『Cuphead』DLCは発売延期を気にせず制作された。途方もないセル画枚数のゲームを完成させたのは、スタッフの健康最優先の環境

Pocket
reddit にシェア
LINEで送る

Cuphead』の開発環境について、スタッフから明かされたようだ。同作の開発スタジオであるStudio MDHRのアーティスト兼エグゼクティブプロデューサーである Maja Moldenhauer氏は海外IGNに対しインタビューに答えた。そのなかでは、『Cuphead』のDLCは発売延期を気にしない環境で制作されたことなどが語られた。 
 

 
『Cuphead』は2017年にPC/Xbox One向けに発売され、現在ではNintendo Switch版、PlayStation 4版も配信中。Steamのユーザーレビューでは「圧倒的に好評」の評価を得ており、レビュー集計サイトOpenCriticでは平均88点を獲得するなど好評を博してきた。売り上げは2020年の発表時点で600万本を突破。Netflixでアニメーションシリーズも制作されるなど、非常に人気のタイトルとなっている。 

本作が人気を集めた理由は、そのビジュアル表現のユニークさだ。キャラクターアニメーションは手描きのセル画で制作され、本編で用いられたその総数はなんと4万5000枚以上。そして配信予定のDLCのアニメーションの量は、本編とほぼ同等になるという。その言葉を文字通り受け止めるなら、本編とDLCをあわせた総コマ数は10万枚に近くなってしまう。恐ろしいことである。 

そんな『Cuphead』のDLCである『The Delicious Last Course』は2018年6月に発表され、当初の発売時期は2019年の予定であった。その後2020年へと延期し、2020年11月に再延期を発表。延期を繰り返してきたのである。そして2021年12月に開催されたゲームイベント「The Game Awards 2021」にて、2022年6月30日という最新の発売日が発表された。 
  

*「The Game Awards 2021」での発売日発表動画

Studio MDHRのMoldenhauer氏は二度の延期の理由として、クランチ(主に制作後期における、残業・長時間労働による追い込み)を避けることと、パンデミックを受けて心の健康を確保することが優先されたためだと語る。また、DLC開発の過程でさまざまなアイデアがあふれだし、その規模がふくれあがっていったとも述べている。 

Studio MDHRにおける開発体制について、Moldenhauer氏は「会社の最優先事項は従業員の健康と良心的な待遇であり、開発の遅延については気にしない」、「もしゲームの完成に時間が必要なら、必要な分長く開発するだけ」などの言葉を用いて、その姿勢を説明している。開発が伸びたとしてもかまわないと語る同氏の言葉は力強い。従業員の心身の健康が、何よりも重視されているということだろう。 

このような発言が取り上げられる背景には、ビデオゲーム制作の過酷な労働環境がしばしば話題にあがることがある(関連記事)。AAAクラスの大規模なゲームでは、会社により明確な開発期限が設定され、最終仕上げであるマスターアップに向けてクランチがやむを得ないとされる状況もある。『レッド・デッド・リデンプション2』や『サイバーパンク2077』などがその例であり、開発において長時間労働があったことなどが伝えられている。
 

なおCDPRはそうした過去を踏まえて、『ウィッチャー』新作開発においてCrunchをしないと伝えられている。

 
一方で、最近ではクランチを避ける姿勢を公言しているスタジオも増えてきている。大手の例としては、 Insomniac Gamesの『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』はクランチすることなく開発されたと伝えられた(関連記事)。ほか、『Horizon Forbidden West』についても、クランチを避けるために発売延期の判断がなされたことなどが語られている(関連記事)。また、インディースタジオでもクランチを避ける風潮は根強い。有名なところでは、『Hades』制作のSupergiant Gamesが従業員に休息をとる義務を定めるなどのクランチ対策を講じている。 
 

 
『Cuphead』の開発スタジオであるStudio MDHRは著しく成功したインディースタジオだ。だからこそホワイトな開発体制が可能だったという側面もあるだろう。クランチのない開発環境の実現には、スケジュールが伸びても雇用費の支払いなどが可能な資金力、および株主や親会社からの圧力のないスケジュールの決定権が必要となる。Studio MDHRにはその2つが備わっていたからこそ、健全な開発環境を実現する余裕があったと言えるだろう。 

このように『Cuphead』の制作はすこし特殊な状況にあり、すべてのスタジオがその姿勢を真似できるわけではない。しかし、たとえ膨大な工数を含むゲームであっても、ホワイトな開発環境が実現可能であることを示す一つの例となったことは確かだ。 

『Cuphead』DLCの「The Delicious Last Course」は6月30日に配信予定。本編から4年の時を経て完成をむかえた、”最後のごちそう”を味わうことがついに可能となる。 

Pocket
reddit にシェア
LINEで送る