パブリッシャー付いてない、大規模宣伝されてないゲームも良作いっぱい。AUTOMATONが選ぶ、2025年よかった国産小規模開発ゲーム11本
年末企画として「パブリッシャーがついていない/発売時点でついていなかった小規模開発であろうゲーム」を表彰するコラムを掲載する。

近年では個人・小規模開発スタジオでもゲームがリリースしやすくなり、面白いゲームが数多く世に出るようになった。パブリッシャーが付き、しっかりマーケティングされた商業ゲームも面白いが、個人(あるいは小規模チーム)開発者がパブリッシャーを付けず出したゲームもまた乙なもの。そうしたゲームをキュレーションするのも、ゲームメディアの役割のひとつといえる。
年末企画第3弾となる本稿では、「パブリッシャーがついていない/発売時点でついていなかった小規模開発であろうゲーム」を弊誌にて勝手に表彰するコラムを掲載する。「日本国内の生まれであろう」「発売時点でパブリッシャーがついていなかった(のちについたものも対象)」「小規模開発っぽい雰囲気がある」といった、あくまで弊誌独自のざっくりとした条件であるが、そういった条件に当てはまる今年発売のゲームから、そのジャンルに強い著名人をまじえたライター陣の心に残ったものをご紹介する。素晴らしいゲームを見つける機会のひとつになれば幸いだ。
「トライ&エラーの楽しさを学ぶのに最適の1作」
『オートローグ』
開発元・販売元:定期的な宝物
対応機種:PC(Steam)
初回クリア時間:1プレイ20~45分、2キャラ最高難易度クリアまで20時間前後

『オートローグ』は、行動ルーチンをプログラムし、敵との戦闘に勝利していくローグライクゲームだ。本作の初期状態を例に挙げると、キャラクターのスキルは「ずつき」攻撃と「まるまる」防御しか持っておらず、作戦スロットに「ずつき」を置くだけでは敵の攻撃に耐えきれずやられてしまうし、「まるまる」を置くだけでは防御を重ねるだけで敵を倒せない。そこで登場するのが「条件分岐」で、作戦の一番上に「自分の防御力が敵の攻撃力より小さい」ときに「まるまる」、2番目に「ずつき」を置くことで適切に防御を重ねつつ攻撃を仕掛け、安定して敵を倒す……というプログラムが出来上がる。
戦闘ごとにランダム選出されたスキルとお金が手に入るので、金で作戦スロット・使える条件分岐を拡張しつつ、徐々にパワーアップしていく敵にプログラムを拡張しながらプレイヤーは挑んでいく。もちろん、プログラム構成がうまく機能せずに敵に負けることもあるだろう。しかしながら本作の素晴らしい点の1つは、敵に負けてもすぐにプログラムを組みなおして再戦できることである。使ってなかったスキルをプログラムに組み入れたり、スキルやアイテムの使用順を見直してみたら、プログラムの動きがまるで変わってくるかもしれない。こうしたトライアンドエラーの積み重ねとプログラムの最適化により敵を撃破できた時の快感は、実際のプログラミングの要素にも通じる楽しさである。
個人的には、このゲームはローグライク愛好家だけでなく、今やプログラミングが必須科目となった教育現場でも役に立つのではないかと思っている。このゲームを通じて得られる論理的思考力、その場に応じたビルドを積み上げていく適応力、資金管理マネジメント、そしてトライアンドエラーを楽しむ心と問題を解決したときの達成感は、これからの世界を生きる子どもたちに是非とも身に着けておいてほしい力なのだから。
by. ずんこ。
「ローグライクに成った伝統ゲーム」
『将棋ライク』
開発元・販売元:こめも/ぺんぎー
対応機種:iOS/Android/ブラウザ(unityroom)
初回プレイ時間:20時間

『将棋ライク』は、将棋にデッキ構築型のローグライク要素が取り入れられたボードゲームだ。将棋と同様に駒ごとに決められた動きを交互におこない、敵陣の王城を取ることが目的となる。とはいえ、あくまでも“将棋風”。駒には攻撃力・防御力・体力という概念があり、体力が0になると駒を取られる。また、王城は体力が多めで動かせない、取った駒を持ち駒として使えないといった本作独自のルールも存在する。なお、駒の動きはゲーム内で確認可能だ。
開始時には王将と歩のみが配置され、各ステージで提示される3択から駒を選び、全14ステージのクリアを目指していく。通常の将棋駒に加え、オリジナル駒も数十種あり、敵陣に入ることで変化する「成り」の要素もある。オリジナル駒には多彩な能力があり、たとえば「鞠男」は何度も成ることで、火球で駒を壊す「火鞠」や、無敵の「星鞠」に変化するなど、元ネタを踏まえた能力や解説に思わずニヤけてしまう。こうした駒がアップデートで追加され続けている点も本作の魅力だ。
オリジナル駒はいずれも強力ながら、ステージを進むほどに敵構成も凶悪になっていく。毎ターン自動で動く、増殖し続ける、範囲破壊するなど敵専用の駒も登場し、強力な駒を揃えていても初見のステージでは成すすべもなく負けてしまう。敗北すると全ての駒を失い、1ステージ目からやり直しとなる。
それでもステージごとの敵構成は固定のため、後半を見据えて駒を選び、挑み続けることで突破口が見えてくる。判断ミスで負けてしまうことも多々あったが、駒の特性や配置ルールを理解し、ついに最終ステージをクリアできたときの達成感はすさまじかった。そしてクリア後にはハードモードや特殊ルールが解禁されるので、それらもクリアすべく今でもたまにプレイしている。将棋に縁の薄かった筆者でも夢中になれた本作を、国産小規模ゲームのベスト作品としたい。
by. Haruki Maeda
「地獄の三日間を、共に走れ」
開発元・販売元:冬のいもうと
対応機種:PC
初回プレイ時間:6時間

『捌月のダムナシオン』は、末黒野芒氏が主宰する同人ゲームサークル「冬のいもうと」が2025年3月にリリースしたビジュアルノベル。同サークルは創作論×異能力バトルの『鉄条の囹圄』や、館モノサスペンス×ラブストーリーの『産形邸の六天狗』など、メッセージ性の高い傑作&怪作を生み出し続けているのが特徴。
「八月一日の深夜、母が鎧武者に殺される」あまりに唐突で理不尽な惨劇から、物語の幕は上がる。本作が描くのは単なる「幽霊との戦い」ではない。500年前から続く一族の呪いと現代に生きる人間たちの身勝手な業が絡み合う、ダムナシオンの名にふさわしい地獄巡りのミステリーホラーだ。
主人公「朔晦滋郎」は、自分に流れる「由月」という血筋を知らずに生きてきた。だが母の死をきっかけに無念の死を遂げた由月の嫡男・真秀が、半世紀に一度盆の時期に蘇り弟の血族を粛正する「真秀の祟り」というシステムに強制的に放り込まれてしまう。ただ本作をプレイして最も印象的だったのは、真秀の襲撃よりも伯父・由月愛河をはじめとした親族たちの悪辣さだった。
おばけはルールに従って人を殺すが人間は我欲のために行動するという対比が、約20万字というテキストを通じて執拗に描かれ、読者は滋郎と共に疑心暗鬼を追体験することに。そして滋郎の相棒の傭兵・ギヨムの持つプロフェッショナルな冷徹さと、軽妙な下ネタ会話が繰り広げられるバディ関係の対比。巧みに張られた伏線の回収が推進力となり、ラストまで一気にプレイできた。
『捌月のダムナシオン』は、安易な感動やカタルシスを約束するゲームではない。ただ地獄のような三日間を滋郎たちと共に駆け抜けたとき、登場人物たちの無様で尊い欲望と愛の数々に触れることになるだろう。和風伝奇ホラーの不気味さと人間ドラマの泥臭さを極限まで煮詰めた本作は、忘れられない「最悪の夏」をプレイヤーに刻みつけてくれるはずだ。
by. Yuuki Inoue
「埋葬は、終わりではなく始まりの行為」
開発元・販売元:NANTEDOW
対応機種:PC
初回プレイ時間:5時間

『ショートケーキの埋葬』は、NANTEDOWが手がけたクライムサスペンス・ビジュアルノベルで、コミックマーケット105で頒布、2025年8月にSteam版がリリースされた。ボイスは実装されてないが、声優のささきのぞみ氏がキャラクターデザインを担当。“演者経験があるからこその「表情の良さ」が光る”と紹介されるように、細やかな感情表現が目を惹く。
物語は主人公「荒川季節」が、母の遺体を山中へ埋めようとする衝撃シーンから開始。穴を掘る姿を目撃され、何者かに気絶させられた季節が“ペット用”の火葬場で目を覚ますと、死体も一緒に運ばれていた。職員「清水莉央」から人間も焼却可能だと告げられた主人公は、正規の手段ではないと理解しつつ母との別れを行う。その後火葬場での仕事に誘われたことをきっかけに、政治家「正源寺太郎」にまつわる歪みに巻き込まれていく。
“悲劇の、その先を描く。”と銘打たれている通り、本作のキャラクターは過去の出来事により何かを諦めた状態で生きている。季節も奇行を繰り返す母の世話のために高校を中退し、消費期限の貼り直しといった不正を強要されるスーパーで働いてきた。莉央との出会いによって前を向き始めた主人公は、無職の父親からパパ活を押し付けられていた「朝日夏鈴」に自分を重ね、手を差し伸べようとするが…。
最大の魅力は、生々しい会話劇によって形成される群像劇だ。感情が整理された芝居がかったセリフではなく、立場や事情に引きずられたやり取りの積み重ねにより関係性が静かに変わっていく。結末は安易な救いを提示しないがささやかな光と爽やかさを感じさせ、政治や宗教に絡め取られた人間のしがらみを通じて、“人と人の繋がり”のテーマを浮かび上がらせる手腕は鮮やか。クリア後には「ショートケーキ」と「埋葬」という一見するとちぐはぐな取り合わせのタイトルが、本作の象徴的な比喩として腑に落ちるだろう。
by. Yuuki Inoue
「粘っても諦めても“結果”は同じ」
開発元・販売元:みつどもえ工房
対応機種:PC(Steam/BOOTH/ノベルゲームコレクション)
初回プレイ時間:2時間

男2人が理由もわからず冷凍庫に閉じ込められ、死ぬ。これが本作のストーリーである。閉じ込められている空間を調べたり、会話の選択肢を選んだりと、プレイするたびに物語に変化はあるものの、2人が死ぬことだけは変わらない。
ストーリーとは流れのあるものである。あるマンガ家は長期連載をするにあたり、最終的な着地点だけは決めておいて、途中の展開については連載中のさまざまな事情に応じて柔軟に変化させるといったことを語っていた。その言葉を借りれば、本作の着地点は「死」であると言える。登場人物がそこに至るまでの感情や、明かされる情報の違いを楽しむわけだ。脱出するための試行錯誤、生き延びるための足掻き、幻覚、発狂、そして絶望が、本作が提供している自慢の味なのである。
そんなわけで、どうやっても2人は死んでしまうわけだが、プレイヤーの選択に意味がないというわけではない。展開が変化する以上の意味について少しでも触れるのはネタバレのような気もしてしまうが、本作がただの冷凍庫内の死シミュレーターでないことだけは語っておきたい。「そこに意味が込められているとは」と思わず膝を打つような、ゲームのデザインこそが本作の秘めたる真価なのだ。本作は短編のフリーノベルゲームである。それがいかなるものか興味を持たれた方は気軽にお試しいただきたい。
なお開発者はBLのつもりは無く制作したとのことだが、主要な登場人物2人の距離感は女性を恋愛対象とする男性のものとは言い難い。筆者は人物の感情や行動に着目して問題なく楽しめたが、どうしても苦手という方は注意が必要だろう。
by. Naoto Morooka
「カワイイを詰め込んだロボット少女育成シミュ」
『ロボット少女は夢を見る-RobotBattleChampionship-』
開発・販売元:DeskClub Games
対応プラットフォーム:Nintendo Switch/PC(Steam/DLsite)
初回プレイ時間:6時間から8時間程度

『ロボット少女は夢を見る-RobotBattleChampionship-』は、記憶喪失のロボット少女が打倒最強ロボットを目指してバトルを繰り広げていく、ロボット少女育成シミュレーションゲームである。本作の舞台は、AI技術が発展し、ロボットが意思を持ち生活する近未来の世界。人間とロボットが共存する最先端の街アストロメアでは、ロボットバトルもおこなわれていた。本作の主人公は、気がつくと記録を失った状態でアストロメアにやってきていたロボット少女だ。プレイヤーは、彼女の行動を1日単位で選択。パーツや食費のためにお金を稼いだり、見知らぬ土地に出かけたり、時には事件に巻き込まれたりなど、アストロメアで生活を送りながら最強を目指していく。
ロボットバトルは、いわゆるCTBやタイムライン式のターン制バトルとなっている。ロボットたちには射程や範囲、行動ウェイトや消費熱量などが設定されたスキルが搭載。カスタマイズによってパーツを入れ替えると、パーツのスキルやセット効果、装甲などによって性能が一変する。また本作ではお金を稼ぐ以外に、キャラクターとの交流などでもパーツが獲得でき、ロボット少女を強化できる。キャラクターとしても、街に住む少女やロボットたち、愛の重いロボットなど多数登場。本作では個性的なロボットたちと交流しながら最強を目指す、街での3か月が待っているわけだ。
個人的に、育成シミュレーションは近年熱いジャンルの一つだと思っている。本作はそんな中で、CTB式のロボットバトルを搭載。強力なパーツでのゴリ押しから、相手にあわせたメタ構成での突破まで、ライトながら遊びがいのあるバトルに仕上げられている。またそうしたバトル以上に、本作にはクールで天然な主人公を始めとした可愛いキャラクターたちが多数登場する。やり応えのあるバトルをカワイイで彩った本作は、ジャンルの中でもキラリと輝く一本になっていた。
by. Keiichi Yokoyama
「一見真逆な二人の、瑞々しい青春」
『片腕のザリガニ – one-armed crayfish』
開発・販売元:斜塔ソンブレロ
対応プラットフォーム:PC(Steam)
初回プレイ時間:1時間程度

『片腕のザリガニ – one-armed crayfish』は、順当に生きようとする少年と逆張りばかりの少女が生徒会長選挙に挑む、青春ノベルゲーム作品だ。本作の主人公である少年・野崎優太は、いつも順当な選択肢を選んで生きていた。受験では、無理のない偏差値の高校を選択。エンタメに触れる際も、流行りの中からレビューを確認して作品を選ぶ。ある理由からそんな人生を始めた少年は、わずかな違和感を抱えながら、順張りによって平穏な日々を過ごしていた。しかし彼のクラスには、逆張りばかりの少女・三好岬がいた。本作で野崎優太は、三好岬の選挙活動に協力する中で、本当の自分の気持にも向き合うことになる。順張りの少年と逆張りの少女、歪な少年少女の生徒会長選挙が繰り広げられる。
すべての場面で、自分の思ったとおりに物事を選べている人間はいないだろう。少なからず、妥協や我慢を重ねている瞬間があるはずだ。現実と上手く折り合うことが大人になることなのかはわからないが、本作では順張りと逆張り、極端に生きる少年少女が登場。歪で青臭い彼らの日々が、1時間から2時間程度のノベルゲームとして描かれていく。立ち絵を用いない全編スチルの演出もあわせて、少年少女が少しだけ成長する瞬間が克明に表現されている。わかりやすくキャッチーな謳い文句を付けられる作品ではないものの、小気味よく進む物語は瑞々しく、記憶に残る作品であった。
by. Keiichi Yokoyama
「読めないし書けないことだけが唯一の難点」
『Öoo』
開発元・販売元:NamaTakahashi
対応機種:PC
初回プレイ時間:2時間

近年ゲームデザインの文脈でたまに使われる用語に「knowledge gating」というものが存在する。これは読んで字のごとく知識(ナレッジ)で進行度を管理(ゲーティング)することであり、つまりはプレイヤー自身の知識をゲーム内における進行フラグの代わりにするゲームデザインの手法のことだ。露骨な例で言えば、たとえばゲームのスタート地点の背後に謎の魔法陣がある。そのゲームのラストダンジョンの最奥部には謎の石碑があり、そこに見覚えのある魔法陣と初期装備の何故か売れない指輪が一緒に描かれている。もしやと思ってスタート地点に戻り魔法陣に指輪を置くと、エンディングが流れ始める……。ゲーム内部におけるフラグ管理がない場合、ゲーム開始時点からプレイヤーがエンディングに到達するのを妨げていたのは指輪の使い方の知識のみである。Knowledge gatingとはまさにこういうギミックのことを指す。「一番最初からあった/持っていたモノの、使い方を知らなかっただけ」というのも定番中のド定番である。
こういった手法の火付け役となったゲームはいくつかあるが、もはやタイトルをあげること自体がうっすらとしたネタバレでもあるのでここでは割愛する。ポイントはこの手法が、バックトラッキングの多いメトロイドヴァニアとの親和性がかなり高く、また実装次第ではパズルゲームにも応用可能だということだ。そして今年、『Öoo』はこの3要素を完璧に調和し提示してみせた。ゲームという娯楽は「ゲームデザイン」の形で抽象化、解体を経て研究され、現在進行系で恐ろしい勢いで洗練されていっている。そしてパズルゲームというのは、レベルデザイン一本勝負のジャンルでもある。自分は『Öoo』の2時間程度のプレイ時間の中に、knowledge gatingを含む近年のゲームデザイン、あるいはレベルデザイン研究の積み重ねによる、ひとつの完成形を見た。ゲームを愛してやまない者、ゲームを作りたいと志す者、そして何より「このゲームはどうして面白いのか」を考えずにはいられない者、そういう人にこそぜひ『Öoo』をプレイ、そして体験してみほしい。
by. Mizuki Kashiwagi
「続編楽しみにまってます」
開発元・販売元:Edanoue, Inc.
対応機種:PC(Steam)
初回プレイ時間:約6時間

『Lavender Quartz 境界秤動』はビジュアルノベルだ。戦争状態に陥っている2つの架空国家を舞台に、「イコヌ」と「キルシウム」という二人の女性による物語が描かれる。内容としてはオーソドックスな一本道を採用しており、選択肢などはない。国家や民族に対する帰属意識と自己アイデンティティの結びつきが作品におけるテーマとして掲げられている(特にウクライナ対ロシアの戦争を意識しているだろうと思われる)。一見すると重厚な印象を受けるが、文章表現としてはかなりフランクな言葉選びがなされており、ライトノベルを読むような感覚でサクサク読める。また、漫画のような吹き出しを使用した演出も登場人物の把握に一役買っている。
とはいえ、本作は重厚な表現対象と比較した際の読みやすさが特徴になっている作品、というわけではない。ビジュアルノベルとして、視覚的な演出に強いこだわりが伺える。画面を分割するように背景イラストを配置したり、3Dモデルを積極的に採用。そもそも作中の色彩がモノクロで統一されているおかげで、2Dと3Dの違いを通じ発生してしまう陰影の違いを帳消しにしている。これによって動的で立体的な空間を提示しておきながら、ビジュアルノベルに使用される静止画…「スチル」として成立している。3Dモデルを採用することによって背景の情報量が増えるため、人物同士の会話劇に力を注ぐことができ、読み手の意識もそこに集中する。本作の開発グループはバーチャルYouTuber「鳩羽つぐ」でも知られており、その技術がいかんなく発揮されているということが分かる。
ただ、本作の内容は良くも悪くも壮大な物語のプロローグのように思える形にデザインされている。そこが好みの分かれる点ではあるが、筆者としては続編の発表を強く願っている。開発グループのHPにて作品の開発秘話が読めるため、本作が気になった方はそちらもチェックしてみてほしい。
by. Takayuki Sawahata
「リロードタイムに息吹が宿る」
開発元/販売元:doekuramori
対応機種:PC(Steam)
初回プレイ時間:約15時間

『Beyond Citadel』はアニメ調のグラフィックが特徴の、シングルプレイFPSだ。『DOOM』などのブーマーシューターにあたるタイトルとなっており、同氏の過去作『The Citadel』の続編にあたる。まず目を引くのはセクシーなデザインである主人公「殉教者」と、一転して臓物などを撒き散らす破壊表現だ。こうしたゴア要素などはインスパイア元でもある『DOOM』などの影響を感じさせるが、本作はそうした要素に加え、リアリスティックな銃器操作が押し出されている。
一般にFPSと言われれば、素直に射撃にあたるボタンを押下し、弾が尽きればリロードボタンで弾を装填しなおす、といった操作を想起する。しかし本作では、まず空の弾倉を抜かねばならない。装填するマガジンが用意されていなければならないし、もちろんマガジンに弾を込めていなければリロードしたところで弾は出ない。仮に弾詰まりを起こした場合には、コッキングで薬莢を取り除く必要もある。
こうしたシステムは一見煩雑なだけの操作かもしれない。しかし『Beyond Citadel』をプレイして気づく。銃器選択にはいつの間にか「DPS」「リコイル」といった価値判断に加え、「リロードのしやすさ」などといった判断基準が生まれる。あるいは、その銃器を使いこなしたいがために、取り扱いの習熟を図ることもあるかもしれない。その瞬間、本作のガンアクションは“こだわりの仕様”を超え、“ゲームプレイにおける新たな戦略”として根付く。撃つ、そして破壊する、それ以上の体験として昇華されたFPSである本作は、今年のゲーム体験に鮮烈な印象を残した。
by. Kosuke Takenaka
「“女子高生設定”最大活用」
開発元・販売元:おこめたべたべず
対応機種:PC
初回プレイ時間:ストーリーモード約30分、アーケードモード1プレイ約10分

『シューターズ レディ!』は、アーケードスタイルFPSだ。スポーツシューティングが国民的な人気を博し、部活動にする女子高生までいるという、戦車を銃に置き換えた「ガールズ&パンツァー」じみた世界観のゲームになっている。
そんな本作は、屋内訓練場にて人型の的を撃ち続けるだけのゲームだ。普通のFPSであればチュートリアルを延々と繰り返し続けるようなものだろう。しかしそれを女子高生がやっているところに本作の魅力がある。キャラが可愛いからではない。プレイヤーキャラが女子高生ゆえに「手ブレも反動もやたらと大きい」からだ。
本作の手ブレは、特に初期状態ではかなり酷い。銃を標的を向けただけではそうそう当たらず、ブレて動き続ける照準器が標的に重なるように微調整しなければならない。またいざ引き金を引くと天を仰ぐほどに視点が上向きになるため、1発ごとに大きく照準を修正することも必要になる。
これだけだと不自由で遊びにくい仕様のように思えるかもしれないが、手ブレの酷さと反動の大きさによって、本作では1発1発を丁寧に狙う操作が必要になる。ダーツやアーチェリーのように狙いを定め、的中したときの気持ちよさ。そしてシビアな制限時間による焦燥感。連続で弾を当て続ければスコア倍率が上昇していく仕組みもあり、外せない緊張感も高まっていく。時間をかけてじっくり狙う安全策をとるか、制限時間のためにリスクをとるか。敵に銃を向けて撃てば当たる一般的なFPSとは異なる戦略性が生まれている。
さらにアーケードモードではここに、制限時間を支払ってキャラを成長させるという仕組みも加わる。たとえば厄介な手ブレを減らすこともできるが、そのためにはタイムアップのリスクがさらに高まるといった駆け引きもあり、可愛いビジュアルとは裏腹にヒリつくシステムが詰まっている。“無骨な趣味の女子高生”系ジャンルの魅力は可愛さだけじゃない。そう教えてくれる1作であった。
by. Hideaki Fujiwara
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