AUTOMATONライター陣が選ぶ「ゲーム・オブ・ザ・イヤー 2019」

AUTOMATONライター陣にとっての個人的な「ゲーム・オブ・ザ・イヤー 2019」を発表。2019年に発売されたゲームの中から、各ライターのゲーミングライフにおいて特別な位置をしめた作品たちだ。AUTOMATON年末企画第4弾。

今年2019年を振り返る、AUTOMATONの年末企画第4弾。これまで、一番やりこんだ作品ベスト短編アイデア賞と企画を分けて掲載してきた。そして本稿では、1年の総括としてライター各自の個人的な「ゲーム・オブ・ザ・イヤー 2019」を発表する。2019年に発売されたタイトルのうち、各ライターのゲーミングライフにおいて特別な位置を占めた作品だ。

 

『リングフィット アドベンチャー』

――「健康」という崇高なミッション

開発: 任天堂 販売: 任天堂
発売日: 10月18日
対応機種: Nintendo Switch

2014年1月30日。任天堂経営方針説明会にて、岩田聡社長(当時)は「娯楽の定義拡大」のため、「人々のQOL(Quality of Life)の向上」を目標に掲げた。その際、QOL向上の第一ステップとされたテーマが「健康」だった。周知のように、その翌年に岩田氏は胆管腫瘍のため急逝。岩田氏が掲げた目標は、あとに残された任天堂に引き継がれることになる。

今年、任天堂は『リングフィット アドベンチャー』を発売した。まさに6年前に語られたテーマに即したゲームといっていいだろう。岩田氏が語った「娯楽の定義拡大」とは、平たくいえば「なんでも娯楽にしてしまおう」ということだろう。本作の優れた点もまた、あくまで娯楽であることだ。「もう少しだけ先へ進めて、きりの良いところでセーブしよう」「ボス戦までは何があろうとクリアしよう」「新しいフィットスキルを解除しよう」というゲーマー特有の心理を巧みに利用し、少しでも余計に運動したくなるようにデザインされている。レベルが次々に上がるのも楽しい。スクワット回数など、世界ランキングで自分の位置がわかるのも、いかにもゲーム的だ。ご褒美をたくさん与え、プレイヤーを飽きさせず夢中にさせていく術に関して、ビデオゲームには長年の蓄積がある。ビデオゲームの老舗である任天堂は、その術を作中で遺憾なく発揮し、単調な運動を娯楽に変えている。

前述した説明会では、岩田氏がWiiやニンテンドーDSを通じて「ゲームの定義の拡大」や「ゲーム人口の拡大」に取り組んできたことも語られているが、その精神は『リングフィット アドベンチャー』にも受け継がれている。前述したように本作は「人を健康にする」という目標を達成するために、ゲームの技術を注ぎ込んでいるが、その一方でノンゲーマーにも広く門戸を開いている。私にも覚えがあるが、ノンゲーマーには「ルール説明が理解できずにチュートリアルで挫折」という事態が起こりがちだ。そこで本作では、序盤では体を動かすことやリングコンの使い方だけにプレイヤーを集中させている。ゲームのルール説明は極めて緩やかだ。プレイ中に少しずつゲーム要素を追加し、プレイヤーを夢中にさせていくのだが、その過程が実に巧みなのだ。

日本ゲーム大賞2019において桜井政博氏は『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』について「故岩田社長が私に投げた最後のミッションだった」と語ったが、『リングフィット アドベンチャー』もまた、岩田氏が任天堂に残したミッションのひとつと言えるだろう。私事ではあるが、私自身7年前に半身麻痺となりいまも後遺症によって2級の障害が残る身でもある。月並みだが、健康のありがたさは失ってはじめてわかるのだと日々痛感している。健康なくして、ゲームも人生も楽しむことはできない。「人を健康にする」という任天堂の偉大なミッションに、心から敬意を表したい。

By. Masahiro Yonehara

 

『テトリス99』

――超定番パズルゲームの楽しさを再認識

開発:任天堂/アリカ 販売:任天堂
発売日: 2月14日
機種:Nintendo Switch

失礼な言い方かもしれないが、2019年になってこんなにたくさん『テトリス』をプレイすることになるとは思いもしなかった。振り返ってみると、キーホルダー型の『テトリス』もどきが流行っていた頃以来だろうか。その前後にもさまざまな『テトリス』作品をプレイしてきたものの、コンスタントにプレイし続けているのは『テトリス99』が初めてだ。

『テトリス99』は、対戦型『テトリス』に昨今人気のバトルロイヤル要素を取り入れた作品である。自分を含め99人のプレイヤーが同時に対戦をおこない、テトリミノを積みラインを消して攻撃し、最後のひとり「テト1」になることを目指す。特定のプレイヤーを狙って攻撃することもできるし、4つある戦略に基づきオートで攻撃対象を選択することも可能。誰かを倒すとKOバッジを獲得し攻撃力がアップするが、KOバッジを多く持つと狙われるリスクが高まるなど、テト1を獲るためには『テトリス』のスキルはもちろんだが戦略も大事である。

99人分のフィールドが、画面内でリアルタイムに描画される様子はいつ見ても壮観。そして、プレイを重ねるにつれ努力が順位に反映されやりがいがある。特に残り10人くらいになってからの展開は非常にスリリングで、その中でテト1を獲得した時の嬉しさは格別だ。バトルロイヤルと言いながらも殺伐さとは無縁で、しかし対戦ゲームとしての面白さの一面をしっかり感じられる。大規模オンラインゲームが、これといったトラブルもなく運営されている点も素晴らしい。

本作は、いまでこそさまざまなゲームモードが存在するが、当初はオンラインでの99人対戦のみというシンプルな内容だった。ローンチ時のゲームモードを限定していたことは、この新しい『テトリス』を知ってもらう上で効果的だったように思う。一方で、チュートリアルすら無く、Tスピンなど対戦におけるテクニックは自分で調べるしかない点はやや不親切にも感じられた。とはいえ、説明がないことでコミュニティではプレイヤー同士の情報交換が見られ、本作の盛り上がりに一役買っていたのかもしれない。

いつプレイしてもすぐにマッチングする快適さも本作の魅力。それはプレイヤーが多いことを意味するが、毎月実施されるイベントやアップデートによるコンテンツの追加など、運営側の努力の成果だと言えるだろう。筆者はというと、対戦で手応えを感じてからはマラソンモードにも挑戦するようになり、純粋に『テトリス』を楽しむことも多くなった。『テトリス99』は2019年、『テトリス』の楽しさを再認識させてくれた。

By. Taijiro Yamanaka

 

『Baba is You』

ーーひたすらに驚きと感心の連続である

開発:Hempuli Oy 販売元:Hempuli Oy
発売日:3月13日
機種:PC/Nintendo Switch

2019年のGOTYは間違いなく『Baba is You』だ。パズルゲームを追ってきて長いが、これほどまでの作品には出会ったことがない。ただ、本作の独創的なアイデアやゲームプレイについては、さまざまなメディアやライターが既に語り尽くしてきたのではないかと思う。そこで今回はゲームそのものの説明を省き、あえて少し異なるアプローチを取りたい。この文章を捧げる相手は、本作を購入したものの途中で止まっているプレイヤー達だ。

最初に伝えたいのは、『Baba is You』は間違いなく最後までプレイする価値があるゲームだということだ。本作では新しいワールドに辿り着くごとに新しい単語ブロックが提示され、新鮮な驚きが提供される。こういったパズルゲームでは大抵、終盤の面では新しいギミックではなく今まで登場したギミックが全て組み合わさった応用面が大量に登場する。本作においてもその側面は確かにあるが、それだけでは終わらない。もはや何を言ってもネタバレになりかねないのだが、序盤中盤をさらに上回る驚きが終盤にも用意されていることだけは約束する。「文章を動かしてルールを作りパズルをクリアする」というベースアイデアを、本作は隅々までしゃぶり尽くしているし、コンプリートする達成感以上の、シンプルな「体験」としての凄まじさがこのゲームにはある。

しかし、『Baba is You』の難易度は高い。特に閃きを要求するステージが多く、ガチャガチャしているだけでは進まないことが多い。ゲーム画面と何十分何時間もにらめっこをして、新しい着想を得ようとする時間は疲れるものだ。そしてゲームというのは1回離れると「自分がやめた時に何を考えて何をしていたか」の記憶が曖昧になっていき、再開しづらくなるのだ。この定番パターンで本作を途中で積んでいるプレイヤーは非常に多いのではないかと思う。

長年パズルゲームをやってきた自分が、こういった難易度が高い閃き系のパズルゲームでしんどくなってしまわないための、ちょっとした個人的な工夫を共有したいと思う。難しい話ではなく、シンプルに「一気に解こうとしない」のだ。考えてもわからない時は他の面に行ったり他のゲームをしていい。ゲームをつけっぱなしにしてちょっとした作業の合間に考えたり、ステージのスクリーンショットをスマホに保存しておいて電車の中やベッドの中で考えてみたり、今までの思考・発想を忘れない程度に時間を空けて小刻みに考えるのをオススメする。あまり根を詰めず、軽く考えるのを生活の一部として組み込むと、さほど苦にもならないし、意外と新しい発想が降りてくるものだ。気合を入れてゲーム画面と長時間向き合わないと進まないと思っていると、モチベーションも落ちやすい。

繰り返すようだが『Baba is You』は間違いなく完走する価値のあるゲームだ。本稿が、このゲームを途中で止めている人が再開するきっかけになることを願っている。

By. Mizuki Kashiwagi

 

『Dreams Universe』(アーリーアクセス版)

――見てよし、遊んでよし、作ってよし

開発: Media Molecule 販売: ソニー・インタラクティブエンタテインメント
発売日: 4月22日
対応機種: PlayStation 4

まだ正式版が発売されていないゲームを選んでよいものかと迷ったが、個人的GOTYということでご容赦願いたい。『Dreams Universe』は、4月22日にアーリーアクセス版が発売されたクリエイションゲームだ(現在は販売終了。正式版が2020年2月14日発売予定)。用意されたプリセットや素材を利用して自分だけのオリジナルゲームを作ることができる、いわゆるツクール系に該当するゲームである。自分で好きなゲームを作って楽しめるのはもちろんだが、それにプラスして他のプレイヤーとの繋がりやすさが整備されているところに、このゲームの魅力を強く感じた。

他のプレイヤーとゆるく繋がれる。それが他のツクール系ゲームにはない『Dreams Universe』の最大の魅力だと思う。オンラインに繋がっていれば他のプレイヤーが作ったコンテンツをゲームの中から簡単に見に行くことができる。新着順やユーザー名でたどって見に行くこともできるが、「オートサーフ」という機能を使えばランダムに選ばれたコンテンツが次々と表示される。たとえばショートムービーに限定してオートサーフを使えば、他人が作ったショートムービーが延々と流れ、だらだらとそれを鑑賞し続けるなんてことも可能なわけだ。

ほかにも「コレクション」の存在がありがたい。『Dreams Universe』内で作ることができるコンテンツは、ゲーム、オーディオ、ビジュアル、キャラクター、ミュージックなど多岐にわたるが、その中にコレクションというものも存在する。自作したゲームや他人が作ったムービーなんかを並べて置いておくことができ、そしてこのコレクションもコンテンツとして公開することが可能なのだ。中には自分でゲームを作ることそっちのけで、人の作ったゲームばかりをまとめている人もいるし、笑えるムービーだけのコレクションを作っている人もいる。こういった仕様のおかげで、ゲームを作って楽しむだけでなく、それを公開する喜びや公開されたものをプレイする面白さも充実しているのだ。

人の作ったコンテンツをみんなで楽しむ環境が整っているため、そこにはおのずと流行が発生する。誰かが面白いものを作ればすぐにそれが拡散され、大量の「いいね!」を獲得し、模倣され、そして新たなコンテンツの誕生に繋がっていく。過去に弊誌で紹介した再現系のコンテンツもその一つである。一つのネットミームが誕生しそれが拡散され伝播していく様子を見るのは実にエキサイティングな体験だ。

昨今のSNSで見られるような現象をゲームを通して味わうことができる。実に現代的な印象を与えてくれるタイトルだった。

By. Yoshinori Sato

 

『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』

――後世に語られるべき最上大業物

開発:フロム・ソフトウェア/Activision 販売:フロム・ソフトウェア/Activision
発売日:3月22日
対応機種:PC/PlayStation 4/Xbox One

弊誌レビューはこちら

群雄割拠という言葉が似合う2019年度において、リリースされてから今の今まで、そしてこれからも永遠に、切れ味を失うことは無いであろう業物『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』。その一振りはアクションゲームにおける戦闘の概念を変え、死にゲーでもって生の充足をもたらすことに成功している。

本作のオリジナルシステムである「体幹」と「弾き」の存在は、攻撃と防御の垣根を溶かし、ある数値を、異なる数値を用い削り合う戦いではなく、剣戟を通して命を摘む手を払い除け合う「死合い」を画面の中に再現する。プレイヤーが持つ技量に最大限依存しつつ、決して一方的に突き放すことのないバトルデザインは、度重なる戦闘=生を掴み取るための度重なる選択を通じ、プレイヤー自身に“その場限りではない”経験値が蓄積されるよう設計されている。強敵を屠れば屠るほどに自身の技は冴え渡り、やがては更なる強敵を渇望する「修羅」を私達の身に宿すことだろう。まとう数々のシステムはあくまで武具でしか無く、隻腕の忍の身体を借りた「わたし」こそが主役なのだとプレイヤーに印象づけることで、文字通り死闘を乗り越えた私達に「生の充足」をもたらすのだ。

そして生の充足というテーマはナラティブにおいても一貫している。人へ還ろうとする狼と御子、人の身を脱しようと試みる葦名の人間達という対比をはじめ、ゲームの進行と共に日暮れ滅び往く背景と、散ることを知らぬ桜、甘美な輝きを放つ「栄枯盛衰」とグロテスクな「永遠」のコントラストは、死があってこその生であり、終わりがあるからこそ、人は事を成し遂げることが出来るのだと、言葉に束縛させることなく直感的に意図を表現する。しかしこのことは物語のディティールを疎かにしているというわけではない。ドラマティックな本筋と、コミカルなトラジェディという矛盾した印象を孕んだサブクエスト群。両者ともに多くは語られないが、あえて語らないことにより、キャラクターに対する心情理解や世界観に対する興味関心を促している。安易な内容補完を任せるものではない。

表現媒体としてシステムやナラティブ、作品の全身、隅々まで行き渡ったテーマ性。時代の先を征くゲーム体験を提供する革新性。今後戦闘アクションに関しては「SEKIROリリース前/リリース後」という言葉が作られるかもしれない程に、『SEKIRO』がもたらすアクション体験は新鮮で素晴らしいものだった。それでいて可能な限り遊び手を突き放すことをしない懐の深さを両立している。『SEKIRO』は間違いなく、私にとっての2019年度Game of the Yearである。

By. Takayuki Sawahata

 

『Metro Exodus』

――荒廃した世界の、幸福な人間関係も描く

開発:4A Games  販売:Deep Silver
発売日:2月15日
対応機種:PC/PlayStation 4/Xbox One

クリアするのがもったいない。『Metro Exodus』はなるべく全ての会話を聞き、全てのロケーションを攻略しようと遊んでいた。本作は『Metro 2033』『Metro: Last Light』の続編。前2作は核戦争後のモスクワの地下鉄を舞台としたFPSだったが、今作はメトロから脱出。地下鉄の社会から半ば追放されるように東へ向かって機関車で旅をする。核戦争後のロシア各地を旅するだけでも楽しいが、魅力的なキャラクターたちと膨大なセリフが本作を特別なものにしていると感じた。

核戦争後の世界はさぞ人の心も荒んでいるかと思いきや、本作は同時に幸福な人間関係も描く。主人公アルチョムが何か仕事をこなすたび、彼の苦労を仲間がねぎらってくれる。メトロの外の世界は本当にひどいが、機関車に戻れば信頼できる仲間、妻のアンナ、気難しいが尊敬する義父ミラー大佐がいる。彼らとウォッカで乾杯し、煙草をふかして過ごす。ギターを弾いてもらうのもいい。これ以上理想的な人生はない。どこかで人間関係が破局する伏線なのかと不安だったが、そのままブレることなくエンディングまで駆け抜けていった。リアルな人間関係とは違うけど、世界がこうあって欲しいという作り手の祈りを感じる、かも……。

本作ならではの新しい試みとして、一部のステージが準オープンワールドになった。これは全体のうち2つのマップだけだが印象的だった。冬の湿地帯と夏のカスピ海がオープンワールドとして美麗なグラフィックで登場する。ストーリーの導線に従って進んでいけば、めぼしいロケーションは大体回れる仕掛けになっていた。端から端まで歩いて数分程度の広さだが、むしろ無駄のなさに感心させられる。マップ内の各ロケーションはほぼ必ずNPCやイベントが用意され、マップが拡大しても物語の密度が損なわれていない。

もちろん本作は基本的にボンクラなFPS。アルチョム一行が味方の基地があると聞いて無線で連絡をとると、明らかに怪しい声の人物が「お待ちしてますよ、ケケケッ」みたいなことを言う。目的地に到着すると、案の定な展開が待っていて嬉しい。シリーズおなじみのガジェットも健在で、回転式マガジンのショットガンのシャンブラーや空気銃のティハールなど、オリジナル武器も世界の没入感を高めてくれた。FPSとしては相変わらずおおらかな部分も多いけれど、筆者にとっては愛おしいゲームである。

By. Kaisei Hanyu

 

『Call of Duty: Modern Warfare』

――不都合な真実

開発:Infinity Ward 販売:Activision
発売日:10月25日
対応機種: PC/PlayStation 4/Xbox One

今も、世界のどこかで紛争が起きているのだろうか。今も、正義のもとに大切な命が犠牲になっているのだろうか。『Call of Duty: Modern Warfare』におけるキャンペーンモードは、戦争と命について考えるきっかけとなった。圧倒的な表現力、残酷な描写、そして復讐の物語。その全てが生々しい。本作は、戦争の暗部に触れている。これまでヒロイックに描かれてきた“戦争ゲーム”とは一線を画す内容だ。無差別テロ、冷酷な尋問、子どもの死。ともすれば、プレイヤーへ強い不快感を与える描写が次から次へと押し寄せる。私は、目を逸らすなと自分に言い聞かせつつ、物語を進めていった。

なぜ心を痛くしながらも、キャンペーンを進めたのか。答えはひとつ、本作のストーリーが決して単なるフィクションに思えなかったからだ。代理戦争が勃発するウルジクスタン。テロリストの脅威。衝突する大国。巻き込まれる住民たち。全て創作物として表現されているが、これらは極めて写実的であり、現実世界における不都合な真実の数々と本質的に似ている。たとえば、プライス大尉をはじめとしたキャラクターたちは皆、信念を持っている。ファラも、カイルも、アレックスも兵士である前にひとりの人間だ。しかし、戦場で信念を貫くためには多大なる犠牲が伴う。時に一切の躊躇や情けを捨てなければならない。人間の掲げる正義は、必ず誰かにとっての凶器と化すのだ。

なかでも特に印象的だったのは、カイルによる尋問のシーンだ。尋問の相手は、悪逆非道かつ、国家安全の脅威となり得る存在。捕まえたからには、どんな手段を用いてでも口を割らせてやろう。と思っていた矢先、“自白剤”として敵の妻と子どもを人質に取ることが発覚する。必死に許してくれと懇願するブッチャー。怯える女性と幼き子。向けられる銃口。その時、途端にゲームを操作する手が鈍くなったことを覚えている。同じくカイルも動揺していたことも。そう、敵はあくまで“味方にとっての敵”。ブッチャーの視点から見ると、カイルやプライス大尉もまた悪逆非道な存在だということを、身をもって知らされた。

そして極めつけはプライス大尉の言葉、「皆まともじゃない」。度重なる紛争のなかで、正義の脆さのようなものが浮き彫りになった際に言い放たれた一言だ。絶対的な正しさなど決して無いという事実を突き付けられたと同時に、戦争におけるモラルの混濁具合を知らされた。そして考える。我々が生きる世界においても同じことが言えると。高いエンターテインメント性を帯びつつも、戦争の真に迫った物語は私の心を強く突き動かした。従って2019個人的GOTYに『Call of Duty: Modern Warfare』を挙げさせて頂く。

By. Nobuya Sato

 

『Disco Elysium』

 ――洗練された文章から放たれる風刺とユーモアの嵐

開発:ZA/UM 販売:ZA/UM
発売日:10月16日
対応機種:PC(英語のみ)

*物語やゲームシステムについては紹介記事記載

エストニアのアーティスト集団が制作した『Disco Elysium』は、The Game Awards 2019にて最多受賞作品となり、TIME誌が選ぶ「2010年代のベストビデオゲーム10選」のひとつに選ばれたりと、ゲーム史に名を残す作品として認識されつつある。昔ながらのテーブルトークRPGのフォーマットに寄り添いながらも、CRPGとしてジャンルの境界線を押し広げる新奇性を備えた作品。そう聞くと、高尚で咀嚼しにくいゲームという印象を受けるかもしれない。たしかに政治的・実存的なテーマを扱ってはいる。だが『Disco Elysium』は何よりもまず「笑える」ゲームである。40時間テキストを読みながら、何度噴きそうになったことか。 

予想の斜め上をいく狂言や、不謹慎極まりない言動を選択肢として提示し、その冗談のような言動から真面目に言葉の応酬を続けていくことで生まれる風刺と笑い。主人公の中年刑事は記憶喪失で混乱しているため、突拍子もないことを言ってもキャラが崩壊しないという、設定上の便宜も作用している。思想的にちぐはぐな回答を選んでいると、矛盾したイデオロギーが芽生え、中年刑事の迷走劇に拍車が掛かるというのも笑みを誘う。生粋のフェミニストだったはずが、いつしか男尊女卑のファシストになっていたり。記憶と同時に知識も薄れているせいか、思想的にペラッペラな発言を自信たっぷりに繰り出してしまうことも多々ある。その発言に相手が静かに引いていく様子も滑稽。

本作のダイアログは、「対人」だけでなく「対自分」との会話が占める割合も大きい。ロジックや共感力といった24種類のスキルが頭の中の声/人格となり、「ああしろこうしろ」と終始議論を繰り広げる“思考シミュレーション”じみた会話システムは、ロールプレイだけでなくユーモアの幅を広げる上でも存分に活用されている。ロジックの声はああいうが、直感はこうしろと語りかけてくるといった、脳内コンフリクトを絡めたロールプレイとユーモア。またキャラクターや世界観を補強する油彩画タッチのアートワークも上質であり、洗練された視覚表現と文章から放たれる風刺と笑いの嵐というギャップを生み出すことにも貢献している。そしてそれらを軸としつつ、過去にとらわれた人・町・世界が静かに絡んでいく物語は、「記憶喪失の中年刑事が殺人事件の捜査にあたる」という簡素な売り出し文句を軽く超越していく。なお些細な点かもしれないが、スキルチェック/ダイスロールの成否を問わず、プレイヤーの興味を惹く展開になるよう工夫されているため、「成功するまでセーブ&ロードを繰り返す」という行為に走る気にもなりにくい。

今年もたくさんのゲームをプレイしてきたが、革新性だけでなく笑いとしても強烈なインパクトを残していった『Disco Elysium』は、2019年もっとも刺激的な作品であり、個人的なGOTYとしては他に考えられない。

By. Ryuki Ishii

 

『グノーシア』

――ゲームプレイをストーリーで紡ぎ合わせ、大きな画を描ききった

開発:プチデポット 販売元:メビウス
発売日:6月20日
対応機種:PlayStation Vita

かの名作『レイジングループ』が人狼とループを巧みな筆致によって物語へ落とし込んだ作品だとするなら、『グノーシア』は同じ題材をゲームシステムを通じて描いたSF人狼ADVだ。人の代わりに14人のキャラクターたちを、コミュニケーションの代わりにスキルを、定石の代わりにステータスとレベルを。アナログゲーム「人狼」の持っている要素をシステムへと置き換え、練り上げられた人狼シミュレーターを物語によって包み込むことで、『グノーシア』は1本の傑作へと昇華されている。

閉じられた宇宙で発生する殺人事件。唐突に、けれど確かな理由を持って始まるループ。ループの中では、システムによって淡々と人狼事件が進行し、殺戮が繰り返されていく。人狼シミュレーターとしての『グノーシア』は、人狼をカジュアルかつ一人用の作品に仕立て、いつでも気兼ねなく遊べるゲームにしたもの。スキルとステータスに左右されるため、奥深さやプレイングの自由度において物足りない側面もあるが、それでも本作には人狼の醍醐味やエッセンスが詰まっており、シミューレーターとしても一定の面白さを備えている。

しかし、どんなものにも終わりはある。『グノーシア』がどれほど優れた人狼シミュレーターであろうと、このループの中には15人の登場人物しかいない。最初は新鮮だった体験も、ループものの主人公が体験するように、繰り返していけば急速に色は失われていく。そこでモチベーションとなるのが、高い発言力で場をかき乱す夕里子や、極めて論理的なのにまるで信用されないラキオ、ステレオタイプな宇宙人風の外見とは裏腹に純朴なしげみち、本作のヒロイン・セツを含めた対戦相手である14人のキャラクターたちと、彼らが紡ぎ出す物語である。惨劇の渦中、配役が代わり展開が変われば、彼らは万華鏡の如く新たな側面を覗かせる。ループの袋小路に陥りそうになる前に、新たな展開が発生していく。そして、それすら見飽きた頃には、エンディングが待っていた。

人狼とループをテーマにした作品として走り出し、シミューレーターとしての枠を越え、どこまでも走り抜けた本作に掛けられた情熱と執念。どうして■■■■■は■っていたのか、バグとは何なのか、何故ループは発生するのか。人狼シミュレーターとしての仕組みや、プレイヤーの体験すら取り込み、プレイヤーに世界を回させ、宇宙船の中へと引き込んでいく物語。対応プラットフォームがPS Vitaしかないという欠点を抱えつつも、執念じみた作り込みによって支えられた『グノーシア』こそ、筆者の2019年を代表するゲームだった。

By. Keiichi Yokoyama

 

『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』(PS4)

――声優をそのままにアニメ化希望

開発:シルキーズプラス/Liar-Soft 販売:ヒューネックス(dramatic create)
発売日:2月28日
対応機種:PlayStation 4

もし「ドラえもん」や「名探偵コナン」のような少年漫画の世界で殺人事件が起きたらどうなるだろう。いや、もちろん「名探偵コナン」では殺人事件は起きているが、主人公とレギュラーメンバーが殺されることはないし、その中に犯人がいることもない。何か大事件が起きたとしても、硬く友情が結ばれた仲間たちと共に困難を乗り越えていく、これが少年漫画が面白さだ。

PS4で発売した『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』はそういったある種の少年漫画の構造を逆手に取った学園推理ミステリーもののビジュアルノベルだ。主人公は他人の心が読める能力を持つ高校生。その超能力ゆえ、他人と距離を置いてきたが、学園の教育方針によって同級生7人と行動を共にすることとなる。体育会系の男子、無口の少女、クラスのアイドル的存在など、この7人が少年漫画でいうレギュラーメンバーだ。

声優陣の演技により活き活きと描写されるメンバーたちと交流し、お互いの心が開いてきたつかの間、仲間内のある少女が自殺してしまう。そして近くに仲間たちしかいない現場では「私が殺した」という心の声を主人公は察知する。どうやらこの親しいメンバーの中に犯人がいるのだ。心の声だけでは個人を特定できないので、主人公は後から仲間たちを尋問しつつ、心の声を聞いてみる。だが、不思議なことに殺人犯は見当たらない。この矛盾はどういうことなのか?

物語は1話完結型で、主人公は超能力を隠しつつ「受信探偵」として、「名探偵コナン」のように仲間たちと新たに発生する殺人事件に挑み続ける。だが肝心の冒頭の少女の事件は未解決のままだ。仲間たちとさまざまな事件を解決して共に苦楽を分かち合いつつも、この中に殺人犯がいるという主人公の疑念は、つねに不穏な空気がつきまとう。

本作はもともと2016年にPC用18禁ゲームとして発売したものを、PS4に移植したものである。もちろん家庭用では性的なシーンはカットされているが、むしろそれは本作のジュブナイル性を高めるのに一役買っている。メインのシナリオライターは海原望氏。先日、発足したばかりのノベルゲームブランド「ANIPLEX.EXE」では、新作『徒花異譚』を担当しており、これから家庭向けのノベルゲームファンにも名を広げるであろう新進気鋭のシナリオライターだ。

本作は学園青春ドラマの日常描写にすでに伏線が散りばめらており、ミステリーという観点からも上質であり、男性だけではなく女性にもオススメの作品である。本作は90年代後半に『雫』、『痕』、『To Heart』でノベルゲームを刷新した高橋龍也氏の系譜の作品と位置づけられる。それはKey、Nitroplus、KID、TYPE-MOON、07th Expansion、5pb.と派生したわけだが、日常描写とミステリの有機性を追求しつつ、ジュブナイルのエッセンスを取り入れた、2000年代以降のあり得たかもしれないノベルゲームのルートを本作で垣間見ることができるだろう。

By. Koji Fukuyama

 

『十三機兵防衛圏』

――執念によって産み落とされた創作の王様

開発:ヴァニラウェア  販売: アトラス
発売日:11月28日
対応機種:PlayStation 4

自動生成は、近年のビデオゲームにおけるトレンドのひとつだ。自動化によりコンテンツが生成され、ユーザーは遊ぶたびに異なる体験が得られる。一方開発者は自動生成を用いて効率化を達成できる。『十三機兵防衛圏』は、そうした自動生成や効率化との縁をまったくといっていいほど感じさせない、「手作り」で生み出された執念のゲームである。

「13人の少年少女を描く」。そう聞くだけで途方もないが、実際のところその途方も無い物語が描写される。13人の若者たちが、惑い、悩み、そして決意していく過程が妥協なく描かれている。テキストはすべてフルボイス。キャラが思いめぐらせるテキストも、相手の回答を無視した時の相手の反応も、道を遮ったときの反応も、すべてボイスつきで再生される。ヴァニラウェアお得意のビジュアルについても、キャラと背景ともにびっしり描き込まれており、それでいてよく動き、バリエーションも豊富だ。シナリオはかなり複雑な網目状にできており、13人たちの行動が緻密に絡んでくる。キャラが多く要素も多いが、システムと用語集によって、プレイヤーを置き去りにすることなく、丁寧に物語が展開される。タイムラインは、人間によって徹底して管理されたのだろう。

一方で、商業的な観点でいうと、このゲームはかなり狂っている。物量が多いにもかかわらず、リプレイ性は皆無。ボリュームはあるが、すべてが“一度きり”なのである。再利用や流用があったとしても背景程度だろう。また戦闘パートである崩壊編は、異常なほどミニマル。コストがかかるビジュアルについては、はっきりと切り捨てられている。また度重なる延期についても言及せねばならない。発表からまる4年での発売。プロローグという特殊な形態で展開されたことを考えても、商業面でヴァニラウェア・アトラスともに苦労したことを伺わせる。しかし、そうした歪さをもってしても、ゲームの熱意はプレイヤーを圧倒する。

『十三機兵防衛圏』は、とにかく開発者のやりたいことが手作りで詰められている作品だ。「現代が舞台の、タイムトラベルものの、SF全盛り大作を、フルボイスで作りたい」。クリエイターたちのほとばしるほどの情熱が、妥協のない職人魂が、プレイ中も暑苦しいほど伝わってくる。世に出るにあたって紆余曲折を経た作品の多くは、陰を感じさせることが多い。『十三機兵防衛圏』は目に見えて歪さのある作品であるが、その陰を気にさせないほどまばゆく、それでいてきれいにまとめあげられているのである。効率や商業的な面を見ず、とにかく表現したいことを詰め込んだゲーム。2019年という自動化が進む時代に、これほど泥臭い傑作が生まれるということ自体が意義深い。情熱と執念によって生み出された、「創作」を体現する逸品であった。

By. Minoru Umise

AUTOMATON JP
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