1994年3月、日本国内でとあるハードが発売された。セガサターンやプレイステーションが発売される約9か月前、松下電器が先陣を切って市場に投入した3DO REALだ。
一応説明しておくと、3DOというのは規格の名前で、松下電器からは3DO REAL、サンヨーからは3DO TRYなどが登場。また、韓国や北米では、Goldstar(のちのLG電子)から3DO ALIVEがリリースされ、その展開は一応世界規模のものであった。
しかし、5万4800円(国内3DO REAL)という一般人には手の届きにくい価格設定や、キラータイトルの不足、ライバルハードの躍進など、さまざまなマイナス要素が重なり、日の目を見ることなく散っていった不遇のマシンとして、今でもマニアの間では語り草となっている。
しかし、この3DOというマシン、ライトユーザーはもちろん、ある程度熱心なゲームファンであっても、その全貌を把握している者はごく一部だろう。ゲーム専用機ではなく、情報家電。インタラクティブ・マルチプレイヤーと称していたことなどから、幅広い層にアピールしたかったんだろうということは伝わってくる。
また、スーパーファミコン全盛期だった当時の市場において、3DOのハイスペックはとてつもなく異次元的な輝きを放っていたことは間違いない。
実際、3DOでデビューした『Dの食卓』や、コンソールとしては初の移植となる『ポリスノーツ』、さらに『ロードラッシュ』や『オーバードライビン』といった、質の高いソフトも確かに存在する。
しかしそれでも、最後までマイナーハードのイメージを払拭できないまま売上は下降し続け、最後には撤退を余儀なくされてしまった。
では、3DOは語るに及ばないマシンなのか? そこは自信を持って、「否」を叩きつけたい。というのも、3DOには少なからず、いや少ないながらも愛好家が確実に存在しており、ネット上には3DOマニアのコミュニティまで存在している。中には、3DOの正体不明な魅力に取り憑かれ、発売された211タイトル全てのソフトを購入、コンプリートしてしまった人間もいる。
そこで今回は、3DOソフトをコンプリートし、その他さまざまなゲームを収集している、ラースさんという人物にご登場願った。彼はなぜ、3DOのソフトを集めようと思ったのか。3DOの魅力とは何なのか。そして、ゲーム収集家としてのこだわりなど、気になる疑問に答えてもらっているので、興味のある方はぜひ一読願いたい。
3DOの美麗なグラフィックに魅せられた少年時代
――3DOソフトコンプとは、凄いですね……。そもそも、なぜ3DOソフトをコレクションしようと思ったんですか?
ラースさん:
きっかけはデパートで見かけた『トータルエクリプス』の試遊台です。当時はファミコンとかスーファミしか持ってなかったから、3DOの美麗なグラフィックにとにかく感動してしまって。あと、当時はカートリッジがメインでしたから、CDというメディアでゲームを遊ぶというのも新鮮でした。
――確かに、スーファミから一気に3DOまで飛ぶと、グラフィックの進化にビックリしますね。
ラースさん:
ただ、当時の3DOの本体価格は5万4800円と、かなりの高額だったので、子供じゃ手が出せない。
――スーファミとかが2万円台だった時代に5万台ですらかね……。
ラースさん:
なので、実際に買ったのは大人になったあとなんです。子供の頃に受けた3DOのインパクトがずっと忘れられなかったというわけですね。
だって、当時であの美麗なグラフィックですよ。その衝撃はかなりのものでした。
――では、3DOで最初に買ったゲームはなんですか? やはり『トータルエクリプス』?
ラースさん:
いや、ところが違うんです。実は『ロードラッシュ』。
――おお、3DOを代表するゲームの一つですね。ちなみになぜロードラッシュを?
ラースさん:
その前にプレイステーション版のロードラッシュを遊んでいるんですけど、凄く面白くて、めちゃくちゃハマってしまったんです。3DO版のロードラッシュも出来がいいと聞いていたので、これはもう買うしかないなと。
――ロードラッシュはいろんなハードで出てますけど、初代に関して言えば、3DO版を推す人も多いですよね。
ラースさん:
そうですね。そのあと『オーバードライビン』とかも買うようになっていって、3DOのラインナップの独特な魅力にだんだんハマっていったという。
――ズブズブと……(笑)。
ラースさん:
(笑)。気が付いたら3DOのタイトルが結構な数になってたんで、ここまで来たらコンプリートしてしまえと。
――でも普通は、どんなに好きでも、ゲームソフトをコンプリートしようとまではなかなか思わないですよね。
ラースさん:
僕は子供のころからコレクションするのが好きだったので、自然な流れでコンプリートを目指してました。もともとコレクター気質だったんでしょうね。
――いわゆるゲームを『コレクション』し始めたのは、3DOが最初だったんですか?
ラースさん:
ハード自体は結構前から集めてたんですけど、ソフトを集め始めたのは3DOが最初ですね。
――ファミコンのコレクターは結構いますけど、3DOを集めてる、あまつさえコンプリートしてしまった人は珍しいかもしれませんね。ちなみに、3DO本体は複数のメーカーから発売されますよね。
ラースさん:
当然、3DOの本体も、日本で発売されているものは全部持っています。
――ちなみに、3DOの本体ではどれが一番好きですか?
ラースさん:
やっぱり、FZ-1ですね。3DOって家電という位置づけで発売されましたけど、FZ-1が一番家電っぽいじゃないですか。デザインも一番好きです。
コンプリートへと突き動かす原動力は、「情熱」
――ちなみに、コレクションを続けていく中で、特に入手が困難だったソフトは何ですか?
ラースさん:
やはり教育ソフトやデータベース系のタイトルですね。というのも、やっぱり数が少ないんですよ。
――購入は基本的にネット?
ラースさん:
基本はオークションです。ただ、自分の足で関東近郊の中古ショップを巡ることも多かったですね。そうしないと入手できなかったであろうソフトもたくさんありますし。
――というと?
ラースさん:
いわゆるプレミアソフトは、オークションに出品されていることが多いですし、ショップのプレミアコーナーに並んでたりすることも多いんです。そういうのって、物が物だから値段は張るんですけど、決して見つからないわけではない。
やっかいなのが、市場的な価値がほとんどない、単純なマイナーソフトなんですよ。市場に出回った数が少ないうえに誰も注目していないので、オークションにも流れてこない。「本当に存在するのか?」って思うくらい見つからないんですよね。
――ああ、なるほど。それは確かにそのとおりかもしれませんね。
ラースさん:
中古ショップを巡ってると、そういったソフトが100円で売ってたりしますからね。オークションじゃないからライバルもいないし。なので、自分の足で探すのは確かに大変なんですけど、それだけに、欲しいものが見つかった時の喜びもデカいんです。
――コレクション活動を続ける中で、苦労したエピソードとかあります?
ラースさん:
夏場に自転車で中古ショップを巡ってたんですけど、もう地獄でしたね。とにかく暑くて……。
――それはきつそうだ。
ラースさん:
それとは逆に、雪の中を自転車で50㎞くらい走ってたこともありました。
――それもきつそう。情熱がないと、なかなかそこまでできないなぁ。
ラースさん:
苦労してショップまで行っても、欲しいものが売ってないことのほうが多いですからね。それでも僅かな希望を信じて、行動あるのみだと思っています。
――ネットでも3DOのゲームを探しているとのことですが、オークションで他の人と競ったりすることもあるんですか?
ラースさん:
ああ、余裕でありますよ。お互いヒートアップして、気が付いたら数万までいってたとか、結構ザラですね。
――3DOのコレクターってラースさん以外にも結構いるんですね。
ラースさん:
そうですね。ライバルでもあり同志でもありって感じですか(笑)。一番高いもので5万円くらいしたソフトもあるんですけど、その後まったく市場で見かけないんで、無理して買って良かったと思っています。
――オークションはどのくらいの頻度でチェックしているんですか?
ラースさん:
今でも毎日チェックしてますよ。さすがに、毎日ラインナップが変動するわけではないんですけど、一週間に一回くらいのペースで、ぽろぽろと新しいゲームが出品されてたりします。
――今でも3DOのゲームを出品する人がいるんですね。
ラースさん:
ただまあ、さすがに3DOのゲームくらいになってくると、ラインナップが変動することってあんまりないんですよ。
でも、そんななか、たまにレアなソフトがポンって出てきたりする。しかも、それが即決だったりするんで侮れない。その機会を逃しちゃったら、その後、何年も出品されないこととかもありますからね。
――そういうのを逃すと悔しすぎますね。ちなみに、3DOで最後に買ったゲームは何ですか?
ラースさん:
学研の『えいごでGO!』ってゲームですね。
――ラースさんからその名前は100回くらい聞かされてましたけど、いま現物を初めて見て、興奮を禁じ得ないです。
ラースさん:
(笑)。手に入れる前に、過去に一度だけオークションで見かけたことがあるんですけど、その時は油断してたんで、「次回でいいや」って思って見送っちゃってたんです。そこで油断してしまったがために、5年間待たされる羽目に……。
――それは痛い。まさか5年も手に入らないとは思いませんよね、普通。その間、まったく見かけなかったんですか?
ラースさん:
僕の知る限り、まったくですね。5年間1日も欠かさず、オークションで3DOのコーナーをチェックしてたんですけど、影も形もなかった。「前に見たのは幻だったのか?」ってマジで思いましたよ。毎日オークションばっかみてたから、目がイカれてしまったと。
――それはヒドイ(苦笑)。
ラースさん:
eBayもチェックしてたんですけどね。
――eBayで見つけたら、それこそ奇跡じゃないですか?
ラースさん:
でも、『えいごでGO!』のコピー品はありましたよ。
――誰が出品したんだ(笑)。でも、そこまで見かけなかった『えいごでGO!』を落札できた時は、相当嬉しかったんじゃないですか?
ラースさん:
そりゃもう!
出品中は、PC2台、スマホ2台の計4台体制で『えいごでGO!』をウォッチしてました。もう、一分一秒が勝負ですから。一分が一時間に感じられましたね(笑)。
――トレーダーかよって感じですね(笑)。
ラースさん:
あはは。でも冗談抜きで、『えいごでGO!』に関しては、金に糸目をつけるつもりはないくらいの気持ちでやってました。
――コンプリートしたいという欲求と同時に、あと1つが揃わない苦しみから開放されたいという思いもあったんじゃないですか。
ラースさん:
それはあると思います。前回逃してから、かなり悔しい思いをしてますから。まあ、これはゲームに限らず、ほとんどのコレクターが感じていることでしょうけど。
――コンプリートした時はどんな気持ちでした?
ラースさん:
もちろん嬉しかったんですけど、それ以上に、ホッとした気持ちが強かったかもしれません。戦いから開放された兵士みたいな。
次なる戦いのフィールドは激戦区メガドライブ
――3DOは見事コンプリートしたわけですが、すでに次の戦いが始まっているとか。
ラースさん:
そうなんです。3DOコンプは戦いの序章ですね。
――というと?
ラースさん:
今はメガドライブのソフトを集めています。
――メガドラというと、コアなファンが多いことで知られていますよね。ライバルも多いわけですし、プレミアソフトの数もかなり多い。
ラースさん:
激戦区ですね。当然、お金もかかります。しかし一番苦しいのは、ショップでほとんど見かけないソフトが多いってことなんです。買えるお金があっても、物がないから手に入らない。そこは3DOでも散々通ってきた道ですが。
――厳しい戦いになりそうですね。
ラースさん:
先ほどおっしゃられていたように、メガドラはコアなファンが多いんです。なので、一度手に入れたら手放さないっていう人もいると思います。あと、海外のファンが日本に来て買っていきますから、二度と日本のショップに並ばない可能性すらある。
――日本のコレクター的には痛いですね。でも、勝算があるから集めているわけですよね?
ラースさん:
ええ、市販品だけならコンプリートできると思います。いままで培ってきたコレクターの意地と忍耐力がありますから(笑)。
――なるほど……。わかりました。それではお時間も迫ってきているので、最後に3DOについて何か言っておきたいことはありますか?
ラースさん:
3DOのラインナップって、児童向けソフトとアダルトソフトが混在してたりして、結構カオスなんですよ。「どこの層を狙ってるんだ?」みたいな。
普通の人にはなかなか理解できない世界なんですけど、逆にいうと、マニアックで変なゲームが好きな人にはたまらないものがある。同世代のハードの中でも、かなり異色だと思いますね。なので、メジャーなゲームも遊びつつ、『バーチャルカメラマン』とか『ボディコンデジタルレイブ』なども遊んでほしいですね(笑)。
――よりによってその2つかよ!
3DOの次世代機として開発されていた幻のM2がここに?
ラースさんによると、3DOの後継機として開発されていた幻のマシン「M2」を所有しているという。ただし、名称はM2ではなく、「インタラクティブメディアプレイヤー」となっている。
ラースさんは、M2のシステムを使った、住宅プレゼン用のマシンなのではとコメント。写真から見ても分かるとおり、外観はかなり家電的だし、ディスクドライブと、なぜかフロッピードライブも付いているなど、昔のPCを彷彿させる部分もある。
また、標準で3DOタイプのコントローラとマウスが付いているなど、細かい部分に、3DOの面影を感じさせる。さらに、付属されていた『ホームプランナー』や『ビズソフト』なるタイトルを見ると、「インタラクティブメディアプレイヤー」が、先述のように、住宅プレゼン用マシンとして人知れず活躍(?)していたことがなんとなく読み取れる。
3DOユーザーにとってM2開発中止の一報は非常に悲しいものであったと思うが、M2の意思を受け継いだマシンがひっそりとではあるが世に出ていたことが分かっただけでも、大きな発見と言えるのではないだろうか。
ラースさんの推し3DOタイトル5選