『ホロウナイト シルクソング』には、5年前に亡くなったファンが生み出したキャラが登場する。ファンの遺作は、『シルクソング』で生き続ける
『Hollow Knight: Silksong』では、ファンの作ったボスが登場する。その実装に至った経緯などが、今回改めて注目されている。

デベロッパーのTeam Cherryが9月4日にリリースした『Hollow Knight: Silksong』(以下、シルクソング)。本作に登場するあるボスは、実は5年前に亡くなったファンが作り上げたキャラクターとなっている。当時から公式よりその存在は明かされていたが、今回本作のリリースにともない、インフルエンサーや海外メディアに取り上げられたことをきっかけとして、実装された経緯などが改めて注目されている。Dexertoなどが報じている。なお本稿では『シルクソング』内のコンテンツに言及している箇所があるため、留意されたい。
『シルクソング』はアクション・アドベンチャーゲームだ。高い評価を得た『Hollow Knight』(以下、ホロウナイト)の続編で、前作にも登場したホーネットというキャラクターが主人公となっている。ホーネットは崩壊したムシの王国ファールームを舞台に、自身の過去にもまつわる謎を解き明かすべく冒険に赴く。ホーネットは縫い針のような剣やスキルを駆使して敵と戦う。また、絹糸で表現された体力回復システムや、道具のクラフト要素なども特徴だ。
本作は2019年に発表され、約6年を経て今年9月4日にとうとうリリース。『ホロウナイト』待望の続編であることや、アニメーションなどのクオリティの高さ、広大なマップを、道具を活用して探索するゲームプレイは評価されている一方で、難度を増した戦闘や操作、また簡体字中国語のローカライズのクオリティには指摘が寄せられた。現在難易度を緩和調整するパッチや、簡体字中国語ローカライズの改善に取り組んでいるという(関連記事1、関連記事2)。

本作には、「聖堂の守護者 セス」というボスが登場する。セスは「偉大なる門」のエレベーターがあった付近から「殻木の森」方面に向かうと出会える。強敵として立ちはだかる一方で、道中でも出会って話しかけることが可能。さらに「ノミ突き」などのミニゲームでは、記録保持者としてプレイヤーの記録更新に立ちはだかる。
そんなセスのデザインには、本作の発売を待たずしてこの世を去ったある少年が携わっていたことが改めて注目を浴びている。セスをデザインしたのはSeth Goldman氏。Seth氏は2020年、海外掲示板Redditの『ホロウナイト』サブレディットにて、ユーイング肉腫という、小児から若年成人の骨や軟部組織に発生する悪性腫瘍を患っていることを告白しつつ、「生きている間にTeam Cherryに会って話がしたい」という望みを伝えていた。
なおSeth氏は年齢を明かさなかったものの、当時高々17歳程度だったと思われる。というのも、Team Cherryと面会するという同氏の願いは、3歳から17歳の難病などを患った子どもたちの願いを叶える活動をおこなう慈善団体Marty Lyons Foundationの仲介で実現されたからだ。Seth氏はTeam Cherryからの承諾も得て、自身の名を冠したボスキャラクター「セス」をデザインした。この「セス」の存在については、2020年に『ホロウナイト』公式Discordサーバーに謎解きというかたちで公開され、話題となった(関連記事)。
しかしSeth氏は2020年、闘病の末、セスを遺し亡くなった。一方で『シルクソング』はその後も開発が続けられ、先述の通り今年9月4日にリリース。セスは本作にNPCとして実装され、強敵として存在感を放つことになったわけだ。本作クレジットでは、「エクストラ スペシャルサンクス」として、2158人のキックスターター支援者とは別に、Seth Goldman氏の名が記されている。
先述したとおりセスの存在については2020年当時から知られていたものの、発売後のこのタイミングでゲーム関連の話題を取り上げるインフルエンサー、Jake Lucky氏が言及したことをきっかけに、多くの反響が寄せられることになった。ゲーム開発者とファンの美しい関係として、約5年越しに、改めて話題となっているかたちだ。
今回のセスとSeth氏のように、闘病しているファンのコンテンツ、あるいはファン当人をゲーム内に登場させる事例はほかにも見られる。たとえば『アサシン クリード ヴァルハラ』では、『アサシン クリード』シリーズの大ファンであったユーザーがUbisoft Montrealに寄贈した絵がゲーム内に登場。最終的に合併症で亡くなったそのユーザーに関して、ゲーム内で手紙やサイドクエストが捧げられている(関連記事)。またBethesda Game Studiosが手がける『スターフィールド』では、肺癌の緩和ケアの末亡くなったファンを哀悼するメッセージがゲーム内に残されていた(関連記事)。
ゲームシリーズが長期化したり、長い間開発が続けられているタイトルでは、難病などが原因で新作の発売まで生きられないことを悟るファンもなかにはいる。そうしたファンに対して開発元が直接対応したり、ゲーム内で哀悼の意を示したりする例はしばしば見受けられる。今回のセスについても、そうしたファンが生み出したキャラクターがゲームの中で生き続けている事例として多くのユーザーの胸を打ち、広く話題となっているのだろう。
『Hollow Knight: Silksong』は、PC(Steam/Microsoft Store)/Nintendo Switch 2/Nintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One向けに配信中だ。Xbox/PC Game Pass向けにも提供されている。