に見ることはできるのですが、それ以上にオフラインイベントで、広告を見て知りましたとか、遊んでいますと言われるのが嬉しいですね。ちゃんとユーザーに届いてるんだなって。

そういう意味でいうと、今回Google Play ベスト オブ 2023インディー大賞を頂けたのも本当に良かったです。これまで『ローグウィズデッド』にはそういうゲームを形容する言葉がなかったので。大賞を取ったゲームっていう箔がついて、ユーザーさんからも「大賞とったやつね」と言われるようになりました。僕らとしても、大賞にふさわしいゲームにしていかないといけないなという気持ちは強まりました。

──端的に言えば、Googleが認めたゲームと言えるわけですからね。

kohei氏:
実際僕も勝手にそう思っています(笑)『ローグウィズデッド』って、インディーゲームかというとちょっと微妙なところがあって。でもインディーゲーム部門で大賞をもらったことで、僕らのゲームはインディーゲームと言っていいんだ、認められたんだというのは、本当に嬉しかったです。


──ありがとうございます。では今後の『ローグウィズデッド』の展望について、目標レベルでいいのでなにか教えていただけますか。

kohei氏:
本当にずっと言っていることですが、5年10年、あるいはそれ以上続いていくゲームにしたいなとは思っています。

木村氏:
もちろん本当に10年運営できるかはやってみないとわからないですけど、ジャンル的にそんなに流行り廃りの波があるタイプではないと思っているので、安定はするんじゃないかなという予想はしています。

──room6さんはコンソールやSteamへの移植/開発も手掛けていらっしゃいますが、『ローグウィズデッド』をマルチプラットフォームで展開する計画はないのでしょうか。

木村氏:
Steam版だしたいねという話はずっとしています。調べたところ、意外とSteamでも本作のような放置系、あるいはクリッカー系と呼ばれるようなジャンルを好むユーザーさんがいます。システム的には多分移植できるのですが、今はマネタイズをスマホ向きに寄せているので、Steamでリリースするならそのあたりの設計を調整しなければいけなくて、そこがうまくできれば、出したいとは考えています。あと、最近PC向けのGoogle PlayであるGoogle Play Gamesというのが出てきたのですが、意外とそちらもいいのではないか、という話もしています。

kohei氏:
繰り返しになりますが、『ローグウィズデッド』は無限に遊べるゲームを目指しています。今後もどんどんコンテンツを追加していくし、新しい要素も増やして、挑戦的なゲーム、言い方悪いですが底なし沼というか、底の見えないゲームにしていきたいと考えています。『ローグウィズデッド』はジャンルとしては放置ゲームですが、常に触り続けたいと思えるようなゲーム、プレイヤーが能動的に遊ぶ体験を大切にするゲームにしていければなと思っていますので、今後も期待してアップデートを待ってもらえると嬉しいです。

──ありがとうございます。『ローグウィズデッド』ユニバースの今後の発展を期待しています。

『ローグウィズデッド』は、iOS/Android向けに配信中だ。

[執筆・編集:Junichi Matsui]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]