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ゲームフリーク社員と東大教授が「水表現を美しいまま軽くする新技術」発表。計算負荷だけごっそり削減、水シミュレーション高速化
ゲームフリークのプログラマーである成田史弥氏と東京大学大学院総合文化研究科教授の金井崇氏による、液体のシミュレーションに関する論文が発表された。

10月6日にシンガポールで開催された国際会議「Pacific Graphics 2026」にて、ゲームフリークのプログラマーである成田史弥氏と東京大学大学院総合文化研究科教授の金井崇氏による論文「Beyond Horizontal Refinement: Extending Quadtree Tall Cells with Adaptive Optical Layers」が発表された。本研究は、液体のシミュレーションにおいて、見た目の品質を維持しながら計算負荷を減らすことを目指すものとなっている。
まず背景として、CGの液体シミュレーションの分野では、「格子法」と「粒子法」、そしてそれらを組み合わせたハイブリッド型の手法などが用いられている。「FLIP(Fluid-Implicit-Particle)」や「APIC(Affine Particle-in-Cell)」などのハイブリッド型によって精細な液体表現が可能となってきた一方で、大規模かつ高解像度のシミュレーションでは、圧力計算などによる負荷が課題となっている。
そして今回の研究の出発点となっているのが、2006年に登場した「Tall Cell」だ。格子を構成する各区画はセルとも呼ばれるが、この手法では水面付近には細かな格子を維持しつつ、水の深い部分にTall Cell(縦長セル)を用いることで計算コストを減らすことができる。そして成田氏らはこれをベースに、その場所の複雑さに応じて水平方向の格子の細かさを変える「Quadtree Tall Cells」と呼ばれる手法を2025年に発表。さらに同氏は2026年に金井氏とともに、水面付近を細かく計算する層の厚さを、水の動きにあわせて変化させる「Adaptive Optical Layers」を発表していた。
ただしQuadtree Tall Cellsには、水面の広い範囲に細かな形状や高周波の振動が存在するケースで効率化の効果が下がるという弱点が存在。もう一方のAdaptive Optical Layersでも、層の厚さを決める評価関数の値が格子の解像度や空間の大きさに影響されやすいという弱点があった。
最新研究を合体させた新手法

これを踏まえ、本研究ではこれら2つの手法を統合し、それぞれの課題の解決を目指す「Extended Quadtree Tall Cells」と呼ばれる新たな手法を提案している。すなわち、Quadtree Tall Cellsの格子の上にAdaptive Optical Layersを実装する手法だ。加えて、層の厚みの急激な変化によって数値的な不安定さが生じるのを避けるため、縦長セルの高さ情報を表すハイトフィールドに対して、空間的な平滑化処理をおこなっている。
また、評価関数が解像度や空間の大きさに依存する問題に対しては、水底から水面まで縦方向に積分した評価値を、計算空間全体の高さで割って「正規化」する式を導入。そのほか、静止した物体の周囲を通常の細かな格子に戻すことなく縦長セルのまま物体の境界を扱えるように、圧力計算の仕組みを拡張している。
検証では、通常のベンチマークに加え、Quadtree Tall Cells単体では高速化に限界があったさまざまなシーンで比較をおこなっている。たとえば、多数の水滴によって広い範囲に細かな波が生じる雨のシーンでは、見た目を顕著に損なうことなく、計算時間を短縮しつつセル数を削減することに成功。ほかにも、水を注ぎ続けるシーンでは、均一な大きさのセルを使う従来手法だと、計算時間が水位の上昇とともに増える一方で、Quadtree Tall CellsとExtended Quadtree Tall Cellsはともに計算時間をほぼ一定に維持。そのうえで、Extended Quadtree Tall Cellsではさらに層の厚さを調整することで、追加の高速化を実現している。


一方で、柱や斜面を含むダムの決壊シーンなど、従来のQuadtree Tall Cellsでも十分に効率化できているために、追加の高速化幅が小さなケースもあった。Extended Quadtree Tall Cellsは、水面の広い範囲に細かな特徴が存在する場合に追加の高速化の効果が特に大きく、成田氏らは雨を含む3つのテストシーンで、Quadtree Tall Cellsと比べて圧力計算で約2.5倍~3.0倍、シミュレーション全体では約1.5倍の高速化を報告している。
ただし改善の余地も
ただし、論文中ではExtended Quadtree Tall Cellsの限界も紹介されている。水の動きが落ち着いた場面では、層の構築に伴う追加負荷は小さい一方で、計算時間は少し長くなるケースがあるという。また、注水するシーンで水が浅いときには、正規化した評価関数が必要な層の厚さを過小評価し、見た目にわずかな差が生じる場合があるという。その差は水位が上がった際には無視できる程度ではありつつ、正規化の方法には改善の余地があるとしている。ちなみに、セル数を削減する効果がある一方、今回の実装では最高解像度の格子もメモリ上に確保しており、メモリ消費は増えるそうだ。
液体のシミュレーションにおいて、水面の見た目の品質と処理速度の両立を目指す今回の研究。場面によって効果は異なるものの、一部のシーンでは高速化を実現できるようだ。成田氏らは今後の課題として、層を構築する際の追加の負荷の削減や、より複雑な液体と固体の相互作用への対応などを挙げている。

ところで、成田氏が所属するゲームフリークは『ポケットモンスター』シリーズの開発元としても知られる。同社が開発するシリーズ完全新作『ポケットモンスター ウインド・ウェーブ』は2027年に発売予定だ。同作では、広大な海をもつ新たな地方が舞台となることが明かされている。今回論文で紹介された技術との関連性は明言されていないものの、今後研究の成果がゲーム開発に直接活かされるのかもしれない。ゲームフリーク作品の水面を見る際には、背後にある技術を想像してみるのも面白いだろう。
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