「ゲームデザイナーの死」を感じた元開発者は ゲーム業界でなにを見たのか? [後編]

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See also: 「ゲームデザイナーの死」時代の波に乗れなかった 海外のビデオゲーム開発者の話ゲームデザイナーとしての”死”を感じたGreg Wondra氏。かつて、アメリカ、ウィスコンシン州の田舎町に生まれた彼は、父の会社を継ぐことなく、ビデオゲーム開発者への道に飛び込んだ。順調に進んでいたように見えた彼のキャリアも、業界の変化や家族の存在により、頓挫することとなった。インタビュー前編に引き続き、後編ではWondra氏が見たゲーム業界の実情をお伝えする。

 


――あなたは現代のゲーム開発では”楽しさ”が”マネタイズ”へと変化しつつあると語りました。ただ、ゲームデザイナーになることは、決して”楽しい”ことばかりではないという意見も一部ユーザーからありました。

Wondra氏:
彼らは正しいよ。間違いなく全て楽しいことばかりではない。とても大変な仕事だ。その点に関しては賛成する。ただ間違わないでくれ、ゲーム開発はとても楽しくて報われる仕事に”なり得る”んだ。ほかの仕事と同様に、ストレスも溜まるけどね。もしゲーム開発が全て楽しいことだという風に聞こえたのなら、それは私の意図ではないよ。

――厳しい質問になるかもしれませんが、あなたのスキルに関する疑問も出ています。例として、『Lost Planet 3』は決してすべてのゲーマーたちから賞賛されたタイトルではありませんでした。あなたは自身の開発者スキルをどの程度のものだと思いますか?

Wondra氏:
それじゃあ過去にあった2つの物語を話そう。これを聞いて私の能力を決めてくれ。

 

『MLB 2K5』。ベースランニングのコーチング機能が導入された。
『MLB 2K5』。ベースランニングのコーチング機能が導入された。

Wondra氏:
1つ目の話。一番最初に野球タイトルの開発に参加していたとき、私の上司はいままで野球ビデオゲームで見たことがないような何かを考えだして欲しいと言ってきた。私はバッターやピッチャー、野手をプレイしている人たちを思い描いているうちに、どうしてベースランナーの役割がないんだろうと考えたんだ。そして我々は『Major League Baseball 2K5』に、バッティングに先立ってベースランナーとしてリードや盗塁が体験できる機能を盛り込んだ。このデザインを考案したことについて始めは特に気にしていなかったけど、上司は非常に気に入ってくれて、私のことをいままで働いてきたなかで最高のデザイナーだとも言ってくれた。1年後には、日本の野球ゲームで同様のアイディアがコピーされているのも見たよ。

 

『Medieval Moves: Deadmund's Quest』。PS Moveローンチから1年後の2011年に発売された。
『Medieval Moves: Deadmund’s Quest』。PS Moveローンチから1年後の2011年に発売された。

Wondra氏:
2つ目の話。数年前、私はPlayStation Move向けのタイトルに取り掛かっていた。その頃、PS Moveはまだ開発初期段階で、私が働いていた会社はこのモーションコントロール技術の開発に参加している数少ない会社の1つだった。ソニー・ワールド・ワイド・スタジオのプレジデント吉田修平は、我々のオフィスにある日やってきて、モーション技術で我々がなにを作っているのかを見に来たんだ。

私はチーム唯一のデザイナーで、プログラマーEd Parkとともにミニゲームの開発に尽力していた。城壁の上にプレイヤーが弓兵として立って、骸骨軍団から城を守るような内容のタイトルさ。プレイヤーは2つのモーションコントローラーをそれぞれの手に持って、矢筒から矢を引き抜いて敵を射るんだ。ほかにも凝ったゲームプレイは存在したけど、基本的なアイディアはそんな感じだ。

私は吉田さんがコントローラーを持ってプレイするのをとても神経質に見ていた。彼は3分ほど黙ってプレイしていて、私はとても怯えていた……彼が私のデザインを気に食わなかったんじゃないかとね。突然、背後に居たひとたちを見るために彼は身を翻して、「これ面白いね!」と言いいながら、満面の笑みを見せたんだ。私のキャリアのなかでも、もっとも誇るべき瞬間だったよ。このミニゲームは、後に『Medieval Moves: Deadmund’s Quest』として知られるフルゲームになった。ただ私は、ゲームが作られる前にその会社を去っていただけどね。

 

『Lost Planet 3』。カプコンの人気シリーズ最新作として2013年に発売されたが、既存路線から大きく脱却し、ファンから不評を買った。
『Lost Planet 3』。カプコンの人気シリーズ最新作として2013年に発売されたが、既存路線から大きく脱却し、ファンから不評を買った。

Wondra氏:
ゲーム開発で長く働いていれば、全てのゲームプロジェクトにおいて、いいスタッフと、よくないスタッフがいることがわかるはずだ。そしてゲームの最終的な出来に、開発者らのスキルレベルが必ず反映されるわけではない。実際に、『Lost Planet 3』の開発チームは、私がいままでともに働いてきたなかで、もっとも才能あるチームだった。だが素晴らしいゲームは完成しなかった。

個人的に好ましいことではないが、ゲーム開発には色々な側面があるんだ。主役キャラクターが走るスピードが遅すぎるように思った。ストーリーに力を入れすぎて、ゲームプレイがないがしろにされているように感じた。全体的なゲームデザインがオリジナルのシリーズから離れすぎて、迷走しているように感じた。

だがこれらのデザイン決定は、私が関与できるようなものではなかったんだ。みんな理解する必要がある。一般的に、パブリッシャーとゲーム開発チームの最上部の人だけが、クリエイティブな決定を下せる。だから、ゲームが成功するかどうかに関して、開発メンバーだけでジャッジすることはフェアじゃない。予算やタイムライン、リーダーシップにコミュニケーションは、素晴らしいゲームを作る上でもっとも重要な側面だ。世界中から最高の才能ある人々が集まったとしても、予算や時間、リーダーシップやコミュニケーションができなければ、いいゲームは作れないよ。

 


――北米のゲーム市場で生き延びるためには、なにが必要なんでしょうか。特にあなたのようなゲームデザイナーにとって。

Wondra氏:
現在の市場でゲームデザイナーにもっとも求められるのは、モバイルの開発経験と”マネタイゼーション”ゲームの開発経験だと思う。一山のスキルよりも、そういうゲームをいくつ開発してきたかだ。低賃金で働いて、会社に利益をもたらすことができるか?とてもシニカルに聞こえるかもしれないが、これが真実だと確信している。ほとんどの開発者はオリジナルのアイディアを考えようともしない……残念なことに、多くの開発者は、すでにあるアイディアをコピーしたり、これらのアイディアで金儲けする方法を探している。現在、クリエイティブな精神に反して、ますます多くの会社が経済アナリストを探し求めている。財政やデータリサーチの知識がある人々を探しているんだ。

――少し話は戻りますが、先ほど「企業は学校を出たばかりのゲームデザイナー、つまりは低賃金で雇える労働者を探し求めている」との発言がありました(※インタビュー前編参照)。先日のブログでも、Wondra氏は「若者たちにゲーム開発を教える学校」が勝者であると伝えていましたが、これはつまり開発者を夢見る若者たちを搾取する構造があるという意味でしょうか?

Wondra氏:
その通りだよ!若い世代が大金を稼いだり、創造の自由を楽しんで前世代の人たちと同様に成功することなんて、絶対にないと思っている。これはおもに単純な経済学に起因しているんだ。ゲームデザイナーと開発されるゲーム、双方の面において、供給量が昔よりも多すぎるんだ。供給量が膨大すぎるから、5年前と比較しても給料は安くなっている。

それに、市場はもう満杯になりつつあって、既存の企業は新しいアイディアを模索することができなくなりつつある。代わりに彼らは利益を願って、成功している既存のアイディアをコピーするようになった。デザイナーの育成という面では妨げになっているよ、クリエイティブになる代わりに、ほかのゲームアイディアをコピーすることを推奨しているんだから。ニコロデオンに居るあいだ、毎日のように見てきた光景だ。マネージャーは儲かっているゲームを毎日のように検証して、それらのゲームがなにで成功しているのかを見ている。そして「我々のゲームにどうすればこの要素を入れられる?」と要求してくるんだ。

任天堂のように、時代の移り変わりへの対応が遅くて、アメリカで大批判を浴びているような企業があるのは知っているよ。でも私は異なる考え方で努力している彼らを大いに賞賛する。重要なことだと思う。Wiiは大成功した。任天堂は勇敢だ。さらに多くの企業が同じようになることを願っている。

――では、もしゲーム開発に興味を示している若者が居たら、彼らにどのようなアドバイスをしますか?

Wondra氏:
私の投稿した記事が、悲哀や落胆に満ちているのは理解している。ただ、それでも若い人たちにゲーム開発へ向かうことを奨励したい。今すぐに学び始めること、そして止まることなく学び続け、改善するために努力し続けること。ほかのゲームを検証してインスピレーションを受けるのもいいけど、自身のアイディアを信じる勇気も必要だ。自身の会社を設立するために努力するのもいい、自身のアイディアをコントロールすることができるのならばね。いつの日か、私とチームを組んで、スクウェア・エニックスに『ベイグラントストーリー』の続編を開発してもらえるよう、共にアプローチしよう。

――最後に、AUTOMATONの読者や、あなたのブログに共感した人たちへ、メッセージをお願いします。

Wondra氏:
単純に今回のメッセージは、みんなの認識を変化させようと、私がとにかく挙げた”声”なんだ。私が「ゲームデザイナーの死」で語った問題は、私の心に深く根ざしていることで、語らなければならないと感じていた。業界では様々な変化が起きていて、それらすべてが、いい変化というわけではない。いいものばかりではないから、いま起きていることについて話したいと思ったんだ。ほかの人達も同じように意見を伝えて、変化が起きることを願うよ。

すべてはお金と経済によって動いている。現在開発されているゲームは、人々がお金を支払うから開発されているんだ。ゲームにお金を支払っている時、君たちはゲームメーカーに「もっと同じようなゲームをくれ」と言っているんだ。お金で投票しているようなものさ。投票した数を数えてみて欲しい。ゲームメーカーはかつてのようにクリエイティブになって、人を人として扱うようになって欲しい。研究所のネズミではなくてね。新しいコンセプトやアイディアを追い求める代わりに、私が見てきた大抵の企業は人の動向をうかがって利用しようとする。

私には、ビデオゲームには我々の心を動かす力があると信じている。楽しさ、悲しさ、恐怖、勇気……想像できるかぎりすべての感情を引き起こすことができる。そして私たちを人間愛と結びつけ、共に居ることを考えさせる。『ゼルダの伝説』のようなゲームはまさにそれをやっている。我々を魔法の旅に連れて行ってくれるんだ。業界には再び努力して欲しい……誠実なゲームは、人のポケットから取り出すようなものじゃない。

 

Greg Wondra氏とその一家
Greg Wondra氏とその一家

Wondra氏は、業界や周囲の環境の変化に追いやられた”被害者”なのだろうか。創造的なゲーム開発に夢を見すぎて、みずからの意思を貫き通してしまった”愚者”なのだろいうか。あるいはその両方か。現在、Greg Wondra氏は仕事に就いておらず、次にどのキャリアへ向かうかも未定だ。Wondra氏は、10年以上すべてを捧げてきた業界から、突然、自分の居場所がなくなり、まだ深く困惑している状況だという。だがそれでも、妻と2人の子供のために、子供のころから夢だったゲームデザイナー以外の、次の仕事を探さなければならない。

 

[聞き手 Shuji Ishimoto]

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