『RPGツクール』『ウディタ』『Bakin』『SRPG Studio』開発者が集結した濃厚対談。「ゲームを作るのは難しい」、その思い込みを壊したい

国内のノーコードゲーム制作ツールの開発者の方々にお声がけをし、座談会を企画。その内容をお届けする。

誰しも一度は「自分だけのゲームを作ってみたい」と思い立ったことがあるのではないだろうか。そんな野望の実現を助け、日本のインディゲーム・フリーゲーム文化を支え続けてきたのが、国産のノーコードゲーム制作ツールの存在だ。

弊誌AUTOMATONでは、国内のノーコードゲーム制作ツールの開発者の方々にお声がけをし、座談会を企画した。国内には多くのツールが存在するが、ゲーム開発者をそっと支えるツールの、さらにその中の人同士が話をする場面というのはなかなかない。海外製のさまざまなツールも存在するなかで、彼らはいまどういう思いで開発をしているのだろうか。

今回お招きしたのは、『RPGツクール』シリーズに長年携わり、最新作『RPGツクールU2U』ではプロデューサーを務める一之瀬裕之氏。『RPGツクール』を祖とし、独自のフルコマンド方式を展開した『WOLF RPGエディター(ウディタ)』の開発者であるSmokingWOLF氏。3D表現と2D表現を融合させた『RPG Developer Bakin』チームリーダーの長井伸樹氏。SRPG特化の制作ツール『SRPG Studio』のサファイアソフト氏だ。座談会では、よもやま話を多数うかがうことができた。本稿ではその様子をお届けする。

――自己紹介と、ご自身が関わっているツールのご紹介をお願いいたします。

長井伸樹氏(以下、長井氏):
長井と申します。『RPG Developer Bakin』のチームリーダーとして、制作から宣伝やサポートメールまで、いろいろなことを担当しています。元々はゲーム業界でゲームを作っていたのですが、前の会社をやめてプラプラしていたところ、社長と飲みに行ったのがきっかけでスマイルブームに入りました。うちの会社では社是として「未来のクリエイターを作る」というものを掲げていまして、任天堂さんのコンシューマーハードで”SmileBASIC”という弊社独自に開発した言語でゲームプログラミングが楽しめる 『プチコン』シリーズだとか、『RPG Developer Bakin』の前身にあたる『SMILE GAME BUILDER』という3DRPG制作ツールみたいなものを作ってたんです。そこから、あれよあれよと『RPG Developer Bakin』のチームリーダーになりました。

『RPG Developer Bakin』

『RPG Developer Bakin』は2Dから2.5D、3Dまで、様々なグラフィック表現を使ったゲームを作れるゲーム制作ツールです。2022年の10月に早期アクセスをスタートして、昨年の8月に正式版をリリースしました。自社製のコアエンジンを使っていまして、ポストエフェクトをかけて綺麗なグラフィックを作ったり、ゲームUIを作れるレイアウトツールを備えていたり、皆さんがゲーム作りを楽しんでいただけるようなツールを目指して作っています。制作ツールを作られているみなさんとの座談会、私が以前からやりたい!といろいろなところでお話ししていたので実現していただけてとてもうれしいです。AUTOMATONさん、ありがとうございます!

――長井さんのご提案がきっかけで座談会を実現できました。皆さまにもお集まりいただき感謝いたします。それでは次は一之瀬さん、お願いします。

一之瀬裕之氏(以下、一之瀬氏):
Gotcha Gotcha Gamesの一之瀬です。『RPGツクールMV』から開発チームに参加して、最新作の『RPGツクールU2U』ではプロデューサーをしております。本日はよろしくお願いします。

『RPGツクール』シリーズは1992年に立ち上がったプロダクトで、最初の発売からはもう30年以上が経っています。『RPGツクールU2U』は、PC系の『RPGツクール』では初となる3Dを取り入れた制作ツールに挑戦しています。なかなか思い切ったことを考えたなと思っていて、いろんな方にご期待もいただいています。スクウェア・エニックスさんの「HD-2D」という素晴らしい作品群の影響はもちろんあるのですが、ツクール独自のUIやアセットの仕組みを生かしつつ、3Dの世界を広げたいというシンプルな発想のもとに鋭意開発中です。本日はよろしくお願いします。

『RPGツクールU2U』

SmokingWOLF氏:
SmokingWOLFと申します。『WOLF RPG Editor(ウディタ)』を開発しておりまして、自分でもそれで『片道勇者』などのゲームを作っております。自分はもともと熱心なツクラー(『RPGツクール』のユーザー)で、『ウディタ』は『RPGツクール』にかなり影響を受けているのですが、今回は一之瀬さんがいらっしゃっているのでとても緊張しております……(笑)

『ウディタ』は自作のデータベースと完全なコマンド方式でゲームを作れるフリーソフトです。プログラミングができない人からも「ゲームが作れた」というコメントをかなりいただいておりまして、理想はこのままフルコマンド式で突っ走るという考えでいます。とはいえ、スクリプトの導入に反抗したいわけではなくて、できればスクリプトなしでもやりたいことを実現したいという考えですね。

長井伸樹氏(以下、長井氏):
うちのプログラマーは『ウディタ』を見てよく驚いてます。「あれを全部フルコマンドでやってるからすごい、とんでもない労力だ」って言ってますよ。メンテナンスとかも含めて大変なはずですよって。

SmokingWOLF氏:
実は、フルコマンドだからこそ、逆に移植性は上がるかなと思っているんですよね。特定の言語に依存するよりも、コマンド式の方がむしろ後から最適化しやすいんじゃないかなと。起動時にちょっとコンパイルチックなことをして処理を高速化できるようにするとか、色々アイデアを取り入れています。そうすることで、後から始める人でも高速化にあやかれる、という感じです。

――SmokingWOLFさんはもともと『RPGツクール』でゲームを制作されてましたよね。自分でツールを自作するようになった理由はあったのでしょうか。

SmokingWOLF氏:
単純にもっと自分にとって使いやすいツールが欲しかったんですよね。『RPGツクール』は当時のノーコードコンストラクションツールとして最強を更新し続けていたと思うんですけど、RPG以外のものを作ろうとすると大変なんですよ。だから、どんなゲームでもゼロから作れる自由なデータベースと完全なコマンド方式を備えた、自分向けのゲームエディターを作りたいなと思って……。結果として、うちでやってる「ウディコン」というゲームコンテストの作品は半分くらいがRPG以外なので、目的はだいぶ達成できたと思います。

あとは、自分が作ったゲームを長く維持できるようにしたかったからという理由もあります。自作のエンジンを作っておけば、遠い未来で普及しているOSがWindowsじゃなくなっても、画像処理とか音声処理といったWindows専用処理の部分を差し替えれば他の環境でも動かせるようになるんです。『ウディタ』の開発を開始した2006年ぐらいはUnityもあまり一般的じゃなかったので、自分のゲームを長く残したいなら自作エンジンが最も安全という判断になったんです。

『ウディタ』

サファイアソフト氏:
サファイアソフトです。『SRPG Studio』は、シミュレーションRPG制作ツールです。2Dマップとターン制の概念があり、自分のターンと相手のターンを順番に動かしていく……そういった流れのゲームを作るのに特化していて、プログラミングやイラストの知識がない方でもSRPGを作れるようにしたツールとなります。

長井氏:
僕が見ている界隈の特徴なのかもしれないんですが、SRPG自体が結構盛り上がってきているのは感じていますね。今年リリースされた『SRPG Studio』製のタイトルだと、『ユートラント戦記』とか『ユレイシア英雄戦記』とか。

SmokingWOLF氏:
フリーゲーム界隈でも『SRPG Studio』製のゲームはかなり流れてくるのを見るので、すごい影響力をお持ちだなと思います。

サファイアソフト氏:
本当ですか。フリーゲームといったら御三方のツールのシェアが大きいかなと思ってたので、なんだか恐縮です。

――イチから作るとなると大変なジャンルかと思いますので、専門のエディターがあるとありがたいですよね。制作のきっかけなどはあったのでしょうか。

サファイアソフト氏:
私が開発を始める前の日本のIT業界では、スタートアップとかシリコンバレーとかGAFAMとか、そういった言葉が流行していた時代だったんです。そのなかで「なんで日本の会社はGAFAMのような大企業に並んでいないんだ」とよく言われてた時代で、世間的にも「自分たちで何か大きなWebサービスを作ってみようぜ」という空気が強かったんですね。私も結構それに共感していたところがあって、じゃあ自分に何ができるのかと考えた時に、自分はWeb系はほとんど知識がなかったんですが、Windowsのプログラミングの知識は多少あったんです。それで世界と戦うまではいかずとも自分で何かできないかなと思ったときに、たどり着いたのがSRPGを作るツールだったんです。

――そこでSRPGというジャンルを選んだ理由はなにかあるのでしょうか。

サファイアソフト氏:
『RPGツクール』をはじめとしたシェアの大きいツールが存在するのは知っていたんですが、SRPGに特化したツールが当時は目立つものがなかったので、これなら使ってもらえるだろうなというか、自分の中でニーズは割とあるんじゃないかなと思っていたので選んだという感じですね。

SmokingWOLF氏:
市場の空いているところを見て作られているのが、すごくプロフェッショナルな発想だと感じます。 昔、Windows 95の時代に『シミュレーションRPGツクール95』というのがあったんですが、SRPG専門の制作ツールってあれ以来ほとんど出ていなかったんですよね。なのでその枠を埋められたのは素晴らしい着眼点だなと。

サファイアソフト氏:
恐縮ですね。需要の枠を埋められていたら嬉しいです。

『SRPG Studio』

――『RPGツクール』への参画は『RPGツクールMV』からとのことでしたが、一之瀬さんご自身としても、開発歴はかなり長いですよね。

一之瀬氏:
僕が一番最初に関わったタイトルは、1995年にエニックスから発売された『ミスティックアーク』ですね。同時期に『RPGツクール SUPER DANTE』が発売されて衝撃を受けたことを覚えています。それからずっとゲーム開発に関わっていたのですが、スパイクに在籍していた頃にエンターブレインさんとのつながりから『RPGツクール』の担当を探しているという話をされたのが、シリーズに関わるきっかけでした。

ところで、『RPGツクール』というのは尾島陽児さんという天才プログラマーが多大な貢献をしたシリーズなのですが、逸話がたくさんありまして。『RPGツクールMV』の開発でもプロトタイプ版を2か月で組み上げてきて、「この人は本当に天才だ」と思ったことを覚えています。

長井氏:
尾島さんはうちのプログラマーも「めちゃくちゃすごい方」と尊敬してますね。

SmokingWOLF氏:
私も偉大な人だと思っております。発想が2世代ぐらい早いんですよね。

長井氏:
割り切りの仕方が素晴らしいですよね。「ここの作り込みはここまででいい」という見切りがすごいんだなと感じますね。

一之瀬氏:
長井さんが今おっしゃったことはすごく芯を食っていますね。ユーザーさんは、使い込むほどに「こんなことも実現したい」という思いが広がっていくと思うんです。 なので、プラスの要素だけではなくて、尾島さん自身がコントロールできるソースコードの量を考えて、どの部分で割り切りを持たせるかという判断が的確というか。そこが、『RPGツクール』を安定的に開発できてきたポイントなのかもしれないなと思っています。

遊ぶ人が増えると「作ってみたい」という人も増える

――皆様が携わっているツールはいずれも、プログラミングができない人でもゲーム制作ができるものですよね。そもそもの間口が広く設けられているのかなと思うのですが、クリエイター人口を広げていくにあたって考えていることはありますか?

長井氏:
うちは子供向けのゲーム制作ワークショップをしているんですが、親御さんたちと話すと「ゲームを作るのはすごい難しい」と思っている人が多いんですよね。ですが、よく話を聞いてみると、彼らが作るのが難しいと思っているゲームって、たくさん広告を流しているAAA級のゲームなことがほとんどなんです。だから「ゲームってこういうもの」という固定観念を壊したいなと思っています。「何がゲームか」なんて決まりは全くないんで。もっと自由に、もっと軽率にゲームって作りはじめちゃってくださいって伝えていきたいですよね。

皆さんのプロダクトをはじめ、制作ツールには最初から素材もある程度入ってますし、グラフィカルに動くものをすぐ作れるじゃないですか。オールインワンになっているので制作には入りやすいはずなんですよね。

――私たちみたいなメディアも、「ゲームを作るのって結構簡単だぞ」というのをどんどん伝えていくべきなのかもしれないですね。

長井氏:
ぜひ、お願いします!もちろんツール側ももっと作り方をわかりやすくしていく努力は必要だと思ってますけど、機能を盛り込むとどうしても難しくなりがちですよね。

一之瀬氏:
自由度を高めれば複雑なゲームが作れるようになりますが、そうすると今度はツール側が複雑になってしまうんですよね。「誰でも作れる」という発想を大事にしつつ、自由度と複雑さのバランスを取るのが一番難しいのかなと思っています。より高度な表現を実現する為に拡張プログラムであるプラグインを導入する方法もあります。ただ、JavaScriptで自分でプラグインを書くにはプログラミングの知識が必要なので、初心者にはハードルが高いですよね。

長井氏:
『ウディタ』みたいに全部コマンドで出来るのもいいですよね。

SmokingWOLF氏:
実際、利用者の方から「日本語で読めるので、初めて自分でゲームシステムを組めた」というコメントをいただいたことがありますね。ただ、うちとしてはフリーソフトということもあって、『ウディタ』自体のユーザーを増やすことはあんまり考えてないんですよ。一方で、遊び手の方は無限に拡散している時代なので、どこかに熱を集中させないといけないと考えていて、それがウディコンを開催している理由です。

今のフリーゲームは衰退しているように見えて、実は作品自体は昔より公開される速度が上がっているんです。市場が盛り下がっているわけじゃなくて、プレイヤーが散ってしまっている。だから短期間でも集める手段を設けるのは有効だと思います。ツクールさんがやっていらっしゃった「コンテストパーク」とかも、みんなで集まって集中して見る時は盛り上がるんですよね。アマチュアの作ったゲームに使う時間を、少なくてもいいから熱くさせる。そういうことが出来たら楽しいのかなと考えております。

長井氏:
遊ぶ人が増えると「作ってみたい」という人も増えますもんね。

SmokingWOLF氏:
そうですね。ウディコンを見た後に自分も作ってみたいという方が増えるので、一瞬盛り上がるだけでも使う人は増えてくれます。あと、将来的に『ウディタ』作品をブラウザで遊べるポータルサイトを作ろうかなと思っています。

一之瀬氏:
ウディコンって1人で運営されているんですか?

SmokingWOLF氏:
はい。毎年開催していますがほとんど自動化しているので、私がやる気が出ない年でも続けられるようにしています。長年続けていて、大事なのは低コストで続けられるようにすることだと思ったので……(笑) もちろん、私自身ウディコンはとても楽しませてもらっています。ですが、長年続けようと思ったら主催側が毎年がっつり審査していては続かないので、コストを下げるのが大事だと思っています。

――サファイアソフトさんはいかがでしょう。『SRPG Studio』はジャンルが限定された制作ツールですが、どういったアプローチをされていますか。

サファイアソフト氏:
『SRPG Studio』を使っていないけれど2DのSRPGを作っている人に振り向いてもらうにはどうすればいいか、というのはよく考えますね。「2DのSRPGならうちのツールがぴったりなはず」と思ったりするんですが、選ばれない理由を考えて、改善していく必要があるなと思っています。

今回のやり取りで「SRPGは盛り上がっている」と伺って嬉しかったんですが、開発側が何かを仕掛けたわけではなく、偶然そういう風になっただけだと考えています。なので、公式としても何かしらアクションを起こす必要があるのかなと思っています。仕掛けるタイミングが大事ですね。

DLsiteさんで売れているゲームって、『RPGツクール』か『ウディタ』で作られているんですよ。『SRPG Studio』はまだまだツールとして弱いところがあるなと実感しています。圧倒的な超ヒット作が誕生していないのは公式の力不足も大きいはずです。

長井氏:
僕らがやるべきなのは、いい作品を生み出せるようないい畑を作っておくことなんじゃないかなと思いますね。

SmokingWOLF氏:
『ウディタ』は18年かけて100万ダウンロードくらいはされています。この分母があるからこそ、作ってくださる方も増えてくるので、バラマキ度が高いフリーソフトは有利ですね。お金には困ってますが(笑)

『SRPG Studio』

インタビュー後編では、ユーザー製ゲームに驚かされた“あるある”話のほか、AIエージェントとRPG制作ツールの付き合い方についての内容をお届けする。

『RPGツクールU2U』:PC(Steam)
『RPG Developer Bakin』:PC(Steam)
『SRPG Studio』:PC(Steam/DLsite)
『WOLF RPGエディター』

[聞き手・執筆・編集:Aki Nogishi]

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