現在発売中の日本語版『パスファインダー:キングメーカー ディフィニティブエディション』(以下『パスファインダー:キングメーカー』)。TRPG「パスファインダーRPG」の世界観やゲームシステムをビデオゲームへと落とし込むことで生まれた、「即興劇を演じるかのようなライブ感」が本作の大きな魅力である。また、フィールド探索や戦闘、ビルド構築、王国運営とさまざまな要素が組み合わさった100時間規模の大ボリュームを誇るファンタジーRPGでもある。
そこで弊誌では日本語版の発売を記念して、全3回に渡り、本作の見どころを紹介していく。本稿はその最後となる第3回。「ロールプレイ」をテーマに掲げ、その一例として筆者のプレイスタイルを紹介していく。
日本語版『パスファインダー:キングメーカー』はDMM GAMESより、PC(DMM GAME PLAYER)/PS4/Xbox One向けに販売中(公式サイト)。既に海外で発売されている『Pathfinder: Kingmaker』の日本語ローカライズ作品であり、DLC6つがすべて最初から同梱されている決定版である。本作のローカライズの監修を務めるのは、原作にあたるTRPG「パスファインダーRPG」のコアルールブックの翻訳を手掛けた「チームPRDJ」の代表である石川雄一郎氏。国内販売元であるDMM GAMESの発表によると、翻訳したワード数は150万を超えるという。
筆者のキャラクタークリエイト
自分が他人とは異なる存在であることを自覚したのは、一体いつだっただろう。額から延びる一対の角。真紅に光る瞳。幽鬼のような肌……ティーフリング。その昔、フィーンドと呼ばれる地獄の怪物たちと契約を交わした者やその子孫には、まるで悪魔のような特徴が肉体に現れたという。いない親のことなんて何も知らないけれど。「AMAGI」というこの名前だって、幼少期に売られた先でつけられたものを、成り行きで使っているというだけだ。
周囲の人間は私のことを平気で差別し、迫害した。正義と悪の線引きがままならぬ、標なきこの世の中、「コイツは生まれながらの悪であり、存在してはならぬ者である」と、偏見を押し付けたかったらしい。暴言や石を投げつけられるならばまだいい方で、顔を見られた途端に殴りかかられたり、ナイフで刺されそうになることは日常茶飯事だ。だからこそ我々ティーフリングは世の表舞台に現れることは少なく、裏社会で殺しと盗みに手を染め、独力で生きることを良しとする。私もまた「ローグ」として、信仰と力のみを縁とし、あらゆる存在を憎みながら陽の光に背を向けて生きてきた。
そんな私でも「人助け」だとか「善く生きる」ということに憧れを持たなかった訳ではない。「遂行者」として、神の刃として、世を脅かし、生と死の法則を犯す者すべてに正義と安息をもたらしてきた。だが気づいてしまった。どれだけこの手を赤く染めても、どれだけ目の前の罪を裁こうとも、世界そのものが変わらぬ限り、悪が――私のような存在が――絶たれることはないのだと。
人の財を奪ったその手で、正義を執行する。致命的な矛盾を抱えながら生きる日々。そんな時だった。アルドーリ卿から「招待状」が届いたのは……
以上が筆者のプレイヤーキャラクターに関する脳内設定である。私はキャラクタークリエイトが用意されているRPGを遊ぶ際は常々、こうしたバックグラウンドを頭の中でサクッと練り上げながら制作作業に挑むのだが、『パスファインダー:キングメーカー』の場合に限り、そうサクッとは練り上げることができなかった。単純に膨大な量の設定項目を用意している、という理由はもちろん、フレーバーテキストに関しても大変充実しているという点が大きい。たとえばキャラクターの育成方針となるクラスや種族に関しても「なぜそのようなクラスや種族が存在しているのか」という理由付けがしっかりとなされ、魔法には現象が発生する原理の説明が存在している。そういった莫大な情報をテキパキと組み合わせることができるわけもなく。結果として1時間超かかってしまった。
『パスファインダー:キングメーカー』におけるキャラクタークリエイトのシステムは、拘りたいプレイヤーは彼を題材に一本小説を書けるようなキャラクターを作ることができる。それでいて、攻略重視やなんとなくで決めた設定の組み合わせでも、はっきりとした実在感が現れるような仕様となっている。当然、クリーチャーにもステータスが存在する。辺りをうろつく大きなナメクジや狼にも身体能力や知性が明確なデータとして設定されているのである。彼らの能力と自らの能力を比較してみるというのも、ロールプレイングの一環として面白い。ちなみに筆者のプレイヤーキャラクターの能力に関して言及すると、ゲーム開始時点では知性がゴブリン以下しかなかった。
最終的に筆者のキャラクターは、高い敏捷性を活かし回避し続けることで味方の盾となる「回避盾」の性質と、ローグ系統のクラスが持つ二刀流のクリティカル攻撃を生かした方向に育っていく。一方で呪文をまったく使えないという弱点をあえて持たせているが、これが逆にパーティを吟味する楽しさにつながっている。前衛を主人公に任せ、遠隔攻撃の使い手を多く揃えるのも良いし、ドルイドを複数人用意し、ペットをたくさん引き連れた大所帯でストールンランドを練り歩くのも楽しい。敵の動きを呪文で縛り、「挟撃」の特殊能力で仲間と袋叩きにするのが筆者の十八番である。
パーティといえば、本作は物語の中で出会うNPCと共に冒険を繰り広げていくことになるが、物語が進むと追加でオリジナルキャラクターを制作し、傭兵という形でパーティメンバーに加えることが可能。雇用にはキャラクターのレベルに応じた資金が必要となる。やろうと思えば全員オリジナルメンバーで揃えることもできる。プレイヤーキャラクターの作り直しも可能だ。
筆者のロールプレイング
筆者の遊び方としては、なるべくプレイヤーキャラクターの属性である「混沌にして善」に沿って物語を進めている(属性に関しては王国運営編の記事を参照)。客観性に基づく規律や法の支配を重んじる「秩序」属性とは異なり、おのれ自身が法であり、個人の自由を尊重するという方向性(混沌)のもと、善行を積んでいる。闘争おおいに結構。ただし道理が伴わなければ死で持って安息を与える。たとえ裏切り者が出ようとも愉しませてくれるのならば許し、媚びへつらう者は首を跳ねる。そういうスタイルである。よって元敵のスパイだろうが腹に一物抱えていよう人物だろうがあえて要職に就かせ、不潔極まりないゴブリンたちを領地に住まわせる。彼らが巨人を首都に招き入れようが宗教的儀式を行おうがお構いなし。なぜなら面白いから。
具体的に内容を示すなら、たとえばプロローグ。本作の舞台「ストールンランド」の統治権をめぐり、現時点における支配者「牡鹿の王」の討伐競争が展開されるのだが、属性に基づいたプレイヤーの選択によって初期パーティのメンバーが一部異なってくる。筆者の場合は混沌と善属性に基づいた選択を行ったため、蛮族に次いで破滅主義の僧侶と、おしゃべり好きな自称吟遊詩人が仲間としてついてきた。類は友を呼ぶとはよく言ったものだが、イカれたメンツである。やがて物語が進めば、領主として、裏切り者を処断することもある。それが意気揚々と自分に挑んでくる者ならどれだけ付き合いが長かろうと喜んで戦うし、誠心誠意をかけて謝罪とけじめをしてくるのであれば、どれだけ領地を荒らそうが許した。私が領主となるきっかけをくれたアルドーリ卿には与せず、自国の利益を考え他勢力と手を組んだ。恩を仇で返すような真似をするのか?知ったことではない。
王国運営については上記の方針を反映して、ストールンランドをどんな種族でも笑顔になれる自由都市に変えるべく発展させている。風俗店やダンスホールなど、大量の娯楽施設を各コミュニティに設置し、首都は歓楽街にする予定だ。王国の存亡を左右する顧問に関しては流石に思考回路がまともな人材に任せている。中央広場には出店やサーカスのテントが並び、住民の活気あふれる声が昼夜を通して絶えることはない。
だが物事はうまく運ばず。BP……すなわち財源となる国庫はいつもカツカツで、たいていポケットマネーから費用を捻出することになった。民衆はたいてい各地で自由にやかましい騒動を起こしている。これは単純に筆者が運営型のシミュレーションが苦手ということに原因がある。言い換えれば、コミュニティ運営ゲームが苦手な人でもある程度金策ができれば強引に都市開発を進めることが可能であり、なおかつゲームオーバーになりにくいということでもある。
また王国の運営と冒険パートの割合、シナリオ進行に関して、筆者はだいたい冒険パートを優先的にプレイしている。これは王国運営におけるゲームオーバーのリスクに対して、冒険パートに設けられた時間制限の方が重いと判断しているからである。作品の中盤以降、怒涛の勢いで出現するクエストの山を筆者のプレイスキルで処理するにはどうしても大量の時間が必要なのだ。
以上が本作における筆者のプレイスタイルである。今後2周目を開始するなら、初回とは真逆である「秩序であり悪」の属性に基づき、天使のように微笑みながら独裁国家を築いてみたい。一度経験した分、コミュニティ運営もスムーズにいくだろう。主人公のビルドは信仰呪文の使い手にする予定だ。だがそれもまた、無数にある遊び方のひとつに過ぎない。『パスファインダー:キングメーカー』は明確な脚本こそ用意されてはいるものの、それをどう解釈し演じるかは役者であるプレイヤーに委ねられている部分が非常に大きい。主人公の軌跡とストールンランドの変遷を後に振り返ったとき、それがどのような叙事詩として語り継がれるのかはあなた次第だ。
戦略が非常に重要な「戦闘とフィールド探索」。緻密なスケジューリングが鍵となる「王国運営シミュレーション」。そして十人十色の可能性を秘めた「ロールプレイング要素」。全3回にわたり作品の魅力を伝えてきた当連載はこれにて終了となる。本稿のみならず過去の記事を読んで、琴線に触れるものがあった方はぜひ、購入を検討していただきたい。きっと、その直感は正しい。
日本語版『パスファインダー:キングメーカー』は、PC(DMM GAME PLAYER)/PlayStation 4/Xbox One向けに販売中だ(公式サイト)。
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