ゲームにおける「表現規制」について、プラットフォームホルダーとしてのポリシーを改めてSIEと任天堂に訊き整理する


ゲームにおける表現は、常に注目され話題となるトピックのひとつだろう。国や地域によって、あるいは時代によって見方が変化することもあり、それまで許容されていた表現が受け入れられなくなることもあれば、逆のケースも見られる。その判断は、最終的にはプレイヤーがおこなうことになるが、直前の段階としてプラットフォームホルダーの存在が挙げられる。近年、その影響が取りざたされるケースが散見されるため、現時点での状況をまとめておこう。

今年6月27日、任天堂が開催した株主総会の質疑応答にて、表現規制についての質問が飛び、それに対する古川俊太郎社長の回答が一部で話題となった。該当の問答は以下のとおり。

Q:昨今、エンターテインメントにおいては表現に対する配慮が求められており、他社プラットフォームでは、CEROやESRBといった第三者機関による年齢レーティングだけでなく、独自の表現規制も適用しているという話を聞く。任天堂では、自社のプラットフォームで発売されるソフトウェアについて、どのような取り組みでこの問題に対応していくのか。

A:当社のゲーム機向けに発売されるソフトについては、第三者機関による年齢レーティングの取得を前提とすることで、お客様にソフトの内容や対象年齢を客観的な情報でご理解いただきたいと考えています。プラットフォームを運営している当社が、発売を認めるソフト、認めないソフトを恣意的に取捨選択すると、ゲームソフトの多様性や公平性を阻害することになってしまうと考えています。

また、当社のゲーム機には保護者による使用制限機能を設けており、保護者の方が暗証番号等を設定することで、「お子様に有害と考えられるようなコンテンツを表示しない」という対応等も可能になっています。

コンソールゲームにおいては、各国・地域のレーティング団体による年齢区分審査を受けることが必須。販売されるゲームには、各団体が定める禁止表現を含まないことが求められるため、自ずと一定の範囲内の表現内容に収まることになり、一種の規制として働いている。ただ上の質問者は、これに加える形での、プラットフォーム側がおこなう「独自の表現規制」の必要性について問うている。ここで言及された他社プラットフォームとは、おそらくソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE) のことだろう。

昨年、PS4/PS Vita向け『オメガラビリンスZ』の欧米版が突如発売中止となり、また海外PS4版『閃乱カグラ Burst Re:Newal』では一部表現がゲームから削除された。いずれのケースも、発表の中で“プラットフォームホルダー”からの要請について言及されており、対象プラットフォームからSIEであると判断できる。また、『閃乱カグラ Burst Re:Newal』の海外販売元XSEED Gamesのプロデューサーは、新たな基準が設けられた結果である旨のコメントをし、プラットフォームホルダーによる独自の表現規制を受けた結果であることを示唆していた。

なお、これらの作品は際どい性的表現から女性蔑視的であると捉える向きも一部にあり、『オメガラビリンスZ』のケースにおいては、別の地域ではレーティングさえ取得できなかったという背景は押さえておきたい。このほかにも、マルチプラットフォームタイトルにてPS4版のみ表現が規制される例がいくつか見られる。

弊誌ではSIEに対し、こうしたレーティング審査に加える形での独自の表現規制の有無や、その目的などについてうかがった。回答は以下のとおりである。

・SIEは クリエイターの発想を尊重しつつ、非常に稀ではあるがゲームを楽しむ方にとって不快と思われるコンテンツを、ケースバイケースで確認するポリシーを持つ。

一方、SIEを含むゲーム業界はペアレンタルコントロール機能を導入し、各地域の年齢別レーティング制度(CERO/ESRB/PEGI)を遵守したうえで、各タイトルの対象年齢に関する情報を提供している。我々は常にプレイステーションを最高の遊び場として、すべてのゲーマーを迎え入れる。

・日本においては、CEROの基準で統一していたが、タイトルの表現等については、より、グルーバル基準を参考にし、改めて取り組むようにしている。

レーティングを取得したからといって、必ずしもそのまま発売できるとは限らないとした形で、新たな基準が設けられたかどうかはともかく、ゲーム内表現に関し追加的な審査がおこなわれる場合があることを認めたと言えるだろう。また、日本を含めグルーバル基準を参考にしているとし、PlayStationプラットフォームのイメージを、地域を問わず共通化していこうという姿勢がうかがえる。

一方の任天堂は、冒頭の質疑応答にて古川社長がレーティングの取得を前提に、任天堂がゲームの発売を認めるか否かを取捨選択することはないという趣旨の回答をしており、独自の表現規制はおこなわない考えを示している。今回弊誌は、この件について任天堂に対して詳しい説明を求めたが、この質疑応答以上のコメントはないとの回答だった。なお、もうひとつのコンソールプラットフォームホルダーであるマイクロソフト、そしてPCゲームプラットフォームホルダーのValveにも、表現規制に関する有無やポリシーについて問い合わせをおこなっているが、これまでのところ回答は得られていない。MSとValveはこうした議論に関するスタンスを他メディアにも明確にしておらず、回答しないスタンスを貫いている可能性はあるだろう。

同一コンテンツを収録していても、日本と海外ではストアやパッケージ裏への掲載が許される画像の表現に違いがある。販売元によると、これはレーティング団体が求めている要件とのことで、プラットフォームホルダーの関与するところではない。

冒頭で述べたように、ゲームを含むエンターテイメント作品における表現、特に“不快と思われるコンテンツ”は時代によって変化する。SIEとしては、それを敏感に嗅ぎ取って対応することの一種の責任を重んじている。一方の任天堂は、各レーティング団体の判断を尊重している形と言える。これは両社のポリシーの違いであって、少なくとも現時点での状況においては、どちらが正しいと言えるものではない。ただ、こうしたポリシーもまた時代と共に変化していくことだろう。