『マリオカート8 デラックス』eスポーツシーンがとても熱いらしい。トッププレイヤーに訊く、発売7年目でも盛りあがり続ける理由

 

2017年4月にリリースされ、発売7年目を迎えた『マリオカート8 デラックス』。近ごろ、そんな本作のeスポーツシーン(競技シーン)が非常に熱く、注目を集めているという。弊誌では日本のトッププレイヤーくさあん氏に話を訊きつつ、本作の競技シーンが盛りあがっている理由や見どころといった、競技シーン特有の魅力を紐解いていく。


『マリオカート8 デラックス』は、『マリオカート8』をベースにしたタイトルだ。『マリオカート8』追加コンテンツの16コースを収録し、インクリングを代表とした新キャラクターのほか、カロンなどの過去作に登場したキャラクターが追加された。新アイテムを追加し、初心者向けのハンドルアシストシステムを導入。そのほか、細やかなバランス調整がおこなわれており、全体的なボリュームアップがはかられている、移植をともなう強化版ともいえるだろう。

本作の“競技シーン”では、MKCentralを筆頭として、国内外を問わず有志によって大会が開催されている。また大会に限らず、「ラウンジ」と呼ばれる非公式のレーティングバトルのシステムが構築されており、日夜競技勢が腕を競い合っているという。

『マリオカート8 デラックス』の発売日は2017年4月28日。本稿執筆時点ですでに発売から6年も経過している作品だ。それが今になってなぜ大きく盛りあがりを見せているのか、また本作の競技シーンの見どころはどこかといった点から、コミュニティの熱さに迫っていく。

Image Credit: くさあん on YouTube


今回弊誌に『マリオカート8 デラックス』の競技シーンについて語ってくれた人物はくさあん氏だ。同氏は、ラウンジにおいて最高ランクである「グランドマスター」を実装当初のシーズン3(現在はシーズン9)から取り続けており、2018年からは日本代表のキャプテンを務めている。本作の競技シーンに長く関わり、結果を残し続けているくさあん氏に、競技シーンの現状について訊いた。

遅れてきた大規模アップデートと成熟した競技シーンの相乗効果

くさあん氏は盛りあがっている要因のひとつとして「ゲームのアップデートによりゲーム自体の注目度が増えたこと」を挙げている。『マリオカート8 デラックス』は、これまで数度アップデートがおこなわれてきたが、バグの修正や、軽微な仕様の修正にとどまっていた。しかし「Nintendo Direct 2022.2.10」にて、過去に登場したコースをリマスターし計48コースを追加で実装する「コース追加パス」が発表された。


このアップデートは2023年末までに8コースずつ、6回に分けて配信されている。各パッチではキャラクターやマシンのステータスの調整なども含めた、大規模なアップデートがおこなわれている。

本作のコース数は本稿執筆時点において、初期から収録済みの48コース、コース追加パスの40コースの、計88コースが収録されている。周回ごとに少しずつ構造が変わっていくコースやそもそも周回をしないセクション制のコースなどがあり、バラエティー豊かだ。

またキャラクターとマシンの調整について、かつては構成の“結論”としてワルイージとハナチャンバギーを組み合わせた「ワルハナ構成」が非常に多く採用されていた。そのため参加している12人全員がワルイージという状況も珍しくはなかった。それが度重なる調整により、ヨッシーやキャサリン、デイジーといったキャラクターが中心となっていった。マシンについてもトルネードやくまライド、そらまめなどの選択肢が増え、見た目にも華やかなゲームに変貌している。やはりアップデートが配信されることは、なによりゲームを盛り上がらせるのだろう。

*2021年7月に開催されたMario Kart World Cup 2021の決勝戦
Image Credit: くさあん on YouTube

*2023年7月に開催されたMario Kart World Cup 2023の決勝戦
Image Credit: くさあん on YouTube


加えてくさあん氏は競技シーンについて、「各々のプレイヤーが独自に配信をおこなっていることが多く、そのため個人の配信に視聴者がつき、盛りあがりを見せている」と分析する。本作の競技シーンの主戦場はオンラインによる対戦だ。『VALORANT』などのFPS、『ストリートファイター6』などの格闘ゲームの大規模な大会が主にオフラインで開催されることを考えると、特徴的な点といえる。

オンラインで開催されることで、コロナ禍でも開催しやすいというメリットのほかにも、プレイヤー個人が配信しやすくなるという効果もあるだろう。競技シーンのプレイヤーは大会やラウンジでのレーティング戦を独自に配信することが多く、くさあん氏も自身のプレイ視点をYouTubeで配信している。ほかにももあ氏K4I氏など、トッププレイヤーがそれぞれ個人の視点で配信をおこなっている。

『マリオカート8 デラックス』の競技シーンは、ラウンジなどによって長い間対戦環境が提供されてきた。そうして成熟したコミュニティがハイレベルな対戦を生み出し、盛りあがりに貢献している。「今年7月に開催されたMario Kart World Cup 2023などで採用された6対6のルールにおいても、通話による連携や、事前に取り決めたコースごとの戦術がより深まってきている」とくさあん氏は語る。

大規模なアップデートで高まった話題性と注目度。そしてコミュニティの歴史によって成熟した競技シーンの相乗効果によって、競技としての『マリオカート8 デラックス』は盛りあがりを見せ続けている。

巧みな連携で生まれる見どころ

『マリオカート8 デラックス』の競技シーンでは、通常のインターネット対戦とルールがいくつか異なっている。まず一試合では12レース走るというところだ。レース中においては、チームが全体的に後ろに固まっていれば、ショートカットが多く逆転が強いコースを選び、反対に前に固まっていれば、一度前に出れば逃げ切りやすいコースを選択するといったような戦略がある。時には、上位を取ったメンバーの得意なコースが選ばれることもあり、試合は戦う前のステージ選択から始まっていると言えるだろう。

Image Credit: くさあん on YouTube


また個人戦に限らず、2人組、6人チームなどといった形式の違いがあるものの、ゲーム上のルールではあくまでチーム戦ではなく、個人戦で戦うというのも大きなポイントだ。通常のチーム戦のルールでは、味方のチームのトゲゾーこうらや赤こうら、サンダーなどといったアイテムに狙われずに済む。

しかし、それは裏を返せばアイテムの力に非常に強く偏ったゲームとなってしまうということでもある。そのため競技性の維持を目的として、ゲーム上では個人戦のルールで戦い、試合としてはチームメンバーが獲得したポイントの合計で競うこととなる。

この競技シーン特有のルールはレースに見どころを生み出す。くさあん氏によると、見どころは「通話による連携と、アイテムを使用するタイミングの判断にある」とのこと。

6人チームで実施されるチーム戦では、通話しながらレースに参加することとなる。先述した通り、味方の攻撃アイテムにも当たってしまうので、連携を取って敵にのみアイテムを当てようとする。味方と敵の順位、どのアイテムを持っているかの状況報告など、レース中は常に報告が飛び交う。統率のとれたチームプレイは一見の価値ありだろう。

その中でも、特に報告による連携が重要なアイテムが「サンダー」だ。サンダーは使用すると自分以外のすべてのプレイヤーがスピンし、アイテムを落としたうえで一定時間小さくなってしまう。当然使用時には味方にも被害が及んでしまうため、使うタイミングを考慮する必要がある。

サンダーを回避するには、スター、テレサ、キラーといった、無敵になれるアイテムを使う必要がある。またプレイヤーはアイテムを落とすため、無敵になれない味方がいる場合には、アイテムボックスの手前で使用するなど、高度な連携が必要となる。一発逆転のポテンシャルを秘めているサンダーは、レースにおける一番の見どころといっても過言ではない。


近づいている世界大会

そういった盛りあがりや、見どころがある『マリオカート8 デラックス』の競技シーン。実は近々大規模な大会が控えている。

「Mario Kart Worlds 2023」と題された大会は、チーム招待制の世界大会で、今年12月9日から17日にかけて開催される。招待されるチームは海外から8チーム、日本から8チームの計16チームだ。いずれのチームも今年開催された大会で結果を残しており、ハイレベルな大会になる見込み。試合は2チームによる6対6のレースとなり、通話による巧みな連携が見どころとなるだろう。

くさあん氏に注目チームを尋ねると、日本チームでは、くさあん氏がリーダーを務めている「NX」と、「γ」があげられるとのこと。両チームとも今年7月に開催された「Mario Kart World Cup 2023」において、日本代表の主なメンバーとなっていたこともあり、実力は折り紙つきだ。また海外チームでは、強豪国であるフランスのプレイヤーが中心となっている「BRE」が注目チームとのこと。

Image Credit: Mario Kart Central on YouTube


また、2024年1月21日には「Nintendo Live 2024 Tokyo」にて開催予定の「ワールドチャンピオンシップ 2024」がある。この大会は「オンラインチャレンジ」の決勝ステージの優勝者が出場することになっており、2022年に開催されたオンラインチャレンジの決勝ステージと同じ形式であれば、通常の競技シーンと異なり、CPUありの4レースとなる予定だ。

CPUはプレイヤーよりも圧倒的に遅く、あえて後方に回り強いアイテムを取りに行く動きがしにくくなる。そのため、全員が常に前のめりに1位を狙ってアイテムのやり取りをおこなう試合展開が予想される、とくさあん氏は違いに触れつつ分析した。

さまざまな要因と、熱量のあるコミュニティにより、発売から7年目となってもなお盛りあがり続ける『マリオカート8 デラックス』の競技シーン。大規模な大会も予定されており、その勢いは衰えることはなさそうだ。もし興味を持ったのであれば、トッププレイヤーの配信や大会の動画を見にいったり、ラウンジに参加して切磋琢磨してみたりしてもいいだろう。




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