自分の推理、自分の“言葉”で因果律と彼女のあり方を変える。ジャンルを横断する衒学的ADV『Inverted Angel』を今こそ遊んでみよう

『Inverted Angel』はプレイヤーの推理をキーボードから自由に入力できるシステムとなっている。そのことにより、シナリオの結末だけでなく、プレイヤーからの「彼女の見え方も変わる」という体験を生み出している。

Steamでは日々数多くのゲームがリリースされている一方で、個人や少人数チームによる国産タイトルには大作の話題に隠れながらも、独創的なアイデアや強いこだわりを持つ作品が少なくない。本連載「見逃してない? 国産Steamタイトル発掘録」では、同人・インディーゲームを中心に、国産Steamタイトルを毎回1本ずつピックアップして魅力を伝えていきたい。

自分の言葉で推理するからこそ、物語の行方も変わっていく

連載第15回となる本稿では、クリエイターのSCIKA氏が手がけた推理アドベンチャーゲーム『Inverted Angel』を紹介。2024年7月にSteamでリリースされた本作は、突然アパートを訪ねてきた見知らぬ女性と、インターホン越しに会話をしながら彼女の正体を推理するアドベンチャーゲーム。女性は主人公の恋人を名乗るが、主人公には彼女の記憶がなく、初対面の相手としか思えない。だが彼女は主人公に関する詳細な背景を知っており、単なるストーカーと決めつけるには不可解な点が多い。なぜ彼女は自分を恋人だと言い張るのか、主人公が彼女の正体を確かめなければならない理由とは何なのか。プレイヤーは彼女との会話から手掛かりを集め、隠された真相へと迫っていく。

本作は「Kawaii Future Mystery」というジャンル名を掲げており、特徴はヒロインとの会話を楽しめるだけでなく、プレイヤー自身が考えた推理を直接入力することで物語が進行する点だ。提示された選択肢から正解を選ぶ一般的な推理アドベンチャーとは異なり、何を疑い、どのような可能性を考えたのかを、自分の言葉で表現することが求められるのだ。さらにプレイヤーの推理によって物語が分岐し、恋愛やSF、サスペンスなど多様なジャンルを横断しながら、彼女の正体をめぐる謎が展開していく。

推理の回答はキーボードから自由に入力でき、Embedding AIを利用したシステムによって、入力された文章の意味やニュアンスが判定される。決められた正解の文言を一字一句入力する必要はなく、プレイヤーが自分なりの表現で答えを導き出せる仕組みだ。選択肢を選ぶ形式では、制作者が用意した回答のなかから適切な答えを見つけることが中心になるが、本作ではプレイヤー自身が推理を組み立て、言葉として表現する過程までゲームプレイに組み込まれている。

物語の前半では、プレイヤーの推理に応じて因果律が分岐し異なる展開が形作られていく。後半では、各ルートで定まった真相を改めて推理することになるため、プレイヤーの思考がシナリオの進行自体に関わっている。こうした構造によって、周回プレイは単に同じ物語を繰り返し、見落とした情報を探すだけの作業にはならない。あるルートではスルーした情報を手掛かりに別の可能性を考え、異なる因果律をたどることで、彼女という存在の見え方まで変わっていく。

コミカルで衒学的な彼女との会話が、謎解きを楽しくする

女性は主人公の恋人を名乗りながら、ときにコミカルな受け答えを見せ、ときに難解な知識や理屈を持ち出す。会話は一筋縄ではいかず、話題が思いもよらない方向へ転がっていくこともある。彼女の発言をどこまで信じてよいのか、何かを隠しているのではないかと疑いながらも、次はどんな話を聞かせてくれるのか気になってしまうのだ。

彼女の正体を突き止めるという目的があるからこそ、何気ない会話も推理の手掛かりとして意味を持つ一方で、会話そのものが楽しいため、謎を解くことだけを目的にプレイしている感覚にはなりにくい。情報を集めるために彼女と話し、話を楽しむうちに新たな疑問が生まれ、疑問を解消しようと推理を重ねていく。キャラクターとの交流と謎解きが互いに結びついていることが、本作の大きな魅力となっている。

プレイヤーが彼女について知ろうとするほど、物語は異なる表情を見せていく。単にシナリオの結末を集めるだけでなく、自分の考え方によって彼女の見え方が変わるという体験は、自由入力システムとマルチエンディングを組み合わせた本作ならではのものだろう。謎を解き明かすことと、ひとりの人物を理解しようとすることが、同じ会話のなかで進んでいくのだ。

言葉にできることは、考えてることのほんのひとかけら

本作には「言葉にできることなんて、考えてることのほんのひとかけらなんだから」という印象的なセリフが存在する。ゲームライターとして活動する筆者にとっても、この言葉には強い実感を覚えた。ゲームを遊んでいる最中には、物語や登場人物についてさまざまな感情や考えが浮かんでくるが、いざ文章にまとめようとすると、頭のなかにあった感想をすべて言葉にすることはできず、文字という制限のなかで何を伝え、何を削るのかという取捨選択を迫られるからだ。

本連載「見逃してない? 国産Steamタイトル発掘録」も、そうした難しさを抱えながら、ゲームの魅力を伝える試みと言えよう。Steamには日々数多くのゲームが登場しており、筆者が知らないタイトルを取り上げることもできない。ひとつの作品を紹介する場合でも、レビューのようにプレイを通して感じたことや、システムの細かな工夫、物語から受け取った感情のすべてを記事に盛り込めるわけではない。それでも作品から何を感じ、なぜ面白いと思ったのかを言葉にしなければ、まだ知らない誰かに届けることは難しい。

『Inverted Angel』では、プレイヤーが自分の考えを言葉にすることで物語が分岐し、異なる真相へとつながっていく。頭のなかで推理を組み立てるだけでは物語は進まず、自分なりの答えを入力して初めて新たな展開が生まれる。その仕組みは、考えていることを言葉にする難しさと、それでも表現することで何かが変わる可能性を、ゲームプレイそのものに結びつけているように思う。言葉にできることが考えていることのほんのひとかけらだとしても、そのひとかけらを差し出さなければ、何かを伝えることはできない。『Inverted Angel』が描く言葉と推理の関係を通して、作品について考えたことを文章にする意味を改めて感じられた。楽しい推理アドベンチャーを求めていたり、表現することに何か思うことがあったりするユーザーに、今こそ遊んでほしい一作だ。

『Inverted Angel』は、PC(Steam)向けに配信中だ。

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