ソニーの“裸眼で立体視できる”新小型モニター「ELF-MN1」を体験してきた。初音ミクがそこにいるし世界がそこにある、見なきゃ伝わらないけど伝えたい

本稿では、ソニーが発表した「ELF-MN1」のメディア向け体験会のインプレッションをお届けする。

ソニーは10月28日、空間再現ディスプレイ「ELF-MN1」を発表。今年12月11日に5万4000円前後(市場想定価格)で発売予定となっている。発表にあわせて開催された「ELF-MN1」のメディア向け体験会に弊誌も参加してきた。

「ELF-MN1」は空間コンテンツソリューションブランド「XYN(ジン)」より展開される新たなハードウェア製品だ。6インチの小型空間ディスプレイとなっており、さまざまな3Dコンテンツを、特別なメガネやヘッドセットなしで、裸眼で立体視可能という製品だ。ちなみにXYNはモバイルモーションキャプチャーの「mocopi」なども手がけており、その名を耳にした人もいるのではなかろうか。

本稿では「ELF-MN1」体験会にて感じた新鮮さと「3DCGがその場にあるような感覚」をお届けする……と言いたいところだが、残念ながら裸眼立体視はその仕組み上写真や動画では実際の立体感を十分に伝えることができない。とはいえこのまま「伝わらない」というだけではメディアの名折れ。できる限りの言葉を紡ぎ、インプレッションとして“立体感”をお届けしたい。

「ELF-MN1」体験会ではまず、XR事業部門事業企画部部長でプロジェクトマネージャーの藤瀬真氏のほか、企画の石松瑶氏、設計プロジェクトリーダーの石橋時光氏によるプレゼンがおこなわれた。以前よりXYNは空間再現ディスプレイを手がけている。3DCG制作やデザインレビュー、医療や展示といった場所で活用されているものの、ユーザーからは「もっと身近に楽しみたい」との声が寄せられていたとのこと。

そうしてより手頃なかたちでの製品として生まれたのが「ELF-MN1」となるわけだ。「創造の世界を、机の上の“日常”に」というのが本製品のコンセプトだといい、スマホ並みの小ぶりなサイズが特徴だ。また画面と机面の境界を抑えるというコンセプトで、アクリルスタンドが採用されているのも特徴のひとつといえよう。画面は斜め倒しになってはいるものの、縦長であるために場所をさほど取らない。専用のスペースを作らなくても、デスクに置いておくことができるだろう。

そしてソニーによればクリエイターや消費者にも楽しみやすくなるよう、ソフトウェア面などでもハードルを低くしようと務めているようだ。具体的には、SDKの提供としてUnity用プラグインやOpenXRのAPIに対応。ソニー製カメラとiOS向けアプリ「XYN Spatial Scan Navi」を使って撮影し、クラウドサービス「XYN Spatial Scan」で生成した3DCGアセットを、プラグインを通じてPrefabをシーンに置き、モデルを配置することで「ELF-MN1」向けのコンテンツを制作できるという。

さて、前置きが長くなってしまったが、今回ソニーやパートナー企業、クリエイターたちによって制作された「ELF-MN1」向けコンテンツのいくつかを紹介しよう。

まずは株式会社Gugenkaの「ホロモデル」。同アプリは2017年にリリースされた、キャラクターをデジタルフィギュアとして楽しめるアプリだ。大きさを変えたりポージングを自由に変更できる点が特徴で、今回は初音ミクが「メルト」「裏表ラバーズ」にあわせてダンスをする様子を眺めて楽しむことができた。

映像はホログラム的に飛び出して結像しているわけではないものの、モニターを覗くと実際に立体となったミクが踊っているように感じられる。頭を動かして見る位置を変えれば、その動きに追従するように見えるアングルも変わり、上下左右から「覗きこんでいる」感覚が味わえる。

また株式会社HIKKYによる「Deskrium」はVRM、FBXなどの形式のアセット読み込み、アバターや3Dモデルを表示できるというもの。背景やモーションをカスタマイズすることが可能で、体験会では、石のアーチをくぐった先にキャラが佇んでいるというシーンを見ることができた。ただ背景にキャラがいるわけではなく、上から見ればアーチでキャラが隠れ、横から見ることでアーチの奥まで見通せ、キャラも初めて全身が見えるようになる。画面の向こうに、確かにアーチと、キャラが存在しているわけだ。

そのほか、インディーゲームレーベルSTAYRESIDENTによる、『Fenestra: my focus, her future』も公開されていた。こちらは集中支援×『プリンセスメーカー』系育成アドベンチャーゲームを標榜するタイトルであり、ポモドーロタイマーやToDoリストを備え、プレイヤーの作業を支援するとともに、少女フェネストラとの関係や物語も進展していく。

こうした作業支援用ゲームは、『gogh』や『Chill with You』などをはじめとして近頃多くのタイトルがリリースされ、注目を集めている。そんな中でも、『Fenestra』はELF-MN1に対応することにより、小さなモニター越しに彼女の作業の様子などを楽しめる。目を向けるとそこにあたかも“居る”かのような体験ができる本作は、「一緒に作業をする」という設定に見事に合致している。小ぶりなデバイスというのも、作業を阻害せず、隣で一緒に作業している感覚を増幅させるものだろう。『Fenestra』はデバイスとコンテンツの相乗効果をいやが上にも感じさせるものであり、「作業支援アプリ」は、より実在性を感じられるものに変わっていくのかもしれない。

一方、一風変わったコンテンツを手がけるクリエイターの作品もいくつか見られた。メディアアーティストの坪倉輝明氏が手がける「Rain Shelter – 雨宿り」は、少女が公衆電話ボックスの中にいる様子をうかがえるというものだ。この“電話ボックス”は坪倉氏の手作りといい、空間の「区切り」が違和感なく表現され、ジオラマのような趣を醸している。画面越しの実在感を逆手に取った、筐体を活かしたコンテンツ作りといったものも期待できそうだ。

さらに空間コンテンツクリエイターのVoxelKei氏は、今回の体験会にあたって「PARALLAX FIELD」を展示。これはいわゆる“縦シュー”にあたるシンプルなSTGだが、操作方法は「頭」を使う。つまり「ELF-MN1」の視線認識センサーで捉えた目の位置が、STGにおける自機の位置として反映されるわけだ。VoxelKei氏の説明に頷くたびに自機が揺れ動くシュールさもありつつ、地上と空中にいる敵の奥行きの差や、地上の敵からのレーザーが飛び出してくる感覚は、操作感も相まって斬新なゲーム体験だった。

ところで裸眼立体視というと、ゲームプレイヤーとしてはかつての「ニンテンドー3DS」を思い出す人もいるのではなかろうか。かくいう筆者もその一人で、裸眼立体視には少し視点をずらすと見え方が万全ではなくなったり、解像度がやや低いのではないかという印象が強かった。もちろんプロダクトの規模感や時代による技術の進化などもあるだろうが、「ELF-MN1」では、単なる立体感にとどまらず、位置を変えることで見え方も少しずつ変化していくという体験は新鮮なものだった。こうしたコンテンツからは、まさに「空間がそこにある」といえる感覚を覚えた。

今回の「ELF-MN1」体験会は、バーチャルな世界がそこにあるという実在を感じさせる新鮮な体験となった。革新的な技術に目新しさを感じるが、その新鮮さは裏を返せばこうした技術がまだ人口に膾炙していないということの表れでもあるだろう。先述の通り、これまでにソニーは15.6インチの「ELF-SR1」(現在ソニーストアでの販売は終了)、27インチの「ELF-SR2」を手がけているうえ、現場での採用例も存在。厳密には「ELF-MN1」が“最先端”というわけではない。とはいえ、これら製品の販売価格は50万円前後と高額であり、利用現場も企業や施設などが中心でこうした技術に触れる状況は限られている。BtoBを想定した商品である以上仕方ないことではあるが、一般ユーザーが手を出すにはハードルが高く、日常で目にする機会は少ないといえるものだった。

ただ、「ELF-MN1」では6インチディスプレイと小型かつ、市場想定価格も5万4000円前後となっており、安価とは言いづらいが「買おうと思えば買える」価格帯となっている。クリエイターのVoxelKei氏もプレゼンにて“大きく重い” ELF-SR1/SR2との比較にて、ELF-MN1のコンパクトさを挙げていた。これは携行性というだけでなく、価格帯なども総合した「手の出しやすさ」を表現したものといえるかもしれない。さらに同氏はSDKについても改善された印象だと語っており、空間再現ディスプレイ対応コンテンツの制作ハードルも下がっているといえそうだ。

いくら革新的なデバイスが一般ユーザー向けにリリースされても、利用状況が限定的であったり、コンテンツの供給が少なかったりすればニッチなテクノロジーにとどまってしまうだろう。しかし今回の「ELF-MN1」体験会を通じて、デバイスとしてのお手頃さだけでなく、コンテンツ展開の懐の深さも感じることができた。制作のハードルが下がり多くのコンテンツが展開されれば、空間再現ディスプレイもより広範に普及し、人口に膾炙していくだろう。新商品としての革新性だけでなく、より日常に即したコンテンツの可能性を感じさせる体験であった。

なお「ELF-MN1」はソニーストア銀座およびソニーストア名古屋にて展示が順次開始予定だ。本稿で立体感を感じきれなかった人は、こちらに訪れてコンテンツを体感してみるのもいいだろう。

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Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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